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    つーさん

    @minatose_t

    辺境で自分の好きな推しカプをマイペースに自給自足している民。
    カプは固定派だが、ジャンルは雑食。常に色んなジャンルが弱火で煮込まれてるタイプ。
    SS名刺のまとめとか、小咄とか、思いついたものをぽいぽいします。
    エアスケブもやってます。お気軽にどうぞ。

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    つーさん

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    原作終了後のお話で、うちのラーヒュンが旅に出るきっかけの話はこんなんです、という感じになります。
    友情出演でアバン先生。ラーヒュンと言いつつ、クソデカ感情ブロマンスって感じだとは思います。いつもの。

    #ラーヒュン
    rahun
    #ED後
    ##ダイ大

    息の出来る場所(ラーヒュン)「貴様のその自己肯定感や戦闘以外の自己評価の低さは何なんだ」
    「は……?」

     不愉快そうな顔で告げられて、ヒュンケルはぽかんとした。あまりにも突然すぎる発言だったからだ。彼らは確か、他愛ない雑談をしていた筈なのである。
     ここは、カール王国に与えられたヒュンケルの私室だ。戦い続きの人生で肉体を損なった弟子を、王配となったアバンが引き取ったのだ。せめて、それぐらいさせてください、と。
     かつて、誤解から彼らの道は分かたれた。あの日、幼かったヒュンケルの手を離したことを、アバンは今も悔いている。その師匠の優しさに、顔向けなど出来ないと思いながらヒュンケルは甘えるカタチになった。
     ただそれは、彼がアバンを頼ろうと思ったのが理由では、ない。
     ヒュンケルを取り巻く人々は、身体を損なった彼を案じた。しかし、元魔王軍不死騎団長という彼の立場ゆえに、あまり人前に簡単に出ることも叶わない。ゆえに、アバンという最強の庇護者の登場に皆が喜んだのだ。
     自分を慕ってくれる弟妹弟子や、共に戦った仲間達の心配を、ヒュンケルはむげに出来なかった。優しく微笑むアバンの手を、拒絶することも出来なかった。結果として彼は、彼の事情をよく理解する女王フローラの許可の元、王配アバンに庇護されるカタチでカール王国に身を置いている。
     一方のラーハルトは、行方不明のダイを探して単身世界を巡っている。手がかりの無い状態で、それでも敬愛する主人を探すことを諦めない男だ。その道中、時折こうしてヒュンケルの姿を見に来るのだ。
     ラーハルトは、まず間違いなく、ヒュンケルにとって数少ない友人と呼んで良い相手だ。魔族との混血であり、見た目がほぼほぼ魔族であるラーハルトだが、通達の行き渡っているカール王城では顔パス状態で中に入っている。
     今日もそんな風に、二人で他愛ない話をしているだけだった。それだけだったというのに、冒頭のラーハルトの台詞である。ヒュンケルには何のことかさっぱり解らなかった。
     ヒュンケルに己の言葉が通じていないことに気付いたのだろう。或いは、気付いているからあんな台詞を言ったのか。ラーハルトは面倒くさそうに口を開く。

    「貴様は、戦士としての己の力量は正しく評価するというのに、何故個人としての己への評価をそこまで低く見積もる」
    「別に、低く見積もってなど、いないが……」
    「低い。……よもや貴様、未だに人間共にいらん引け目を感じているのか」
    「いらん引け目では、ないだろう」

     暴言と紙一重なラーハルトの言い草に、ヒュンケルは困ったように笑った。半魔族であり、人間達の不理解によって人間の母親を亡くした過去を持つラーハルトは、人間に対して辛辣だ。ダイを取り巻く一部の人間以外を認めようとはしていない。
     だが、ヒュンケルは違う。人間として生まれ、魔物に育てられ、人間と魔族に師事し、誤解から人間の敵として存在した。魔王軍として彼が成したことの多くは、今も世界各地に傷跡として残っているだろう。ヒュンケルは確かに有能だった。人類にとって不運なことに。
     だからこそ、己が過去に抱く感情を、引け目や負い目という軽い言葉で片付けてはいけないと、彼は思っている。かつて魔王軍として己がしでかした全てを、逃げずに受け止めようとヒュンケルは決めたのだ。
     だが、その生真面目な思いこそが、ラーハルトにしてみれば「いらん引け目」以外の何でもなかった。尤も、ラーハルトだけでなく、ヒュンケルに近しい多くの人々がそう思うだろう。

    「貴様が過去に人間にしたことなど、その後に大魔王を倒すまでに成したことで、十分に釣りが来る」
    「そう言えるのは、当事者ではないからだ。俺のせいで家族や故郷を失った多くの人々にとって、俺は忌むべき存在であろうよ」
    「では貴様は、そうやって人間共への悔恨だけで己の器を満たすつもりか」
    「ラーハルト」

