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    eats_an_apple

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    eats_an_apple

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    「飽きる」からの連想
    ディルフィン未満のフィオナ主従

    #でぃるふぃん
    imGoingToSpoilIt

    愛の多い人だと思った。
    それ故に、多くに飽くのではないかと思っていた。


    「これはこれは、北斎殿。今日はお父君と一緒ではないのですか?」
    「おう旦那。とと様は留守番だよ、締め切りが近いんでな。本当はおれもこんな場所にいる場合じゃねぇんだが腹が減ってはなんとやら、えみやの兄さんに片手間に食べられるものをいただこうと思ってんだ」

    そう言うと画工の英霊は片手の指を窄めて何かを描くように手で空をかく。その手振りを見てフィンは頷いた。

    「そういうことでしたか。貴女のことは前々からお茶にお誘いしたいと思っていたのだが、それではまたの機会にぜひ。」
    「へえ、あんたほどの別嬪に誘われちゃあ、そりゃ断るわけにはいかねえよ。こんなときでなければあんたをもでるにこのまま一筆描かせてほしいところなんだけどなァ…」

    悔しそうに唇を噛む彼女にフィンはからからと笑う。それはそれは楽しそうなその様子は側から見ている分には微笑ましい。応為はそのままひらひらと手を振りながら遠ざかり、フィンはランチの注文を待つ列に舞い戻る。

    「我が王、彼女はついこの間召喚された日本の方ですよね?いつの間に親しく?」
    「あぁ、大した接点はないのだがな。かわいらしい方だろう?そうであるのにああも豪快とくる。大変に心惹かれる、そうは思わないか?」
    「はぁ、私はあまり…女性の方と広い交友がないもので…」
    「それもそうだな。北斎殿は可憐だがおまえの好みとは些か遠いだろう、ちがうか?」
    「そういうことを言っているのではなくですね…」

    生き生きとした表情で艶のある肌を僅かに紅潮させる様は若々しく美しい。
    確かにかの大英雄、武と美を誇るこの御仁から誘いを受けたとなれば大抵のものは喜ぶだろう。しかしだからこそ、その美貌と溢れ出るような愛を際限なく、それこそ出会うすべての女性と言っても過言ではない対象に振り撒くのもどうかと、主人に比べるとだいぶ女性関係に慎重な部下は思うのだった。


    * * *

    何の因果か自らが生きた時代を遠く超え巡り合った若き日の主。
    ディルムッドは出会って数日のうちには既に彼に愛の多い人だという印象を抱いていた。はじめに彼が口説き落とそうとしたのはその瞳に躊躇いと恐れと、強い信念を宿した盾の乙女だっただろうか。共にカルデアに召喚された後のフィンの女性への関心の強さには、かつての絶対の主であったことを差し置いても時折やや躊躇うほどだ。

    「今日は何にしようかな、ディルムッドは決めたのか?今日はエミヤ殿のランチだから定番のAランチは確実に残っているだろうが…」

    Aランチは分量も栄養価もほどほどにバランスが良く人気のメニューだ。エミヤが厨房の担当者である日の定番メニューでもあり、よほどのことがない限り売り切れない。

    「Aランチも非常に美味だが…やはりせっかくだから冒険してみたくなるというものだ…おぉ?今日の限定メニューは和食なのか…!」

    フィンのきらきらと輝く表情をディルムッドは眩しく見つめる。
    フィンの愛の多さはこんなところにも現れる。とにかく何事にも彼は惹かれ、驚き、喜ぶのだ。ディルムッドにとってその様は非常に好ましく、それでいて不思議だった。

    「……あなたはなぜそのように多くを楽しめるのでしょうか?私はなかなかそうもいかず、…なにか極意があるのでしょうか?」

    なんとなしに尋ねるとフィンは目を丸くしてから大仰に笑ってディルムッドの背中を強く叩く。

    「はっはっは!おまえは真面目だなぁ!私からするとそこまで真面目すぎるのもなにかあるのかと思ってしまうぞ!」
    「なっ!…こんなこと言うのもどうかと思いますが…!フィンこそすこし奔放すぎるのでは!?大体そんなにどれもこれも抱えて、その、取りこぼしたり、飽きが来たり…そういうことが心配になったり…」

