恋は炭酸飲料のように/要あん【十条兄弟ダブル交際ひめあん設定】
十条兄(HiMERU)とあんずが付き合っていたところに元気になった十条弟(要)があんずと出会い惹かれていって、なんだかんだあって3人で交際しはじめる。
他の2人も大切で、3人が3人ともどれも捨てられなかった結果。
兄
あんずとは一応やることはやっている。
大人の魅力。セクシー担当(ニキ談)
弟
キス数回まで。そもそもその先のことをあまり理解していない。
同い年可愛い。同い年なのに弟っぽく見えて甘やかしているらしい。
(同い年という設定のHiMERU/兄の弟のため)
3人でデートすることもあれば交代でそれぞれにデートもする。
それぞれのデートの日には干渉しない。報告も自由。
といった感じです。
本編→
今日は要とあんずの遊園地デートの日。
初めての遊園地でデートのシチュエーションはやばい、と兄と友人と何人か連れ立って予行練習をしてから数週間。
遊園地がどんなものかある程度理解して、彼女のエスコートの仕方もバッチリ学んだ当日。
可愛く着飾った彼女と並んで歩くだけでも優越感に浸れるのに、一緒にアトラクションを楽しんで、美味しいものを食べて…これが幸せでないのなら何が幸せなのだろうと思う。
そのうちに歩き疲れてベンチへ座る。
こういう時は、そう。飲み物を差し入れるとよかったはず。
「あんずさん。何か飲み物を買ってきます。何がいいですか?」
「え…いいの?一緒に行くよ?」
「いいのです!近くに自販機があったのを覚えていますので。あんずさんは休んでいてください」
「そう?…じゃあ、要くんと一緒のでいいよ。ありがとう」
「はい!少し待っていてくださいね!」
❇︎
小走りで駆け出していく背中を見送って、ふう、と一息つく。
長時間歩いた足は重くなっていて、足先をパタパタと動かしてみる。
スマホを取り出して、今日撮った写真を見返す。また彼とよく似たお兄さんにも見せてあげようと口元が緩んだ。
そこに上からふっと影が落ちて、続いて陽気な声が降ってきた。
「ねえねえお姉さん、1人?」
見上げると、いかにも「チャラい」風貌の、少し年上くらいの男性がこちらを見下ろしていた。
「あ、えっと…人を待っていて」
「へえ、カレシ?」
「…っ」
スッと座っていたベンチから立ち上がって、スマホをぎゅっと握る。
なんとか逃げる事は出来る。けれどここで待っていると言った手前はぐれてしまう可能性も否めない。
この時は頭が回っておらず、はぐれても連絡を取ればいいという単純なことを失念していた。
「こんな可愛いお姉さんほっとく奴なんかよりオレと遊ばない?オレここの遊園地けっこー詳しいからさ。多分お姉さんが知らない穴場スポットとか教えてあげるよ」
「結構です、一緒に来ている人がいますので…」
「つれないなあ。まあそう言わずにさあ。カレシくんの顔知らないけど、絶対オレのがイケメンっしょ?」
「…っあの…っ」
ついに肩に手をやられて、身を捩って逃げ出そうとした時。
「そこのきみ」
「あ?」
後方から聞き覚えのあるテノールが響いて、手首を引かれた。
それと同時に目の前の男性の驚く声が聞こえ、白いTシャツを何か茶色いものが汚していた。
視界に入ったのは手に握られたポタポタと雫を落とすコーラのペットボトル。
何が起きたのか分からず目を丸くしていると、自分の前に一歩踏み出した背中で視界を覆われる。
「うっ!?!?な、何すんだテメエ!」
「すみません、少し手が滑ってしまいました」
上品な声色、けれど確かに怒りを含んで謝罪の言葉を口にするその人の横顔を盗み見る。
(あれ…?)
