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    おもち

    5/5頃にアカウント削除します。ぷらいべったーはそのまま置いておきますので読み返したいと思ってくださる方がいればそちらをブクマなどしておいてください。すみません。→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。学パロ。文学オタク🐏を書きたくて書いてたら誰か分からなくなってしまったので供養です…。

    #PsyBorg

    窓際の席の、前から三番目。いつもその後ろ姿を盗み見ては、授業用の他にもう一冊出しているノートに思いつく限りの言葉を書き留めていた。
    同じクラスの、浮奇・ヴィオレタ。彼について知っていることは少ない。俺は彼と直接話したことがないし、いつもこっそりと見つめているだけだから。整った顔立ちに、緩やかにウェーブする柔らかそうな髪。正面から見たことはないけれど瞳もとても綺麗で、いつかそれを咎められることなく見つめてみたいだとか思ってる。俺に絵が描けたのならノートは彼の顔でいっぱいになっていただろう。
    授業が終わると彼の周りにはクラスメイト数人が集まった。彼は女性の友人もとても多い。違う世界に住んでいる人なのだと実感しながら俺は教材をしまって席を立った。昼食を一緒に食べるような友人はいないためいつも人のいない非常階段でごはんを食べている。そこは図書室と近いから、食べ終わったらすぐに図書室に行って昼休みが終わるまで時間をたっぷり使うことができる。
    「オーヴィドくん、こんにちは。昨日新刊が入ったよ、君の好きそうなものがあったから一応お知らせしておくね」
    「こんにちは。ありがとうございます、あとで読ませていただきます」
    「うん、ごゆっくり」
    司書さんは俺がいつも一人きりで図書室に来ていても何も言わずに優しく接してくれるいい人だ。たくさんの本を知っていて、でも知識をひけらかしたりしない、俺の憧れる人。
    図書室の隅、大きな窓から入り込む陽の光が届かない静かな空気のそこが俺の特等席だった。授業中にコソコソと書いていた文字の羅列をテーマに文章を作り出し、物語を綴っていく。まだ誰にも見せたことのない、俺だけの世界。今書いている物語の主人公は最近俺の視線を惹きつけてやまない、浮奇・ヴィオレタ、その人だった。
    彼を書き表すには俺の語彙は足りなさすぎる。表現の美しい好きな作家の本を読んだり辞書を駆使したりして、少しずつ文章を積み重ねる作業は地道だけれどとても楽しいことだ。時間を忘れて机に向かう俺に、いつからか司書さんが昼休みの終わる五分前に声をかけてくれるようになった。
    「オーヴィドくん」
    集中しているところへ降ってきた声にパッと顔を上げる。紫色の瞳と淡く彩られた瞼が目の前にあり、俺は目を見開き椅子をガタガタと鳴らして立ち上がった。伏せられていた目がこちらを見て微笑む。どうして。
    「ど、どうして君が……」
    「いつもどこにいるのかと思ったらこんなところにいたんだね。これは、……小説? 休み時間も勉強してる真面目クンかと思ってた」
    慌てて手を伸ばしノートを閉じて胸に抱いた。内容までは見られていないだろう。いや、見られたところで彼の名前をそのまま使っているわけではないから気が付かれないとは思うが、勝手に主人公にしている話を本人に見られるのは避けたい。
    俺のバタバタした動作にクスッと笑って、彼は一歩俺に近づいた。もちろん俺は後退り、彼と一定の距離を保つ。チラリと伺い見た貸し出しカウンターには司書さんがいなくて、おそらく隣の図書準備室に行っているのだろうと考えた。図書室では静かに、と、彼のことを咎めてほしいのに。
    「ずっと気になってたんだ」
    「は? ……なにかの、罰ゲームですか?」
    「罰ゲーム? どうして?」
    「だってあなたは」
    「浮奇。俺の名前だよ、知ってた?」
    「……ヴィオレタくんは、俺とはタイプが違いますよね」
    「名字を覚えてくれていたんだね。あとはクラスメイトなんだから敬語もいらないかな。それで、タイプ……うーん、よくわからないけれど、俺はオーヴィドくんがタイプなんだ」
    「……は?」
    「仲良くなりたいから、ずっと声をかけるタイミングを探してた。俺と友達か、それ以上の関係になってくれない?」
    「……言っている意味が、理解できない」
    「そう? 簡単に言うと告白しているんだ。君のことが、……名前で呼んでもいい? いいよね。ファルガーくんのことが好きなんだ。付き合ってって言うにはまだ俺たちはお互いのことを知らないから、まずは友達から始めない?」
    「……、……授業が始まるから、もう行かないと」
    「返事は?」
    「っ」
    鞄を取ろうとした手を上から掴まれ、ビクッと震えて身をすくませる。彼がマニキュアを塗っていることは知っていた、けれど、細い指が温かく柔らかいことは、知っているわけがなかった。
    「ファルガーくん?」
    「い、いまは」
    「うん」
    「よく、わからないから、考える時間を」
    「んー、……そうだね。うん。じゃあ、……たくさん考えて、俺のこと」
    俺の耳元でそう囁き、彼はにこっと笑って図書室を出て行った。腰が抜けた俺はその場にしゃがみこんで彼が顔を寄せたほうの耳を手のひらで覆った。あんな声も、近づいた時に香った匂いも、短時間で与えられた新しい情報に脳が混乱している。
    「オーヴィドくん、時間……どうしたの? 体調が悪い?」
    「……いえ、大丈夫です。すみません」
    「顔が赤いよ。無理しないで保健室に行ってもいいんだからね?」
    「はい、ありがとうございます」
    保健室に行くべきだろうか。教室に行きたくないという気持ちはあるけれど、次の授業は休むとたくさん課題を出してくる先生だ。まだ頭の中はぐちゃぐちゃだが椅子に座っているくらいならできそうだった。
    授業開始のチャイムが鳴る直前に教室に入り、いつもの癖で窓際の席に目を向けてしまう。いつも見えるはずの彼の後頭部の代わりに、深い紫色の瞳と目が合った。驚く俺を見て笑う彼に、彼の後ろの席の人が「どうかした?」と声をかけている。
    「ううん、これからが楽しみだなって思って」
    「は? おまえ次の授業いっつも寝てんじゃん」
    こっちを見るな。自分がどれだけ注目されているのか気にしろ。心の声を言葉にも表情にも出さず、俺は机に突っ伏して周りの情報を遮断した。
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