Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    まこつ

    文字書き。たま〜に絵。主にすけべを載せる予定。
    男女カプ、BLごちゃまぜ。
    小説全文はタップで続き見れます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    まこつ

    ☆quiet follow

    玲明学園を卒業したジュンが入院中の要に会いに行く話。
    自分だけ卒業した後ろめたさを抱えながら病院に行くと、要から渡したいものがあると言われて——
    ジュン要未満、友情の話。シリアスめ。
    オブリガート読了推奨。

    #ジュン要
    junShaku
    ##ジュン要

    春がくる/ジュン要冬を超えて生暖かくなった春の気配を感じながら、通い慣れた病院への道を行く。
    昨日は玲明学園の卒業式だった。寮に戻ったりESに報告しに行くと、ユニットメンバーや他のアイドルからたくさん祝いの言葉をもらった。
    特待生としての卒業。それを思う度、やってやったという気持ちと、これから会う人への負い目を同時に感じる。
    おめでとうの言葉を言われるのもむず痒い。いっそお前だけずるいと罵ってくれた方がマシだ。いつもの上から目線で、偉そうな口調で。

    そんなことを思っている間に病院に到着した。いつもより少し重い足取りで病室に向かう。
    コンコン、とドアをノックすると、落ち着いた声色の返事が返ってきた。引き戸をカラカラと開けると、ベッドに座る勿忘草色の髪。
    気温が上がって過ごしやすくなったからか、窓が少しだけ開いていて、カーテンがはためいている。

    「…よう」
    「なんですか、突っ立ってないで早く入りなさい」

    言われるがまま部屋の中へ入り、ドアを閉めた。
    これ、といつもはコンビニで買ったお菓子を差し出すが、今日は近所で評判のいいケーキ屋の袋を差し出して、
    定位置のベッドサイドの椅子に腰掛ける。

    「え、どうしたんですか」
    「どうって…別に。気分だけど」

    なんとなく、自分だけ卒業祝いを言われるのが割に合わないから、とこんなもので自分を納得させてみただけだ。こいつのためなんかじゃない、ただの自己満足。

    「…じゃあ、ぼくからはこれを」

    ベッドサイドの引き出しを開いたと思うと、そこから出てきたのは綺麗に畳まれたネクタイだった。
    自分も見知った、斜めストライプ柄の。

    「え…」
    「ぼくの制服のネクタイです。玲明学園の。…HiMERUは秀越学園に転校したことなっているようですし、ぼくがこれをつけることは、もうないので。まあ、さざなみもつける機会はないでしょうけど、ほら、ネクタイをあげる文化があると聞きました、それです」
    「……お前、その意味わかって言ってるか?」
    「? 卒業式あるある文化ではないのですか?」
    「あー…いや、いい。あるあるにしといて」

    ネクタイを受け取り裏を見ると、K.T.と本名の頭文字の刺繍があった。

    「…本当に要らねえのか」
    「取っておく、という意味でですか?…そうですね、少し…名残惜しくはありますけど。もう必要ないでしょうが、卒業祝いも兼ねて。一年も使っていないので、綺麗でしょう?」
    「…でも、これはあんたが…努力して特待生として玲明学園に入れた証だろ。やっぱり、持っとくべきだ」
    「…ありがとうございます。そう言ってくれて嬉しいです。じゃあ、さざなみのものと交換してくれませんか。ああ、非特待生の時のものでも構いません。ぼくが、きみと出会った記念に」
    「…っ」

    自前のものは要らないと手放したのに、出会った記念にほしいなんて。この出会いが良いものだったと、出会えて良かったと、暗に言われているようで。そんなことを言われると目頭が熱くなる。

    「一度捨てた名前、知っている人はそう多くないですから。…あ、もしかしてもう後輩とかにあげちゃったりしたでしょうか?だったらいいですよ、受け取ってくれるだけで」
    「や、ネクタイはまだある。あるよ」
    「そうですか。ではまた次に来る時で構いません」

    なんでもないことのように淡々と紡がれる言葉に、何故か段々と苛々が募っていく。
    なんでそんなに冷静なんだ、と。
    何か、憎まれ口のひとつでも言ってほしい。君だけずるいですね、とかさざなみのくせによく卒業できましたね、とか。いつもみたいに、少しだけ顎を上げて、見下すような表情で。
    なのに、次に紡がれた言葉に、また拳をぎゅっと握り締めることになる。