    フィンの親しみやすい雰囲気に流されて不躾なことを聞いてしまったことと揶揄われた羞恥に急に顔に熱が集まったのを感じる。それを誤魔化すようについ、さらに強い台詞が口から転がり出てしまう。

    「…よし決めた!日替わりメニューにしよう。日替わりメニューは被ることもあるが、新しいものが出ていることに賭けるぞ!ディルムッド、おまえは?」

    なんだかんだと言い合ううちにちょうど注文の順が回ってきていた。カウンター内のエミヤがフィンに話を振られたディルムッドの方を見る。

    「あ、Aランチを…お願いします…」
    「了解した。ご飯は大盛りがいいかね?」
    「お願いします…かたじけない」

    注文を済ませると流れに沿って受け取り列に並ぶ。一足先に列に移動していたフィンは頭を後ろに傾けてディルムッドを見遣った。

    「取りこぼすこともあるだろうな、そうはしたくないと思うが……それでも多くに、心が赴くことを止められまいよ」

    私はそういう星の元に生まれているようだから。そう言って無邪気な笑顔を浮かべたフィンに対し、ディルムッドはなんとも言えぬ表情で言葉にならない声を返してしまった。

    * * *


    若き肉体と精神を持つフィンは、ディルムッドの知るフィンとは少なからずかけ離れていた。彼はこんなに奔放ではなくどちらかというと手堅い人だと思っていた。だからこそ、若いフィンの浮気心にはどうしても面食らってしまうところがある。
    何をも気に入って側に置いてしまうような、かと思えば簡単に手放してしまいそうな、それでも全てを笑って許してしまいそうな、金の髪のフィンは流れる水のようにとらえられない人だった。そしてディルムッドはどうしてもいつもそれをうまく受け止められない、受け流せない。ついつい後先のことを考え、杞憂にとらわれ、どうしても考えてしまう。
    もし、情をかけたものがそれを良しとしなかったら。もし、抱えるものが多すぎて何か他の大事なものを忘れてしまったら。もし、一度愛したものにもう二度とその感情を抱けなくなるとしたら。
    考えて、考えて、ディルムッドはそうしてフィンの思考をなぞろうとする度にフィンのことを想う。若いフィンは自分に旧友のように接するが、ディルムッドはその実、彼について知らないことが多すぎた。
    幸い英霊としてのクラスは同じで周回も共に赴くことが多かったし、現状で召喚されているたったお互いのみの生前の縁ある者として普段も行動を共にすることがほとんどだった。
    だからよく見た。彼が何をしているか。よく聞いた。何を話しているか。ずっとずっと願ってやまなかった主への忠誠、今は同じ良きマスターをいただくサーヴァントであれど、かのフィン・マックールの側に再び仕えることができるのは自身の僅かな幸運ステータスをすべてその運命に振り切ってしまったのかと思うほどの僥倖だ。

    どうにかフィンに近づきたくて観察を続けた結果といえば、彼の転んでもただでは起きぬナンパ癖を見極めてストッパーになることが上手くなってしまったことだろうか。最近ではちゃんと主人の面倒を見ておくように、などと一部の英霊から揶揄い半分に言われるほどになっていた。

    ただ、そうしてフィンの言動を見ていて分かったこともある。

    彼は何も本当に見境が無いわけではない。
    やや緊張感のある場面で冗談めいたことを言うのはその場の緊張をほぐすためであった。一人の女性を口説いているときに決して他の女性に目を移さない。振られた直後に再アタックを始めることはご愛嬌ということにしておこうか。
    彼には彼なりの理屈がある、それもその言動の浮つき具合からはあまり考えられないような至って普通の、堅実なものでさえあるかのようだ。
    人にその流路を予測させない奔流は、それでも自然の摂理に則って美しく流れていた。手を加えることは烏滸がましく、しかし永遠に見ていられるほどに強く目を奪われ、見つめていると触れたくなってしまう。すこし感覚は異なるが、フィン・マックールという人間は生前もディルムッドにとって、そういう稀有な存在だったことを思い出させた。



