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    @7_kankankan_100

    気の赴くままに書き物。今はエク霊、芹霊。(以前の分はヒプマイどひふです)
    正しい書き方はよく分かっていません。パッションだけです。
    書きかけ多数。

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    @7_kankankan_100

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    昼にあげた分は消したので、また出来たとこまで上げ〜。
    こんなに長くなる予定ではなかったのに。自分が見てみたい場面を追加していったらこうなってしまった。

    それからビタミンも欲しいと、オーガニック野菜の瓶詰めジュース。デパ地下のちょっとお高いこれは、果汁だけでなくすりおろした野菜も混ざってトロッとしているのでなかなかお腹に溜まって独歩も好きだった。

    両手に紙袋を沢山提げて歩く独歩は幸せな気持ちに包まれていた。今回の偏屈医師を担当した苦労なんて、Ωの、一二三の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで全てなかった事になってしまうくらいだった。

    食品フロアを出る前に、買い忘れがないかメモに目を通していると閉店十五分前のアナウンスが流れた。独歩はハッとして急いで上の階へと上がる。あとひとつ必要な物があって、それは食品フロアにはないものだった。

    三階に辿り着くとすっかり人気がなかった。フロアカーペットをサクサク踏みしめる音が耳につく。独歩はアロマオイルの専門店を目指していた。
    どうも近頃、一二三はヒートの症状が重いようで苦しそうにする事があるのだ。出産適齢期の二十代半ばを過ぎてもまだ出産経験のないΩに見られる症状で、身体が早く身ごもれと急かしているサインなのだそうだ。

    そうは言っても一二三はナンバーワンホストで、もう数年は仕事を続けたいと思っている。どうにか症状を和らげる方法は無いかと調べてみると、リラックス効果のあるアロマオイルが代用できるようだった。香りはヒートの邪魔になってしまうが、体内に直接取り込む経口摂取もできると知り、独歩は今回の準備にこれもリストアップしていたのだ。

    売り場へ辿り着くと店員は締めの作業をしているのか口を結んでパソコンに向かっている。独歩がすみませんと声をかけると、瞬間的に柔和な笑顔に変わり、プロの接客を垣間見た。スマホを差し出し検索画面を見せればすぐに品物を取り出してくれたが、ショーケースの上にはなぜか言っていない物まで並べられた。

    それと同時に蛍の光が流れ出して客に退店を促している。独歩は焦ってしまって、もう自分が示した物でいいからさっさと買ってしまおうと思った。しかし店員は落ち着き払った様子でゆっくりと話した。

    「お客様のご希望の物はこちらですが、リラックス効果のあるアロマはいくつかございまして、少しずつ用途が違うのでよろしかったら詳しいお話をお聞かせいただけますか?」

    決して嫌な表情などなく真摯に接客されていると感じた。独歩は仕事人に対しての適当な買い物は礼儀に反すると思って、自分のことを人に話すのは苦手だがなんとか話した。

    「Ωの番がいるんです……最近のヒートが少し苦しそうで」
    「そうでしたか。お薬では効果がありませんでしたか?」
    「いえ、時々使う抑制剤で副作用が出るので、自然な物の方がいいかと」
    「ありがとうございます。そうですね、アロマは植物からの抽出なのでお体への働きかけも優しと思います。パートナーへのお気遣い素晴らしいですね」

    社会人になって以来、人に褒められ慣れていない独歩は恐縮してしまって視線がすっかり下を向いてしまった。

    結局独歩が調べた物は、多幸感も得られる効果があり気分が昂ぶってしまうかもしれないので、鎮静作用のあるという別の物を出してもらった。やっぱり適当に買わなくてよかった。

    勧められた物を包んでもらっていると、退店のアナウンスも終わり辺りは静まり返っていた。通常の出入り口は既に閉じられていたので店員に案内され従業員通用口から外へ出る。深夜へ向けて外の空気は夜の重たさを孕んでいた。
    独歩は時間外になってしまった事に対して何度も何度も頭を下げてデパートを後にした。その際店員が「素敵な夜をお過ごしください」と声をかけてくれて心強かった。そうだ、明日のヒートでは一二三に素敵な時間を過ごしてもらいたい。その為の準備を抱えて家路に着いた。



