盟約 抜けるような青空に、薄桃の花弁が舞い上がる。
ひらひらと風に弄ばれたは花弁はふわりと折り重なるように地面に落ち、整備された石畳に彩りを添えた。
以前までは忙しなく聞こえていたイオ10系の走行音。ここ数日はそれも落ち着いている。
車両には全く興味はないが、雑学として知識を得るのは楽しい。
「シュメリア先生がね!」とキラキラした目ではしゃいでいた人物を思い出せば、鬱陶しいという感情と、それを上回る微笑ましいという感覚を思い出す。おおよそ、抱いたことのない不思議な感覚。
それをもたらした人物を思い出し、知らずに口角があがっていたらしい。きゃあきゃあと実に姦しい声が耳を劈いた。
耳障りな声の方には女子生徒が数人たむろしていた。各々糊のきいた制服を着用している。彼女らは新入生だろう。
不愉快だ、と思ったがすぐに視線を前方に戻して歩きだす。寛容になったものだと我ながら呆れてしまう。
お人好したちに囲まれて去年一年近くを過ごしたからか、随分と感化されてしまったようだ。
声をかけるかどうか押し付けあいをしているようなので、捕まらないようにサッサと歩き出す。今日は比較的機嫌がいいとはいえ、興味のないニンゲンたちに捕まりたくはない。
こんなことならばドルボードを入手して校内乗り入れ許可でも取っていればよかった。
いつも謎のドルボードを楽しげに転がしていたアイツのせいだ。金色に輝くおでんやイカ焼き、可愛いひつじを模した幼児用のおもちゃや何故か棺桶、小さな大地の方舟の先頭車両部分のものもあったか。
馬車を操ったり、車や箒に乗っている時にたまに「ナイショだよ」なんて笑って乗せてくれたことを思い出す。だから自分でドルボードに乗る許可を得ようと思わなかったのだ。……一緒に乗せて欲しかったから。
学生寮、祈望館から本校舎までの通学路は地味に長い。
故郷ではまず見ない弱っちい植物が彩る、舗装された通路を歩く。
不意に立ち止まって手を開けば、雨が降ってると表現された言葉の通り降り注ぐ薄桃の花弁がふわりと降りたった。
「地面におちるまでに拾うと願いが叶うらしいよ」と語られた時はどうでもいいし、願いは自分で叶えるものでしょ、と思ったけれど。
今なら分かる。
例えそれが確証のないまじないの類であっても、願わずにはいられないことがあるのだと。
鉄柵で出来た巨大な門扉は、今ばかりは開かれていて、同じように通学してくる生徒たちで溢れかえっていた。
ここから先には、先程まで舞い散っていた雨はなく、たまに迷い込んだはぐれ花弁がある程度だ。
校門から昇降口までの間には、剣とペンをかたどったモニュメントが飾られ、懐かしい気持ちを助長した。
ヒト付き合いなんて煩わしくて、全く以て関わったヒトは少ないけれど、そのうちの二人はもうこの場にはいないのだと少しだけ、ほんの少しだけ寂しく思った。
昇降口付近に貼りだされたクラス分けを見れば、今年もスペーディオのようだ。同年の知り合いは今年もディアノーグらしい。おもりをさせられるのも嫌だったので離れられてよかった。
ほっとしつつ視線は別の人物の名前を探す。
細工をして同学年同クラスになるようにしたが、老獪な学園長のことだ、見破られてしまった可能性も否めない。現に二年のスペーディオに目当ての名前はなかった。
そのままガルハート、先程目を滑らせたディアノーグ、グラブゾンと続くも名前はない。
学年操作も失敗したかと舌打ちをしつつ三年のクラス割りが貼り出されている場所へと移動する。
まだまだぎこちない一年生とは違って、二年生や三年生は混ざっても分かりづらい。確かに成長が遅い魔族だから、一年生に見られても仕方のない身長だが。
……いつか絶対に身長を抜いてやる。主と同じくらいになる予定だ。