服装も今日1日一緒にいた恋人のものと変わりない。
なのに、眉を吊り上げて不快そうにしているその顔が、あまりにその人というよりーー
「そんなに同行者が欲しければぼくが着替えを買いについて行ってあげますよ。それとも…そんなコーラまみれのみっともない姿で、このぼくの隣で、まだ彼女を誘惑しようというのですか?」
「…ッチ…クソガキが…っ」
わざとらしく嫌味ったらしい謝罪と周りからの視線に汚れた服の男性は足速に去っていった。
「大丈夫でしたか?」
「わ、私は大丈夫。なんだけど…」
振り向いて向けられた不安そうな目元にほっとする。
吊り上がった眉毛のまま、怖そうな表情を向けられるのではないかと内心ドキドキしていた。
足元まで一瞥して何もないと分かった瞬間、ひとつ息をついて改めて手を握られた。
「…少しここから離れましょう。注目されてしまっています」
言われて周りから視線を向けられていることに気付く。
中には「HiMERUじゃない?」などアイドルとしての顔を知られている声も聞こえてドキリと心臓が鳴る。
手を引かれて人気の少ない建物の陰に入るとやっと肩の力を抜くことが出来た。
「…あの、要くん、だよね?」
いつもより大人びたような表情と振る舞いに、もう一人の彼なのでは、と蜂蜜色の瞳を見つめた。
「正真正銘ぼくですけど。…なんです、かっこよくてお兄ちゃんと見間違えたのですか?」
「…うん、ちょっとだけ、わかんなくなっちゃった。…助けてくれてありがとう」
「ふふ…っそうでしょうそうでしょう、ぼくはかっこいいのです!」
「やっぱり要くんだ」
二人きりになった途端気が緩んだのか、いつもの自信満々で無邪気な笑顔に戻った彼につられて笑う。
「…お兄ちゃんの方が良かったですか?」
「そんなことないよ!かっこよくてドキドキしたもん。…それから、どっちの方がっていうの、禁止だったでしょ」
そう言うとむっと頬を膨らませた後、腕をこちらに伸ばして優しく抱きしめられた。
「…ごめんなさい。女性を1人にするべきではありませんでした。ぼくのせいです」
「ううん。ちょっとだけだったし、私も絡まれるなんて思ってなかったから。…ほんとにかっこよかったよ」
背中に腕を回してあやすようにぽんぽんと撫でると、すり、と甘えるように頭を寄せてくるのが可愛いと思う。
「…さっきの人、大丈夫だったかな」
「迷惑をかけられたのに心配するのですか?」
「助けてもらって何だけど…お互い様でしょ?向こうが悪かったとはいえこっちも迷惑かけたことには変わりないし」
「……ぼくの腕の中でお兄ちゃん以外の人のことを考えるのは禁止です」
「……やきもち?」
「そうです、あんずさんはぼくの…ぼくたちのものですから。悪いですか?」
「ううん。…嬉しい」
お互いの体温が移った頃、名残惜しそうに離れていった。
少し赤くなった頬を掻く姿にまた笑みが溢れる。
「…飲もうと思っていたコーラが無駄になってしまいました。あ、あんずさんの分はありますよ」
「コ、コーラってあんな風に吹き出すことがあるの?びっくりした…」
「ああ、タブレットを入れたのですよ。常に持ち歩いているので。化学反応であんな風になるのです。タブレットも勿体なかったですが…あの男にあまりにイラっとして、つい」
ズボンのポケットからまだ残っていたタブレットを取り出してみせた。
時々口にしている記憶がある大きめのタブレットだ。
「でもつい、であれが出来るのすごいね。よく思いついたというか…」
「ああ、あれは…その昔さざなみと口論になって…ついやった経験が…あって…」
小脇に抱えられていた新品のペットボトルを眺めて遠い目をする要に笑って、中身が殆ど減ってしまったペットボトルを持つ手に手を添える。
「ねえ、要くん。私飲みたい期間限定のドリンクがあったの思い出したの。そのコーラ、要くんが飲んでいいから一緒に買いに行こう?」
「…あんずさんがそう言うなら。足はつらくないですか?」
「うん、大丈夫。売ってるところも近いし」
売っているところは店内での飲食も可能だったはず。
そこならゆっくり休憩もできるはずだ。
手を握って「こっち」と先を行く。
初めての遊園地デートでこんなことがあったのが不満なのだろう、まだ浮かない顔の恋人に聞こえるようにひとりごとのように呟く。
「…要くんの方がかっこいいに決まってるのにね」
「え?」
「聞こえてたから、あんなこと言ったんでしょ。きみよりイケメンのぼくの隣で口説き続けるんですか?って」
「な…っ気付いて…っ」
「要くん…HiMERUくんの、その自信満々なところ、好きだよ」
「…そうでしょう。ぼくは…HiMERUは、誰よりも優れていなくてはいけませんから」
