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    hikagenko

    @hikagenko

    HN:
    ひかげ

    サークル名:
    Hello,world!

    ジャンル:
    ド!、ズモなど

    イベント参加予定:
    24/06/01~02 景丹webオンリー
    24/07/28 5次ドリ10
    25/01/12 超5次ドリ2025冬

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    hikagenko

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    ■ドリフェスシステムについて思いを馳せております。今回は「天宮奏くんが、ドリフェスシステムの開発者たちに初めて出会う話」です。
    ■ねつ造、オリジナルキャラクター多数

    #ド!
    do!

    システムと 天宮奏と ビブスたち。ドリフェスシステム。
    DFプロダクションのライブにおいて使用される、アイドルとファンを繋ぐシステム。
    ファンが手持ちのカード型ペンライトにドリフェスカード、通称ドリカをセットし、エールを込めることで使用可能。
    そのドリフェスシステムの詳細は、一般にはあまり語られていない。門外不出の、DFプロダクションオリジナルのシステムである。

    * * * * * * *

    DFシアターの客席には、マスク、サングラス、蛍光緑のビブスを身に付けた集団がいた。それぞれ何か作業をしているらしく、せわしなく動いている。
    ステージ袖から覗き見た異様な光景に、DFプロダクションのアイドル天宮奏は一瞬たじろぎ、それから、ひとり、ふたり…とビブスを付けた人々を数え始めた。見える範囲で、7人いる。
    …なんで、7人ともマスクとサングラス付けてんだろ。
    首を傾げた天宮は、ハッとしていやいや!と首を振り、速やかにステージ中央に駆け出た。

    「おはようございます! DFプロダクションの天宮奏です! 今日はよろしくお願いします!」

    天宮が90°腰を折ると、至るところから元気のいい挨拶が返ってきた。先ほど天宮が数えた7人だろう。
    天宮はホッとして顔を上げる。

    「天宮さん、今日はよろしくお願いします」

    近くから声がして、天宮は声のする方を見た。
    声の主は、天宮が出てきた袖と反対側の袖から天宮に歩み寄って来ていた。例にもれず、その人物もマスクとサングラスで、スーツの上に蛍光緑のビブスを身に付けている。ビブスにはA、と大きく書かれている。
    撫で付けられた髪に少し混じる白い髪、サングラスとマスクの隙間からうっすらと見える皺、優しげな声色、全体的に落ち着いている雰囲気に対して、蛍光色のビブスがやけに浮いている。
    そんなAと書かれた人物は片手にタブレットを抱え、申し訳なさそうな素振りで軽く頭を下げた。

    「申し訳ないです、全員怪しい格好で。こちらの都合で必要なものでして」
    「いえ、はい! よろしくお願いします!」
    「よろしくお願いします。こちらは名乗れませんので、必要でしたらビブスに書いてあるアルファベットでお呼びください」
    「あ、はい…Aさん?」
    「はい、よろしくお願いします」

    天宮は改めて客席を見回す。客席で作業をしている7人。サングラス、マスク、バラバラのアルファベットが書かれたビブス。顔も見えない、名前を呼べない、Aを含めた8人。
    改めてステージの中央から見ても、天宮にとって見慣れたはずのステージからの景色は、全く見慣れない景色だ。
    その様子を察してか、Aは申し訳なさそうな声で話しを続ける。

    「天宮さんにご協力いただくのは、今回が初めてですよね。まずご説明いたしますね」
    「あ、はい、お願いします!」

    天宮は慌ててAに向かって頭を下げる。それから頭を上げて、少し首を傾げる。

    「あの、社長からはドリフェスシステムの動作確認、って聞きましたけど…」

    天宮が社長から「この後ちょっと時間ある?」「ドリフェスシステムのね、動作確認の手伝いだから。行けば分かるから」と、軽い調子で社長に送り出されたのはつい先ほどだ。
    Aは何かを察したらしく、短く笑った。それから、「その通りです」と説明を続けた。

    「御社で使っていただいているドリフェスシステムは、弊社が開発して、メンテナンスも担当させていただいています」

    ーーー考えたこと、なかった。と、天宮は一瞬動きを止めた。それからハッとして、「お世話になってます!」と返した。
    ドリフェスシステム。当たり前みたいに使ってたけど、そっか、誰かが作って、メンテナンスしてくれているものなんだ。天宮は胸の前でぎゅっと手を握った。
    ずれてもいないサングラスを直しながら、Aは説明を続ける。

