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    ろまん

    @Roman__OwO

    pixivに投稿中のものをこちらでもあげたり、新しい何かしらの創作を投稿したりする予定です。倉庫です。

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    ろまん

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    【風雲児】ワンライで書いた話です。
    矢後が教室の窓から、校門を走って出て行く久森を見つけます。

    窓の外は、 その日、矢後は珍しく授業に出ていた。ここ一週間入院していたので、これが久々の登校になる。
     と言っても、風雲児で教師の話す内容に耳を傾けている生徒など殆どいない。矢後も一応授業には出ているが、内容は全く聞いていなかった。この前、手持ち無沙汰で数学の教科書をビリビリに破き、こんもりとした塵の山を作ったばかりなので、出来ることといえば、昼寝くらいだ。まあ、塵にしていなくても、教室でやることといえば昼寝くらいしかないのだが。
     矢後の席は一番窓際の一番後ろに位置している。その席が果たして矢後の席なのかは本人もよくわかっていないが、ちょうど良い陽射しのときは必ずそこに座っていた。風雲児の生徒に総長の邪魔をする者はいないので、咎められることもなく、今日もその席でぐっすりと眠っていた。
     暫くして、五限の終わりのチャイムを目覚ましに、矢後は重たい瞼を上げた。ちなみに二限で登校し机に突っ伏して寝始めてから、今の今までいくつものチャイムを聞き逃している。
     寝ぼけ眼のまま、矢後はぼんやりと窓の外を見た。白い太陽は、雲の少ない青空のやや高い位置にある。
     もう一回寝られるな。そう思い、今度は床に寝転がろうしたところ、矢後は視界の隅で「あるもの」を捉えた。
     窓の外――正門の外に向かって全力疾走している生徒がいるのだ。じっと目を凝らすと、それは間違いなく久森だった。
     風雲児には頭髪が派手な生徒や、制服を原型がないほど着崩している生徒が多いので、校則をある程度守って、黒髪のまま、いかにも真面目で大人しそうな見た目の久森は逆に目立つ。本人は気づいていなさそうだが。
     それにしても、イーターと対峙しているときでさえあんなに必死な久森はあまり見ない。おそらく、何かが視えたのだ。一体、これから何が起こるというのか。
    「あれ? 総長、帰るんすか?」
    「………いや。おもしれーモンがあるか、確かめにいくだけ」
    「へ!? カチコミっすか!? 看板取りに行くなら、付き合うっスよ!!」
    「ちげえ。んじゃーな」
    「ハ、ハイ。お疲れ様です!!!」
     入れ違いで次の時間の担当教師とすれ違ったが、矢後を見ても呆れた顔をするだけで何も言わなかった。



    「あれ? 矢後さん。なんでこんなところにいるんですか……?」
    「……お前こそ、何してんだよ」
     矢後が久森の元に辿り着いたとき、そこにはガードレールを押し潰すように横転した車と、その車のそばで真っ青な顔をしている男――おそらくその車の運転手が佇んでいた。そして、そこから十メートルほど先には、何故か数人の気絶した不良たちが積み上がり、こんもりとした山を形作っている。
    「いやあ……。実はですね、五限の終わり頃にこの車がこの道で事故を起こす未来が視えまして……。たまに、視ようとしなくても未来が視えてしまうとき……そういう場合って、良くない起きる確率が高いんですよ」
    「ふーん……で、必死に走ってたってワケ?」
    「えっ、みっ、見てたんですか!? 言っておきますけど、こっちは結構必死だったんですからね!」
    「何も言ってねーけど……。つーか、これは?」
     山積みになっている不良達を指差すと、久森は眉を下げ、困ったような顔で話し出した。
    「この人達は、ここが危ないと忠告しても聞き入れてくれなくて……。殴り掛かられてしまったので、試しに矢後さんの気絶させる技をやってみたら、その、上手くできたので、こうなりました……」
    「………」
    「救急車と警察呼んだので、もう少しで来ると思うんですけど、これって傷害事件になっちゃいますかね!?!? 僕、逮捕されちゃうと思います!??」
     矢後はじっと久森を見た。その顔には、焦りだけが浮かんでいる。いかにも真面目そうな顔で、この不良の山を作ったというのに。
    「……はは、ウケる」
    「いや、全然ウケませんけど!?」
     矢後は、薄く笑って足を踏み出した。久森の横を抜け、山積みになった不良達に声をかける。
    「おい」
     しかし、何度かけても返事がない。終いにはぺちぺちとその頬を叩いていった。軽く叩いたつもりだが、全員が呻き始める。隣に来た久森が「うわあ……」と声を溢した。
    「ん……んん? あれ? なんで俺……。って、ヒッ、や……矢後!!!」
    「うーーん………ア? 矢後? う、うわああ!!!」
     起き上がった不良たちが、矢後を目に入れるなり騒ぎ始める。そのうちの一人が、久森を見た。
    「つーか、お前さっきの!! 矢後の隣にいるって……まさか!!?」
    「ああ! ま、間違いない……。コイツ、風雲児の副長、『緋鎖喪離』だ!!! ナウマン象を素手で倒して、バッファローの群れを壊滅させたっていう……!!」
    「いや、違……っ」
    「うわあああっっ!! 逃げるぞーーー!!!」
     久森が咄嗟に訂正を入れようとするが、不良達はそれを聞き入れることなく、起きた者から順にその場を逃げ出していった。
    「あ、あの噂、どこまで広がってるんだ……!」
     久森が逃げていった不良たちの後を目で追いながら、悲壮感たっぷりに嘆いていると、ふいに遠くからサイレンの音がした。それは段々、こちらへと近づいてくる。
     矢後はこの場にいる理由もなく、家へと帰ろうとした。すると、その横に久森が並ぶ。
    「……ケーサツ待ってたんじゃねーの」
    「いえ。運転手さんは奇跡的に今のところは大丈夫みたいですし、後は然るべき大人達に任せます。それに、授業に戻りたいですし」
    「は? 戻んの?」
    「はい。矢後さんもそうじゃないんですか?」
    「………そーだな」
     矢後は自然と頷いていた。
    「じゃ、ちょっと急ぎましょう。まあ、着く頃には授業が終わってる頃かもしれませんけど」
     足元を見ると、長い影が二つ、靴先から伸びている。矢後は空を見上げた。やや高い位置にあった太陽は、すっかり沈み始め、オレンジ色に染まっている。
     ――入院中、矢後のベッドは真ん中だった。窓の外は、遠くて見えない。病院の外にあるはずの太陽も、人影も、何一つ見ることができなかった。
    「……久森」
    「はい?」
    「今度、勝負しろよ」
    「………は? はああああ!?!? 矢後さんとなんてぜっっっったいにイヤです!!!!」
    「はは」
     薬品の匂いのしない、夕方の、夜の訪れを待つこの静かな空気を、矢後は肺一杯に吸い込む。
     窓の外に見えた景色は、なかなかにおもしろく――矢後は満足げに目を細めた。
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