Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    瀬戸 佐久間

    @Seto_Sakuma

    主に小説書いてます!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    瀬戸 佐久間

    ☆quiet follow

    マイ武の女体化(🌾🎍♀)
    友情出演、🐉くんと🎍のモブ元彼氏(捏造)
    全てにおいて捏造です!

    Twitter @Pale_Starry

    #マイ武

    真夜中、ここで待ち合わせ初めて見た時、その危うい横顔を見て
    放っておけない、と思った
    今、話してみて分かったことは
    案外キミは強いってこと

    * * *

    佐野万次郎の初恋は花垣武道である。
    周囲の人からは「無敵のマイキー」と呼ばれ畏れられている自分が何故、歳上の女性に恋をしているのか?それは数週間前に遡ることになる。

    東京卍會を取り仕切るマイキーは所謂、ヤンキーと呼ばれるガラの悪い連中に畏れられている為、自分に喧嘩を売る命知らずはいない。

    マイキーは夜の十時、いつもの通り集会を終えてジュースを買うべくコンビニに立ち寄った。しかし入口付近にパトロール中なのか警官が二人立っているのに気づくと補導やら何やらの可能性を考えたマイキーは面倒なことが頭に浮かび、踵を返そうとすると…

    「キミ、何歳?中学生?お父さんかお母さんはいるかな?」

    ほらやっぱり、面倒なことが起きた。声をかけてきた警官はマイキーの周りを見渡す。

    「いねェよ」

    「おうちに電話できる?」

    「しねーし」

    「ボク、あまりお兄さんたちを困らせないで欲しいな」

    ボク、だなんて幼稚園生に話かけるような言い方と張り付けた笑みを浮かべる警官にイライラする。確かに自分は背が高い方ではないし、声も高めかもしれない。だがもう中学生であり、東京卍會を仕切る総長でもあるのだ。この補導を聞かれたら隊員に聞かれたら一生の恥。威厳も何もあったものではない。

    「はァ?もう帰るからどけよ」

    「でも未成年を一人にはできないなぁ…」

    「おうちの人に来てもらうことできる?」

    それかパトカーに乗って送ろうか?そう子供扱いを続ける警官達にいよいよ痺れを切らしたマイキーは握っていた拳を振り上げようとしたところで後ろから女性の声がした。

    「あ、あの!」

    「は…」

    「その子、私の弟なんですけど…何かしましたか?」

    おずおずとこちらを窺うように近づいてくる女性は少し不安そうにマイキーの隣に立った。「アンタだれ」そう言おうとしたマイキーは女性の真面目な表情を見て黙ることにした。

    「あぁ、これはこれは…お姉さんは部活帰りですか?」

    「あはは…違いますよ…」

    女性はニコニコと笑いながら「で?お兄さんたちはお仕事中ですか?」と聞く。警官達が言った通りに部活帰りなのか大きなリュックを背負った女性は警官達に勇敢にも話しかける。なぜ、勇敢だと思うのか。それはパトカーの白黒を見ただけで何も悪いことをしていなくても本能的なのか目を逸らしてしまう人が殆どなのではないか?とマイキーが思うからだ。

    「失礼ですがお兄さん達、警察手帳を見せて頂いてもよろしいですか?」

    「は?」

    「いやぁ、最近ここらで警官になりすまして非行少年少女を補導するフリして誘拐する変態がいるって聞いて…」

    「は、はは…嫌だなぁ。我々は…」

    「手帳は?」

    「お姉さん、公務執行妨害で…」

    「逮捕ですか?じゃあ手帳見せて下さい」

    「……!」

    マイキーはその時、女性の手が少し震えていることに気づく。しかしマイキーを守ろうと気丈に振る舞っているのか顔には出さず、話しているのを見たマイキーはどこか心が温かくなっているのを感じた。

