星空が溶かす君との甘い星空を僕は体が弱かった。だからずっとベッドの上にいて、そこでおもちゃで遊んだり本を読んだり、お母さんとおしゃべりしたりして毎日を過ごしていた。
僕の部屋からは海が見える。
毎日のように海がいつも同じような律動を繰り返して、でもたまに鳥が飛んで変化が見えたり。
そんな景色をぼんやりと眺めながら時を過ごしていく。
ある日のこと家におばあちゃんがやってきた。僕は暖かくて優しいおばあちゃんが大好きだ。
そんなおばあちゃんはいつも興味深い話をしてくれる。
近所の人から桃をもらったおかえしに、ピーチパイやピーチティーを作って一緒にお茶会をしたこと、
バーゲンセールでとっても素敵なお洋服を手に入れたこと、
部屋に入ってきた虫を追い出そうとしたら入れ代わりに鳥が入ってきたこと。
普通の人からしたらなんでもないお話かもしれないけど僕はそんなおばあちゃんの暖かさであふれた話が大好きだった。
一通りお話を聞かせてくれた後、お母さんがいないすきにこそっと内緒だよ。
とウィンクをして僕の手に何かきらきらした色のついたガラスのような物が入った小瓶を握らせてくれた。
「これなあに?お星様みたいできれい。」
そう興味津々で問う僕におばあちゃんはそっと蓋を開けて舌の上にのせ、
「金平糖だよ。」
と笑う。二人でこっそり口に入れたそれはとろけるようにとても暖かく、美味しい味だった。
僕はいつでもたべられるように。とベッド脇の窓辺にその小瓶を置いた。
その数日後の真夜中に目がぱっちりと覚めた。今何時だろう。
と僕はあたりをきょろきょろと見渡す。
窓からの差し込む月明かりが目に入る。
気になって窓を開けて外を見てみると月明かりの下で海が砂浜でゆっくりと波打っていた。
ざざーん そんないつも聞いているような、音をぼんやりと聞き流しながら外を眺める。
銀色の星々が瞬く空の上にはぽっかりと白くて明るい三日月が浮いていた。
しばらくして部屋に視線を戻すとベッドの上に見知らぬ女の子が座っていた。
陶器のように透き通った肌に真っ白なキャミソールのワンピース。
まっすぐだけどふわふわした白い髪。
そして、金平糖のようなキラキラとした目が僕のことを見つめてそっと微笑んでいる。
「あなたはだあれ?」
そう訪ねると女の子はくしゃっと笑って腕を大きく広げて飛びかかってきた。
「わっぷっっ。」
その子に押され、びっくりして目をぎゅっうとつぶる。
布団の中にどんどんと沈み込んでいく。
深く、深く。まるで暖かい世界に溶けていくようだ。甘い、、。と僕はつぶやく。
まぶたの裏にはプラネタリウムのようなキラキラとしたガラスのような満天の星空が映る。
そんな世界に溺れた後、ふと気がついて意識が浮上する。
どれくらい時間がたったのだろうか。
目をゆっくりと開けるとそこは湖に浮かぶ舟の上だった。
空には白い月がぽっかりと浮かび、隣を銀色のガラスのような白鳥が横をすすすーっと泳いでいく。
水は透き通っていて、水の中で揺らぐ水草がキラキラと星の光を反射して輝いている。
ぽかーんとした表情の僕の目の前にはさっきの女の子が肘をついて最初見たときのように微笑んで笑っていた。
その日から夜になると女の子は月明かりの下にやってきた。
月明かりの光は、いつもその子の髪を、目を輝かす。反射した光がきらきらと輝く。
まるで透明なガラスのような、あめ玉のようなきれいな色だ。
その子はベッドの海に沈み込むだけじゃなく、僕の部屋のおもちゃで遊んだり、夜の光に照らされながら影踏みをしてあそんだりした。
