夜のように優しい愛 日向翔陽は佐久早聖臣とお付き合いをしている。それはもう健全な……というか最近になってようやく手を繋げるようになったくらいのゆっくりペースで。でも確実に二人はペースを乱さず、お互い踏み込み過ぎずに愛を育んでいた。
幸せ、その言葉以外にこの気持ちに名前をつけるならお互いの名前を付けるだろう。
翔陽が最近トライアウトを終えて加入したムスビイの練習の終わり、着替えを終えた翔陽は侑や木兎といったチームメイトたちに帰りの挨拶をして更衣室を出た。すると先に出ていた聖臣が翔陽を待ち伏せしていたように扉の横で待っていた。
「わ! 臣さん!」
「帰るぞ」
「びっくりしたー……待っててくれたんすか?」
「…………一人で帰る」
「うそうそ嘘! 一緒にかえりましょー!」
「…………行くぞ」
「ウッス!」
外に出ると珍しく空は満月。東京よりは星空が見えるものの地元の宮城には遠く及ばない大阪の空。
「あ! 臣さん見てください! 満月ですよ!」
「見ればわかる」
つれないそんな聖臣の言葉にも翔陽は楽しそうに話を続ける。地元の宮城で澄んだ冬の空気の中で輝く星が特に綺麗だったとか、サンタさんにお願いしておもちゃの望遠鏡買ってもらったけどあまり見えなかったとか……聖臣はそんな翔陽の一方的な会話を否定も肯定もせず、頷くこともせず。ただ歩幅を合わせて黙って聞いていた。
「本当に月が綺麗……まるで」
――まるで聖臣さんみたい。
「……は」
「え……え?」
自分の発した言葉に驚いたのか翔陽は目を点にして暫く固まった。
「え、俺今なんて……?」
「聖臣」
「うわー! スンマセン!」
「別にいい」
「本当にスンマセ……え?」
「呼び捨てでもいい」
二人きりのときなら呼び捨てでもいいと顔を背けながら呟く聖臣が愛おしくて翔陽は思わず聖臣を抱きしめた。
「おい」
「…………もう少し、このまま」
「……ハァ」
翔陽を隠すように人目のない路地裏へと手を引くと聖臣はマスクを外し、翔陽の額に短いキスを落とした。
「え、臣さん?」
「聖臣」
「きよ、おみサン……」
今まで手を繋ぐだけの関係で聖臣は満足していると思っていた。だけど翔陽は先に少しづつ進みたいと思っていたのだ。自分だけだと思っていた、こんな夢みたいな話……自分は今、夢を見ているのだろうか?
「翔陽」
「!」
今まで「日向」呼びだった聖臣の口から自分の名前が出てくるのが不思議で翔陽は少し笑ってしまった。
「何」
「いや、嬉しくて……」
「泣くな」
「え、あ……なんで俺」
「嫌だったか」
「違う! ます! なんか許された気がして」
「何を」
「愛し合うことを」
「俺はとっくに許してた。お前に触れられるのも、想いを通わせるのも」
「……あははっ」
聖臣からのまたとない熱烈な愛の告白に翔陽はこれ以上の涙を見せまいと笑って誤魔化した。だけどきっとバレバレだっただろう。聖臣は目敏いのだ。
「うぅー……聖臣さん、好き」
「そんなの」
――とっくに知ってる。そう言った聖臣の言葉を聞いた自分の顔はどう映っただろう? 泣き腫らした顔? それとも嬉しすぎて舞い上がりそうな顔? どんな顔で映っていてもいい。翔陽にとって大切なのは聖臣からの愛、ただそれだけ。
「今日はお泊まりしてもいいですか? 手を繋いで眠りたいです」
「……好きにしろ」
そう興味なさげに言い放つ聖臣だが耳が赤いのを見ると照れているのが分かる。あぁ、聖臣が好きだ。どうしようもなく、好きなんだ。夜に隠れて二人で溶け合いたいくらい。
「聖臣さん」
「ン」
「愛してます!」
「あっそ」