    「えー、今回は簡単な修正を行ったんですが、ペンライトから飛び出したドリカの軌道の調整ですね。アイドルの皆さんの手元に届く頃にはもう影響がないはずなんですが…。
    んんっ…。失礼しました、今回天宮さんのお願いするのは、『修正の入ったドリフェスシステムが、いつもと違いがないか』の確認です。客席からドリカを飛ばしますので、お好きな1枚を、いつも通りにキャッチしてください」
    「分かりました! よかった、知らないことやるんだったどうしようって思ってました」

    社長からはあまり説明を受けていなかったために不安を抱えていた天宮は、普段と同じでいいという説明に安心して笑顔を見せる。
    対照的に、Aは天宮から視線をそらし申し訳なさそうな素振りを見せた。

    「本当に申し訳ないです。行ったのが軽微な修正でも、我々にエールをキャッチすることは出来ませんから…。毎回アイドルの皆さんに、こうやってわざわざお時間割いていただいて…」
    「Aさん」

    まだ続きそうな言葉を、天宮はAの空いている右手を握ることで遮った。驚いたようで、Aの肩が大きく揺れた。
    Aの右手をぎゅっと両手で包んだ天宮は、力強く言葉を続けた。

    「申し訳ないだなんて、思わないでください。オレ達、皆さんのおかげでステージに立ててるんですから。一緒に熱いステージ、作りましょう!」

    途端、Aが膝から崩れ落ちた。その勢いで、天宮の手からAの手がすり抜けた。

    「えっ、Aさん!? どうしました!?」

    救急車呼びますか!?と慌てる天宮に、床に膝と肘をついた状態で、Aは震えた声で答える。

    「…すいません…ちょっと、膝に来ただけです…」
    「膝が悪いんですか? 椅子持って来ますから待っててください!」

    駈け出そうとした天宮を、ステージ下にいたBが引き留める。

    「待ってください天宮さん! 悪化するので! Aはそのままでいいので! 放置した方が早く回復するので!! ね、A!」
    「その通りです…」
    「えっと…分かりました…?」
    「天宮さん、もう少しで試験を始められますから、ここで待っていてください」

    いつの間にかステージの上に現れたCがそう言い、Aに肩を貸して袖に引っ込んでいった。
    オレが急に手を掴んだから、びっくりさせちゃったのかな。天宮は暗い顔で客席に視線を向けた。
    いつの間にか客席には、人型を模したような形の真っ白のパネルが並んでいた。そしてそのパネルの胸元にはどういう構造なのか、ドリカペンライトが刺さっている。少し不思議な光景だが、いつものライブのように客席にファンがいるような光景といえなくもない。

    「(そういえば)」

    天宮は目を伏せた。

    「(ひとりだけでステージに立つの、初めてだな。ライブじゃないけど)」

    でも、と、天宮はゆっくりと客席を見回した。

    「こっちセット終わりました!」
    「悪い、こっち手伝って!」
    「待て待て、そこ配線気を付けてー!」
    「ねえ予備のペンラどこー!」
    「ここにあります! 何本いりますー!?」

    サングラスを付けたままの作業って、しづらくないのかな。マスクも、暑くないのかな。
    天宮は今更少し心配になったが、誰もその心配がいるようには見えなかった。
    そうだ、まだ準備が終わっていないのなら手伝いに行こう。天宮がステージから降りようとした途端、袖から呼び止められた。

    「天宮さん、そろそろ客席の準備が終わりますが…どうかされましたか?」
    「あ、Aさん! 大丈夫なんですか?」

    少し髪の乱れたAが、心持ちゆっくりした足取りでまたステージに戻ってきた。
    天宮には、Aがサングラスとマスクの向こうで力なく笑っているように見えた。

    「大丈夫です。お騒がせしまして申し訳ないです」
    「よかったです。えっと、準備手伝いに行こうかと思ったんですけど、もう終わっちゃいました?」
    「えぇ、もうすぐ終わるところですから。気を使っていただいて恐縮です」

