付き合うにはまだ早かった ケイ・カンタロウは辻田にフラれた。
正確には彼が辻斬りナギリだと判明した後、それでも辻田さんが好きです!と告白した後に、VRCを出た後は本官ちで一緒に暮らしましょう!と言ったのだが、嫌だ無理だと断られたのである。
長い観察期間に問題を起こす事もなく、これ以上の過度な付き纏いはストーカー扱いになるぞと上司や同僚達に叱咤され、カンタロウは泣く泣く辻田への過度な接触を控えるようになった。
同じ新横浜の街に暮らしている身であり、退治人見習いになって仕事をするようになった辻田と吸血鬼対策課のカンタロウはお互いの仕事現場が被る為、仕事中に街中で出会す事は多かったが、プライベートでは全く会えずにいた。
顔見知り以上、友人以下。辻斬り被害者と加害者である部分を取っ払ってしまえば、カンタロウとナギリには同じ街で暮らしているだとか、吸対と退治人見習いとしての仕事上の関わりしかなく、カンタロウからは兎も角、ナギリからカンタロウに仕事のない日まで会わないかと誘われるような事もなく、このまま一時のお付き合い(辻斬り捜査)で終わってしまうのかと、カンタロウは未練たらしく辻田への想いを捨てられずにいた。
観察期間が終わったとはいえ、元は危険度Aオーバーの吸血鬼である。定期的な面談はあるものの、カンタロウの上司であるヒヨシが何か変わった事はないかと現在の生活について軽く聞く程度でVRCで血液その他検診を受ける程のものではない。
ヒヨシが聞いた限りでは、辻田は吸血鬼とは思えぬ慎ましやかな生活を送っているらしい。
働いて得た金の使い道は家賃などの生活費と食費に使われるだけで、遊興費には殆ど使われていなかったが、最近はロナドラ退治人事務所に住む吸血鬼ドラルクの使い魔であるアルマジロと今川焼を買ったりしているらしい。
休みの日に遊びに行ったりはせんのか?とヒヨシに聞かれ、ないと答えていた彼が、何度目かの面談で、公園に行って人間のガキどもと吸血鬼のガキに流行りのゲームを見せられた。おっさんも買って一緒にやろうぜと誘われたと言うのを面談室の扉に張り付いて聞き耳を立てていたカンタロウはなんだか泣きたくなった。
辻斬りナギリは子供の頃に吸血鬼にされ、その後はずっと長い間路地裏などを一人で転々としていたのだと捕まえた後の調べでカンタロウは聞いていた。
子供の頃に出来なかった遊びや他の子供達との交流が出来るようになった辻田は、今ゆっくりと子供時代からやり直しているのかもしれない。
一度カンタロウは辻田を口説く為に彼にスーツを贈りヴリンスホテルのディナーに誘った事があった。
辻田はその誘いを嫌がったが、カンタロウの勢いに負けて渋々着いて来てくれた。
ホテルで提供されたディナーは味も雰囲気も素晴らしく、カンタロウは辻田にも喜んで貰えると思っていたが、彼は終始落ち着かず、緊張しているのか料理を味わっている感じではなかった。
カンタロウはその時、何度も口説いてくる自分に警戒しているのかと彼の態度をそこまで気にしていなかったのだが、今思えば彼は高級料理店などに馴染みがなく、何か間違った事をしないか恐れていたのだろう。
ホテルのディナーのような大人が行くようなデートコースだって知らなかったのだ。
何をすれば良いのか、何を喋れば良いのか、何一つ分からない中、カンタロウにはそれを悟らせないよう必死に隠していた。
美味しかったですねとカンタロウが言った際に、同意が返って来なかったのは彼が吸血鬼だったからではなく、緊張で料理を味わうどころではなかったからだろう。
この後、辻田が子供時代に出来なかった事を経験しながらゆっくりと成長を見守りながらも、時々重くならない程度に好きです、あなたが受け入れてくれる余裕が出来るまでいつまでだって待ちますと長期戦の構えに入るようなカンタロウを書きたかったが力尽きた。