精一杯背伸びをするなんて無様なマネは絶対にしないので、シャドーに見に行かせてその視界を共有する。シャドーは影の魔物なので、影がある分だけそのからだを伸ばすことが出来る。
スペーディオに天然王子ミラン、ガルハートに脳筋フランジュを確認し、焦る内心とバクバクと嫌な音を立てる心音を忌々しく感じた。
後はディアノーグ……いない。じゃあグラブゾン……なんでだよ……。
その場に膝をつきたい気分になりつつも、見落としがあったかもしれないと何度も何度も掲示を見直す。それでも、お人好しで不思議な人物であった「彼」の名前はどこにもなかった。
気がつけばからだが勝手に動いていた。そんな経験なんて、魔界ではしたことなんてなかったのに。
昇降口を駆け抜け、一年ディアノーグの向かいにある部屋へと向かう。アイツの足取りを知っているとしたら、ひとりしか心当たりがなかった。
ノックもせずに力任せに扉を開けると、いけ好かない初老の男、実際にはニンゲンではない人物が待ち構えていた。
「来ると思っていたよ」
その言葉と共に、いつの間にか背後に「彼」と卒業生以外のいつものメンバーが集結していた。全員が納得していないのだ。
「何故「彼」の名前がないのですか」
真剣な表情で問いを投げかけたのは、暗殺者の影に怯えていた王子サマだった。
「「彼」はこの学園に来る以前から、既に学園で学ぶ知識や技量以上のものをもちあわせていた」
「でしたら何故「彼」はこの学園に?」
残念クイーンがすかさず質問を投げかける。育ての親を殺されて復讐に燃えていた人物だ。
「伝説の転校生。私は封印事件を受け、世界中から「彼」を探した。そして「彼」は私の要請に応じてその役目を果たしてくれたのだ」
「封印、なかったら、いなかった……?」
「封印事件がなければ学園に来ることはなかったかと言っているようじゃ」
食いしん坊の魔法使いの言葉をぱたぱたと飛ぶドラキーが噛み砕く。ニンゲーラの習得を目標に研鑽を積む、入学当初はチョークを食べようとした人物だ。
「その通りだ。「彼」は本来の旅へと戻った。そもそも、どの学び舎にも通っていなかった人物が「転校生」というのもおかしな話ではあるが」
「……行方は、分かってるの?」
重苦しい声で問いかければ、ゆるゆると緩慢に頭を横に振られた。
それが答えだった。
*
学生の身分というのは、かくも自由の効かないものである。
名門であるアスフェルド学園は全寮制であり、外出するには許可が必要だ。
学生寮に部屋を持たずに通学していた人物はただ一人を除いて誰もいない。
昨年の封印事件のような例外がなければ、基本的に長期休暇、もしくは予めの申請、或いは親類の危篤などの状況がなければ帰宅することはできない。
みんな帰る場所があって、呑気に平和に生活しているのだと思っていたが、蓋を開けてみれば、フウキのメンバーに限るが、殆どが帰る場所がなかった。
その点で言えば、周りの貴族が煩わしいだけで、まだマシだと言えただろう。
一番ヘヴィだったのはフウキのリーダーその人で、家どころか故郷を燃やされたらしい。
「いやー、お恥ずかしながら」じゃないんだよ! と何度突っ込んだことか。
そういう理由もあって、フウキのリーダーであった彼を探しに行こうにも、残念ながら手がかりというものがない。
それどころか、唯一実家がまだマトモと言えるアラハギーロの王子、ミランと普通にアラハギーロの話をしていたので、かなりの行動範囲があると見て間違いない。
腹立たしいがミランから自慢げに語られる彼の冒険の数々を、少しは小耳に挟んでもいたし。
つまり、行動範囲はレンダーシア大陸だけとは限らない。
