餌付け甘いものが好きとか、そう言う話はした事がなかったけれど、差し入れで持っていく菓子を嬉しそうに食べている姿が好きだった。
だから、暇があれば菓子屋を覗いたり調べたりするうちに、何となく自分も好きになったような気がして、自宅用にシュークリームを買ってみる。幾つか種類があるうちのクッキーシューが気になって、普通のパイシューではなくて固い方を選んだ。
自宅に帰ってきて、濃い目のコーヒーを入れながらPCを起動する。買ってきたシュークリームを小皿に移して、コーヒーカップを持って、一人掛けのソファに座りメールをチェックする。
コーヒーを一口すすり、シュークリームをかじった。
「あ、おいしい」
甘すぎないカスタードがぎっしり詰まっていて、クッキーシューも香ばしくて美味しい。最近買ったシュークリームでは一番おいしかもしれない。
「どこの店だっけ…」
紙袋の中に入れてもらったショップカードを見て、位置を確認する。ついでにPCから店の情報を見て、うんうんと頷く。
明日、出勤前に寄って行こう。
指についたクリームを舐め取って、満足そうにコーヒーを飲んだ。
「おはようございます」
「あ、バーナビーさん。おはようございます」
トレーニングルームに早めに来ると、イワンが着替えてストレッチをしていた。
「早いですね、先輩」
「いいえ。ほかにやることもないので…」
小さく笑って頭を書くイワンに、バーナビーは「ちゃんと早くから来るなんて凄いですよ」と慌ててフォローする。
「オジサンは今日も遅刻ですから」
「そうですか。タイガーさん、また飲み過ぎたんでしょうか?」
「そうでしょう。遅刻しないようにアラーム掛けても止めて寝てしまうって嘆いていたけど…」
「二度寝は気持ちがいいですからね。この時期、ふとんが気持ちよくて」
「確かに」
二人揃って笑っていると、虎徹がどたばたと入ってきた。
「おじさん、遅刻ですよ」
「まだあと3分ある!」
「もっと、余裕を持って行動しないと、いざという時に困るんです」
「へーへー。ごめんね、バニーちゃん」
へらりと笑う虎徹にバーナビーは肩をすくめて、イワンは困ったような顔をして笑った。
「折紙は偉いなぁ。ちゃんと時間より前に来て」
「いえ、あの」
「そういう真面目な所が好きだな」
「あ、えと。あの、ありがとうございます…」
虎徹に褒められて、しどろもどろになりながらもお礼をいうイワンをバーナビーは引き寄せる。
「バーナビーさん?」
「さ、先輩。向こうに行ってトレーニングしましょう。虎徹さんはちゃんとストレッチしないといけませんから。肉離れでもされたら大変だ」
「人を年寄りみたいに言うなよ!」
「あ、違ったんですか?」
「バニー!」
「はは。冗談でしょ。でもちゃんとストレッチはしてくださいね」
ぶつぶつ文句を言いつつストレッチを始めた虎徹に手をふって、イワンの手を取る。
「バ、バ、バーナビーさんっ!?」
「はい」
「あの、手、手を…っ」
真っ赤になっているイワンにニコリと笑ってバーナビーは手を繋いだままスタスタと歩く。
「終わったら、お菓子を一緒に食べませんか?」
「おかし」
「はい。期間限定のアーモンドクリームのシューなんですが。いかがです?」
「期間限定」
どうします?と聞けばイワンは複雑な顔をする。
「あの、頂いてもいいんですか」
「ええ」
「でも…」
「おじさんの分も、僕の分も買ってあるので一緒に食べましょう」
「はい」
どうにもこの、嬉しそうな笑顔に弱い。だから、ついついお菓子で釣ってしまう。
お菓子なしでも笑ってほしいのに。