ブラックバニーの辻田さんメモ3 ブラックバニーのナギリは小さい頃に土地の開発が進んだ山に住んでいられなくなり、人間の住んでいる街に住み着くようになった獣人だった。
路地裏や廃墟を転々とし、通り掛かった人間を強靭な脚で蹴り倒し、財布や食料を奪って生活していた。彼の脚力はとても強くて、蹴りを真正面から食らった人間の肋骨はポッキリと折れてしまった。動きも素早いから、誰にも捕まる事なく、ナギリは強盗のような事をして生活していた。
そんな生活を改めたのは、路地裏で蜘蛛の吸血鬼に襲われていたまん丸い亀を助けた事が切っ掛けだった。ナギリは自分のテリトリーにしていた場所に入り込んだ邪魔な蜘蛛を蹴散らしただけだったが、まん丸い亀はお礼だと言って今川焼を差し出した。
まん丸い亀と冷めてしまった丸い今川焼は、ナギリがそれまで食べていたものとは違っているような気がして、ナギリは丸いのが気に入った。まん丸い亀を丸と呼んで、自分の庇護下に入れてやろうとしたが、亀にはもう別の名前が付けられていて、主人までいたのだった。
ナギリは落胆したが、亀はナギリと友達になってくれた。山でも街に来てからも、ずっと一人ぼっちだったナギリに出来た初めての友達だった。
その友達は、人間の街に帰る家があった。また吸血鬼に襲われてはいけないから、ナギリは友達になった亀を抱えて家まで送ってやった。
「おや、お帰りジョン。そちらの方は?」
まん丸い亀の家は、ナギリと同じ兎の獣人達が人間相手に酒を飲ませて大金を巻き上げている、摩訶不思議な所だった。