【死がふたりを分かつまで】ヒュンポプ 帰宅するのが遅くなってしまったポップ。
実は、ヒュンケルには内緒で、記念日のプレゼントを用意をしていて遅くなってしまった。
ヒュンケルにはそれは内緒にしている事だからと、勝手しすぎたせいか、心配をかけてしまっている。
今日で、プレゼントは完成したから、遅くはなってしまったが、気分はよく帰宅する事にした。
「ただいま~」
部屋の扉を開ければ、目の前にはヒュンケル。
何故か雰囲気が冷たいというか怒っている。もしかして、遅くなってしまった事に怒っているのだろうかと、ポップは焦る。
「ご、ごめんな?遅くなっちまって」
「ああ」
「ちょっと仕事が溜まっててよ」
「……」
とにかく謝るしかないと、ポップはヒュンケルに向かい、眉を下げ謝る。いつもなら、ヒュンケルも仕事ならと許してくれるのだが、何故か今日は様子がおかしい。
「仕事、か?」
「ん?」
「本当に仕事だったのかと、聞いているんだ」
真剣な目で、怒りを込めたその瞳に、びくりと震えてしまう。まさか、ヒュンケルにバレていたのだろうか。プレゼントの存在を。でも、バレていたのなら、怒ったりはしないと、ポップは思う。逆に、すまない、と謝りそうだ。そこまでヒュンケルは狭量ではない。なら、なぜ?
ポップは冷静に考えるが、答えは一向に出てこない。何がヒュンケルをそこまで怒らせているのか、全く検討もつかないのだ。
「今日……、執務室で、何をしていた?」
「何って、仕事だけど…」
「本当に?」
「仕事以外何するってんだよ?」
がたん、と扉に肩を押し付けられて、いきなりの事にポップは目を閉じる。開いた瞳の先には、やはり、怒りを秘めた瞳のヒュンケルしか映らない。
腑に落ちないヒュンケルからの問に、ポップ自身もプレゼントを作っていたから、仕事だけでは無い後ろめたさもある。だけれど、そこまでヒュンケルは何故怒っているのか。
「と、とりあえず話しようぜ?ヒュンケル…」
「話、か……」
「そうそ、ちゃんと話をしたら……」
「別れ話か」
「……っ!?」
話を促そうとしたら、いきなりのヒュンケルの言葉に、ポップは信じられないと目を見開いてヒュンケルを見つめる。ヒュンケルは、傷ついたような表情で、ポップを見つめている。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、なんで別れ話に…」
「お前が……」
「俺がなんだよ……」
「執務室に女を連れ込んでいると」
「はあ!?」
また更に、爆弾発言を発してきたヒュンケルに、ポップは、驚くと共に、大きな声をあげてしまった。
いや、でも女を連れ込んでいる?何をどうしたらそんな噂が立つのだろうか。全く分からないポップは、驚くばかりで、言葉が出ない。
「お前が話すまで、オレの傍から離すつもりは無い」
「何言って……」
肩を扉に押し付けられているし、身動きも取れず、その上、何故か謎の噂話に別れ話まで出てしまっては、ポップには本当に訳が分からなすぎて、パニックになりそうだった。
「なんでだよ!おめぇが居るのに女なんか……っ」
「なら、何故いつも帰りが遅い?」
「そ、れは……」
「答えられないなら、それは肯定と同じだろう」
「ちがっ…」
とにかく、この拘束から逃れようとじたばたともがくと、一瞬腕が緩み、ヒュンケルの腕から逃れ、距離をとった。
「…何処に行くつもりだ?オレの傍から離れるなと言ったはずだ」
「何処にも行かねぇよ!話聞けっての!」
「話等……っ」
顔をゆがめ、ポップを見つめてくるヒュンケルに、ポップは、どれだけヒュンケルを不安にさせてしまったのかを知る。ポップは、仕方がない、とヒュンケルに歩み寄り、そっと抱きしめた。
途端にびくりと震えるヒュンケルにポップは、「ごめんな」と囁いた。
「ポップ……、オレが嫌いになったか」
「はあ?んなわけねぇだろうが」
「なら、何故?」
「あー…、もう、仕方ねぇなあ」
先程の勢いはどこへやら、ヒュンケルは、小さな声で、ポップの事を呼ぶ。
その、小さな子供のようなヒュンケルに、ポップは愛おしさが募り、ぎゅ、と更に抱きしめた。
そして、ポップからヒュンケルに口付ける。
「っ……」
「おれは、おめぇ以外に好きな人なんていねぇよ」
「ポップ…」
「本当はもっとかっこよく渡したかったんだけどな、ほらよ」
ポップがヒュンケルに見せたのは、ビロードで出来た小箱。何なのか分からない、というヒュンケルに、手渡し、開けるように促すと、開けて見えたのは煌めく輝きが二つ。
「これは……」
「指輪だよ、ペアリング」
「ゆ、びわ」
「おれとお前の…、二人だけの指輪だよ」
ポップはそのひとつを手に取ると、ヒュンケルの左手を掴み、薬指にそれを嵌めた。サイズはぴったりで、ヒュンケルの白い手によく映える。
「もしかして、今までこれを…?」
「そ。ずっと帰りが遅かったのはこれを作ってたんだよ」
「そうだったのか…」
「それが、まさかこんな噂があったなんてな…、ごめんな、苦しめただろ」
「そんな、ことは……」
小さく呟くヒュンケルは否定をするが、ポップにはそれが強がりだと言うことはお見通しである。
普段は強い精神を持っていて、アバンの使徒の長兄として導く存在だとしても。いざ、恋人となれば、ヒュンケルは途端に臆病になる。自分の事を認められない、自己否定の固まり。だから、そんなヒュンケルに
ポップは、ちゃんとした形になる愛の証を渡したかったのだ。
「っ……」
「なんだよ、泣くほど嬉しかったのか?」
はらりと涙をあふれさせたヒュンケルに、ポップは茶化すように、慰める。そのポップの優しさが、ヒュンケルにとってはどんなに救いであるか、ポップ自身には分からないだろう。
だから、ヒュンケルはポップの事を、自分の全てをかけて、幸せにしようと、自分に誓いを立てたのだ。
それが、こんなふうに、ポップの事を疑ってしまい、自分が不甲斐なく感じてしまった。
けれど、もう二度と、ポップの愛を疑うことなど無い。二人だけの証を、手にしたから。
「おれにも付けてくれるか?」
「ああ、もちろんだ…… 」
そっと指輪を手にして、ポップの指にはめれば、きらりと二つの指輪がほんのりと輝いた。
それを不思議そうに見ていたヒュンケルにポップは、
「生涯かけてのこれはお前との愛の証だから」
と得意げに笑って、ヒュンケルの指輪に口付けを落とした。
後に聞いた話だと、これは精霊の力を借りた指輪であり、生涯の伴侶にしか付けれない指輪だという事らしかった。
ずっとずっと
死がふたりを分かつまで
共にあり続けよう