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    na2me84

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    #毎月25日はK暁デー 
    お題【初デート】
    参加させて頂きました。宜しくお願いします。お題が可愛すぎて悩みました…

    #毎月25日はK暁デー
    #K暁

     渋谷駅前、かの有名な交差点は深夜になっても人も車も途切れることはない。煌々と輝くモニター画面には雑多な情報が流され続け、色鮮やかなLEDに彩られた看板は星の光をかき消すように輝いている。夜の闇さえ寄せ付けない光の奔流は、月の存在までも薄く儚いものに変えてしまったようだ。
     信号が青に変わると一斉に人の流れが動き始め、それぞれの進行方向へと、人々が双方向に入り交じりながら滔々と流れていく。その人混みから少し離れて道路を眺めていた青年が、隣に立つ男に話しかけた。
    「ここだったよね、KK」
    「ああ、そうだったな」
    あの夜、二人が『運命的』に出会った場所がここだった。

     
    「ねぇ、夜の散歩に行かない?」
    暁人がそう声をかけてきた。正直なところ面倒だな、とKKは思った。もう飯も食って風呂もはいって、後は寝るだけ、という状態だ。出来ることならこのまま暁人を寝室まで引っ張って行って、さっさと押し倒したいところだが。まるで飼い主に散歩をねだる犬のような目で見つめられては、異を唱えることなど出来ようはずがない。甘いな、俺も。そう思いながら答える。
    「あぁ、いいぞ」
    その声を聞くや否や、暁人は嬉しそうにKKの腕を取って言う。
    「じゃあ、着替えて?」
    「は?散歩ってその辺だろ?」
    何故わざわざ着替える必要があるのだろうか。部屋着のままでは駄目なのか、近所のコンビニに行く位の感覚でいたKKには甚だ疑問だった。
    「ちょっと遠くまで行こうかなって」
    「遠くって何処だよ」
    「渋谷駅前」
    そこは今彼らが居る場所からは、かなり離れている。
    「ちょっと散歩に、って感じじゃねぇぞ」
    「天狗、使えば速いでしょ」
    「タクシーみたいに言うなよ…」
    「いいから、これ着て」
    結局、暁人が言うままに着替えさせられてKKは外へと連行されていく。


     KKは天狗にワイヤーを引っ掛け、高い夜空を滑空していく。暁人はエーテルを操る能力を持たないので、KKに抱き抱えられてその肩にしがみついている。
    「やっぱり便利だよね、こういうの。KK、いいなぁ」
    羨ましそうに呟く。
    「まぁ、これは便利だけどな」
    それ以外に関してはどうだろうか。怪異が見えるからといって特に良い事などあった記憶が無い。周囲からは全く理解されないし、見るも不快な有象無象と遭遇することもある。負の要素の方が多い気がする。
    「小さい頃にお祖父さんと、河童探したりとかしたんでしょ?楽しそう」
    耳元で楽しげに響く声に、ああ、そうだな、と思い至る。暁人と出会えたのは、この能力のおかげと言っていいだろう。これのせいで般若に実験台として変な力を植え付けられ、挙げ句の果てには殺されて、暁人の身体に取り憑いた。結果として今二人は、お互いを代えがたい特別な存在としてここに居る。悪くはない。
    眼下には光の洪水。スクランブル交差点が見えてきた。
    「目的地に到着だぞ」
    KKの声に暁人は笑みを浮かべて遥か下を見下ろす。

     あの夜、この場所で、KKは暁人を見つけた。


     あの時は霧に呑まれ、人の気配の一切が絶えていた交差点は、今は人々と喧騒に満ち溢れている。あの出来事は無関係な彼らにとっては、もう忘却の彼方なのだろう。
    「これで満足したか?」
    ぼんやりと雑踏を眺める暁人にKKが声をかける。
    「うん、じゃ次行こっか」
    「は?次?って、もう帰んじゃねぇのかよ。散歩だろ?どこまで行く気なんだよ」
    不機嫌そうに眉をしかめるKKに、甘えを含んだ声で懇願する。
    「あと一ヶ所だけ。ね、いいだろ?」
    KKの腕に手を添えて、顔を覗き込むようにしてお願いすれば、暁人の経験上大概のことは断られない。今回もそうだった。
    「仕方ねぇ、あと一ヶ所だけだぞ」
    渋々といった感じで、KKは簡単に譲歩した。恋人の顔を特に気に入っている彼にとっては、これは嬉しくて決して抗えない攻撃なのだ。


     営業時間外のカゲリエ展望台に不法侵入すると、街中では我慢していたのだろう、KKは早速、煙草を咥えて火をつけた。煙の流れを見て、暁人の風下に移動する。
    「ここは本当に眺めがいいよね」
    「そうだな」
    「あの時はそれを楽しむ余裕も無かったな」
    双眼鏡を覗き込みながら暁人が言う。
    「ねぇ、KK」
    暁人は双眼鏡から離れてKKに向き直る。真剣な暁人の様子にKKは、吸い始めたばかりの煙草の火を消した。
    「僕は恋愛に関しては、全部、KKが初めての相手なんだ」
    「ああ、知ってる」
    男同士はおろか、女性とも付き合ったことがないのはKKも知っている。こんなに女性から好かれそうな男が何故、とKKは思うが、今時の若者はそんなものなのかも知れない。
    「僕たちが付き合い始めたのは、KKが身体を取り戻してからだけど、僕はその前からKKの事が好きなんだよ」
    「……出会いは最悪だったけどな」
    なんせ俺はおまえを殺そうとしたんだからな、とKKは思い返す。無意識に自分の右手を見ていた。この手で暁人を絞め殺そうとした。二度も。その手を暁人がそっと両手で包み込む。
    「僕を選んでくれてありがとう、KK」
    「……あの時はそれしか選択肢が無かっただけだ」
    暁人は静かに首を振る。
    「あの時だけじゃないよ」
    「おまえこそ、俺なんかで良かったのか?」
    「僕はKKじゃなきゃダメなんだ」
    熱を帯びた視線で見つめられ、KKは思わず空いている左手で暁人を抱きしめる。暁人は右手から手を離し、KKの首に腕を回す。解放された右手は暁人の腰を抱いて、さらに強く抱き寄せた。
     
    「だから二人が出会って、初めて一緒に過ごしたあの夜が、僕にとってのKKとの初デートになるんだよ」
    抱き合ったまま、KKの耳元で暁人は囁く。
    「でも、あの時はとにかく必死だったから、色々な事に」
    だから、ほんの少しだけ、あの夜を再現して二人で過ごしてみたかった。それが暁人の今夜のお散歩だったようだ。 
    「だからこの格好なのか」
    「そうだよ」
    初めて会った時と同じ服装。黒ずくめのKKとジャケット姿の暁人。
    「今度は東京タワーにも行きたいな」
    「また、いつかな」
    暁人を抱いたまま、KKはワイヤーを伸ばして天狗を捕まえる。
    「今夜はもういいだろ?」
    さっさと部屋に戻って、思う存分にこの可愛い恋人を抱くことにしよう。少し眠そうだが、今夜は多分、寝かせてはやれなさそうだなとKKは思った。可哀想だがこんな男と関係を持ったのが、運の尽きだ。諦めろよ。
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