    「え、無いんですか?」

    「今日は忘れてて…」

    「無いわけないですよね?」

    「クソが!!」

    たじたじになった警官…もとい変態たちは捨て台詞を吐きコンビニの駐車場に停めてあった黒塗りのバンに乗り込んでどこかへと行ってしまった。

    「…ふー」

    「…オネーサンあんがと」

    「ほんと、この時間は不審者多いから気をつけてね」

    そういってマイキーを助けた女性はコンビニへと歩き出した。どうやら元から用があったらしい。見なかったふりもできたのにしなかった、自分より強いであろう異性に立ち向かったその姿にマイキーは昔憧れたヒーローの面影をみた。

    「ねぇ、オネーサン」

    「ん?なぁに」

    「飲みもん、奢らせてくんね?」

    * * *

    「なんか若い子に奢ってもらうの悪いなぁ…」

    そう言いながらコンビニの中にある休憩スペースでジュースを飲む女性はどうやら「花垣武道」という名前らしい。

    武道だなんて男らしいでしょ?そう笑う顔は可愛くてマイキーは何か心の柔らかい所を擽られているような心持ちがした。

    「たけみっちは何歳なの?」

    「女性に歳を聞くとか中々やるねぇキミ」

    「キミ、じゃねぇし。佐野万次郎、マイキーって呼んで」

    「そう、マイキーくんっていうのね」

    ジュースを飲みながら会話を楽しむ武道は腕時計を見て「あ、そろそろ帰らないと」そう呟いた。時刻は何と十一時、良い子は寝る時間というより夢の中に居てもおかしくない時間だ。

    「ね、マイキーくん送るよ。近い?」

    「んー、すぐそこ」

    「一応未成年だからね、家まで送らせ…ってさっきの変態たちと同じこと言ってるね」

    少しはにかみながら言う武道にマイキーは貫かれた。なにが?と聞かれれば「心の柔らかい所が」と答えよう。…いや、まどろっこしいのは無しだ。正直に言おう、惚れた。花垣武道という女性に。

    「じゃ、マイキーくん行こっか」

    「どこに?」

    「話聞いてた?」

    面白そうに笑う武道にマイキーは「この笑顔をずっと見ていたい」と思う。しかし夜は遅い。学校に行く気は更々無いが、武道が「明日学校でしょ?起きられなくなるよ」というものだから「ウン」と答えた。

    コンビニを出た二人は十分ほどマイキーの家へと歩く。その間、武道の事を教えて、とせがむと少しずつ話してくれた。

    「フーン…たけみっちって二十六なんだね」

    「うーん、未成年に言われるとおばさんみが増して辛いなぁ」

    「見えないね、ふつーに同い年かと思った」

    「お世辞が上手いね」

    お肌もメンタルもボロボロのただの会社員だよ、と言う武道の横顔は確かに仕事の疲れを見せていた。目の下には深く刻まれた隈があり、顔色もそんなに良くない。

    「ここ?」

    「んー」

    「おっきいお家だぁ…」

    「んー」

    「じゃあね、マイキーくん。あんまり夜更かししちゃダメだよ」

    そう言った武道はマイキーが玄関に近付いたのを見てもと来た道を戻ろうとした。もう二度と会えなくなる気がする。世界狭しといえど、こんな日本の中心、東京でまた会えるとは言い難い。武道を手放したくない、マイキーは心から思った。

    「ねぇ、たけみっち」

    「んー?」

    声に振り返った武道はキョトンとした顔だ。マイキーは自分の携帯を取り出し「連絡先交換しよ」と笑った。

    「え、でもそれって青少年健全育成条例ってやつに引っかからない?」

    「別にオトモダチになる分には問題ないだろ」

    今はまだ、な。そう心の中で呟くマイキーに気付かず武道は葛藤していた。

    「や、うーん…でも私、これで何かあったら社会的に抹殺される気がする」

    どうやらマイキーと連絡先を交換するのは嫌では無いものの、「大人の自分」が邪魔をするらしい。もだもだするのは好きでは無いマイキーは武道に近づき「ん」と手を差し出した。