    キィン、と金属のぶつかり合う音でディルムッドの意識は現実に引き戻される。淡い桃紫の髪が舞い、細腕が支える大きな盾が敵影を弾き飛ばす。

    「恩に着る、マシュ!やはりきみは素晴らしいな!」

    今度はそれまでディルムッドの頭を埋めていた朗々快活たる声が後ろから聞こえる。

    「斯様に可愛らしい乙女に騎士たるものが頼るというのも情けないが…なに、我らの要、どんな鉾よりもしたたかな盾の乙女にそんなことを言っては侮辱になろう!マシュ、すまないがもう少し頼みたい!」
    「了解です!マシュ・キリエライト、これで耐えます!」

    二槍の扱いを覚え込んだ体は無意識に雑兵を薙いでいる。二人の声をどこか遠くに聞いていたディルムッドの意識を一閃の呼び声が切り裂いた。

    「聞こえたかディルムッド!一気に畳みかけるぞ!」

    はっとして周りに目を向ける。
    戦場は荒野だった。砂の地平と青い空がぶつかり合って線を作る見晴らしの良いなだらかな丘陵。前線では盾を持つ少女が敵を薙ぎ払い、振り返ったその先ではフィンの構えた槍が空に似た澄んだ色の光を集めていた。

    「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃_____」

    次の瞬間滝のような音が轟き、怒涛の水流が地を割る。

    「穿て___破魔の紅薔薇、必滅の黄薔薇!」

    水の合間を縫い、激流が仕留め損ねた敵影を貫く。何度も重ねたこの感覚は、味わうほどにディルムッドの高揚を掻き立てた。


    * * *

    「やはり素晴らしいとは思わないか」

    敵の残党を倒した後、マスターは素材を回収し選別している。それが終われば退却まで暫しの時間があった。荒野の端の海を臨む高台にフィンとディルムッドは並んで立っていた。
    その言葉の真意がわからず首を傾げているとやれやれというようにフィンがかぶりを振る。

    「マシュだよ。可憐で、健気で、強かだろう。ただ強いだけではない。あの子の守りは温かい。守るものを知っている、強い思いがある。」

    真っ直ぐに海を見つめてフィンはそう言う。水面が反射した太陽の光を受けてその瞳が揺らめくように一瞬輝いた。

    「そういえばあなたは以前から彼女のことをお気に召していましたね」
    「うむ、私の審美眼も捨てたものではないだろう?」
    「ええ、彼女は……ただ頼もしいばかりではありません…」

    フィンが視線を向ける先をなぞって海を見る。遠目に見れば穏やかな水面が揺れ、ひらひらと光を弾いて瞬くのにディルムッドは目を細めた。

    「我々は男所帯の騎士団だからな、こうして女性に背中を預けて戦うのは些か慣れない。」
    「そうですね…女子供は我々の護るべきものでした」
    「そうだな……うん…慣れないが、これがなかなかどうして、気持ちが高揚するのだ。マシュだけではない」

    フィンの声が僅かに上擦る。珍しい声色にフィンがどのような表情をしているのか見たいと思うのに、なぜだか体を動かせずにディルムッドは海を見つめ続ける。

    「百人が百様に強かだ、カルデアの女性たちは。私にとって女性とは、少なくとも共に戦うものではなかったから、ここでの日々は驚きと喜びに満ちている。皆何かのために戦った、戦っている、その想いが美しい…」