女の子が窓をぱぁっと開けるとそこには星の道ができていて、一緒に夜空を散歩したこともあった。
いつしか透き通ったその手で僕の目を手で塞いで、いないいないばぁしてそっとどかされた手の目の前に夜のサバンナが広がっていたときはびっくりした。
夜のサバンナはとても静かで、でもテレビの中で見たような恐ろしい世界ではなく、ゾウは子供を連れて水浴びをしながらゆったりと水を飲み、ライオンは大きなあくびをしてうつらうつらとして、キリンは星空に長くて黒い舌を伸ばすようにゆったりと葉っぱをむさぼっていた。
そんな夜を重ね、いつの間にか僕は彼女とおしゃべりをするようになっていた。
と言っても僕が一日にあったことを一方的に話すだけだ。
女の子はいつも笑顔で僕の話を聞いてくれる。
今日はね、海に行ったんだよ。あ、と言ってもねお母さんと一緒で、すぐに体調が悪くなっちゃって一瞬しかでれなかったんだけどね。
今日はね、お母さんとパンケーキを食べたんだ。
そんななんでもない僕の日常を彼女はいつも楽しそうにカランコロンとでも音がなるかのように優しい笑顔で聞いてくれる。
月日が経って僕は一人で海に出られるようになっていた。
いつもみたいに砂浜でしゃがんで一人遊んでいると
「おいお前。何をしているんだ。」と荒っぽい声が聞こえる。
ふと振り向くと黒い髪をした赤いタンクトップのげじげじ眉毛の男の子が仁王立ちをしていた。
僕はびっくりしてぽかーんとしているとその子の後ろからたくさんの子供の声が聞こえる。
「ちょっと~○○くん。一人でずんずん行かないでよ。 あれ、その子はだあれ?」
数人の子供が僕の顔を不思議そうにのぞき込む。
その中の一人の女の子が言う、
「君もいっしょに遊ばない?今はねー砂浜にめずらしいものが落ちないか探検しているんだよ。」
後ろからこれもまた元気そうな男の子が笑顔で言う。「見てよこれ、俺でっかいヤシの実ひろったんだぜ」
とうれしそうにガハハ。と笑う。
「君はなにか見つけたの?」とその女の子が訪ねた。
僕はそっとさっき拾った貝殻を取り出した。
「きれ~い」すごい、すごい。と子供たちはキラキラと目を輝かせながら興奮したようにその貝殻を見つめていた。
「君もおいでよ。」と女の子が僕を誘って手を引っ張る。
一瞬転びそうになりながらも立ち上がってついて行く。
その子たちと過ごした時間ははじめてのものでとてもドキドキした。
海で水をかけあったり、浜辺の近くの木のそばで穴をつついて蛇にびっくりしたり。今まで過ごしたことがないような時を過ごした。
その日の夜、僕は胸を一杯にしながら暖かい布団に包まれてゆっくりと眠った。
明日も一緒に遊ぶんだ。明日は何をしよう、そういえば家の近くの松の木の裏の土に大きな孔があいていたな。
そこにみんなを連れて行って一緒に秘密基地を作ろうか。それともヤドカリを集めてみんなでヤドカリ牧場を作ろうか。僕の心の中は明日やりたいことで満ちあふれていた。
その日から僕は夢を見なくなり女の子のことも冒険のこともすっかりと忘れてしまった。
次の日の朝、僕は窓辺にあった小瓶を手にして勢いよく行ってきまーす。と家をかけだした。
みんなの元へ集まると、みんなは僕の手の中に興味津々だ。
「それなぁに?」「お星様みたいにキラキラしていてきれい~」と口々に言う。
ふふ、なんだかくすぐったい気持ちだ。
「これはね、僕が大好きなおばあちゃんにもらった金平糖っていうお菓子だよ。」
そう言って僕らはその中にあった金平糖を舌の上に乗せて一つ残らず食べ尽くした。
甘くてとろけそうでとても温かい、そんな日常に僕は金平糖を口の中で砕きながらころんころんと笑った。