    「ケータイ、出して?」

    「なんて?」

    「出してくれないと叫ぶよ、そっちの方がヤバいんじゃん?」

    「脅し!?」

    とんでもない子を助けてしまった…そんな顔をした武道をスルーし、マイキーはおずおずと出された携帯を手にして武道の携帯に自分の連絡先を入れた。

    「ん!これでたけみっち、俺のダチ!な!」

    嬉しそうに笑うマイキーに武道は何も言えず「はは…」と笑うしか無かった。

    * * *

    武道には秘密の友達がいる。いや、友達というか弟みたいな存在なのだが。その弟の名前は佐野万次郎という名前で友達にはマイキーと呼ばれているらしい。

    何故、秘密なのかと言うとそれは十以上、歳が離れていてそれ故に未成年だからだ。連絡先をほぼ脅しで交換したは良いものの、メールなんて続かないだろう。そう思っていた時期が私にもありました、武道は誰に言うでもなくプロローグを話し終える。

    「たけみっち、あーそーぼ」

    「マイキーくん、今何時?」

    「夜の十時半」

    「遊ぶ時間じゃないけど?」

    寧ろ寝る時間だけど?と言えば「たけみっちだって寝る時間じゃん」と返される。

    「未成年は知らないかもだけどね、大人には残業というものがあって…」

    「たけみっち今日何飲む?いつものジュース?」

    「話聞いて!?」

    知り合って少ししか経ってないが分かったことがある。この子供は生意気で話を聞くに友達が多くて、そして何より危うげだ。

    時折見せるその危うげさはどこか「全てがどうでもいい」と言うような眼をする事がある。そんな顔をして欲しくなくて武道はメールで呼び出されれば応じてしまうのだが。昔から武道ってチョロいよな!そう言われ続けてウン十年、しかし長年のそのチョロい性格は直る気配を一向に見せない。

    「んー、今日はお茶にしようかな」

    「緑茶?麦茶?」

    「緑茶!」

    「じゃ、俺麦茶ね」

    マイキーは自分と似ているものを飲みたがる。しかし同じものは飲まない。それが何故かは分からないがそういうところが可愛いなと最近は思う。

    この五百ミリのペットボトルのお茶を飲み終われば帰る、それが二人の約束だ。二時間かけて飲む時もあれば眠そうなマイキーを見て三十分で飲ますこともある。眠いなら無理して会わなくてもいいのに。まぁ、呼び出してるのはマイキーなのだが。

    そして会う日は必ず休日だ。何故かと以前聞いたことがある、休日の方が時間はたっぷり取れるのに、と。

    返ってきた答え、それは「出会った日が平日だから」。まるで恋人みたいな答えに武道は頬を染めた。この子は何てことを言うんだろう。同い年だったら絶対惚れてたなぁ…。

    「…でな、その時ケンチンが…」

    「うんうん」

    マイキーの話は面白く、青春を送っている男子中学生の話は楽しい事だらけらしい。たまにハラハラする話もあるが大体は友達と銭湯に行っただとか、妹と言い合いになって負けた、アイツ日に日に生意気になってる、とかそういう他愛もない話だ。

    マイキーから「たけみっちの事話して」と言われることもあるがアラサー限界社畜女の話なんてなんの面白みもない。頭つるっ禿げの部長にセクハラ発言されるとか、長年勤めている絶賛更年期の御局様に「お茶を自主的に汲まないなんて!」とネチネチ言われている事だとか、浮気ばっかりしていた元彼にヨリを戻そうと毎晩のように言われているとか、そんなことだらけだ。

    「たけみっちも話してよ」

    「私、何も面白いことないよ?マイキーくんの話の方が楽しいし」

    「そ?」

    「うん」

    いつもならここでマイキーが話を続けてくれるが今日は中々に引き下がらない。「何でもいいからお話して」そう何度も言われる。明日も早い武道はとっくにお茶を飲み干したがマイキーはまだ半分以上残っていた。そろそろ飲み終わって頂きたい所だがマイキーがそれを許さない。

    「私、明日も早いから話したら帰れる?」

    「ウン」

    「えー、なんの話しがいいかな…」

    「なんでもいーよ、最近の趣味でも悩みでも」

    しゅ、趣味…!?趣味だなんて無いに等しい。しかし最近はマイキーと話す、というより話を聞くのが楽しい。これは趣味と言えるのか?