     表情こそ変わらないが、声に感情が乗り始めている親友にヒュンケルは困惑した顔をする。何がラーハルトをそこまで激高させているのかが、ヒュンケルには解らなかった。
     彼には、そういうところがあった。己への評価が歪過ぎるのだ。周囲がどれほど彼を大切に思っても、治らない。
     いや、近しい人々が己を大切に思ってくれることは理解しても、大多数の人間にとっての己は忌むべき存在だと信じていると言うべきだろうか。魔物であるクロコダイン達の方が、まだ自己肯定感を正しく宿している。
     そのことを、ラーハルトは痛感していた。確かに愛されて育った過去がある筈だというのに、まるで壊れた器のようにヒュンケルはそれらを正しく己の内側に残せていない。哀れで歪で、どこまでも愚かしい魂と言えた。
     だからこそ、覚悟を決めたようにラーハルトは口を開く。友として、……そう、ただ一人だけの友として、これは己が言わねばならぬことなのだと決意して。

    「よく分かった。……貴様は、この国に留まるべきではない」
    「ラーハルト?突然、何を……」
    「今の貴様を、人間の中に置いておくのは悪手だ。身体は癒えたとしても、魂は腐り落ちるだけに過ぎん」
    「それは、どういう……」

     どういう意味だ、とヒュンケルは問いかけることが出来なかった。ベッドの上で半身を起こしていたのが、一瞬で倒されている。ラーハルトの片腕で倒されて、そして、首を手で掴まれている。
     力は入れられていない。ただ、奇妙な圧迫感だけはあった。

    「ラーハルト、何を……」
    「選べ」
    「……は?」
    「俺と共に来るか、このまま腐り落ちるか。……後者を選ぶというのなら、せめてもの慈悲だ。苦しまずに殺してやろう」
    「ラー、ハル、ト……」

     友と呼び合う男から突然選択肢を突きつけられて、ヒュンケルは困惑した。しかも、内容が内容だ。しかし、ラーハルトは本気だった。ヒュンケルの首にかけられた手に、じわりと力がこもる。
     答えを、ヒュンケルは返せなかった。あまりにも突然すぎて、何故こんなことになっているのかが解らなかったのだ。そのヒュンケルに焦れるように、ラーハルトの指はじわじわと彼の首へと食い込んでいく。
     あと僅かで痛みを感じるほどに指が食い込むと思われたとき、柔らかな声が割って入った。

    「流石に、可愛い弟子を殺されるのは困るのですが」
    「……アバン」
    「現れたか、大勇者」
    「そちらの名称は、あんまり好きじゃないので勘弁してください。今の私はあくまでもカールの王配ですし」

     困ったように微笑んで佇んでいるのは、アバンだった。その笑みはいつも通りだ。
     言葉と裏腹に、彼の態度にラーハルトを咎めたり止めようとする意思は見受けられなかった。ただ、ヒュンケルを見つめる眼差しは優しい。
     人を逸脱した能力を有した、かつての勇者。アバンの使徒と呼ばれる勇士達の師。今となってはカールの王配として人間社会に溶け込んだ男は、おっとりと笑う。
     ただ、その瞳だけが優しさと厳しさを有したまま、ヒュンケルとラーハルトを見つめていた。彼らの選ぶ道を、見定めるように。

    「ラーハルト、貴方の言いたいことも分かります。そして、それが言えるのは貴方だけであろうということも」
    「分かっているならば、邪魔をしないでもらおうか」
    「邪魔をするつもりはありません。……けれどその子は、貴方の憤りも、厳しいまでの優しさも、分かっていないようですから」
    「……先生」

     睨み付けるラーハルトに苦笑して、アバンはヒュンケルに視線を向ける。穏やかで優しい、弟子達を慈しむ師匠の顔だ。そんなアバンに、ヒュンケルは困ったような顔をする。
     アバンの言葉は、正しかった。ヒュンケルには、ラーハルトが何を怒っているのかが分からない。
     ただ、ラーハルトが怒る理由は分からないが、一つだけ、分かることがあった。
     ラーハルトの言うように、自分が今の生活に息苦しさを感じている、ということだ。多くの優しさに包まれている。沢山の人々の優しさに慈しまれて、療養するようにと庇護されている。とても温かい世界だというのに、彼は居心地の悪さを覚えていた。
     だが、そんなことを、口に出来るわけもなかった。
     行く当てのない己を引き取ってくれたのだ。その優しさに感謝こそすれ、それが苦しいなどと、言えるわけもない。表に出したことも、口にしたこともなかった。なのに、ラーハルトは見抜いていたのだ。……そして、アバンも。

