ずっと避けていた。
渋谷スクランブル交差点。
もう彼がこの世にいない事は僕が一番知っている。
それでも行き交う人の波間に彼の姿を探してしまう。これが未練か。
(やっぱり辛いな。)
なるべく足元を見るように心掛け、早足で歩く。人混みを避け裏道に入ると独特の湿った匂いが鼻につく。あぁ、駄目だ。こんなところにも彼との思い出が残っている。このまま僕はどこへ向かえば良い?
(あれ…)
路地を抜けると満開の桜。いたずらに吹いた春の風が桜の花びらを舞い上げる。こんなところに桜の木があっただろうかと、彼と歩いた記憶をたどる。
突然小さな旋風。思わずかざした左手が何者かに引き上げら僕の身体は風となり、宙を翔ける。
彼と渋谷の街を駆け巡ったあの夜。一等高いビルの上から霧に包まれた渋谷の街を見下ろし、彼はこういった。
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