夢で逢えたら 俺がサンパウロに移籍してから半年が経った。日本のトライアウトで入ったムスビイでチームメイトだった侑さんや木兎さんや、他の友人知人とは連絡をとっても、佐久早聖臣さんとだけは連絡をとらなかった。
というと険悪だとか、俺も苦手で相手も俺のことを嫌いなんだとか思われるかもしれないが、というか一部には思われているが、それはない、と思う。だって俺は恋人同士だったんだから。
恋人同士だったし、俺は今でもそう思っているけど、果たして事実はどうなのか。確認したいけど、なんとなく聞けない。「俺らってまだ恋人なんですか?」とかそんな勇気のある鋼の言葉は言えない。
「ショーヨーって恋人いるの?」
サンパウロのチームメイトでリベロを務めるミゲルは俺より背が高い。だけどチームの中で一番背の低い新入りの俺に優しく話しかけるミゲルは良いヤツだ。
「うーん、いたんだけど。お別れしないでコッチ来たからまだ付き合ってるのか分かんないんだよね」
「え! なんだその腰抜け!」
「腰抜けじゃないよ! 多分、もう臣さんは別れてると思ってるし俺も今はバレーに集中しないと」
そう、スポンサーを続けてくれている研磨に新しいことを見てもらうために、応援してくれる家族や先輩や友人たちのために俺は翔ぶ。どこまでも。高く上げられるボールを追いかけて俺は自分の役割を果たして良い結果を残してもっと活躍したい。
「そのオミ? さんは多分だけど、まだショーヨーと付き合ってると思ってる、と思うよ」
「えー、そうかなぁ」
「前のチームメイトに聞いてみれば良い! 良い結果を期待してるよ!」
「もう! ミゲル勝手だよ!」
「あはは、じゃあお先にー! 俺、これからデートだから!」
「はいはい、行ってらっしゃい!」
そういって更衣室から出て行ったミゲルは最近、復縁したという恋人とのデートに向かった。
「デートかぁ」
そういえば臣さんとデートなんて片指数えるくらいしかしていない。外のデートなんて滅多にない。家でのデートはいくつかあるけど、そもそも臣さんは人を家に上げたがらないし、人の家にも上がらない。不思議だ。俺は、俺らはどうして付き合っていたんだろう。
「よし、俺も帰ろ!」
残っているチームメイトに「お先に! 良い週末を!」と言って俺も更衣室から出た。愛用の自転車で済んでいるアパートに戻ると俺はシャワーを浴びる。というのも練習場から今、自分が住んでいるアパートは距離が離れているから自転車を漕ぐだけで汗がびっしょりなのだ。しかも最近は暑いし。
「ふー、さっぱり! ん? 侑さんからメールきてる……」
『翔陽クン、元気? 気になったんやけど、オミオミと翔陽くんってまだ付き合うとるん?』
「え」
まさにタイムリー。さっきのチームメイト、ミゲルとの会話を思い出す。というか何故、突然この話題?
「おれは付き合ってると思ってましたけど、コッチから連絡とってなくてもう終わったんだと。違うんですか?」
自分でメールを打ってて悲しくなってきた。そう、俺はもう臣さんとの関係が分からない。分からないんだ。
すると即レスというやつなのか直ぐ既読がついて侑さんからメールの返事がきた。
『なんや、オミオミ携帯壊れたん知らんのか』
「え」
どうやらエアコンの掃除を脚立に乗っていた。するとポケットから携帯落ちて……即お亡くなり状態だったらしい。連絡とらない人間と縁が切れて清々していたけど、俺とのことだけが気がかり。だけどそれを俺の連絡先を知っている侑さんや木兎さんに頼るのが癪だったとかなんとか。頼るのに半年かかるなんて臣さんらしいなぁ。
「じゃあ臣さんの連絡先教えてください。侑さん、ありがとうございます」
『オミオミに借りできてラッキーやわ』
とだけの返事にやっぱり侑さんは優しいなぁ、と思ってると『佐久早聖臣さんは貴方のお友達ですか?』という通知がきた。その通知の字面が面白くてスクショをしてしまった。友達追加をすると直ぐにテレビ通話じゃない通話がきた。俺は嬉しくて少し深呼吸をして何んともないように電話をとった。
「臣さんお久しぶりです!」
『恋人』
「え?」
久しぶり、とか元気だったか、とかそういうんじゃなくて「恋人」この言葉の意味が分からないほど俺も鈍感じゃないけど、唐突すぎてびっくりした。
「臣さん?」
『まだ恋人だから』
「じゃあ」といって通話を切ろうとしている臣さんに俺は焦って「臣さん!」と大きな声を出した。「なに」と小さく聞こえる声は少し何か悪いことをした子供のような声色で少し面白い。変なの。
「俺、臣さんおこと大好きですよ! でもどうして急に?」
『お前の夢を見た。夢でもお前はバレーしてた』
それで声を聴きたくなかったのかな? そう自惚れても良いのかな?
「じゃあ今日も夢で逢いましょうね!」
『ん』
その言葉で今度こそ通話は切れた。だけど俺は満ち足りた気持ちで少し泣いた。今日は早く寝よう。そしたら貴方に会える気がする。