    「マイキーくんと話すことかなぁ…」

    「フーン…」

    少し嬉しそうなマイキー、しかし趣味ごときの会話で満足するはずもなく…。

    「悩み事は?」

    「え、それこそつまらないよ」

    「別にいーよ」

    よりにもよって悩み事ときた。最近どころか大人になって悩みは尽きない。親と顔を合わせれば「良い人はいないの?」親戚と会えば「少し年上だけど紹介しようか?」と二十離れている独身男を紹介されかけたりとか。少しどころか親子ほど歳が離れているが?

    「あ、うーん。最近、元彼とヨリを戻そうってしつこく言われていることかな?」

    ピリッ

    空気が凍てついた気がする。「フーン」と相槌をうつマイキーの声は異様に低く、怖い。顔が、見れない。

    「で、でも戻す気はなくてね。あまりにもしつこいから悩んでるって感じ!」

    今は恋愛する余裕ないしマイキーくんといた方が楽しいしね!そう伝えると空気が少し和らぐ。あのまま「しつこいからヨリを戻そうと思う」なんて言っていたらどうなっていたのだろう?

    「フーン」

    あ、また嬉しそう。マイキーが嬉しいと武道も何だか嬉しく、安心する。

    「ほら、話し終えたよ!もう帰ろ!」

    「んー」

    グイッとペットボトルのお茶を傾け一気飲みするマイキーを見る。飲む度に動く喉には喉仏がついており、じっくりみると自分より太い首や大きな手に小柄ながらもマイキーも「男」なのだと感じてしまう。

    「なーに、じっと見てんの」

    エッチ、とニヤリ笑うマイキーに我に返って少し恥ずかしくなった武道は「ほ、ほら!帰ろ!」とゴミ箱へとからのペットボトルを入れる。

    ここでまたもや謎なのだが、マイキーは自分の飲んだペットボトルの蓋だけは必ず持って帰る。

    「なんだっけ、学校で蓋を集めてるんだっけ?」

    「そ」

    「エコだねぇ」

    「そーそー、エコエコ」

    「さては適当に言ってるな?」

    今日も生意気な弟のような存在に振り回され癒される武道だが、まさかマイキーのあんな一面を見ることになろうとは思いもよらなかった。

    * * *

    会えば会うほどに武道に惹かれているマイキーは武道と会うことだけが楽しみだった。武道の前では「無敵のマイキー」ではなく、ただの「佐野万次郎」としていられる。しかし武道はどうだろうか?武道は大人だ。社会的立場も年齢も大人と言われる立場、マイキーをいつも弟扱いする。マイキーはそれが気に入らなかった。

    「なぁ〜ケンチン、どうしたら大人になれンだよ」

    「はぁ?」

    マイキーは学校も集会も無い休日、昼に相棒である龍宮寺堅、ドラケンに最近の悩みをファミレスで話していた。

    「最近、会ってるヤツが大人でさ。全然大人扱いしてくんねぇの」

    「まぁ、お前はガキだからな」

    「んなのケンチンもだろ」

    「お子様ランチに旗立ててもらわないと食べないヤツのがよっぽど子供だろ」

    それを言われてしまえば何も言えまい。旗があってこそのお子様ランチ、マイキーのこだわりだ。しかしそれを分かってくれる者は周りにはいない。

    「で、その大人のオネーサンとはどこで出会ったんだ?」

    「は?何で女だって分かったんだよ」

    「普通にお前が大人の男に話しかけるわけねぇだろ」

    「失礼な…それこそ大人のジジョーだよ。お子ちゃまにはわからねぇだろうがな!」

    「偉そうに…」

    真実を知られてはいけない。普通にダサすぎるし、笑われること必須だ。背が高く、声も低い、見るからに大人の風貌のドラケンにはこの気持ちは分かるまい。

    その時、いらっしゃいませー!とファミレスの店員の声が聞こえる。それまではいいのだが「何名さまですか?」と聞かれたその言葉に「二名で」そう返した女性の声にマイキーは振り返った。