    海風が鳴る。ディルムッドの重い癖毛が強い風にかきあげられ靡いた。
    フィンの声は穏やかで、しかし抑えきれない興奮を伝えてくるようだ。

    「あぁ、愛おしいな。彼、彼女らを育んだこの星の時間は。まだ弱く小さき彼らを今も育んでいるこの世界は、…人間は。とても、愛おしい…」

    そこでようやくディルムッドはフィンを振り返った。何かに気づいたように、何かに突き動かされたように、唐突に。
    振り返った視線の先、フィンは既に海ではなくディルムッドの方を見て、微笑みを湛えていた。その表情にはっとする。
    どうして今まで気づかなかったのだろう、心臓が戦闘時よりも心拍数を上げているのを感じた。
    フィンは愛の多い人だ。その文字通り、多くを愛しているのだ。飽いたりなどするのものか。多くを愛して、その多くをそのままに抱える。以前に自分で言った言葉通りに、取りこぼすことを避きながら。
    飽いたりなどするものか。そうでなければなぜその一人一人が英霊たる器を持つ猛者たちをフィオナの旗のもとに纏め上げ、率いることができただろうか。
    大きな、とても広く深い水の中に沈んだような気分だった。

    「フィン……私は…俺は………」

    水は澄み切っていてどこまでも見通せる。しかし岸辺はどこにも見えない。広く肌に心地よいそこは目の前の美しい人の瞳の中だろうか。

    「……なんだ、おかしな顔をして。おまえは表情こそわかりやすいのに、何を考えているのか分からないことがたまにあるな。」

    今度は柔らかだった笑みを意地の悪そうに深めるフィンに何も言えない。何も言えないまま見つめるしかない。そうしている間にもフィンはおまえはおもしろい、だの飽きない、だの好き勝手に品評会を始めている。

    「飽きない、といえば…おまえ前に私に言ったな?飽きはしないかと。」
    「ッ、それは…!」

    確かに過去に投げかけたことがある言葉だ。今となっては愚問であることがわかってしまった以上気恥ずかしさを通り越した羞恥心や情けなさやらで遂に詰まった喉が声を吐き出した。否定の言葉を続けようとして自己嫌悪に陥り俯きたい気持ちになる。それでもフィンの瞳はディルムッドを逃がさない。フィンから目が離せない。

    「私は確かに移り気が多いのだろうな。だがしかし…私がどうしようもない飽き性ならば大きな矛盾があることに気がつかないか?」
    「どうしようもないなどと…言っていません……」

    小さな声で言い訳のような反論をするのが精一杯だ。それは本当に思ってもいないことで、ともすればフィンを愚弄する言葉であるので是が非でも訂正しなければならないと思うことだけが口を動かす。
    その執念が届いたか、ディルムッドの呟きを聞いたフィンは意地の悪い笑みを柔らかく穏やかなそれに戻すと言葉を続けた。

    「……こうしておまえと共にいることにはどう説明をつける?飽き性の私はとうにおまえに飽きて別の人間と行動を共にしているか、常に一人でカルデア館内をふらふらと彷徨っては行きずりの相手と語らいでもしているさ」

    違うか?と首を傾げるフィンにディルムッドは今度こそ何も言えなかった。

    背後の遠くから崖の上に立つ二人を呼ぶ声が聞こえる。退去の時間がきたのだろう。フィンはその声の主に片手を上げて答えると再度ディルムッドに向き直って僅かにはにかんだ。

    「我が騎士、ディルムッドよ。おまえこそ、今生でも飽きずに私の元にいてくれるのだな。…ありがとう」

    さあ行くぞ、と腕を取られる。
    力が入らずだらりとしなだれる腕をフィンは離さない。早く大きく鼓動する心音が腕を掴む手に伝わらないことを願いながら、ディルムッドは腕を引かれるままに一歩を踏み出した。


    「あれ、何かあったのフィン?なんか嬉しそう…?」
    「わかるかねマスター?」
    「うん。あれ、どうしたのディルムッド?」
    「いえ、何も……」
    「喧嘩?じゃないよね?」

