ゆうしゃとまおう森の中を歩く風間。
音がする方へ歩く。子供が何かを抱えている。
指が紐のようなものを弾くたび、音がする。
「なあ、何やってるんだ?」
声をかけると子供はゆっくり顔を上げた。じっと顔を見て、それからまた指を動かした。
「キレイな音だな」
目の前でしゃがむ。音がする。
「振動して鳴るのか?すごいな」
子供が眉をひそめている。
「風間圭吾だ」
子供はギターを立てかけて、その辺の枝を拾って地面に文字を書いた。
『ユウト』
「ユウトか。なぁユウト、これはなんだ?」
『ギター』
「ギター…綺麗だな」
子供はまた何かを書こうとして、ぽいと枝を捨てた。もしかしたら話せないのかもしれない。
子供はギターを布の中にいれた。
残念だ、もう終わりなのか。帰るところなのかもしれない。
「あ、ユウト、またそれ聞かせてほしい」
ユウトに袖を引かれる。ついてこい、だろうか。
圭吾は引かれるままについていく。
街だ。
「どこに行くんだ?」
あぁ、この質問じゃ答えられないか、と思ってどうしようと考える。
ユウトが指を指した。
広場だ。
ユウトが布からギターを出す。
音がなる。街の人がポツポツと立ち止まる。
ユウトの指が音を紡ぎ出す。きれいだ。
街の人がどんどん立ち止まる。子供がクルクル回っている。
音に合わせて体を動かしているのか。
そういえば自分はこんなに近くにいていいのだろうか。離れようかとユウトを見ると、顎をクイッとされる。クルクル回っている子供をさしているようだ。
俺も回ればいいのか?と思って、少し離れてクルクルと回る。
街の人がわぁ…と声を上げた。キレイ、とも聞こえる。
服の装飾が揺れているからか。
もっと装飾がきれいに揺れるように大きく動く。
拍手が起こる。
ユウトの音に合わせて、少し広場を回る。
ふいにユウトがこちらを見る。もう終わるところだろうか。
剣を鞘に入れたまま振りかぶる。
静止したタイミングで、音が止まる。よかった、合っていた。合わせてくれただけかもしれないが。
大きな拍手が起こり、ユウトのギターを入れていた入れものに小銭が投げこまれる。
なるほど、ユウトのお金を稼ぐ手段だったのか。
確かにユウトの音は楽しさが伝わってくる、素敵なものだった。
ユウトの隣に座る。
「すごいな、ユウト」
人が途切れ、ユウトが小銭を二等分にし始めた。それから半分を指差し、次に風間を指差す。
「え? 俺の取り分…ってこと? あ、だから連れてきたのか。いや、いいよ。その代わりさ、俺行く当てがないから…助けてくれないか?」
ユウトは面倒そうな顔をした。が、小銭を集めてから頷いた。
「ありがとう」
この日勇者と魔王が出会ったことを、まだ誰も気付いていない。
*****
【設定】
黒石勇人:
魔王。見た目は人間換算で10歳くらい。
現在は声が出ないが、元々は話せていたし歌えていた。
風間圭吾:
勇者。生まれた時から勇者として祭り上げられ、魔王を倒すことだけを期待され戦うことしか教えられなかった。
世話係を命じられた及川は、それを嘆き色々と面倒を見ている。
風間と及川で国を出て魔王退治に向かったが、風間があるトラップにかかって及川とはぐれた。直後に風間は黒石に出会う。