    「たけみっち…」

    「マイキー?」

    「隣のヤツ…誰だよ…」

    ドラケンは瞬時にマイキーの言っていた大人の女性が、たけみっちと呼ばれた彼女であることを察した。なるほど、一つ一つのパーツが整っていて素朴で優しい人物であることが顔で分かる。そんな分析をしつつマイキーを窺うと、マイキーの眼は彼女に釘付けで、どこか険しく恐ろしい空気を放っていた。

    武道が座ったのは丁度、遠くも近くも無い席で話声は耳をすませば聞こえる程度の位置だった。マイキーは耳をすまして二人の会話を盗み聞きする。

    * * *

    「な、いいだろ?俺らカラダの相性も抜群だったしさ」

    ヨリ戻そうぜ!と某アニメの「野球しようぜ!」みたいなノリで最低な言葉と共に復縁を望む彼氏に武道は心底うんざりしていた。

    「そういうこと外で言わないでよ」

    「だめ?ねぇ、どうしても?」

    「だめ、というよりはイヤ」

    「浮気しねぇから!絶対!」

    「私、あなたのおかげで、絶対って言葉が無いことを知ったんだよね」

    この男、未だ引き下がらない…しつこい、しつこすぎる。どうしたものか分からない武道はこの場を早く離れたいものの相手の男がパフェとか頼み出したため、長期戦になることが予想された。折角の休日なのに!!暫く元カレと無意味な世間話と復縁の話で神経がすり減ってきているところに元カレが頼んでいたパフェが到着した。

    「苺パフェ、お待たせしましたー!」

    パフェを受け取り、店員が去っていくと元カレは武道に笑いながらパフェを武道の目の前に置いた。

    「ほら、お前好きだっただろ?」

    「え」

    覚えてたのか、このファミレスの苺パフェが好きだったこと。あんなに悲しくて苦しい別れだったのに…そうだ、この人は思い出と友人を大切にする人だった。だから仲間内で愛されていたし、自分の周りの女性にも好かれていた。

    「な、ソレ食べてから話の続きしようぜ」

    お前、仕事で疲れてるだろ?傍から見れば久しぶりの休日で甘いものを奢る優しい彼氏なんだよなぁ…。しかしこの人、浮気者なんです。神様、なぜ男の心と下半身の性格は一致しないのでしょうか。男の作り方を学び直した方がいいのでは?リカレントって大切だと思います。

    「美味しい…ありがと…」

    「おう!」

    太陽のように笑う人、優しくて愛されてて、失敗しても支えてあげたいと思えた人。浮気はしたけど武道に怒鳴り散らしたり殴るなどのこともしなかった。

    だめ、ダメ、駄目。飲み込まれちゃ駄目だ。武道は昔馴染み達にチョロミチと呼ばれることが多い。まさに今、その名の通りにチョロい女へとなろうとしている。最近、欲求不満なのかなぁ…人間の最大欲求の全てを満たせていない気がしている武道はあと少し、鶴の一声で落ちそうになっていた。

    「な、このあといつものトコ行かね?それで駄目だったら諦める!連絡もしない」

    元カレの今までに見たことのない真摯な眼に武道は落とされかかっていた。あと少し、誰か一声ください。もはや武道は誰か現実に戻して!ではなく、復縁に戻れる一言を欲していた。おそらく彼の言っている「いつものトコ」とは付き合っている時行っていたホテルのことだろう。

    「う…」

    「な?」

    「あ、う、う…「たけみっち」」

    「え、マイキーくん?」

    え?

    * * *

    あと少し、マイキーはそう思った。あと少しで武道が自分の元から離れてしまう。彼氏がいるのに年下といえど異性と会うのを許す男がどこにいるのだろう?いや、それでも武道はきっと会ってくれる。優しい武道のことだ、「マイキーくんのことそういう目で見てないから大丈夫だよ」とアイツに言って安心させるのだろう。それが嫌でたまらない。

