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    pie_no_m

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    pie_no_m

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    🐺🍕×🐈‍⬛🎧で👿🍣と💀🍺も出てくる。
    やりたい放題のファンタジーパロです。何でも許せる方向け。

    #ディノフェイ
    dinofacies
    #エリオ腐R
    elioRotR.

    ラ リュミエール 息をひそめ、自らの気配を殺す。
     カーテンは閉め切り、電気を消していても、フェイスの目には部屋の中の様子がよく見えた。窓から射し込むランタンの灯りは、リビングの床に二人分の影を伸ばしては縮めていく。尖りきって壁にまで届きそうな三角の影は全部で四つ。フェイスの猫のようにぴんと立てた耳と、隣で膝を抱え背を丸めるディノの、フェイスのものより大きくてふさふさの毛が目立つ耳。そのシルエットがひくひくと落ち着きなく動くのを、フェイスは身動きもせずただじっと見つめていた。
     十月三十一日。外から子供たちの興奮した話し声や高い笑い声が聞こえる。きっと彼らは魔物や悪霊の姿を模して、通りの玄関の扉を順番に叩いては大人に菓子を要求している最中だろう。それではなぜ、そんな通りに面した部屋に住む自分たちはこうして身を隠すような真似をしているのか。フェイスはともかく、ディノは普段から街の人間と仲が良い。喜んで道行く子供たち皆に菓子を配りそうなものだが――明白な理由である三角形の影が、フェイスの見る前でまた一回ひくりと動いた。
     不安定に揺らいだ空気の中、誰の目にも見えてしまう耳や尻尾を誤魔化せたとしても、自分のような存在が純粋な気を纏う子供たちと相対すればどんな影響を及ぼすかわからない。
     説明するディノの顔からは、しばらく見ていなかった寂しさが滲んでいた。
     世界と世界の境界線が曖昧に緩む日。目下社会勉強中のフェイスだったが、たまには兄――いや両親に顔を見せに実家へ帰るつもりだと話したあと、何気なくディノの予定を聞き出してみれば返ってきたのはそういう答えだった。やっぱり残ると告げたときのディノの申し訳なさそうな顔を無視し、遠慮がちに発された「でも」を三回退けて、フェイスは今日のこの日を寂しがりな狼の隣で過ごしている。フェイスが帰るのをやめていなければ、暗い部屋でひとりきり息を殺していたであろうディノの姿は、想像もしたくなかった。
     街中を避け遠く自然に紛れたとして、あちら側からディノの力を狙って覗き込む「百パーセントの本物」に見つかるのも何かと面倒らしい。どちらの世界にも交われない半分ずつの生き物というのは、ただ静かに暮らすだけでも骨が折れる。それでもこの場所を離れようとしないディノの耳の影が、楽しそうな子供たちの声を羨むように上を向いていた。
    「ねえ、明日は広場まで行って、みんなに俺たちが作ったショコラの感想でも聞いてみようよ」
     フェイスの小さな声は、影の形を追う限り確実にディノの耳へと届いていた。視線は動かさないまま、左手を這わせてディノの右手を探り当てる。尖った爪など怖くもない。家を留守にしてしまうからと、二人であらかじめ子供たちに配り歩いた甘いチョコレート菓子を、一生懸命に作っていたのは他でもないこの手だからだ。
    「……うん」
     遠慮がちに握り返す手に力を込めて、ディノの声は嬉しそうだった。繋いだ手の上を何やらふさふさの毛束らしきものが通り過ぎる。ディノの感情のままに、それは左右に揺れていた。萎びているよりはましかとむず痒さを堪え、解けた空気の中、フェイスはふと思い出したように、あるいは思いついたように再び口を開いた。
    「あ、ねえ、ディノ?」
    「ん?」
    「トリックオアトリート」
     お菓子か悪戯か。まさかフェイスに直接問われることなど想定していなかったというディノの表情は、みるみる情けないものに変わっていった。
    「えっと、フェイス、ごめん……この前のチョコレートはみんなに配り切っちゃったし」
    「うん、そうだね。……それで?」
    「今日はほんとに何も用意してなくて」
    「うん、知ってたよ。……だから?」
     繋いだ手を拠点にじりじりと距離を詰め出したフェイスから逃れるように、ディノは元気だった尻尾をその身体に引き寄せながらソファの背もたれに縮こまっていく。ディノが菓子のひとつも仕込んでいないことは、フェイスには想定済みだった。
    「あの……フェイス……その……」
    「今日は静かにしてなきゃだしね。声は出さないように頑張って?」
    「いや、ちょっと待っ……」
     フェイスはそっと腰を浮かせて、自らの細く長くうねるような黒猫の尻尾をディノの腕に巻き付けた。身を引き切って逃げ場のないディノが止めに入る前に、その膝を跨ごうと脚を開く。が、フェイスがディノを正面にする前に、嫌というほど聞き覚えのある、低く掠れたような声が聞こえた。
    「おいおい、勘弁してくれー」
    「な……」
     フェイスが声の方を振り返ると、ついさっきまでディノと二人きりだった部屋の真ん中に、黒いフード姿の男が立っていた。わざとらしく手のひらで両目を隠してみせているが、その左眼は元々眼帯で覆われている。
    「お盛んなこった、こっちはこんな日にまで仕事だってのに」
    「キース! 久しぶりだな」
     存外あっさりとフェイスの包囲網をすり抜けたディノが立ち上がる。狼男とろくでなしの死神との交友関係については置いておいて、フェイスにとってその訪問は「邪魔をされて面白くない」程度では済まされないものだった。彼の登場によってこれから何が起こるのか、容易に想像がつくからだ。
    「あんたって本当、俺の嫌がることしかしないよね」
    「こっちだってやりたくてやってるわけじゃねぇっつーの、元はといえばお前の兄貴が……っとそうだ、仕事仕事」
     死神はどこからともなく自分の背丈ほどもある鎌を取り出し、何もない空間へ振り下ろす。同時に放たれた青白く眩い光は、こんな日でも人間としての生を持つ者には見えないそうだ。光の裂け目に懐かしい人影が見える。それは怠惰を極めた魂の運び屋の副業を、最大限効率的に利用しているらしいフェイスの兄の姿だった。
    「邪魔をする。……久しぶりだな、フェイス」
     他人の家に入り込む時の礼儀を尽くして、ブラッドはディノに一礼し、フェイスの顔を見てぎこちなく微笑んだ。フェイスが長い間兄に対して抱えていた大きな勘違いは解けているが、次に越えなければならない試練はこのむず痒さであり、それは兄弟に等しく立ちはだかっている。和解の立役者ともいえる家主が微妙な空気を読んで口を開いた。
    「いらっしゃい、二人とも今日はどうしたんだ?」
    「オレは用があったわけじゃねぇよ、この暴君の依頼で飛んで来ただけだ……ったく、ハロウィンパーティーでタダ酒の予定が台無しだっつうの」
     悪態をつくキースの脇で、ブラッドは今度こそ気まずそうな咳払いをし、二秒後には再び冷静な顔を装いつつフェイスに向き直る。
    「……こちらに戻ると思っていたが」
    「帰ろうとしたけど……ちょっと用事ができて」
     「用事」の部分で思わずディノを見上げてしまったのを、実の兄は納得したようにかるく頷き、ほぼ真っ暗な部屋を見渡してため息をついた。
    「こちらの世界のパーティーはこれが主流だとでも? キース、復路の件だが」
    「げ」
     後方でごそごそと鎌を握り直し、あわよくばフェードアウトしようとしていたであろう死神を呼ぶブラッドの声は低かった。
    「人数が増えても構わないな? 代金は上乗せする」
    「へーへー、もう何でもいいわ……次期魔王サマに逆らう方が面倒臭え」
    「ちょっと待ってよ、俺は……」
     無意識にディノの腕を掴みながら、フェイスは声を張っていることに気が付き、語尾は尻窄みになる。今夜家に戻る気はない、と伝える前に、ブラッドはキースに金貨を手渡している。ディノは何も言わず、フェイスのすがる手にも応えない。家族の大切さを盾にされては、ディノの中にフェイスを引き止めるという選択肢はなかった。焦るフェイスの目の前で、キースは金貨の枚数を数え、諦めたように口を開いた。
    「はいはい、三人分、確かに」
    「よろしい。では頼む」
     キースが再び振り上げた鎌は青白い光を放ち、一瞬の間にキースの姿は見えなくなったが、ディノの部屋の真ん中には光の裂け目が浮かび上がる。
    「お前たち、何をしている?」
    「え……え?」
     呆けているフェイスとディノに向かって、ブラッドが眉間に皺を寄せた。
    「部屋の戸締りはできているように見えるが」
    「戸締り……あ、三人分って」
     ディノが合点がいったという声を出したと同時に、フェイスも兄の意図を掴む。フェイスが何か言う前に、ブラッドはもうこちらに背を向けて光の裂け目に足を踏み入れていた。
    「……邪魔されたのは残念だけど、あっちには美味しいショコラもあるし」
     掴んだままだったディノの腕を引く。戸惑いの色を隠さず、本当に良いのかと窺うような表情に、フェイスは微笑みで返した。
    「今夜だけ――アニキの悪戯に乗ってやろうかなって思うんだけど……ディノも付き合ってくれる?」
    「……もちろん」
     ディノはフェイスの手を傷つけないよう柔らかく握る。光へと向かう二人の影は歪なかたちで、けれどどこか楽しげに壁にその姿を伸ばし――数秒後。残ったのは再び暗く静まりかえった部屋と、通りからそれを照らすランタンの灯り、そして子供たちの賑やかな声だけだった。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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    てゐと

