世界で一番可愛い君に「鏡よ、鏡。世界で一番可愛いのはだあれ?」
『それはドラドラちゃんです』
男とも女ともつかない声で魔法の鏡は答えました。
当然です。ドラドラちゃんは世界で一番キュートでイケメンで畏怖い吸血鬼なのですから。
15歳のドラルクは満足でした。
「鏡よ、鏡。世界で一番可愛いのは誰かね?」
『ドラドラちゃんと、アルマジロの赤ちゃんです』
その日の鏡の答えはいつもと違っていました。
魔法の鏡に映った赤ちゃんマジロはとても可愛くて、そしてとても寂しそうでした。
「とっても可愛いこの子に会いに行こう」
ルーマニアからアルマジロの赤ちゃんがいる南米まではとても遠かったのです。しかしそうしなければならないと思いました。
ドラドラちゃんは初めて一人で外に出ました。
外の世界はちょっぴり怖いけど、可愛いアルマジロの赤ちゃんとの月夜のピクニックはきっと楽しいことでしょう。
「アルマジロの赤ちゃん、ボールみたいに面白くて可愛い子」
「ニュニュニュニュニュニュ!」
「今度こそ迎えに来たよ、私のジョン」
こうしてジョンはドラルクの使い魔になりました。
28歳のドラルクは満足でした。
「ふむ、世界で一番可愛いのは私とジョンに決まっているのだから聞いたところで面白くない。何か良いアイデアはないかな?」
「ヌヌイ ヌンヌー ヌ?」
「それは面白そうだね。鏡よ鏡、世界で一番強い退治人は誰だ?」
『それは退治人ロナルドです』
鏡に映ったのは強くて美しくて面白い、赤い服を着た退治人の姿でした。とても逞しいのに、少しやつれて見えました。
「よし、とっても強いこの子に会いに行こう!」
「ヌー!」
ドラルクは百年ぶりに外に出ました。
退治人と対峙するのはちょっぴり怖いですが、一緒にガンシューティングゲームをすればきっと楽しいことでしょう。
「ロナルド君の活躍、面白かったねえ、ジョン。もっともっと見てみたいなあ」
しかし新横浜のどこを探しても、あの強い退治人は見つかりません。
208歳のドラルクはとてもとても不満でした。
世界一強い人間でも脆くて寿命が短くて、退治人ロナルドでさえ死んでしまうことを、すぐ死ぬ吸血鬼のドラルクは知りませんでした。
*
「鏡よ鏡。こんなにキュートでイケメンなドラドラちゃんを置いて行ってしまう薄情な退治人はだーれだ?」
「吾輩は鏡ではないが、ただおぬしの思いを正直に告げればいいのでは?」
新しい城の住人である常識魚は呆れた声を出しました。
「ロナ造の方が私に惚れてるのだから、あっちから言うものだろうが!」
「ヌヌヌヌヌン ヌ ヌンヌヌヌヌ。ヌヌヌ ヌヌヌヌ ヌヌヌヌヌヌヌ ヌ ヌヌーヌヌ ヌヌヌヌヌ」
ロナルド君も頑固だから。ここは大人のドラルク様がスマートに決めるべき。
「恋愛シミュレーションゲームでテクニックを極めた師匠なら何も問題ありませんよ」
「ビービビッビー!」
ロナルドさまを泣かせたらただじゃおかない!
城の住人達は囃し立てました。
「ロナルド君、愛してる! 私と生涯を共に」
「遅いんだよ、クソ砂。俺を吸血鬼にしたいんだろ? ほらよ」
一世一代の告白を遮られ、相手に先を越されてしまい、ドラルクはあえなく死にました。ジョンが塵の山を掻き集めてヌーと泣いています。
昨日までうなじを隠していたロナルドの銀髪が、今やスッキリと散髪されていました。
「本当にいいんだね?」
「俺の気が変わらないうちに早くしろ」
「……気が変わるようなら、やめておいた方がいいんじゃないかね?」
「ごめん、嘘だよ、もう変わらねえよ。お前とジョンと、ずっと一緒にいるって気持ちは絶対変わらない、だから。……つまり、ドラルク、お前を愛してる」
口が悪くてゴリラなロナルド君はドラドラちゃんに相応しい、世界一可愛い恋人です。
「ありがとう」
吸血鬼ドラルクは初めて退治人ロナルドのうなじから吸血しました。それは自分の身体に流れる血を与えて家族になるためでした。
238歳のドラルクとジョンとロナルドと城の住人達は世界で一番幸せでした。
ハッピーエバーアフター