    「たけみっち」

    「え、マイキーくん?」

    「ケンチンと駄弁ってたらたけみっち入ってくるんだもん、びっくりした」

    「そうなんだ!気づかなくてごめんね、今ここを出るところなの」

    その時、マイキーは元カレが我慢できなかった笑みを浮かべているのを見逃さなかった。

    「ね、オニーサンだれ?」

    「あ、この人は…」

    「元カレ?」

    「そう、だね…」

    「おい、マイキーどうした?」

    中々、席に戻ってこないマイキーを連れ戻しに来たドラケンは武道の向かい側に座る武道の元カレを見て「ん?どこかで見たことあるな」と呟いた。

    「何、ケンチン。こいつ知り合い?」

    「んー…いや、うーん…」

    「と、取り敢えず武道、出るぞ」

    「え、あっ…うん。じゃあねマイキーくん」

    「たけみっち!」

    行っちゃ駄目だ!そう言おうとしても、女性を引き止める術を知らないマイキーはどうしたら良いのか分からない。武道が席を立とうとした瞬間、ドラケンは「思い出した」と声を出した。

    「アンタ、俺ン家の客だろ?新しく出禁になった奴」

    「え」

    「へ?」

    「……っ!」

    「おー、そうだそうだ。ウチの嬢達にエゲツないプレイとか合法でもギリギリのヤク飲ませようとしてな」

    「わー…」

    どんなプレイだったんだろう?しかしドラケンがいうほどだ。きっと禁止されているものだったのだ。マイキーは恐る恐る武道の方を見てみる。そこには何も感じていない、何も言葉にしない、簡単にいうと真顔の武道がただ立っていた。

    「で、出禁になったら腹いせでお気に入りの嬢をストーカーしてるってんでさ、最低な奴だって業界で噂されてっぞアンタ」

    スラスラと元カレの悪行を口に出したドラケンに武道の元カレは顔を真っ青にし、武道の腕を荒々しく掴みレジへと急ごうとする。行かせたくない、行かせて堪るか。マイキーは俯きされるがままに歩き出す武道の肩を掴み立ち止まらせた。

    「お前さ、何たけみっちに汚ねぇ手で触ってんの?」

    「ヒッ…お、俺…」

    「マジでウゼー。消えてくんね?」

    マイキーの顔はこの世の何よりも恐ろしかった、と後にドラケンは俯いていてマイキーの顔を見ていなかった武道に語る。マイキーの放つ恐ろしい顔と声があまりにも怖かったのか武道の手を振り払い、元カレは慌ただしく荷物を持って出て行った。

    「ッチ、金払ってけよ…」

    ドラケンが机に一銭も置かれていないことに気付くがマイキーはそれ所ではない。俯き黙ったままのの武道にどう声をかけて良いのか分からないまま、とりあえず店員に席の移動を伝えて自分達がいた席に座らせると武道はようやくポツリポツリと話し始めた。

    「私、本当にバカだ…あんなに苦しい別れ方をしたのにまた信じようとしちゃった」

    「たけみっち…」

    「本当ばか…」

    それからまた武道は静かに泣くばかりで黙ってしまい、マイキーとドラケンは慌てて武道を泣き止ませようと暫く色々な話をした。

    * * *

    「ほんっとうにごめんなさい、恥ずかしい所ばっかり見せちゃった」

    泣き腫らした目を擦りながら少し恥ずかしそうに笑う武道にドラケンは「いっすよ」と軽く笑った。武道は「奢らせて」と言って元カレが残していった伝票とマイキーたちが食べていたハンバーグの伝票を持ってレジへ向かう。

    ファミレスを出た三人は特に話すこともなく、武道は「じゃあね」と笑って駅の方へと向かう。その後ろ姿を見てマイキーはもう二度と会えないかもしれない、そう思った。

    「なぁ、たけみっち!」

    「なあに?」

    キョトンとした顔で振り返る武道にマイキーは胸が締め付けられる気持ちがした。今にも抱きしめて大好きだと言いたい、心が叫んでいる、でも今は何をしてもタケミチには響かない気がする。そう思うとマイキーには何もできなかった。

    「ねぇ、また会ってくれる?」

    「え…」

    「またコンビニで話そう」

    「……」

    少しの沈黙が流れる。その沈黙は「もう会いたくない」と言われているようだ。

    「会ってやって下さい」

    「へ?」

    「コイツ、集会の時もオネーサンに会いたい会いたいって煩いんスよ」

    「っ!ケンチン!!」

    「よほどオネーサンのことが好きなんだなって」

    まさかのドラケンの裏切り。好きな人の前で自分のじゃなく友達の口から好意を伝えられること程、恥ずかしいことはない。顔を真っ赤にしてドラケンの脛を蹴るマイキーとあまりの全力の蹴りに悶絶するドラケンを見た武道は微笑ましかったのか少し笑った。