    戻った主従を見比べてマスターが首を傾げる。
    数秒考えたかと思うとフィンに向き直り、あまり揶揄っちゃかわいそうだよ?とその表情を窺いながら当たらずも遠からずといった指摘をした。その言葉にフィンは一瞬呆けてからからと笑う。すこぶる機嫌の良いフィンを見てマスターは考えを改めたのか一つ息をついて笑い、抜け殻のようになっているディルムッドの背を押した。

    「さあ帰ろう!今日はありがとね!」

    己を強く呼ぶ声に引かれ幾度の生を繰り返したその先、今生の主の傍らには温かい人の営みがあった。それを確かに、ディルムッドも温かいと感じる。愛おしいと思えた。
    生前、自分の主が何を考えているか、何を抱えているかなど考えたこともない。ただひたすらにその唯一無二の長の元で武芸を奮う、それが自分の全てだったからだ。

    今は少しだけ違う心に思いを馳せて胸に手を当てる。今も自分にできることは主のためと槍を振るうことだけだとしても、確かに違うものが胸の中を温めている。
    力の入らない体とは裏腹にその胸のうちは熱く、ずっと静かに高鳴っていた。
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    eats_an_apple

    TRAININGお題は「記憶」です
    軽率にご都合記憶喪失ネタ。薄味。
    「……すみません、とんと記憶がなくて」

    そう言われた二人の表情は各々だった。
    まるであり得ないとでも言いたげに、しかし言葉を忘れたようにぱかんと口を開いたフィン。太い眉を顰めて精悍な顔立ちに疑念の表情を滲ませるディルムッド。
    そしてそんな二人を見て申し訳なさそうに眉を下げるディルムッドがもう一人。一見混乱を余儀無くされるこの絵はカルデアでは至って日常のものだったが、一つだけ常と違うものがこの片方のディルムッドの言葉だった。

    「…………記憶が、ない……?私の?」

    次に独り言のように口を開いたのは意外にも、他のすべての感情が抜け落ちたように驚愕の表情を浮かべていたフィンだった。

    「俺のこともわからないというのか?」

    続いて双剣の戦士の方のディルムッドが尋ねる。

    「その姿を見るに、何らかの形で現界している別の俺であろうことはわかる…しかしその経緯もおまえとの今までのやりとりも……すまない……」
    「そうか……」

    納得したかのように頷いたセイバーのディルムッドは眉間に寄せていたしわを伸ばし、隣に立ち尽くしたままふるふると震える男を見た。その視線をランサーのディルムッドも追って恐る恐 9754

    eats_an_apple

    TRAINING「飽きる」からの連想
    ディルフィン未満のフィオナ主従
    愛の多い人だと思った。
    それ故に、多くに飽くのではないかと思っていた。


    「これはこれは、北斎殿。今日はお父君と一緒ではないのですか?」
    「おう旦那。とと様は留守番だよ、締め切りが近いんでな。本当はおれもこんな場所にいる場合じゃねぇんだが腹が減ってはなんとやら、えみやの兄さんに片手間に食べられるものをいただこうと思ってんだ」

    そう言うと画工の英霊は片手の指を窄めて何かを描くように手で空をかく。その手振りを見てフィンは頷いた。

    「そういうことでしたか。貴女のことは前々からお茶にお誘いしたいと思っていたのだが、それではまたの機会にぜひ。」
    「へえ、あんたほどの別嬪に誘われちゃあ、そりゃ断るわけにはいかねえよ。こんなときでなければあんたをもでるにこのまま一筆描かせてほしいところなんだけどなァ…」

    悔しそうに唇を噛む彼女にフィンはからからと笑う。それはそれは楽しそうなその様子は側から見ている分には微笑ましい。応為はそのままひらひらと手を振りながら遠ざかり、フィンはランチの注文を待つ列に舞い戻る。

    「我が王、彼女はついこの間召喚された日本の方ですよね?いつの間に親しく?」
    「あぁ、大し 6655

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    ディルフィン未満のフィオナ主従
    愛の多い人だと思った。
    それ故に、多くに飽くのではないかと思っていた。