    DONEフォロワーさんからもろに影響を受けたので夏のジュドニコを教師パロで書かせていただきました!
    以前保健室の冷蔵庫にニコが自分のものを入れているってフォロワーさんのツイート、本当に大好きですこ~し拝借させていただきました…すみません、お許しを。まあでもいいですよね、最高。

    ジュード→養護教諭
    ニコ→生徒

    余談ですがジュードせんせが言っている「担任のアイツ」はあの人のことです
    とけだす、泡沫「うわ、あつ……」
     誰が何と言おうとこんなにも暑いのに、空調の世話に慣れない中途半端な、夏になりかけの季節だ。校舎の窓という窓が開けられて、何が好きで我慢大会をさせられているのかと涼を求めて保健室の扉を開けたのに。ニコが風の流れを作ったので、消毒液の匂いが混じった生暖かい風が頬をさっと撫でる――いや、頬をじわりと撫でつける。
    「なんだ、ジュードはいないのか」
     廊下とは違い、締め切られた空間の暑さには本当にうんざりしてしまう。文句を言いながらもペタペタと上履きを鳴らすニコの額を、つうっと汗が流れていった。拭うこともしないまま、我が物顔でずかずかと進む先には冷蔵庫があって、ニコは迷うことなく上段に手を掛けて、まずは冷気を浴びた。それからアイシング用の冷却材や氷嚢用の氷の山を手のひらで掻き分けて探し出したのは、プラスチックの黄色いパッケージだ。ジュードはあまりいい顔をしないが特に止めもしないので、保健室の冷凍庫には定期的に氷菓を忍ばせることにしている。食べては入れて、食べては入れて。随分と奥に仕舞い込まれていたところを見るに、随分とそれもご無沙汰になってしまったようだ。
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