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    🌸Sakura

    @sakurax666sword

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    ウツハン♀
    バレンタインネタです。

    #ウツハン
    downyMildew

    まずは角を狙おうか音もなく、欠片がするすると落ちていく。
    茶色い草むらのような堆積にひとつ、またひとつが重なる。
    そのひと欠片を摘まみ、口に運ぶ。甘い。
    「そっちでお腹いっぱいにならないでよ?愛弟子。」
    先程から欠片を次々口に入れている私に、苦笑とともに言葉が投げて寄越される。
    答える前に私は今一度、味覚に意識を向けて堪能する。ごく薄く削られた欠片から殊更に甘さが広がってくる。うさ団子の優しい甘さとまた違う、異国の植物の実から作られたという不思議に惹きつけられる甘さだ。
    「大丈夫です。この“ちょこれーと”なら、私いくらでも食べられます!」
    「そんなに気に入ったの?」
    話しながらも、教官の手の中では茶色の塊がだんだんと息づくように形作られていく。
    「わぁー…、凄いですね。いつもお面もこんな風に作ってるんですか?」
    「いや、お面とは材質が全然違ってなかなか難しいね。あまり時間をかけると溶けてしまうし。」
    確かに、教官は直接触れないようにするのは勿論、金属製の器具もなるべく短い時間だけ当ててさっと削り取っているようだ。
    一瞬一瞬の動作はしかし正確で、既に大まかな形の出来上がっている塊に質感を描くように、甲殻と甲殻の境目が、表皮の肌理が、皺がどんどん刻まれていく。
    「ディアブロスの尻尾の付け根ってこうなってるんですね…。」
    「あまりこの角度から見たことはないかな?とにかく対象をじっくりと観察することは大切だよ、愛弟子よ。」
    「う…。」
    普通に座学が始まりそうな勢いだ。
    そもそも教官がディアブロスの形にちょこれーとを削りだしたのも、最近苦手に思っているモンスターを聞かれて私がそう答えたからだ。ディアブロスについて何か言うのは藪蛇になるだろう…。
    でも、私の勉強や経験が不足しているのを差し引いても、何も見ずにここまでモンスターの造形を再現できる教官はただただ凄いと思う。
    「もし私を作ることになっていたら、私が目の前にいなくても作れました?」
    「勿論だよ。」
    そう、始め教官は私の形を作ろうとしていたのだ。作ること自体は良いが、食べる時のことを考えたら…、首やら手足やらを折るのも、咀嚼するのもちょっと抵抗があると教官に訴え、考え直してもらった。
    だったらいっそ、モンスターの形にして部位破壊しながら食べようという話になり、今のこの状態に至る。
    「モンスターの再現に教官がこだわりを見せて、ポポ等身大ちょこれーととか言い出さなくて良かったです。」
    また欠片を摘まんで口に放る。
    「さっき、いくらでも食べられるって言わなかったかい?」
    「言いましたけど、私の消化器官の容量にも限度が。」
    「そう?俺は愛弟子なら時間も体力も関係無くいつまでも食べ続けられそうだけどなぁ。」
    「いや、私の形のちょこれーとは作らないって話になったじゃないですか…。」
    「はは」
    低い笑い声を残し、教官は器具を持ち替えるために反対側を向いてしまった。一回り小振りなへらのような器具を手にし、こちらに向き直る。
    「ちょっと待っていて。角はディアブロスの象徴だからね、捻れを再現して、折れる太さにしつつも作る過程でうっかり折ってしまわないように…」
    教官が一際集中し始めた。
    私は教官の手元からなるべく離れた欠片をひと摘まみし、目にする機会の少ない真剣な顔つきを、ほうと眺める。
    戯れにお菓子を削っているだけなのを忘れてしまうぐらい、緊張感の漂う、射抜くような目だ。普段の優しい表情と、纏う雰囲気が別人のよう。でも、
    「そんなに見ないでよ、愛弟子。」
    こちらに目を向けた時には、いつもの教官の苦笑い。
    「あ…すみません。」
    「でも、できたよ。あとは細かいところを整えたら完成だ。」
    気が付けば、木彫りの置物と同じくらい、いやそれ以上に精緻で今にも動きだしそうな像が鎮座している。あの恐ろしい角、突進を予感させる形相、硬そうな質感の表皮…。
    「来年は、熱帯イチゴでソースを作っておいてヌシにしたいなあ。」
    「来年までにはヌシも余裕で倒せるようになってますから!」

    後日改めてディアブロスと相対した時、いつもは威圧すら感じていた土気色の体躯も「ミルクを多めに混ぜた時のちょこれーとの色だ…!」と美味しそうに見えたとか見えないとか。
    やっぱり、イチゴのソースも良いかもしれない。
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