こちらは何も聞かされていなかったが、大魔王マデサゴーラがようやく重たい腰を上げてアストルティア侵攻に乗り出した、ということを定期連絡で聞いていた。当然、その影響はレンダーシア大陸にあったらしく、五大陸からレンダーシア大陸へ向かう術がなかったらしい。
そこで航路を切り開く手伝いをしたというのが彼で、つまるところ、彼は五大陸からやってきたのだ。
それ程派手な動きをしている人物ならば探しやすいハズなのだが、あるじの為にアストルティア各所に張り巡らせた情報網にも引っ掛からない。
まるで雲をつかむよう。実体がまるで分からない。実は狐狸妖怪の類だと言われても信じてしまう自信がある。
言い知れぬ不気味さを秘めた、平凡すぎて逆に怪しすぎる人物。
奥歯を噛み締めても状況は動かない。本当は探しに行きたいが、あるじから一旦帰郷するようにとの連絡が届いた。
それも仕方の無いことだと分かっている。
先述の大魔王マデサゴーラが勇者と盟友に倒され、魔界で新たなる大魔王の選出が行われた。その大魔王はあろうことか遥か昔から魔界を苦しめ続けていた魔瘴の根源たる異界滅神、ジャゴヌバを討ち果たしたという。
魔界でどれだけの動乱があったのか計り知れないが、流石に動向を知らないなんて高貴なるゼクレス貴族として許せない。
それでなくとも王太后、エルガドーラの死は、ゼクレスにとってかなりの痛手だ。あるじにもその片鱗が引き継がれているとはいえ、内部分裂も視野に入れなければならない。
権力者の争いは嫌いではないが、当事者にはなりたくないものだ。高みの見物が一番楽しい。
その点、あるじの従者になってしまった時点でこっちは巻き込まれることが決定事項。やってられないとはまさにこの事。
……まあ、アストルティア好きのあるじに感化されてきたことは、あまり否定できないけれど。……フウキのメンツのせいでもあるけど。
本来ならばあるじの為にアストルティア各地の物品を集めるという名目の、彼の行方を探す次の旅は、面倒極まりない実家への帰還になった。
これが予想外のことになるなんて、この時は予想だにしていなかった。
*
絵の具を全部混ぜたような、重苦しい色の空を銀翼竜が飛んでいく。
彼らのように翼でもあれば、探索も容易だったのだろうか。
どちらにせよ巨躯である彼らが豆粒程に見えているくらいなのだから、地上のニンゲンなど砂粒に等しいだろう。
砂粒の中から砂金を見つけ出すような、そんな途方もない作業、やはり現実的ではない。
第一ここは魔界だ。ニンゲンなど間違っても足を踏み入れるような場所ではない。
捜すことを放棄して、呼び出してくれたあるじの元へ向かう。
その過程で封印していた屋敷に立ち入り、片眉を跳ね上げた。
「……誰」
いや、封印を破った魔力に覚えがある。成程、あのワガママお嬢サマか。
この国で現在一番の名家、ベラストル家。敵に回すも厄介だが、懐に入れたとして内部から食い破りかねない。
非常に扱いに困る家、それがベラストル家だ。
幸いなことに、当主であるリンベリィに魔王を害する意思はない。魔王を除き国一番の権力者だが、取って代わろうとは一切思っていない。
それこそ逆臣オジャロス大公のような野望は持っていないのだ。
魔王の血統こそが正当なものであると、ワガママ娘でありながら重要なところはキチンと弁えている。そこがイマイチ憎みきれないところだろう。
ワガママだがある意味では真っ直ぐで、遠回しだが周囲を思いやる心はある。……自己紹介? って思ったヤツは槍のサビにするから。
同族嫌悪なところは確かにあるが、それはゼクレス貴族として当たり前の感情だ。足を引っ張り合うのが常であり、けれどそれ以外のものに対しての結束力は凄まじい。
気には食わないが、余所者はもっと気に食わない。そういうものだ。