    「これはこれは、北斎殿。今日はお父君と一緒ではないのですか?」
    「おう旦那。とと様は留守番だよ、締め切りが近いんでな。本当はおれもこんな場所にいる場合じゃねぇんだが腹が減ってはなんとやら、えみやの兄さんに片手間に食べられるものをいただこうと思ってんだ」

    そう言うと画工の英霊は片手の指を窄めて何かを描くように手で空をかく。その手振りを見てフィンは頷いた。

    「そういうことでしたか。貴女のことは前々からお茶にお誘いしたいと思っていたのだが、それではまたの機会にぜひ。」
    「へえ、あんたほどの別嬪に誘われちゃあ、そりゃ断るわけにはいかねえよ。こんなときでなければあんたをもでるにこのまま一筆描かせてほしいところなんだけどなァ…」

    悔しそうに唇を噛む彼女にフィンはからからと笑う。それはそれは楽しそうなその様子は側から見ている分には微笑ましい。応為はそのままひらひらと手を振りながら遠ざかり、フィンはランチの注文を待つ列に舞い戻る。

    「我が王、彼女はついこの間召喚された日本の方ですよね?いつの間に親しく?」
    「あぁ、大し 6655

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    TRAININGお題は「記憶」です
    軽率にご都合記憶喪失ネタ。薄味。
    「……すみません、とんと記憶がなくて」

    そう言われた二人の表情は各々だった。
    まるであり得ないとでも言いたげに、しかし言葉を忘れたようにぱかんと口を開いたフィン。太い眉を顰めて精悍な顔立ちに疑念の表情を滲ませるディルムッド。
    そしてそんな二人を見て申し訳なさそうに眉を下げるディルムッドがもう一人。一見混乱を余儀無くされるこの絵はカルデアでは至って日常のものだったが、一つだけ常と違うものがこの片方のディルムッドの言葉だった。

    「…………記憶が、ない……?私の?」

    次に独り言のように口を開いたのは意外にも、他のすべての感情が抜け落ちたように驚愕の表情を浮かべていたフィンだった。

    「俺のこともわからないというのか?」

    続いて双剣の戦士の方のディルムッドが尋ねる。

    「その姿を見るに、何らかの形で現界している別の俺であろうことはわかる…しかしその経緯もおまえとの今までのやりとりも……すまない……」
    「そうか……」

    納得したかのように頷いたセイバーのディルムッドは眉間に寄せていたしわを伸ばし、隣に立ち尽くしたままふるふると震える男を見た。その視線をランサーのディルムッドも追って恐る恐 9754

    eats_an_apple

    TRAININGほんのちょっとだけ背後注意(??)なシーンがあります。
    なんでもいい人向け。
    「王よ…その、装備の…ええと、胸当ては…着けないのですか…?」

    部下からの奇妙で唐突な質問にフィンは首を傾げる。
    質問者のディルムッドはというと、非常に言いにくそうにあからさまにフィンから視線を逸らしているので見つめ返しても目は合わない。彼が何を考えているのかフィンには図り兼ねた。

    「…?もちろん戦闘時の霊衣を変更するにはマスターに申し入れるのが作法だと知らないこともなかろう、今すぐには着けられないな。なぜそんなことを聞く?」

    素材集めと戦闘訓練のための招集命令に応じていた2人はちょうど管制室に向かう途中だった。ディルムッドはその正論に一瞬言葉を詰まらせたが、ぐっと息を飲み込んでから食い下がった。

    「今すぐに、ということではありません。普段からその装備でいるのはなぜかと…」
    「む…私の言葉を聞いていたか?質問に質問で返すんじゃない。」

    おちょくっているのか、とフィンが顔を顰めるとディルムッドは途端に表情をぱっと困ったようなそれに変え、とんでもありませんと弁明する。普段通りのやりとりを一通り済ませた後、フィンは目を伏せて部下の妙な観点にため息をついた。

