勤労感謝の日
繁忙期はすぎたとはいえ何かと依頼は絶たない日々、日曜祝日という感覚さえなく任務動向そして報告書の作成に追われている。
カタカタとキーボードをたたく指が止まる。
「これでよし」
画面と手元の報告書と照らし合わせて間違いがないことを確認すると画面を保存してPCを閉じる。
そろそろ五条さんが来る頃ですねとチラリと時計を見る。
テーブルに買っておいた甘味を並べて自分は濃いめのコーヒーを飲んでいると伊地知ぃと少しばかり疲れた声が、
「おかえりなさい、お疲れ様です」
「あ~つかれたぁ」
まったく年寄り相手に話するの骨が折れるよと呼び出しの不平不満が五条の口から溢れる。
「まったく勤労感謝の日なんだから僕に感謝して欲しいよ!」
まったくもってその通りですね、と相槌をうつ。
「少しでも疲れがとれるといいのですが」
とソファに五条を座らせて甘味をサーブする。
「ん、ありがと」
どうします?甘いコーヒーにしますかそれとも紅茶にしますかと尋ねる伊地知にコーヒー飲みたい、伊地知飲んでたでしょと。
五条用のコーヒーを渡して隣に座る伊地知がチラチラ視線をよこす、
「なに?」
「あの、ですね、膝枕で横になります、か?」
その日頃の感謝というかえっと....
モゴモゴと言葉を濁しながら話す伊地知を見て一気にコーヒーを煽ると、
「もちろん!」
じゃ膝枕お願いと伊地知の膝に頭を乗せると髪の毛にそっと触れる。
「ねぇよしよしして」
触れていた手が髪を梳くように動く、いつも頑張ってくださってありがとうございます。
頑張れるのはお前が傍に居てくれてるからだよ。
撫でていた手が止まる、ねぇちゃんと撫でてと催促した唇に重なる唇。
もう少し堪能したいとペロリと舐めるとぱっと離れる顔。
「ちょっ!離れるな!」
「だって五条さんが」
くいっとネクタイを引っ張って顔を寄せると五条がニッコリと笑ってほらと催促。
「っ、キスしちゃうともっと欲しくなるからダメです」
「はぁ~そんなこと言う?」
伊地知の手を引っ張って中心へ導く、
「責任とってね」
「はい」
お互いを労うため2人の姿が消えた昼過ぎ。
24日もあとすこしで終わる深夜、PCの明かりだけで黙々と仕事をしている伊地知。
ぬるくなったコーヒーも気にすることなくキーボードを叩く音だけが響く。
「ふぅ」
ひと段落ついてメガネを外して眉間を揉みほぐす。
「ここまで作成すれば」
「すれば何かあるの?」
突然降ってわいた声に振り向くと五条が立っている。
「え?帰ってくるのは今日?のお昼では?」
「あっちに僕の好みの甘味なかったからやる事やって戻ってきた」
五条さんの好みの基準がわかりかねますが、ゆっくりとしてくればよかったのでは?
ひとりじゃつまらないんだよ!
すみません、どうしても事務作業を終わらせたくて同行を任せたんです。
「そこまでする理由は?」
時計を指さす伊地知。
「今日、私と五条さん休みをとってるんです」
「今日?」
25日です今日。
クリスマスふたりで過ごしたかったので···我儘を通させてもらいました。
ふにゃりと顔をほころばす伊地知の顔に手を添える。
「それならそうと言ってくれれば良かったじゃん!」
「五条さんを驚かせたかったんですもん」
「ぷっ」
もんって可愛らしくいっても許さないからね!