さて、侵入者はベラストル家に縁のあるものだろうが、リンベリィ本人ではないだろう。
大雑把な性格が透けて見える。……物理的にホコリで可視化されている、というのもある。
長い間空けていたので、屋敷の中はホコリが積もっていた。
床には足跡がついているし、手に取ったのであろう本などもっと明確だ。
置いてあるのは趣味のクイズ本やゴシップ誌なので特に問題はないが。あ、ニンニク撲滅の会の回覧板回すの忘れてた。
侵入者は二階にある日記を手に取ったらしい。チョイスが悪趣味だ。他人の日記など読むものではない。
日記の内容が内容だっただけにその人物は誤解をしてくれたようだけれど。
「……犯人って、現場に戻るって言うよね?」
紅玉館という場所で探偵よろしく事件の捜査をした、とか言ってたお人好しの言葉でもある。
面白半分で、机の上のメモに走り書きをする。しっかりと皮肉を込めるのは忘れてはならない。
「さて、そろそろ約束の時間だし行かなきゃね」
あまり気乗りはしないが、大切なあるじとの約束だ。
屋敷とは真反対の区画にある六大陸堂。あるじの趣味が詰まった夢の店。
扱うのはアストルティアの品々である。もちろん流通ルートは分かりきっている事だけれど。
うるさい視線を跳ね除けつつ、耳に飛び込むこれからの流行の話。
今まではファラザード式が最先端だったが、それがアストルティアのものへと移りかわったらしい。成程、あるじがてんてこ舞いしている訳だ。
あるじ曰く「布教」らしく、残念なことにその「布教」第一号にされちゃったってワケ。
確かに感化されちゃった部分はあるけど、それはあるじだけのせいじゃない。
うだうだと考え事をしていると、あっという間に待ち合わせ場所の六大陸堂に辿り着いた。いつ見ても雑多なモノが置いてある。
アストルティア各地ごとに文化が違うのだから当たり前だ。アストルティアは魔界よりも広く、文化の違いが主に種族ごとに存在する。
からだの大きなオーガが、小さなプクリポの寝具を使えるわけがないのと同じことだ。
反対にプクリポはオーガの寝具を使うことが出来るが、大きく作られた道具類を扱うことは難しいだろう。
主にからだの大きさや、種族的特徴から、使われるものは違ってくる。その点、魔界は大小様々、なんなら魔物も入り乱れているから、個々で調整したり、大雑把に全員が使えるようなものが扱われる。
エルフたちが好むイ草を使った畳の良さは分からないし、ドワーフたちの発明も理解しかねるところがあるケド。
「あれ?」
あるじが来るまでの暇潰しに物品を見ていると、六大陸の地図の壁から誰かが現れた。
一瞬警戒するも、そもそもその通路を知っているということはあるじの知り合いだろう。それも、かなり信頼している。
現れたのは少女だった。リンベリィくらいの背丈で、並ぶと見下ろす形になる。
「……ちょっと、おどろかせないでよ」
開いた壁が閉じる音を聞きながら、口からでたのは可愛くもない言葉だった。
少女は背後をみやって、てへといった反応をしているが違う、そうじゃない。
「まさかこんなところでアンタに出くわすなんて想定外だから」
続けた言葉に少女はぱちくりと瞳を瞬いた。何その反応。笑える。
「何、そのカオ。たとえ姿は違ってもアンタだってわかるよ。当たり前じゃん」
アンタみたいな違和感だらけの人物なんてそうそういるはずないからね。
おかしいんだよ、なんの違和感もなく周囲に埋没するの。まるで存在が分かりづらいのに、話しかけられれば認識していたかのように感じるし。
それが当たり前で、みんな違和感なんか感じていないようだけど、どう考えたっておかしいし、そんな人物にひとりしか心当たりがない。
ふうん、でもまあ、女の子だったんだ。へぇ?