    「なぜもなにも。マスタ 9915

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    愛の多い人だと思った。
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    「おう旦那。とと様は留守番だよ、締め切りが近いんでな。本当はおれもこんな場所にいる場合じゃねぇんだが腹が減ってはなんとやら、えみやの兄さんに片手間に食べられるものをいただこうと思ってんだ」

    そう言うと画工の英霊は片手の指を窄めて何かを描くように手で空をかく。その手振りを見てフィンは頷いた。

    「そういうことでしたか。貴女のことは前々からお茶にお誘いしたいと思っていたのだが、それではまたの機会にぜひ。」
    「へえ、あんたほどの別嬪に誘われちゃあ、そりゃ断るわけにはいかねえよ。こんなときでなければあんたをもでるにこのまま一筆描かせてほしいところなんだけどなァ…」

    悔しそうに唇を噛む彼女にフィンはからからと笑う。それはそれは楽しそうなその様子は側から見ている分には微笑ましい。応為はそのままひらひらと手を振りながら遠ざかり、フィンはランチの注文を待つ列に舞い戻る。

    「我が王、彼女はついこの間召喚された日本の方ですよね?いつの間に親しく?」
    「あぁ、大し 6655

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    TRAININGお題は「記憶」です
    軽率にご都合記憶喪失ネタ。薄味。
    「……すみません、とんと記憶がなくて」

    そう言われた二人の表情は各々だった。
    まるであり得ないとでも言いたげに、しかし言葉を忘れたようにぱかんと口を開いたフィン。太い眉を顰めて精悍な顔立ちに疑念の表情を滲ませるディルムッド。
    そしてそんな二人を見て申し訳なさそうに眉を下げるディルムッドがもう一人。一見混乱を余儀無くされるこの絵はカルデアでは至って日常のものだったが、一つだけ常と違うものがこの片方のディルムッドの言葉だった。

    「…………記憶が、ない……?私の?」

    次に独り言のように口を開いたのは意外にも、他のすべての感情が抜け落ちたように驚愕の表情を浮かべていたフィンだった。

    「俺のこともわからないというのか?」

    続いて双剣の戦士の方のディルムッドが尋ねる。

    「その姿を見るに、何らかの形で現界している別の俺であろうことはわかる…しかしその経緯もおまえとの今までのやりとりも……すまない……」
    「そうか……」

    納得したかのように頷いたセイバーのディルムッドは眉間に寄せていたしわを伸ばし、隣に立ち尽くしたままふるふると震える男を見た。その視線をランサーのディルムッドも追って恐る恐 9754

    eats_an_apple

    TRAININGほんのちょっとだけ背後注意(??)なシーンがあります。
    なんでもいい人向け。
    「王よ…その、装備の…ええと、胸当ては…着けないのですか…?」

    部下からの奇妙で唐突な質問にフィンは首を傾げる。
    質問者のディルムッドはというと、非常に言いにくそうにあからさまにフィンから視線を逸らしているので見つめ返しても目は合わない。彼が何を考えているのかフィンには図り兼ねた。

    「…?もちろん戦闘時の霊衣を変更するにはマスターに申し入れるのが作法だと知らないこともなかろう、今すぐには着けられないな。なぜそんなことを聞く?」

    素材集めと戦闘訓練のための招集命令に応じていた2人はちょうど管制室に向かう途中だった。ディルムッドはその正論に一瞬言葉を詰まらせたが、ぐっと息を飲み込んでから食い下がった。

    「今すぐに、ということではありません。普段からその装備でいるのはなぜかと…」
    「む…私の言葉を聞いていたか?質問に質問で返すんじゃない。」

    おちょくっているのか、とフィンが顔を顰めるとディルムッドは途端に表情をぱっと困ったようなそれに変え、とんでもありませんと弁明する。普段通りのやりとりを一通り済ませた後、フィンは目を伏せて部下の妙な観点にため息をついた。

    「なぜもなにも。マスタ 9915