    「改めて、卒業おめでとうございます。それから…特待生になれて良かったですね」

    白い花が咲くように穏やかな微笑みで。本来なら嬉しいはずの祝いの言葉が胸に刺さる。

    「……ああ」
    「なんですか、ぼくがお祝いを言ってあげているのにその浮かない顔は」

    やっと絞り出せた声は少し震えていた。だって、あんたは。
    その言葉は、あんたも一緒に言われるはずだったのに。

    「…とうじょ…」
    「…叶うなら、きみと同じ教室で学んで、卒業したかったです」
    「!」

    何も思わないのか、と聞こうと開いた口はまた要の言葉で閉ざされてしまった。

    「特待生の教室は…タコ部屋みたいに和気藹々とはいかない雰囲気でしたが…きみがいたらきっと、楽しかったと思うのです。こんなことを思っても、もうしょうがないですけど」

    ふい、とさっきまで微笑んでいた顔を背けられた。
    やっと少しだけ本音を聞けた、それが嬉しいのにどんな顔をしているかわからないのは惜しいと思ったが、少しだけ震えている肩にどんな顔をしているか簡単に想像がついた。

    「…オレも、そう思ってたよ。特待生になったのと引き換えに、その教室にあんたの姿がなかったから…なんだろうな、残念だったっつーか…あんたの騒がしい声聞けなくなって、寂しかったよ」

    初対面の気に食わない印象から、ウザくて偉そうな態度は変わらないのに、なんだか放っておけなくて。
    仲の良い友達、といえるのかも分からなかったけどそのままなんとなく一緒に進級して卒業するんだと思ってた。

    「……そう、ですか」

    小さく聞こえた返答は震えていた。
    泣くのを望んでいた訳じゃない。ただ、自分の気持ちを正直に言って欲しかっただけだ。

    「…なあ」
    「な、なんですか」
    「もっと正直な気持ち吐き出せって。強がってんのわかってんだよ」
    「…っさ、さざなみはいつも意地悪ばかり言うのです」

    鼻をすする音が聞こえて、肩が揺れている。
    絶対泣きそうなのに、いや泣いているのにまだ強がっているのを見かねて、そっと抱きしめた。

    「…これで顔見えねえだろ。オレしか聞いてねえし」
    「…っ」

    少し身動ぎはされたが、ぎゅ、と服を掴む手の感触に嫌がられているわけじゃないと安心する。
    やがてぽつぽつと話し始めてから、嗚咽と共に堰を切ったように言葉が溢れてくる。

    「…ほん、とは。羨ましいです、さざなみが。だって、入学した時は一緒だったのです。あの講堂で、一緒に巽先輩のスピーチを聞いて。一緒に過ごしてきたのです。ぼくの方が先に特待生だったのです。ぼくの方が、有名なアイドルになって、お母さんの望んだアイドルになっているはずだったのです…!」

    涙でいっぱいになった瞳、真っ赤な顔で至近距離で見上げられてドキっとする。蜂蜜色の瞳から溢れる大粒の涙はまるで蜂蜜みたいで、舐めたら甘いかもしれないと思った。
    腕を掴んでいた手は胸元に来て、セーターに皺を寄せていた。そんなに引っ張ると伸びちまうだろ、そんなことを思いながら蜂蜜色の瞳を見つめた。

    「きみの、きみの立場を、ぼくにください、ねえ、さざなみ、くださいよ。何もないぼくに、せめて、ねえ、さざなみ…っ!」

    わかっていたことなのに。こいつのために出来ることなんて、本当に何もない。
    あんたを、巽先輩を、オレは救ってやれなかった。
    だからオレはおひいさんに尽くした。おひいさんと一緒に、玲明学園を代表するユニットになった。
    巽先輩からはありがとうとお礼を言われたし、贖罪のつもりでもないがおひいさんにはこれからも尽くしていくつもりだ。
    だけど。こいつには、何をしてあげればいい?ただ病室に通って時々こいつの好きなスイーツを買ってきて。ただそれだけのことしか出来ないのが悔しい。
    こいつの手を取ってステージに上げる権力もない。そしてこいつがステージに立つことを決められるのは、オレじゃない。

    「……悪い…」

    今の居場所を譲ることも出来ない。あの人は、おひいさんはオレが隣にいなきゃダメだということも理解している。
    嗚咽を漏らして泣く十条をもう一度抱きしめて、勿忘草色の髪をくしゃりと指に絡める。

    「…すみません、お祝いしないといけないのに…」
    「いや、言ってもらって良かったよ。…てか、そう仕向けたのオレだし。オレだけ祝われんの、なんか、バツが悪ぃだろ」
    「…さざなみはお人好しのバカですね…」
    「……言ってろ」

