「……あっちぃ……」
「莇ぃ…アイス」
「自分で取ってこい」
「動きたくなーいー…」
「なら諦めろ」
「えー…」
我ながら間の抜けた声だなあ、なんて思いながら床に大の字に転がったまま窓の外に目を向けた。このクソ暑い中、大活躍する筈だったエアコン様は只今絶讚故障中なので窓は全開、網戸越しの真っ青な空には真ん丸い太陽が陣取っていて雲なんか一つもない、絵に描いたような青空だった。耳を澄まさなくても少し先にある公園から蝉の大合唱が風に乗って届いてくる。
正に、夏。言い切ってもいい、これが夏だ。
「ねえ、あれなんて言うんだっけ?」
「あ?なに」
「あれだよ。あの窓に吊るすやつ」
「てるてる坊主?」
「違いますぅ〜」
即座に返った言葉に突っ込みを入れると莇がけたけたと楽しそうに笑った。この暑さで少しテンションが上がってるらしい。莇のテンションもぶっ壊れ始めるくらい暑いって逆にレアじゃん。
「あれだよ、吊るして、風が吹いたらチリリンって鳴………あ、風鈴だ」
「おい、聞いといて自分で答え見つけんのかよ」
「分かっちゃったんだもーん」
オレも笑い声を上げると莇の左足に蹴られた。痛くはないけど痛い、って声上げたらまた楽しそうに莇が笑った。窓じゃなくて莇の方に身体ごと向けると顔だけをオレに向けるみたいに傾けてくれた。長い前髪が顔に掛かっているのがちょっとだけ邪魔で、それに手を伸ばして後ろの方に撫で付けるように流してやると気持ち良さそうに瞼が伏せられた。あれ?ちょっと機嫌が良さそう。嫌な時は叩き落とされんのに。
「莇、暑いの好きだっけ?」
「別に好きとかはない」
「…ふぅん」
剥き出しにしたおでこにうっすら浮かぶ汗を見付けてそれに顔を寄せても逃げようとしないから、有り難く汗に舌を伸ばしてぺろりと舐めた。しょっぱい。もう一度舐めたら味は薄くなっていた。二回も舐めたのに、莇からは止めろって言葉が出てこない、やっぱり機嫌良いや。
「ねー莇、」
「ん」
「アイス」
「自分で取ってこい」
「…騙された」
「ああ?」
このタイミングだ!って思ったのにまた断られてしまった。機嫌良かったんじゃないのかよ。
残念でした、って言われてるみたいに蝉の合唱がまた届いた。