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    Laugh_armor_mao

    @Laugh_armor_mao

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    Laugh_armor_mao

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    狂人スペ用
    学パロ?

    #FoxAkuma

    熱病 空調の切れた教室は、オレンジ色の西日を受けて、上った気温と湿度が気怠い放課後特有の空間と成っていた。
     窓際に立つ、黒髪の人物が振り向いて、俺に。



    「距離が近い!!!」

     学校帰りのなじみの喫茶店で、ミスタが爆発した。
     制服姿の青少年には少々大人びた、飴色の革張りの椅子がかたたん。 と音を立てる。
     ここは彼らの隠れ家だ。
     看板の白いペンキは剥げかけており、 雨よけのキャノピーと外壁は蔦に覆われて、一見すると経営していると思えない。 ノッカーの付いた樫の扉を潜ると、月日と共にアンティークとなった内装が出迎えてくれる。 教師も巡回に来ない場所だ。
     確かヴォックスが見つけて、居心地の良さに誰かしらいつも入り浸っているのだ。
     学生の小遣いでは少々お高いメニューであるが、年配のオーナーは食器を洗う事や荷物の運搬など、 あれやこれやお手伝いの名目で賄い扱いとして飲食させてくれる為、皆すっかり孫のような気持ちで懐いている。

    「んはは。 ミスタとヴォックスの距離が近いのはいつもでしょ?」

     夏空色のクリームソーダに入道雲のように添えられて、じわりと溶けたアイスクリームをスプーンに乗せながらシュウが揶揄う。

     数日前から、ヴォックスが自分の側に居る距離が近い。
     いつも程良い距離感で何喰わぬ顔をしている男が、こんなにおかしな行動をしているのには理由がある。絶対に。
     問うても答えは返されず、曖昧な顔をして眼を逸らされる。
     余計に不安に陥り、ミスタはパニック寸前だった。
     かといって手を出すわけでもなく。 いや、断じて待っているわけではない。

    「なんだ。 手を出して欲しかったのか」

     急に声を掛けられてぴゃっと飛び上がったミスタの後ろには、渦中の男が立っていた。
     第二ボタンまで開けられた夏服の開襟シャツの首元や額に汗がじわりと滲んで、妙に艶めかしい。
     生豆を炒った時特有の甘く香ばしい砂糖の焦げたような香りと、珈琲の香りが漂う。

    「言ってくれればいつでも美味しく頂いてやるのに」
    「言葉のあやです〜。 お前が最近おかしいって話です〜」
    「またマスターに焙煎習ってたの?」
    「そうだ。 少量なら失敗しない位には上達したぞ」

     フシャーっと威嚇しながら臨戦態勢のミスタを余所に、 シュウとヴォックスは暢気に会話を始めた。
     元々料理に興味のあったヴォックスは、後を継ぐのか?というくらいカウンターに入っている。
     2人の会話が大分逸れてしまったため、 気勢をそがれて唇を尖らせながら言い募る。

    「俺はお前のハーレムの一員になる気もないし、 弾除けになる気も無いの!」

     ぱちくりとした4つの瞳が同時にミスタに向いて、びくり。 とバイカラーゾイサイトの瞳が硬直する。 イエローダイヤの輝きを持つ一対は、ハの字に下がった眉につられるように細まると、ため息と共に伏せられた。

    「本気だと言っているのになぁ」
    「またまたご冗談を。 俺より素敵な人に沢山声かけられてるデショ」

     落着いた雰囲気と耳触りの良い重低音の声、整った顔にぴょこぴょこと跳ねる癖毛が親近感を持たせて、生徒どころか、若い教職員に告白されているのに遭遇した事もある。

    「シュウ、帰ろ!」
    「僕、ルカと待ち合わせ〜。もうすぐアイクも来ると思うから、もうチョット居れば?」
    「待て。送って行くから」

     空いた席に投げ出していた指定バッグを手繰ると店の入口に向かう。
     後ろでヴォックスがバタバタと帰り仕度をするのを無視して扉に手をかけると、ガラン。と音を立てて開いた。

    「POG!シュウお待たせ〜!!こんにちは〜!」

     ジャージ姿の大型犬の様な人物の声が店内に響くと、パッと日が差込み明るくなる気がする。猫の様にしなやかに脇をスルリと抜けると、一度くるりと振り返って手を振った。

    「課題用のレポート用紙とか買うから先に帰る!ルカ、また明日!」
    「え?ミスタ帰っちゃうの?」
    「おう!また明日な!」

     トントンと軽くステップを踏んで、膝のクッションを確かめて腰ひとつ分上体を落とすと、右脚全体でアスファルトを蹴り、軽やかにダッシュする。

    「Shit!あぁもう!」

     バックヤードから飛び出したヴォックスの目には、疾走するミスタの後ろ姿が小さくなってゆくのが見えた。
     鞄から財布だけ取り出し、スマホとは反対側のポケットにねじ込むと、シュウに預けた。

    「後で家の者に取りに来させるから、マスターに説明しておいてくれ」
    「オーケー。ちゃんとミスタを『守って』ね」
    「わぁ、頑張れヴォックス!あ、ミスタは買い物行かないと思うよ」

     勘だけど。とウィンクしたルカと頷くシュウに片手を挙げて、大腿四頭筋の力に任せた大振りなフォームで走り出した。



     駅前の大通りに抜ける道から、脇に逸れて学校へ戻る。 ポケットには手紙。

    『ヴォックスさんの事でお話があります。
    ○○時に教室で  ■■』

     ひんやりとした薄暗い靴箱を抜け、 リノリウムの階段を駆け上がると、 西日に焙られてむっとした熱気が体を包む。給水機から生温い水を口に含んで、項から首周りに滲む汗を大雑把に拭う。
     軽い合板の教室の引戸をカラカラと開けると、黒煙とワックスの香りがした。
     閉め忘れた窓から、暑い風がカーテンをゆらりと翻し、 不快指数を跳ね上げている。
     その傍らに、長い黒髪の生徒が立って、 ミスタを責めるように視ている。

