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    よこはまでーとする雨クリ途中(付き合ってない)

    #雨クリ
    raincoatClipper

    「実はスタッフさんからこちらのチケットをいただいたんです。よければこの後三人で行ってみませんか?」
     隣県でのロケの後、にこにこと笑みを浮かべるクリスが取り出したのは、近くのロープウェイと観覧車を利用できるチケットだった。
     街中を運行するロープウェイや街のシンボルである大観覧車は、港に面した街並みを眺めるにはうってつけなのだという。海をこよなく愛するクリスにとっては、こうした施設も魅力的なものなのだろう。
     雨彦には、特に誘いを断る理由もない。頷きかけたところで、ひと足早く想楽が口を開いた。
    「ごめんねクリスさんー。僕はちょっと行ってみたいところがあるから、雨彦さんと二人で行ってきてー」
     やんわりと断りを入れながら、赤い瞳がチラリと雨彦を見る。そこから言外に読み取れるメッセージは「しっかりやれ」だろうか。
     聡いところのあるこの最年少は、いつの間にか雨彦がクリスへ向ける特別な感情に気づいていた。そして時折、一向に進展する気配のない二人を後押しするかのように立ち回ることがある。
     だが雨彦はずっと、その気遣いに応えることができずにいた。
    「そうですか……雨彦、いかがでしょう?」
    「俺は特に予定もない。付き合うよ」
     少し残念そうにしていた表情が、雨彦の返答でぱっと華やぐ。
     クリスが喜ぶ顔を側で見られるだけで良いのだと、雨彦はそう思い込んでいたのだ。



    「見てください雨彦、ライトアップが綺麗ですよ!」
     眼下に広がる夜の街並みは、色とりどりの明かりに彩られている。
     最近完成したばかりなのだというロープウェイは、一組ごとに案内されるようで、キャビンには二人きりで乗り込むことになった。
     向かいの席に腰掛けたクリスは、外の様子をキラキラとした瞳で眺めている。輝く夜景よりもその横顔につい目を奪われてしまうのだから重症だ。
     ゆっくりと動くキャビンは、徐々に高度を上げていき、街の明かりを受けて煌めく運河の上を通過していった。
    「スタッフさんのお話では、右手にある建物も左手にある建物も結婚式場なんだそうですよ」
     外へ目を向けたまま、クリスはやわらかく微笑む。その視線の先には、式場だという運河に面した建物。
    「こんな風に海に近い会場で式を挙げることができるなんて、素敵ですね」
    「お前さん、そういうことに憧れがあるのかい?」
     探るように尋ねると、チリと胸に不快な痛みが走った。
     クリスがいつか知らない誰かと手を取り合うことを想像すると、それだけは受け入れ難いと感じてしまう。手を伸ばすことすらできていないのに、誰にも渡したくないという思いが自分の中に存在していることを自覚して、雨彦は内心苦笑した。
     だがクリスは雨彦の方を見て一つ瞬きをした後、曖昧な笑みを浮かべる。
    「……どうでしょうか」
     クリスの言葉は続かない。その表情に秘められた感情は、雨彦には読み取ることができなかった。
     クリスは雨彦から目線を外し、再び眼下に広がる景色を見つめる。
     もしも雨彦が内に抱える思いを打ち明けたなら、クリスは何と答えるだろうか。雨彦が逡巡する間に、キャビンは駅にたどり着いてしまった。
    「早いですね」
     時間にして5分程度の空の旅はあっという間に終わりを迎える。
    「降りましょうか」
     そう言って笑うクリスの表情には、先程の影はなかった。

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