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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    夏五版ワンドロワンライ第71回お題「富本銭」お借りしました。
    離反回避ifだけれど夏が旅に出ちゃって離れたままの夏五。

    #夏五
    GeGo

    夏五版ワンドロワンライ第71回お題「富本銭」 なにもかも変わってしまったように思える男にも、記憶のままの部分は存在する。例えば文字の書き方。綺麗なんだか汚いんだかわからんと担任に言われていた、ところどころ繋がった漢字。特に「悟」の口はほとんど丸である。
     長期の任務を終えて、久しぶりに高専に戻ると、ほとんど使ったことはない一応五条専用の机の上にそれはあった。自然と、頬が緩む。

    『東京都立呪術高等専門学校内 五条悟様』

     いつものように、それ以外は差出人の名前すら書いていない。ひっくり返してみれば、某トトロにでも出てきそうな大きな木の下に小さな祠がある風景がある。
     ――いや、どこだよこれ、わかりづら。
     消印は、5日前。この地名は、九州だっただろうか。その前は北陸あたりだったので、随分と移動したものだ。
     とりあえず無事でいることにホッとして、絵葉書だけを手に、ほとんど名ばかりの職員室を後にした。
     さて、どこに貼ろうか。また、コレクションが増えた。自室の壁も、隙間の方が少なくなっている気がする。四方の壁が、天井が、すべて埋まってしまった頃に、戻ってくるのだろうか。それとも――。

     名前がなくとも、差出人はわかる。
     夏油傑。
     たったひとりの親友だ。

     五条と同じ特級を冠する呪術師でありながら界隈から離れ、今は全国を放浪していた。同じく特級の九十九由基もまた、自由気ままに海外を飛び回っており、上層部の頭痛の種のひとつでもある。国内にいるだけまだマシだという者もいるが、五条に言わせればおかげで負担が全部こちらに来ているのでどっちもどっちである。
     けれど、この状況を甘んじて受け入れ、むしろ背中を押したのは他ならぬ五条自身だった。
     このままここにいたらアイツはダメになる――高専時代に任務で赴いた村で、危うく村人を傷つけるところだった姿を目撃したときにそう思った。間一髪で五条が止めなければ、今頃は特級の呪詛師として処刑対象になっていただろう。
     非術師への殺意は疑いようもなく事実で、本人もあっさり認めていた。弁明することもなく、淡々と状況を受け入れる姿に、五条の方が焦っていた気がする。呪術師が非術師を傷つけることは、重い罪だとわかっていた。
     だから、処分が1か月の活動停止と謹慎で済んだのは異例だと言える。冷静になってみれば、上層部も易々と特級を手放したくはなかったのだろうとわかる。
     そうして謹慎が解けてすぐに、夏油は呪術高専を辞めた。
     五条の隣から、離れていったのだ。
     何をするのかと聞けば、村で救出した双子の姉妹を連れて、全国を回るのだと言う。幸いにも、たった2年半とはいえ、高専時代に任務で受け取った報酬はたっぷりあるのだ。
     表向きの理由は、全国各地を周り、人々を苦しめている呪霊の祓除――である。水戸黄門みてぇだな、と笑ったのはもうひとりの同級生、家入だった。
     もちろん、未成年とはいえ一度は非術師を害そうとした男である。謹慎は済ませたとはいえ、自由にさせることには反対意見がほとんどだった。何もなしに野放しにしては今度は本当に呪詛師となるかもしれないという懸念はもっともで、五条も否定はできなかった。
     だから、妥協案としての五条の提案で、縛りを結んだ。
     呪霊を祓除、または取り込むことはできるが、その力を非術師へ向けることは禁ずる約束をさせたのだ。破ったときの代償は、一緒に旅する双子と――五条自身の命だ。

     あれから3年。
     出ていったきり、一度も戻ってきたことはないが、縛りは破られることはなく、五条はまだ無事に生きている。
     そしてもうひとつ、夏油が旅に出てから始まったことがあった。不定期に、高専あてに絵葉書が届くのだ。挨拶文も、差出人の名前もない、ただ五条の名前と、綺麗な風景や建物が映っただけの。北海道からスタートして、東北、北陸、飛んで沖縄――実に様々な絵葉書が、五条の部屋の壁を彩っている。

     お前、今どんな顔してる?痩せた体はマシになったか?髪はまだ伸ばしているのか?
     ―――会いたい、な。
     葉書が届くたびに、出かける言葉を飲み込むのだ。


    「五条さん、お手紙が届いてましたよ」
     珍しく日付が変わる前に高専に帰ると、入れ違いに出るところだった補助監督のひとりが呼び止めてきた。めんどくさいと思いながらも一応足を止めると、茶色の封筒を差し出してくる。
    「差出人の名前がなかったので怪しまれたんですが、ちょうど居合わせた家入さんが大丈夫だろうと」
     