    「何の用?」

     できるだけ平静を装って会話の口火を切る。 もう何度も踏んだ場だ。曰く、 役者不足。曰く、不相応。 曰く、明け渡せ。
     自分が罵倒されるのは別に良い。 不愉快なのはヴォックスまでそのGrand Guignol に乗せられる事だ。嫉妬と羨望に踊る奴らはそのまま狂っていればいい。

    「黙ってるンなら、帰るケド」

     本日の相手はじっと黙ったままなので。 刺されたらちょっと怖いなぁと思いながらも踵を返した時。
     バァン!!
     嵌ったガラスを割る勢いで引戸が開けられて、文字通り鬼の形相の渦中の人物と目が合った。

    「体力は無い癖に、 瞬発力だけは一流だなぁ。 ミスタ?」
    「おおおおおお俺は付いて来いとか言ってない!!!」

     動揺した俺の言い訳 (なんで?) を他所に、ヴォックスはつかつかとこちらに歩み寄り…抱きしめられた。 (なんで?) 奴の心臓がドッドッドッと力強いビートを刻んで、血管を走り抜ける血液の音が聞こえる程、頸動脈の皮膚を収縮させているのが判る。近い。

    「私達は帰らせてもらう。 あぁ、私の選択を第三者にとやかく言われる筋合いは無いと伝えて貰えるかな」

     ヴォックスが前方に向かって話しかけた事で、この状況を他人に見られている事に思い当たり、一気に羞恥心が沸き上がってきた。そうじゃん。公衆の(一人しかいないけれど) 面前だよ。

    「直に日が落ちる。 君も早く還ったほうが良い」

     諭すように話しながらゆっくりと俺を抱えた体制のまま教室を出たヴォックスは、くるりと俺を前に向かせると、がっしりと肩を抱き直して連行した。そう。抱擁じゃなくて捕獲だ。これ。たいして変わらない体格なのに、肩をすっぽり覆う手から伝わる体温が、熱い。なんてくだらない事を考える。

     戸締りされた薄暗い廊下は、冷たい単調な色彩の癖に、水飲み場の水分も湿度に変えて、纏わり付く空気は暑く重い。

    「いつからだ」

     ペタペタと階段を下り始めると、ぞっとするほど冷たい声が耳に注がれた。ひゅ。と息を呑むと、肩に置かれた手が強張って、慌てたように言葉が付け足された。

    「すまない。ミスタに怒っている訳じゃない。不甲斐無い自分にだ」
    「あー・・・なんか表彰されてからかなぁ」

     学生コンクールの研究発表で一躍有名になった辺りから、「良くつるんで居るグループ」に相応しくないとかって論調が出てきたのは本当だ。だってヴォックスってば、元々育ちが良いとこのお坊ちゃんなんだよね。多分。

    「ヴォックスさぁ、さっきから 『私』 つってるの気付いてる?普段俺って言ってるケド。地が出る程怒ってくれちゃって、ちょっと嬉しかったよ。俺」

     踊り場で立ち止まって、ヴォックスの顔を覗き込みながらそう言ったら、切れ長の目を目一杯に広げて驚いていた。こいつの瞳も、俺とおんなじで彩が違うのかって、キラキラ光る、金と透き通ったピンク色の宝石に見とれていたら、壁に押し付けられて居た。

    「私、が選んだんだ。 生まれ? 育ち? 関係無い。ミスタ・リアスという人間の魅力に惹かれたんだ」
    「お、おう。 アリガト...」

     上階の窓から濃いオレンジ色の光が斜めに壁を照らすから、 反対側の俺たちは暗い影の中だ。 熱い空気が肺を焼いて、クラクラする。
     ヴォックスの瞳が全部蕩ける様な牡丹色に染まっているのも、薄く湿った唇が俺の唇を塞いだのも、シャツの柔軟剤と汗が微かに香る抱擁も、全部、この暑さに眩んだんだ。



     下町の集合住宅地に、黒塗りの高級車が止まっているのは、違和感しか無いんだ。判ってくれ。
     取り敢えず学校へは徒歩で向かうとの事でそのまま登校したが、車の中から、好奇心いっぱいの視線が痛かった。「姉がミスタを見たいと言って聞かなくて…スマン」とヴォックスが謝っていた。
     まぁ、そんなこんなで仲良く登校すると、アイクとシュウが声をかけて来た。

    「おはようミスタ、ヴォックス」
    「珍しく一緒なんだね」
    「おっはよ」
    「おはよう。二人共。なぁに、此れからはそう珍しい光景でも無くなるさ」

     全く動じないヴォックスに、後ろからルカが体当たりした。

    「おはよーミンナ!」

     ご機嫌に挨拶した後、マジマジとミスタを見ながら爆弾を落とした。

    「POG!良かったねミスタ。最近ヴォックスが睨みを効かせてた髪の長い女のコ居なくなったね!!!」
    「!!!」

     ミスタが真っ青な顔で見遣ると、四人は無言でニコニコした笑顔を向けた。

    「ソレよりもさ」
    「流さないで!でも聞かせないで!!!」
    「独占欲強すぎでしょ、いいの?ミスタ」

     アイクは俺の右腕に視線を移すと、溜息を付いた。ミスタは、ヴォックスの左腕にあるのと揃いのブレスレットを、チャリチャリと振り回して笑う。

    「そ。俺、愛されちゃってるの!」

     今日も紺碧の空は高く、白く光る。真っ直ぐ日射しを俺達に突き刺して、暑い。
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