固定した伊地知の顔に自分の顔を近づけるとチュッとキス。
唇をペロリと舐める五条の舌におもわず反応しかけてあわてて肩を軽く押す。
「ん、ダメですよ」
ここでこれ以上のキスされたら帰れなくなっちゃうじゃないですか!とグイグイ押す。
それに一日休みなんですよ、美味しいご飯たべたいですしね、五条さん。
ん、ごめん。伊地知が僕のために休みをくれたんだもんね。
じゃ片付けて帰ろうか。
はい。
大したものではないですけどクリスマスの食材買ってきてますので作りましょ。
ケーキも予約してありますので。
ふたりで過ごすクリスマスの夜はさぞかし熱かったでしょうね
新年
年の瀬から元旦にかけて任務が続きようやく落ち着いた2日すぎて漸く事務作業がひと段落し家に帰ってきた伊地知。
「やっぱり落ち着きますね」
「家っていいよね」
とまさかの返事にコタツに突っ伏していた伊地知が飛び起きる。
「どうして五条さんが居るんです?」
「仕事終わって帰ってきたら伊地知が家に帰ったって聞いたから来たんだけど?」
何か問題でも?みたいな顔をしていると思う五条に対してやっと休める時間を貰ったのにぃと半泣きの伊地知の頬をぎゅむ、と掴んで、
「僕と一緒に過ごせる贅沢な時間だよ?」
なんでそんな顔してんのとケラケラ笑う。
「あ~もぉ」
独りだと適当にごはんも食べれるしお酒も飲めたのに···
「伊地知さ正月なにも用意してないでしょ?」
「冷凍うどんならありますけど」
「それ非常食じゃん!」
年末年始関係ないから準備もなにもないよね。
今日の休みも奇跡ですからね。
「まだ正月だからさ」
とコタツの天板にトンと置かれたお重。
「これって?」
「家から押し付けられたおせち」
三が日のうち顔出せってしつこくてさまぁ行って軽く挨拶しに行ったら帰りに押し付けられてさ、独りで食べるもんじゃないじゃん。
「伊地知が休みで良かったよでなきゃ捨ててた」
「ふふ、わざわざありがとうございます」
そんな風に言っているけれどこうやって何かと気を使ってくれてるんですよね。
「お茶しかないので何か買いに行きませんか?」
「あれ?さっきまで面倒くさいって顔してたのに」
さっきまでは、です。
五条さんが来てくれて嬉しいんですよ、本当はね。コタツから立ち上がって五条の手を取る。
「おせちだけじゃ飽きるでしょ?ジュースとお菓子も必要じゃないですか?」
少し遠くまで歩いて行きません?で、デートぽく···
言葉を紡ぐ毎に赤くなる伊地知。
「よし、行こうかデートしに」
重なる手をしっかり握り返すとグッと引き寄せる、
「わっ!」
重なる唇。
「今年の初チュー」
やったね、と笑う五条にお返しとペロリと唇を舐める伊地知。
「ちょ、買い物行けなくなるなるよ?」
「我慢できなくなる前に行きましょう」
どこに行きますか?
そうだねぇ。もう近くでいいんじゃない?
ですね。
今年もよろしくお願いします。
もちろん。
猫の日(ねこのきもち)
出張から帰った五条が当たり前のように伊地知の住むマンションへ行き、当たり前のように部屋に入ると、
「五条さんちょっとそこで待っててください」
という声とにゃーにゃー鳴く声にアイマスクの下の眉間のシワが寄りため息をつきながら面倒なことになってるしと悪態をつく。
「伊地知ぃ僕疲れてるんだから休ませてよ」
「あ、ごめんなさい、そうですよね」
リビングから顔を出した伊地知がお疲れ様ですおかえりなさいと改めて出迎えて手を引いて迎え入れてくれた場所に似つかわしくないモノが。
「にゃー!」
「なんでアレがいるワケ?」
ギロリと睨みつけられその圧に驚いたのかゲージの隅へと逃げて小さくなる猫。
「ちょ、五条さんあの子がこわがってるじゃないですか」
「猫のかたをもつの?伊地知の馬鹿ぁ」
190cm超の大男がおもいっきり拗ねだしても可愛くはないですねと口から出そうになるのを留めて説明をはじめる。
あの子は一人暮らしの補助監督の飼い猫でその彼が遠征討伐の担当に急遽決まってあの子の預け先に連絡できなくて泣く泣く私に頼ってきたんです
これで納得していただけましたか?
「は?なにその理由?」
ったく何でもかんでも困るとお前に頼るしそんでお前も簡単に受けすぎだよ!
困った時はお互い様ともいいますし今回だけですから機嫌直してください五条さん。ね。
掴んでいた五条の腕を引いてリビングのソファに座らせてその膝を跨いで伊地知が座った。
「ふふ、五条さんどうして欲しいですか?」
こてんと首を傾げながらあ、そうですねまずは毛繕いですねと銀糸の髪を指で梳いたあとポンポンと頭を撫でる。
「いじちぃそんなんじゃ足りない」
もっと他のところも撫でてよと上目遣いで催促はじめるとじゃ次はココですねと脇腹やお腹を撫で始めるのでおもわず、違うってそこじゃないほらもっと僕が気持ちよくなる所知ってるくせに!
「えぇ知ってますよでも今はダメです」
「ヤダ触ってよ」
仕方ないですねと膝から降りて顔を近づけてパクっと甘噛み。
「イッ」
「続きは食事とお風呂に入ってからですよ」
にっこり微笑む伊地知を恨みがましく見上げる五条の鼻にうっすらと歯型。
コイツ今夜は寝かさないからな、覚悟しておけよ