「でも、さっきみたいに嫉妬してくれるところも、ちょっとだけ落ち込んでるところも可愛いから。全然完璧じゃなくていいの。少なくとも私の前では。同い年の要くん、がいいな」
いつも何事もそつなくこなす、スマートなアイドル「HiMERU」。その在り方が綺麗で、眩しくて、支えたいと思った。
そのうちに尊敬と憧れが恋心になり、交際を始めるようになってしばらく経った頃。
彼の事情を知って、病院でもう一人の彼に出会った。
少し前までもっと酷かったという彼は、そんな不調を感じさせないくらいに元気な姿で会話をしてくれた。
それからどのくらい経っただろう、退院して兄弟で一緒に住み始めて、三人で十条家で過ごすことも増え、たまたま要と二人きりになったタイミングで想いを告げられて。
どの関係性も壊したくない、大事にしたいと思った結果、ダブル交際という形で落ち着いた。
大人っぽくていつもドキドキさせられる兄と、なんだか放っておけなくて同い年というよりも年下のように感じてしまう弟と。
見分けが付かないくらいの顔立ちなのに、隣にいると全く別の存在なのだと実感する。
プロデューサーの立場で言うのは難しいかもしれないけれど、オフの時くらいは「HiMERU」というアイドルを忘れて、ありのままでいてほしいと思うのは身勝手なエゴだろうか。
「……ずるいですよ、きみは」
「…そうかな」
「…ずるいです。どんどん、好きになってしまいます」
「え」
涼しげな垂れ目に甘く蕩けてしまいそうな蜂蜜色の瞳の奥。目に見えない熱いものを感じて心臓が鳴る。
一層強く手を握られて、足が止まったのが丁度目的のカフェの前だった。
「あ、えっと、ここ!ここで飲みたいもの売ってて!ちょっと休憩しよっか!」
やけに頬が熱い気がする。繋いだ手から高鳴っている心臓の鼓動が全て伝わってしまう気がして、今だけは離して欲しいと思ってしまう。
「…あんずさん」
「な、何?」
熱っぽい瞳、何か言いたそうな顔に、高鳴る心音を悟られないように次の言葉を待つ。
じっと見つめられていた目は瞬きより長く閉じられ、息をひとつ吐くとパッといつものはにかんだ笑顔を見せた。
「…いえ、すみません。あ!ちょうど席が空いているようなので、早く座りましょう!」
「あ、ちょ…っ」
ぐいぐいと強引に手を引かれて、見えるのは後ろ姿だけになる。同じ髪色の兄よりも、少しだけ短く整えられた後ろ髪。
何を言おうとしていたんだろう。その後も結局聞き返すタイミングが無く帰路についてしまった。
❇︎
初めての遊園地デートは、概ね上手くいったと思う。
少し胸糞悪い出来事はあったけれど。
家のソファでお揃いで買ったぬいぐるみのストラップを眺めていた。
兄と三人ではなく、自分とあんずだけの『おそろい』と今日の思い出。
繋いだ手の温もりがまた消えていない気がして、そのぬいぐるみごと優しく両手で抱きしめる。
一緒にいる時間が増える度、愛しくなる。
(…お兄ちゃんも、こんな気持ちだったのでしょうか)
自分より長い時間、彼女と時間を共有している兄に、どうしても嫉妬してしまう。
好きの気持ちを自覚する度に、自分を、ぼくだけを見て欲しくて堪らなくなる。
だから、思わず「ぼくにしませんか」なんて言ってしまいそうになってしまった。
後から横入りしたのは、自分の方なのに。
(等身大の、ぼくなんて)
虚勢を張らないと壊れてしまいそうなくらい、ちっぽけで弱い存在なのだと、頭の隅では理解している。
けれどそれを理解したくなくて、大きく見せようとして、理想の姿をしている兄に近づきたくて。
『HiMERU』であることが、アイドルであることが存在意義だったのに。
ただの『十条要』を愛してくれる人がいるなんて。
あの優しい笑顔を思い出してぎゅっと胸を締めつけられる。
好き、好き、好きです。愛しくて、たまらない。
お兄ちゃんより、絶対に好きな自信がある。
抱きしめるだけじゃ足りないこの気持ちを、どうやったら正しく伝えられるだろう。
「…ねえ、きみ。きみなら、分かりますか」
返事が返って来ないことが分かっているのに、手の中のぬいぐるみに話しかける。
彼女と同じものを持っているきみなら、と。
当然言葉が返ってくることはなく、溜息をついて膝を抱えて、兄が帰ってくるのを待っていた。
あとがき→
お読みいただきありがとうございました。
炭酸とタブレットはメン○スコーラのつもりなのですが実際こんな風になるのか、人に向けたらどうなるのか、分からなかったので完全に想像で書いています、すみません。
時々兄と分からなくなるような大人っぽい表情もしてほしいです。
ナンパで騒がせて終わらせようとおもったのにやったらり癖で少し湿っぽくなってしまいました。
ダブル交際、また書けたらと思います。