    独歩が退勤してデパートへ向かう数時間前の事。
    一二三は出勤前に、独歩に言われていたケークサレを作っていた。これを作り終わったら出勤の仕度をし、仕事を終えて帰ってこれば後はヒートが来るのを待つだけだった。
    ベーコンに玉ねぎ、ほうれん草を加えて炒めコンソメで味付けをする。それを粉チーズをたっぷり混ぜたケーキ生地と合わせてオーブンに入れればケークサレは完成。焼き上げている間に後片付けをしながら、今夜独歩はヒートの準備の為にたくさん荷物を抱えて帰ってくるのだろう、と考えていたら胸がキュンとした。αの愛情表現とはいえ、独歩が自分のために何かしてくれるのが嬉しくて仕方がない。こそばゆい気持ちになって、一二三はふふふと肩を揺らして笑ってしまった。

    独歩は自分で全部準備するとは言っていたが、本当に部屋を片付けられているのかが気になった。独歩には悪いがちょっとだけ覗かせてね、と一二三は独歩の部屋をこっそり覗いた。
    すると予想通りと言うかなんというか、ベッドの上に服やら仕事に必要な難しそうな本やらがごちゃごちゃと乗っている。本当によくこんなとこで寝られるものだ。
    一二三は大きなため息ついて独歩の部屋へ入ると洗濯物を掻き集めた。靴下にハンカチ、肌着、Tシャツ、タオル。あれもこれも洗濯カゴに入れるだけなのに、と思って両手にそれを抱えると独歩の匂いが鼻についた。鼻腔をはっきりと刺激してくる。

    あ、ヤバイ!

    一二三は洗濯物をベッドへ放り投げると急いで独歩の部屋を出た。自分の部屋へ駆け込み、独歩の匂いを自分の匂いで上書きしようと深呼吸をする。
    しかし、一度αの匂いに反応したお腹の奥はそんなものでは治らなかった。どんどん体が熱くなってくる。

    どうしよう、この後仕事があるのに。

    リビングの方からピーピー、とオーブンの終了音が聞こえてきたが取り出しに行く余裕もない。いよいよ高熱にうなされるように呼吸も大きくなり足にに力が入らなくなってきて、もうほとんどヒートの状態だった。それでも一二三は壁伝いに体を支えてなんとか部屋を出る。せめて職場に連絡をして休みを早めてもらわなければ。

    ああもう独歩のせいだ。ちゃんと片付けていないから。……いや、言い訳だ。

    一二三は本当は独歩が恋しかった。あと十数時間もすれば休みに入るのに、その十数時間後の事を考えるとそわそわして、それで独歩の部屋を覗いてしまったのだ。でも今までこんな事なかった。匂いをかいでもここまで反応する事なんてなかった。
    一二三は荒くなった呼吸を必死に抑えて職場へ連絡を入れ終えると、真っ直ぐに独歩の部屋へ向かった。ドアを開けた途端、独歩の匂いに襲われてベッドに倒れ込む。独歩の匂いがたっぷりついた衣服を再び集めると、それに顔をうずめて深く息を吸った。胸いっぱいに濃厚な匂いを迎えると頭がくらくらする。窄まりが愛液に溢れ、下着が濡れた感覚がした。

    ここ何回かのヒートは症状が重かったのは分かっている。だけどどうしてこんなに独歩の匂いに反応してしまうのか、きっと何かあると思って握りっぱなしだったスマホで調べてみた。おぼつかない指先を画面に滑らせる。

    「……Ωの巣作り?」

    検索結果が表示され、ポツリと発した声はぼんやりした意識にはやけに耳についた。
    Ωの巣作りとは愛情表現であるとされている。しかし、それがどんな条件で現れるのか詳しいことは分かっていないので巣作りしないからといって愛情がないわけではない。それはそうだ。一二三の独歩に対する愛情を、巣作りしないだけでない事にするなんてできない。どれほど独歩が大事でそれが伝わっているのか心配になった時期だってあった。だけどそれが目に見える形で示せるなんて、嬉しくて堪らなくて、一二三はちょっぴり泣いてしまった。
    帰ってきた独歩が、自分の作った巣を見たらびっくりしてきっと褒めてくれるに違いない。一二三は胸いっぱいに期待を膨らませて初めての巣作りを始めた。



    荷物を抱えた独歩が自宅の最寄駅に着くと一二三からメッセージが届いた。「もうすぐ帰ってくる?」の一言に、一二三は仕事中なんじゃないか?と疑問が浮かんだ。一体どうしたというのか独歩は気になって直接電話をかけた。

    「一二三?何かあったのか?」

    独歩のコールにはすぐ出たようだが、通話の向こう側ではごそごそと衣擦れの音がするだけで一二三の返事は返ってこない。

    「一二三?ひふみ、返事しろ、どうしたんだ!」
    「……どっ、ぽぉ……今どこ?……おれっちもう、我慢の限界。もう帰ってこれる?早く抱きしめて……」

    甘ったるい声はヒートの時のものだった。まさか予定より早く来てしまったのだろうか。それならばきっと今日の仕事は休んだのだろう。
    はあはあ、と一二三の荒い息遣いに、やっぱりヒートの症状が重くて苦しんでいるのだと思うと独歩は通話を切る前に家に向かって走り出した。

