イタズラは、もうしない?「とりっくおあとりーと」
里の子ども達も私も、まるでカゲロウさんが時折話す片言のように発音する。
外つ国のお祭りらしい。商魂逞しいロンディーネさんとカゲロウさんが、「真似事だけでもしてみては」と見慣れないお菓子をたくさん仕入れてきて、その風習について教えてくれた。
外つ国のモンスターや蝙蝠など、変わった形に飾りたてられたお菓子も気になるが…、子ども達は大っぴらにイタズラできるこの機会を楽しんでいるようだ。
私も、せっかくだからと団子屋さんで「とりっくおあとりーと」して、ヨモギちゃんに「お団子は商品だからあげられないよ〜」と断られたのを幸いに、ヨモギちゃんの腰のポーチにこっそり蝙蝠の羽の形の飾りをつけてみた。いつ気付くかなぁ。
子ども達にお菓子をあげたり、イタズラしたりされたりしながら里を巡って、ある程度満足したところで集会所に入る。
ここは子ども達があまり来ない場所だから皆いつも通りだ。お菓子のやり取りもイタズラも行われていない。
「やあ、愛弟子。それ全部お菓子かい?随分いっぱい買ってきたね。」
「買ったのもありますが、皆から次々貰って結構な量になってしまいました。でも、今日はお菓子を常備してないと、里でやたらとイタズラされますよ!」
「へぇ。それじゃ、俺にもお菓子下さいな。とりっくおあとりーと!」
子ども達の襲来に備えようとする教官にいくつかお菓子を譲ろうとし…、思い直した。
「今日は子ども達がとってもイタズラを楽しんでいるようなんです。教官も是非付き合ってあげて下さい。」
「へっ?」
差し出した手は宙ぶらりんになり、教官は間の抜けた声を上げる。私はさっさとお菓子の山を道具箱にしまって採取ツアーに出た。
採取ツアーに行っている間、なんだか色々あったらしい。
お菓子を貰えなかった教官が私にイタズラをしようとした。でも、良い大人である教官はイタズラと言っても何をすればいいやら思いつかなかった。考え込みながら里を歩いている中、私がヨモギちゃんのポーチにこっそり付けた飾りを見て、そういうことをすればいいのかと納得した。私の留守中に道具箱の中のジンオウガ装備に何か細工をしようとした。
折悪く、ちょうど私を訪ねてきたヒノエさんとミノトさんが見たものは、弟子の留守中に家に入って何やら布を手にしている教官。ジンオウガ装備の腰部分が女性用下着に見えるデザインなのも災いした。
「ごめんなさい!!!!」
里長の拳骨で、雪だるまのような二段タンコブができた教官が土下座している。
「はあ…」
ついさっきクエストから帰ってきて、一連の流れを聞いた私はぽかんとするばかり。
「いや、本当に、持っていたのは防具で、あと泥棒するつもりもなくて」
何やら一所懸命に弁解している。
「あっ、ごめんね、哨戒の交代の時間だからもう行かないといけないんだけど、また後で話しに来るから!もう絶対にイタズラなんかしないから!!」
教官は何度も頭を下げてから私の顔を見て、はっとしたように「本当にごめん…」と言い残して去っていった。
私がむくれた顔をしたのは最後の言葉を聞いてからだ。
「なんで私の気持ちを聞かずに決めちゃうのかなぁ。」
もっとすごいイタズラしてくれていいのに、と言ったらどんな顔をするだろうか。