     ――東京都立呪術高等専門学校内 五条悟様

     いつもの、見慣れた文字である。
     ただ、今回は絵葉書ではない。封書で届いたのは初めてだった。
     礼を言いつつ受け取って、自室まで戻るまで我慢できずに歩きながら封を切る。一応その前に触って探ってみたが、さほど厚みはないが下部に硬い小さな感触があった。ひっくり返してみると、手のひらの上に小さな丸が転がり落ちてくる。
    「…なにこれ」
     指で抓みあげてみれば、真ん中に四角い穴が開いた古い硬貨のようだった。全体が青錆で覆われている。生徒たちの歴史の教科書にでも載っていそうな物である。
     なぜ突然こんなものを送ってきたのか、さっぱり意図が読めない。しかし、握りしめてみれば、肌に馴染んだ、それでいて今は懐かしさを感じる呪力が感じ取れた。
     間違いなく、夏油の呪力だ。
     この贈り物になんの意味があるのかはわからない。それでも久しぶりの夏油の感触になんとなく握りしめたまま部屋に戻った。


     

     広い、野原を歩いている。遮るものはなにもない。
     そこそこ草花が伸びている場所を裸足で歩いているというのに、何の感触もない。常にオートで張り巡らせている無下限によるものなのか、それとも。
     どこへ向かっているのか、五条にはわからなかった。それなのに、足は勝手に動いている。
     頭と体が、切り離されている気分だった。こんなにも戸惑っているのに、体は行先を知っているようだった。

     ―――これは、夢だな。

     遠くにぼんやりと見えてきた姿に、確信した。向こうも五条に気づいて、片手を上げた。

    「悟、まさか君が来るなんてね。本体ではないみたいだけど」
    「―――傑」

     3年ぶりに会った傑は、なぜか暗色の法衣に袈裟という坊主のような格好をしていた。それでいて、闇に溶け込む髪はさらに長くのび、ハーフアップにしている。首から上と下のギャップがすごい。
    「おま、なにそのカッコ」
    「似合わないかな?見知らぬ土地で呪霊を集めるには都合がよくてね」
     ああ確かに、怪異事件に見知らぬ他人が乗り込んでは怪しまれるが、坊主だと言えば多少は警戒心は薄れるかもしれない。この姿で坊主だと信じる者がいるのかは疑問だが、この3年はうまくやっていたということなのだろう。
     いや、そもそもこれが本当に今の夏油なのかはまだ疑問なのだが。
    「僕、なんで…?」
    「君、会わないうちに一人称僕に変えたのかい?」
    「いやそれ今どうでもいいから」
     お前が言ったんだろ――なんて、なんだか恥ずかしくてついついそっぽを向く。
    「古銭を、受け取っただろう?」
     古銭、と聞いて、ようやく思い至る。いつもの絵葉書ではなく封書で送られてきた、青錆の古い硬貨。
    「先日祓ったところから出てきてね、随分古いものだったから、もしや厭勝銭ではないかと思ったんだ。ならばお守り代わりに君に送るのもいいと思ってね」
     ま、そんなもの君には必要ないことはわかってたけど、気まぐれだと思ってよ。最後に別れたときよりもいくらか明るく軽い声で、しかしどこか作り物のような笑みからは、この3年を読み取ることは難しかった。なにしろ、1番傍にいたときにすら、変化に気づけなかったのだから。
     右手を見る。結局寝るときまで離し難かった古銭は、今はない。
    「―――なぁ、もう帰ってこないのか」
     夢、ではないのかもしれないが、現実とも思えなかった。だから、というわけではないが、口が軽くなる。
     一方的に送られてくる手紙に、返事は出せない。だから、ぶつけられない思いは溜まっていく一方だった。
     さらに近づいて、こけたままの頬に手を伸ばす。触れる寸前で、逆にその手を取られ、握りしめられた。
    「君に負担をかけていることはわかっている。でも―――もう少し、時間が欲しい」
     冷たそうに見えた肌は、意外にも熱い。
    「―――別に、いいよ。最後に、戻ってくるなら」
     手が、離れる。急激に、夏油の存在が遠ざかっていくのがわかった。
    「ありがとう」



     目を開けると、いつも通りの天井がある。全身は重怠いが、気分はなんとなくスッキリしていた。
     上体を起こし、握りしめていた右手を開くと、かすかに残っていた呪力が消えていく。古銭はもう、どこにもない。
     夏油はお守りだと言ったが、あれはもしかすると夏油に会うための通行料だったのかもしれないと、ふと思った。
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    ライフ・イズ・コメディ! 傑と映画館に行くことになった。これって初デートだなぁ、俺たちも結構恋人らしいことをするもんだなぁ、そう俺は思って、なぜ傑がよりにもよってクレヨンしんちゃんの映画を選んだのか考えもしなかった。チケットまで事前に用意したのも怪しかったが、俺は傑と一緒に映画を観に行く、そんな事実だけに興奮してしまって、やっぱりなぜ傑って奴がクレヨンしんちゃんを選んだんだ?、恋愛映画でもないのに、とは考えなかった。でも『モーレツ! 大人帝国の逆襲』とか『アッパレ! 戦国大合戦』は俺を映画館に連れて行った五条家の呪術師も泣いていたから(俺は情緒の育っていない子どもだったので、結構長い間教育のために分かりやすい勧善懲悪のアニメ映画を見に連れて行かれていたのである)、映画の優しいジャイアンみたいに、クレヨンしんちゃんも映画は大人になると泣けるのかなって思った。それに傑と映画館に行けるんなら別に何の映画でも良かったから、もしこのチケットの映画で泣けなくたって、それはそれでいいだろうって。それで傑だけ泣いたら、ちょっと居心地が悪いかなぁ。
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