別に男でも良かったけど性別なんて意味を成すものでもないし。
でも、見上げていた存在が見下ろすサイズになっているのは都合がいい。ついでに小柄なのもいい。
まだまだゆっくり成長するから、寿命が先か追い抜くのが先か考えるのは嫌だったんだよね。包まれるのは安心するけど気に食わないし。
「……で? オレに何か用?」
飛んで火に入る夏の虫。瓢箪から駒。まさにピッタリ、蜘蛛の巣に自らかかりに来た愚かな羽虫。
ま、用なんて分かりきっていることだ。
にっこりと笑顔を見せているのに、少女の瞳は酷く怯えを孕んだ。そうそう、そうでなくっちゃ。
天邪鬼が働いて一度逃がしてあげようかと退出を促してあげたら、ウチの結界を解いた犯人は少女だった。なるほどなるほど、リンベリィと繋がってたのか。……色々疑問に思うことはあるけれど。
スパイ疑惑をかけらたなら一応晴らしておくのがスジってモノだ。結局語ったのはあるじとの出会い。
あるじは虫も殺さないようなカオをして、実際にはかなり腹黒だよ。オレが言うのもなんだけどさ。
語って今更お人好しに染まるよりも前から、実は割とお人好しだったんじゃないかと少し嫌になるね。
「……っと、ウワサをすればあるじのご登場だ」
扉が開く音がして、入ってきたのはあるじであり、偉大なるゼクレス魔導国の魔王、アスバル。
「よく戻ってくれたね、リソル」
柔和な笑みを浮かべる人物だが、油断してはならないことは分かっている。
とはいえ、コイツはアストルティアから来たヤツだから、アストルティア大好きなあるじは無条件に好みそうだ。
「おや……? 君も来てたんだね。ああ。君ならいてくれてかまわないよ」
……と思ったら既にしっかりと懐いていた。
普通、久々に帰還した従者との水入らずの場に部外者置いとく?
それだけ気に入っているんだろうけど、一体何があった。
いやそもそも、なんで魔界にいるのだとかそこからスタートなんだけど。
「わ、私はここらで失礼しときます。じゃ!」
じっと見つめすぎたのか、目を盛大に泳がせた少女はバッと片手を振り上げる。何その動作。
心底残念そうなあるじ何。ウチのあるじまで手懐けたの? ふうん?
「……それはそうとせーんぱい♪」
ゴソゴソと懐を漁りだした少女に、学園でイタズラする時と同じ甘えた声を出す。
表情と感情と声音があってないなんて百も承知だし分かりきっている。
「何か、オレに言っておくことないの?」
にっこりと悪魔のような笑みを形作れば、少女の肩は可哀想なくらいビクリと跳ねた。あー、堪らないな。
「ほら……オレとアンタとの関係、なんだっけ?」
アンタに贈った指輪の名前の意味、理解してる? 辞書貸してあげようか?
チラリと見やった左手の薬指に、贈ったはずの指輪はない。
ちゃんと自分が誰のものか、理解していないなら……させるしかないよね?
「コ、コ、コ」
「ニワトリ?」
謎の鳴き声を発した少女に、あるじが見事なツッコミを入れた。今笑いのツボを刺激するのはやめて欲しい。切実に。
「恋人ですぅ!」
頭の先から首筋まで真っ赤にして、叫ぶだけ叫んで少女は逃げて行った。扉から。
さっきまでの懐ごそごそはなんだったのか。
「ふうん、分かってるじゃん」
分かってて逃げ出した後ろ姿を見送る。大丈夫。逃がすつもりは毛頭ない。
約束は学園を卒業してからのものだ。卒業まで、まだ一年以上時間がある。まあ、魔族にとってはあっという間。
一日千秋のような気持ちになるのは当たり前のことだけど。
「あー、面白い」
こんなに惹き付けてやまないヒトなんか他にいない。だから逃がさない。
緊張で乾いた喉を潤す意味もあって、あるじに月夜の麗水を要求する。
澄んだ水面に映ったオレの姿は、不思議なことにとても幸せそうだった。
おおよそ二年後、ベラストル家に偽情報を流し少女を捕獲した。学習能力がないな、なんて笑いながら思うのだ。
「犯人は現場に戻るもの」だと。