    「ふふ、マイキーくんありがと…」

    雨上がりの青空のような顔をした武道は綺麗で思わずマイキーは「好きだ」と呟く。しかしその呟きは武道には聞こえなかったらしく武道は「何か言った?」と不思議そうな顔でマイキーを見つめた。

    「ううん、別に」

    この気持ちを伝えるにはまだ早い。恋愛で急いで良いことは何もない、以前エマが見ていたドラマを見て呟いていたことを思い出す。

    「じゃあたけみっち、今夜どう?」

    「あはは、今日?気が早いなぁ」

    「今日は疲れてンだろうよ」

    脛を負傷したのにも関わらず、回復したのか今度はドラケンが仕返しと言わんばかりにマイキーの頭をペしりと叩く。

    「いってぇ!!何すんだよケンチン!!」

    「こっちのセリフだバカ」

    「あはは、喧嘩しないで、でも今日は確かに疲れたかも…」

    武道が少し申し訳無さげに断ると「ほらな」とドラケンは少しドヤり顔でマイキーを見た。しかしこんなことでめげるマイキーではない。

    「じゃあ、明日は?」

    「明日は集会だろ」

    またもやマイキーの頭をペしりと叩くドラケンと、それに文句を言うマイキーの様子はコントの様だ。

    「その集会っていうのは何?」

    「あ?オネーサン知らないの?」

    「え、何が?」

    コイツ、暴走族まとめてんだよ。と言うドラケンにマイキーは今度こそ駄目だ…、嫌われてしまう。と本気で思った。本当に悲しいと手も足も出ない。しょんぼりと俯いたマイキーに武道は意外な反応をした。

    「え、すごいね!人をまとめてるの!?」

    「そこか?」二人はそう思ったが武道は感心した様だった。

    「私、人によくナメられるから人を纏めたりカリスマ性あるのすごい憧れるなぁ」

    「…そこ?」

    「あははっ!たけみっち、やっぱおもしれーな」

    「そう?」

    何かおかしなこと言ったかな?という顔をしている武道に愛おしさが込み上げてくる。自分を怖がらずにいてくれること、笑いかけてくれる武道に心底惚れたのだとマイキーは改めて思った。

    「ウン」

    「よかっ…た?」

    あまり腑に落ちていない様子の武道にドラケンは「マジかオネーサン大物だな」と呆れたように笑っていた。

    「?何が大物??」

    「気にしないでいーの!」

    * * *

    「よ、たけみっち!」

    「あ、マイキーくん今晩は!」

    相変わらず、十時を過ぎても寝ていない様子のマイキーに笑いかける武道は相変わらず可愛かった。

    「たけみっち今日も可愛いね」

    「お世辞が上手いなぁ、もう」

    あれからマイキーは自分の気持ちを武道に伝えているのだが悲しいかな、その「好き」はお世辞や友愛として受け取られてしまい、今の所は惨敗だ。これはどうやら長期戦になるらしい。

    「マイキーくん、今日は何飲む?」

    「んー、たけみっちと同じヤツ」

    「また?好きなの飲めば良いのに」

    マイキーはあれから自分が奢る時は選ばせるが自分に選択権がある時は武道と同じものを飲む様になった。心の距離を近づけるためには武道の好みを知る所から始めなければならない。

    「じゃあ私コー…」

    「……」

    「…ヒーじゃなくてお茶にしよっかな!」

    「!俺もそれにする」

    しかしマイキーの子供舌にとっくに気付いている武道はマイキーに気を使ってジュースやお茶にしていることにマイキーはまだ気付いていない。

    「たけみっち明日休み?」

    「仕事」

    「土曜なのに?」

    「ヴッ…いつか分かる日が来るよ。休日出勤という名前の存在にね…」

    どこか苦い顔をしながら仕事のことを話し出す武道がマイキーは嬉しかった。ちょっと前ならマイキーの話しかさせてくれなかった武道だが最近、距離が近くなったのかあの日以来、マイキーに自分のことも話してくれるようになった。