    少し落ち着いた十条の涙と鼻水を拭いて、ベッドに座り直したところに布団をかけ直してやる。
    セーターは涙で濡れたし、鼻水で少しカピカピになっているけどしょうがない。

    「……浅ましいでしょう。過去にしか縋るものがないぼくが。だからきみにネクタイを渡して、きみの分をくださいなんて、変なことを言ったのです。きみにもぼくの想いを託したかったし、きみとの思い出は温かいものが多かったから」
    「…オレにできることなら、やれるもんなら、いくらでもくれてやるよ」
    「…じゃあ、またここに来てください。忙しくても時間を縫ってください。ぼくのために、時間を使ってください」
    「そんなことでいいのかよ」
    「そんなこと、ではないです。だって、ここに来てくれる数少ない…その、友達、ですから」
    「———」

    ああ、そうか。
    オレにも唯一、こいつのための存在意義があったんだ。

    春風に揺れる髪をそっと撫でる。

    「…もう、行くなよ、どこにも」
    「なんですか急に。ここにいるじゃないですか」
    「…いつも通りだったのに、突然いなくなったじゃねえか、あんた。再会してそっけないと思ったら別人だし。だから、ちゃんとこうやって釘刺しておかねえとまたどっか行っちまいそうだろ」
    「…それは、まあ…。でも、また見つけてくれたでしょう」

    それは、あんたが呼んでくれたからじゃないのか。
    最初にここに来た時、こいつの兄に「要が会いたいと言っている」と連れて来られた。
    嬉しかった。「本物」に再会できたことが。あの日、玲明学園で一緒に過ごしたこいつと、またあの調子で話が出来たのが。

    ゆるく頭を撫でていると、十条は段々とうつらうつらとしてきた。あれだけ泣いたんだから消耗もするだろう。

    「…すみ、ません。眠くなってきて…。少し寝るので、帰ってもいいですよ」
    「んー…そうだな、もう少し居る」

    そういえば、買ってきたケーキを食べてなかったなと思う。いつ起きるかわからないけど起きたら一緒に食べようと思った。
    ベッドを倒して眠りにつく姿を見て、ふっと肩の力を抜く。

    「…会いに、来るよ。どんなに忙しくても」

    一緒にいられなかった時間を埋めるように。
    もらったネクタイの裏、イニシャルの刺繍をそっと指でなぞる。
    どんなに偽りの名前が広がっても。その名前しか誰も覚えていなくても。オレだけは覚えていよう。




    .


    あとがき→

    夢ノ咲の卒業があったので玲明も卒業、あるよな…と思って書きました。
    が、巽とHiMERU卒業出来たのかわからないので早く教えてくださいたすけて

    本当はジュン要(両片想い)でネクタイ交換して「これって……」みたいな甘々青春学園ラブコメをしようと思ったんですが、元々書きたかったシリアス話と一緒に出来るなと思ってラブコメ無くしました。
    そしてこれはジュン要というよりジュン要未満。

    過去作「その手を離さない」に繋がらんこともない。
    (ジュン要が付き合うことになる話)

    過去作の前日譚を書きがちなまことでした。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕🙏🙏🙏👏👏😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    まこつ

    DONEHiMERU誕のジュン要。大遅刻すみません。
    要の希望で誕生日にテーマパークに行くことになったジュンと要。兄の粋な計らいもあり、テーマパークデートを楽しむ二人の少しドタバタで甘い一日。
    要くん元気時空。付き合っていてキスは何回か。それ以上はまだ模索中。十条兄弟はES近くのマンションで同居中。
    オブリガート読了推奨です。
    precious/ジュン要「…これを」

    要の誕生日の1週間前。寮の談話室にいる時、瓜二つの兄からなにやら長細い封筒を手渡された。

    「何すか?」
    「まあ、紙で渡すようなものでもないのですが…開けてみてください」

    言われるがまま開封すると、出てきたのは三つ折りにされたコピー用紙。
    何かの書類かと折りを開き、書かれている内容を見てぎょっとした。

    「予約確認…7月7日◯◯ホテル……って、え!?な、なんすかこれ」

    誕生日当日、要の希望で某テーマパークへ行くことになっていた。
    行ったことがないというのはお互い様で、少し不安もあったがアプリもあるしなんとかなると経験者から聞いて安堵していたところだった。
    暑い時期。まだ病み上がりな要を長時間炎天下には置けないと出発は午後からのんびり行く予定になっている。要の体力を見て、もちろん当日中に帰る予定だった。
    11505

    related works

    recommended works