    「も、もう駅着いてる、からっ!すぐ、帰る!もうちょっと、待ってて、くれ!」

    両手の荷物が大きく揺れて走りづらい。歩いたってそんなに時間のかからない距離だったが、それでも少しでも早く一二三の元へ駆けつけたかった。

    家へ着くと、廊下からその奥のリビングまで全部電気が付けっ放しだったのに一二三の姿がどこにもない。てっきりリビングにいると思っていたのに、独歩の部屋から小さな声で「どっぽ」と呼ぶ声が聞こえた。

    独歩はドタドタと足音をたてて自室のドアを開けると、胸を押されるほどの一二三のフェロモンの匂いに包まれて手にしていた荷物を落とした。

    ヒートだ。

    フェロモンの匂いにあてられて体全体がぞわぞわとする。今は嗅いだばかりだからそうでもないが、もう少ししたら興奮状態に陥って一二三の体を貪るように抱くのだ。

    廊下から差す明かりで、暗がりの部屋のベッドの上がこんもりと盛り上がっているのが分かる。やはり具合が悪いのだろうかとそっと上掛けをめくると、今日片付けようと思って放置していた自分の衣服を身に纏わせた一二三が丸くなっていた。

    ……まさか、巣作り?

    独歩は、一二三のヒートの症状の変化を調べていたのと同時にΩの巣作りの事も目にしていた。Ωからも愛情表現があるのを興味深く思っていたが、それを目の当たりにして胸が急に高鳴っていく。αの本能がΩを愛せと叫んでいるようだった。
    可愛くて、愛おしくて仕方なくて、一二三に覆い被さるように抱きしめた。

    「独歩?どっぽだぁ……おかえり」

    意識が深いとこにあったのか、一二三がはっと気付いたように独歩に視線を向けると、ウッと呻きがこぼれた。

    「大丈夫か?」
    「……なんか独歩の匂いにめっちゃ反応すんの……洗濯物そのまんまだったから片付けようとしたら急にヒートきちゃって」
    「ごめん、今日片付けようと思って。……なあ、これ巣だろ?」
    「うん!うん、そう、知ってる?俺っち初めて作ったからこんなだけど」
    「何言ってるんだ。こんなに苦しそうにしてるのによく作ったな。すごく嬉しいよ」

    「よかった」と一二三は苦しげながらも安堵の表情を浮かべた。
    すると突然一二三の腕が伸びて独歩のうなじに絡んだかと思うとあっという間に引き寄せられて、独歩は寸でのところで腕を突っ張って一二三との衝突は免れた。

    「おい、危ないだろ」
    「んん……だって、夕方過ぎたくらいからどんどんキツくなって、後ろが疼いてしょーがねえの……なあ、どっぽ、はやく……はやく」

    口ではそうは言うものの、耳元で囁く一二三の吐息に甘さはない。さっき電話で感じたように苦しさしか感じない。これでは今すぐ挿れたって快感なんて得られなくてなんの意味もない。
    独歩も帰ってきたそのままの姿だし、買ってきた荷物も何も解いていないのだ。まずは落ち着かせるためにさっき買ってきたアロマオイルを与えようと、離れては嫌だとむずかる一二三をどうにか宥めて、ミネラルをウォーターに垂らして持ってきた。

    「ひふみ、これ飲んで。落ち着くから、な」
    「……いや。どっぽしかいらない」

    ヒート時の拒否反応だ。異物を取り込まないようするための防衛からだが、大抵は好みの物しか食べないという偏りが出るだけなのにアロマが入っているにしろ水も拒むなんて。
    独歩は仕方なく自分で水を口に含むと、顔を背けている一二三の顔を両手で掴んでこっちに向かせた。

    「や、やだ!何すんだよ!いらないってば!」

    それほど体格の変わらない一二三が暴れると厄介だが、今はすっかり力が抜けてしまっていて抵抗なんて有って無いようなものだった。独歩は構わずに一二三の口の端に親指を差し入れて閉じられないようにする。そして自分の口を合わせて、含んでいたものを流し込んだ。すぐに親指を引き抜きば、一二三の口は反射で閉じられごくっと喉を鳴らした。
    すると、独歩からの接触があったおかげで一二三の反応が変わった。もう一度キスをしてもらいたくて唇を差し出してきたのだ。独歩はホッとしてもう二、三口飲ませる事ができた。
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