    「先生、俺は……」
    「私にも、他の皆にも、遠慮をする必要はないんですよ、ヒュンケル。確かに貴方の身体は無理が利きません。静養を進めるのが普通です」
     
     ですが、とアバンは言葉を続ける。その表情は優しく、けれど口調は茶目っ気たっぷりだった。

    「身体の休養と、心や魂の休養は別問題です。貴方の性格を思えば、ベッドで大人しくしている方が苦しいのは当然ですよね」
    「……別に、そういうこと、では」
    「おや、違うんですかぁ?だって貴方、すぐに療養先から抜け出すって皆が言ってましたよ?」
    「それは……!」

     戦いの日々のことを持ち出されて、ヒュンケルは慌てたように叫んだ。確かに、大人しく療養していろと言われるのを振り切って、戦場に身を置いてきた。お前は不死身かと言われながら、己の身体を酷使してきたのは事実だ。否定できない。
     けれどそれは、あの頃は時間も人手も足りなかったからだ。大人しく休んでいる間に、仲間が傷つき倒れる可能性があった。それだけの話だ。
     ……そう、それだけの、話の筈だった。
     世界は平和になった。ヒュンケルが戦う必要はもうない。大人しく療養して良い筈なのだ。
     それなのに彼は、その生活を息苦しく感じ、徐々に精神を疲弊させていた。己が自覚するよりも、ずっと。ラーハルトの言葉を借りるならば、今のヒュンケルはじわじわと腐り落ちていく過程なのだろう。

    「ヒュンケル」
    「ラーハルト……」
    「俺は貴様という男を知っている。……貴様には、真綿のような優しさは受け入れられんのだ。己に向けられる優しさに、申し訳なさを感じるような男だ」
    「……そうだな」

     優しく労られるのも、大切に慈しまれるのも、知っている。幼い頃、父が確かに与えてくれた温もりをヒュンケルは知っている。けれど、犯した罪が、彼が重ねた人生が、今こうして与えられる無償の優しさを、唯々諾々と受け入れることを許さなかった。
     もう二度と武器を握ることは出来ないと言われた。戦えない身体を抱えて、どこへ行けば良いのかすら分からない。それでも、籠の鳥のように優しい場所で留まるよりは、外の世界をさすらう方がよほど彼の性に合っていた。

    「共に来い、ヒュンケル。貴様一人連れたところで、俺が後れを取る相手などそうそういない」
    「……こんな荷物を抱えようとは、お前も物好きだな」
    「物好きで結構だ。……貴様が朽ちては、ダイ様が戻られたときに悲しまれる」
    「そうか」

     口元を緩めて告げられた言葉は、とってつけたような言い訳めいていた。それでも、ヒュンケルは不器用な友の言葉に笑みを浮かべる。ありがとう、と。

    「と、言うわけだ。悪いがこの男は連れて行く」
    「はい、よろしくお願いします。そうですね。経過報告も兼ねて、たまには顔を出してもらえると嬉しいです」
    「考慮しよう」

     不遜な態度のラーハルトと、丁寧な物腰のアバン。何とも珍妙な二人のやりとりを、ヒュンケルはのろのろと身体を起こしながら聞いている。既に首からラーハルトの手は離れているが、込められた力の強さを物語るようにうっすらと指の跡が残っていた。
     その跡はヒュンケルには見えないが、友の指が触れていた熱は分かる。そっと自分の手で首をなぞり、目を伏せる。殺すと告げられたというのに、不思議と恐怖はなかった。自分を見つめるラーハルトの瞳に、確かな情を見出していたからだろう。
     彼が、自分の不利益になるようなことをしないと、ヒュンケルは知っていた。口は多少悪いが、性根は真っ直ぐな男だ。お前には言われたくないと言われそうだが、ラーハルトはそういう男だ。……つまり彼らは、似たもの同士なのだ。
     この城を出る。アバンの庇護下から離れる。じわじわと湧いてくる実感に、ヒュンケルは息を吐いた。戦えない自分が、ラーハルトの旅の重荷になるのは分かっている。分かっていた。それでも、伸ばされた手を、取ってしまった。
     きっと、場所は関係ないのだ。あの親友の傍らならば、自分はひどく自然に息をすることが出来るだろう、と。負い目も引け目も関係ない。ただの自分でいることを許してくれる、自分がそれを許せる、たった一人だけの友だった。



     かくして、不器用な二人の男の旅路が始まる。いつか、彼らの大切な勇者に手が届く、その日まで。


    FIN
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