名前のない朝「………ん、」
がさごそと何かが動き出した音を聞いて、シュウは穏やかに目を覚ました。
「あ、せんぱい。すみません起こしちゃって」
たしか今日はお仕事お休みでしたよね、と申し訳なさそうにあたふたしているのは、半同棲状態の恋人、サニーであった。
「ん〜ん。しごと、いくの?」
サニーはひゅっと息を呑んで、視線を斜めに逸らした。
何かを察したその顔は、既に真っ赤であった。
「いっちゃやだ」
そう言いながら、シュウは彼が着ていた灰色のTシャツの裾を控えめに引っ張る。
サニーは声にならない叫びを噛み締めながら、逃しきれなかった分で近くの机を叩いた。
そのまま何とか精神状態を整えてから、言った。
「せ、せんぱいあの、俺ちゃんと帰ってくるし、朝も昼も作っておくんで…」
「ん〜?」
曖昧な返事が返ってくる。
シュウはまだ、ふわふわとした意識の中にいた。
のそり、とベッドから降りて立ち上がると、彼の体にはだいぶ大きいサニーのTシャツから、真っ白な素足が露わになった。
「ズボン!履いてください!」
そんな言葉は露ほども聴こえないようで、彼はそのまま抱き着いてくる。
頭をぐりぐりと擦り付けられる。何かのマーキングなのだろうか。いやそうじゃなくて。
「せんぱい〜俺今日本当に必ず出なきゃいけないんです〜そんなかわいいことされると出られなくなっちゃいます」
半泣きのサニーから、少しずつ目が醒めてきたシュウは体を離した。
「わかった〜」
渋々、といったその様子がたまらなく愛らしい。
サニーは目の前の真っ白な額にひとつ、キスを落とした。
ちゅ、という音を立てて唇が離れると、突然やけに静かになった。
心配になって顔を覗き込んだサニーは、1年以上の付き合いから事の全てを察した。
「…せんぱい。やっと目、醒めましたね」
真っ赤な顔をして今にも消え去りたい様子の彼を、ぎゅっと抱きしめた。
「…はなして」
まだあまり呂律が回っていない。
「いやです。充電中なので」
彼は再び腕の中でおとなしくなった。
その耳は茹でたように赤い。
くすくす笑ってから、俺はやっと体を離した。
やり返しができてすっかり気が済んだ様子のサニーを、シュウはもう一度強引に引き寄せた。
「おっ、と」
彼の小さな頭が、俺の左肩に収まる。
なにかもぞもぞ動いているな、と余裕を醸していた次の瞬間。
ちゅぅ、と、音を立てて首筋を吸われた。
信じられない出来事に、目を白黒させる。
目の前で、ふへ、と間抜けな顔が笑った。
「僕のもの。」
伝導するような愛が、心の端っこまで広がって。
次の仕返しまで、あと3秒。