    それから、とAが続ける。

    「途中になってしまって申し訳ないです。試験の話の続きですが、今回は12回エールを飛ばすので、いつも通りにエールをキャッチしてください。いつもと同じじゃないところがあれば教えてください」
    「はい、分かりました!」

    Aが客席に向かって声をかけると、いたるところから「OKです」と返ってくる。どうやら準備が完了したらしい。
    天宮に「始めますね」と告げAはステージの端に寄り、それから手を挙げた。

    「ケース1、開始!」
    『ドリカターイム!』

    ドリフェスシステムのナレーションが流れ始め、客席のドリカペンライトが赤、青、黄色の3色に光り出した。
    一斉にエールが天井に向かって飛び出し、それからステージに向かって降ってくる。
    天宮はいつも通りに、その中から1つのエールをキャッチする。

    「最高のエール! ありがとう!」

    客席から「No1から4、OKです!」「5から7、OK」「こっちもOKです」と声が上がる。
    試験の結果のことかな、と考えながら、天宮はキャッチしたドリカを見る。自分の顔、そのバックにはブランド名、光を放つ赤。

    「天宮さんはどうでした?」

    Aからかけられた声に、天宮は力強く返事をする。

    「はい、いつも通りです」
    「ありがとうございます。じゃあ次、ケース2!」

    ーーー1時間後。

    「天宮さん、これで試験は全て終了しました。ご協力ありがとうございました」

    ステージの端にいたAが、天宮に駆け寄る。もうすっかり調子が戻ったようだ。客席ではビブスをつけた面々が、慌ただしく片付けを始めている。
    天宮はキャッチした12枚のドリカを大切に抱えながら、Aに向き合う。

    「こちらこそ、ありがとうございました。オレ、今までドリフェスシステムのことちゃんと考えたことなかったので…」

    天宮は客席を真正面に立つ。それから、精一杯叫んだ。

    「今日皆さんに会えて、よかったです!!!!!」

    客席にいた7人の手が止まった。
    もっともっと、伝えたいことがある。でも、皆忙しそうだ。天宮は少しでも感謝が伝わるように、精一杯の笑顔で声を届ける。

    「これからもよろしくお願いします!」

    その横でAがまた膝から崩れ落ちた。

    「Aさん?! やっぱり救急車呼びますか?!」
    「…問題…ありません…」

    * * * * * * *

    「ってことがあってさー、他の人も大丈夫だって言うから出てきたんだけど、本当に良かったのかな」

    試験の手伝いを終えた天宮がDFシアターから事務所に戻ると、同じユニットの佐々木純哉と出くわした。
    佐々木を捕まえ、先ほどまでの事情を説明した天宮。話しを聞いた佐々木は、「あー」と考えるそぶりを見せた。

    「それいつもだぞ」
    「あ、純哉くんもやったことあったんだ。っていうか、いつもなら余計ダメじゃないの?」
    「そもそもあの人達のことって、事務所じゃなくて向こうが隠したがってんだよ」
    「隠す? 何で?」

    腕を組み目を閉じ眉をひそめて、佐々木はまた考えるそぶりを見せる。
    それからパッと目を開けて、「詮索禁止」といたずらを思いついた子供のように笑った。天宮は「はぁ?」と不満の声を漏らす。

    「なにそれ。純哉くんはなんか知ってんの?」
    「だから、詮索すんなって」
    「えーなんなのさ、それ!」

    * * * * * * *

    数日後。
    定期ライブでステージに立った天宮は、MC中にあることに気付いた。
    客席にいる数人の男性。別に男性が珍しいのではない。ただその顔に、見覚えがあった。
    Aさんだ。

    「(その隣はBさん。あっちにいるのはCさん。DさんとFさん、Gさんもいる)」

    あの日あったサングラスもマスクもない。
    それでも、天宮の目にはあの日この場所で協力し合った面々が映っていた。皆ドリカペンライトを大切そうに握りしめ、目を輝かせている。

    『ドリカターイム!』

    次々とエールが舞う。いつもより美しく、いつものように。
    天宮奏はエールをキャッチする。いつも通り、尊く、愛しい、大切なそれを。

    「最高のエール! ありがとう!」
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