    「ほんっとうにあのハゲ部長…降格しちゃえば良いのに…」

    「大丈夫?乗り込みにいこっか?」

    「え!?え、いや、そ、それは大丈夫…かな?」

    「そ?いつでも言ってな」

    「や、う、ウン…?」

    時折見かけるマイキーの黒い部分を見て戸惑う武道だがそれでもマイキーが可愛くて仕方がないので「まぁ、いっか」で流してしまう。大人ならダメなことはダメと言わねばならないだろうが、こんな時間に未成年とお茶を交わしている自分が善良な大人な訳もなく…。

    「今度マイキーくんのお友達も紹介してよ」

    「えー、アイツらうるせェからなぁ」

    「でも楽しい子たちなんでしょう?楽しみだなぁ」

    「……たけみっちが言うなら…」

    ヤッターと喜ぶ武道に何も言えないマイキーはドラケン含む親友たちを会わせることを約束してしまい、溜め息を吐く。

    「俺の良い子なイメージが…」

    「こんな時間に悪い大人と喋る子供は良い子とは言えません!」

    お茶を飲み終わったのか武道はマイキーに「もう十一時になるよ」と言って帰ることを促す。

    「えー、まだ話てたい」

    「だーめ、それに私も明日仕事だし」

    「えー」

    「だーめ!」

    さ、帰ろっか。そう言われてしまえばマイキーは大人しくお茶を飲み干して帰る準備を始める。

    「たけみっち、次はいつ会える?」

    「えー、うーん。明日遅いから明後日とか?」

    「迎えに行く」

    「ダメ、寝てなさい」

    強引に行きたい所だが武道に嫌われたくないマイキーは渋々引き下がるほか無い。「ウン」と素直に聞けば「良いこ、良いこ」と頭を撫でられてしまうのだから仕方ない、惚れた弱みなのだろう。

    「じゃあね、マイキーくん。おやすみ」

    「たけみっちおやすみ」

    お互いの頬と額にキスを落とすと武道はマイキーが玄関に入るのを見送って帰ってしまった。以前、本当に帰りたくない時にキスを強請ったら意外とすんなりと了承を貰ったので勢いに乗って習慣化した。どうやら武道はマイキーが家族ともお休みのキスをしていると思っているらしい。

    「あー、たけみっち好きだ…」

    この本気の気持ちにいつ気付いてくれるのだろう。マイキーは長期戦になるであろう戦いに少しの溜め息と大きな期待を込めて眠りについた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    瀬戸 佐久間

    DONE大寿くん、お誕生日おめでとう小説

    フライングですが
    お祝いだけして小説あげ忘れると思うので
    ちょっと3日ほど早いけどあげます

    全て終わった現代平和軸
    付き合って同棲してる
    ハッピー寿武
    捏造と幻覚多め

    読んだ後の苦情はお受けしていません
    君と僕とチョコレートマフィン家に帰ると君が料理を作って待っている
    君が家に居ると気持ちも明るくなる
    今日は何が作られているのか
    僕は帰るのが楽しみになっているんだ

    *☼*―――――*☼*―――――
     
    柴大寿は花垣武道と付き合っている。きっかけは昔、好きだった映画を観たくなったもののサブスクでは配信しておらず、ならば、とレンタルビデオ店に寄った先が武道の働いている店だった。

    再会を果たした二人は食事に行ったりなど頻繁に会うようになっていき、再会から二ヶ月後、大寿から結婚を前提としたお付き合いを申し込んだのだ。

    武道は住んでいた古すぎるアパートから大寿が購入した最新のセキュリティ付きのタワーマンションへと引っ越すことになった。広く、廊下も長い。「忘れ物したら取りに帰れないだろうなぁ」と思うほどには階数も高く、今まで住んだこともない、味わったことのない暮らしに「慣れるかなぁ」と若干、不安に思いつつも武道は大寿との同棲を始めた。
    5199

    related works

    recommended works