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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    POIPOI 52

    いなばリチウム

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    https://poipiku.com/594323/5954251.html
    これと同軸の話。(読まなくても大丈夫!)
    付き合いたてほやほやのフィガ晶+双子の話。

    付き合いたてのフィガ晶+双子 フィガロと、いわゆる恋人としてのお付き合いが始まった。まさかそういうことになると思わなくて、「じゃあ、改めて、これからよろしくね、賢者様」とフィガロが差し出してくれた手を反射的に力いっぱい握ってしまった。
    「は、はい! よろしくお願いします!!」
    「あはは、情熱的だね」
     運動部の挨拶じゃないんだから、と我ながら恥ずかしくなるくらい声を張ってしまった俺に、フィガロは優しい笑顔を向けてくれた。

     それで、何が変わったかというと、別に、大きな変化はなかった。

     他の人に気を遣わせてしまったら申し訳ないし、と二人の仲を誰にも言ってはいないものの、人前でも、二人きりの時にも、今までと距離感は変わらなかった。ちょっと寂しい気がしたけれど、いやいや! と俺は首を振る。付き合うにあたって、あれをしよう、これをしようと具体的に話したわけじゃない。それに、前も、今も、俺はフィガロのことを好きなのと同じ位、彼と一緒に過ごす時間が大好きだ。一緒にお茶をしたり、買い物したり、眠れない夜にはとりとめのない話をしたりする、そんな時間が。それに、何一つ変わらないわけじゃない。人込みの多いところで、はぐれないようにという気持ちもあって手を繋げば、小さく笑って握り返してくれたりだとか、シャイロックのバーに行く回数が少し減って、その替わりに俺の部屋でのんびり過ごすことが増えたりだとか。少しずつの変化だけれど、その一つ一つが愛おしかった。それに、フィガロは気さくに接してくれるけど、俺よりもずっと、ずっと長生きしている魔法使いなのだ。他の人を知らないから分からないけれど、長寿の魔法使いから見れば俺はきっと子供みたいなもので、だから、

    ***

    「あの、だから、何もなくても、仕方ないのかなって……不満があるとか、そういうのでは全然ないんですけど……」
     冷めてしまったマグカップを、無駄と知りながら両手で何度も包みなおす。椅子に腰かけた賢者の両際で、最初は『賢者ちゃん、我らと恋バナしよ!』『フィガロちゃんとお付き合いしてるの、知ってるんだからね!』とキャッキャしながら目を輝かせていた双子は、話が進むにつれ段々怪訝な顔つきになっていった。
    「「ふむ……」」
     揃って同時に首を傾げた双子に、賢者は慌てて笑顔を作る。
    「ごめんなさい。恋バナにならないですよね……忘れて下さい」
    「いやいや、すまぬのう。我らこそ、少しはしゃいでしまった」
    「賢者ちゃんは何も悪くないからね! 謝るでない」
     ね、と両際から見つめられ、圧に負けて賢者もこくりと頷いた。その間に、双子は互いに目配せする。
    「じゃあ、我らはそろそろ退散するかの」
    「仕事の邪魔してごめんね、賢者ちゃん」
    「いえいえ、俺こそ良い休憩になりました。ありがとうございます」
     元々、賢者が書類仕事に根を詰めすぎるからと、息抜きも兼ねてやってきたのだ。律義に頭を下げた賢者に手を振り、スノウとホワイトは部屋を出ると、そのままひそひそ話を始めた。
    「どう思う? スノウ」
    「どうもこうもないのじゃ、ホワイト」
    「我ら、考えることは同じじゃな?」
    「もちろん」
     同じ顔を見合わせ、うんうんと頷き互いに鼓舞し合うよう手を上げる。
    「「れっつごー!」」


    ***

     うわっ ……いえ何でも。なんですかお二人で俺の部屋に来るなんて。どう考えても治療目的じゃないですよね。嫌な予感しかしな……、……何で知ってるんです? ああいや、お二人が気付かないわけないですよね。……そうですよ。賢者様と、恋人として正式にお付き合いしてます。それが何か? ……そのままの意味ですよ。色々あったし、俺も俺なりに色々考えたんです。え? 手を繋いだだけ……って、それ賢者様から聞い、……まあ、想像つきますけど。賢者様に強引に迫って聞き出したんでしょう? 賢者様は優しいから、つい話してしまっただけ、って分かってますよ。責めたりしません。え? ……随分掘り下げますね。弟子の色恋沙汰にそんなに食いつくタイプでしたっけ?
     別に、俺も賢者様を大事にしたいというか……言わせないで下さいよ……。そもそも、賢者様もそんなにがっつく感じじゃないでしょう。まだ若いとは言え、魔法使いと付き合うなんてもちろん俺が初めてだろうから戸惑うことも多いだろうし。俺はお二人程じゃなくても長く生きてますし、気は長い方だし、賢者様の心の準備が整うまで待ってようかなあと思ってるだけです。それが包容力ってやつじゃないですか? あはは、いかにも南の優しい先生、って感じでしょう?

    ***

     ドアを開いた途端、嫌そうな顔を隠しもしなかったフィガロは渋りながらも、両際から質問攻めにされるがまま、滔々と語った。双子は、「はああああ~~~~」と長い溜息を吐き、次に「すうううう」と吸い込むと、

    「話し合わぬか!」
    「コミュニケーション不足じゃ!」

     と、声を張り上げたので、フィガロは思わず耳を押さえた。
    「急に大きな声を出さないで下さいよ……驚くじゃないですか」
    「驚いたのはこっちじゃ!」
    「あ~あ! 賢者ちゃんかわいそ~!」
    「時々からかいつつ見守ってあげようと思ってたけどもう無理~!」
    「はあ?」
     怪訝な顔つきのフィガロに、スノウとホワイトは両際で交互に話し始める。全てではないが、晶との会話のほんの一部だ。恋人としての付き合いに、何も不満はないと言ってはいるものの、寂しそうな顔をしていたこと、大きな変化がないことを、晶自身は、長生きの魔法使いならそういうものなのかな? と受け取ってしまっていること。ということは、フィガロが『待って』いる間は当分何の変化も起きないのでは? というか、そのあたり、ちゃんと話し合わぬか! これだからフィガロちゃんは! などなど。
     最初は、師匠二人がなんかうるさいなあ、という顔を隠しもしていなかったフィガロだったが、話が進むにつれ段々真顔になり、「ふうん……賢者様がねえ」と独り言のように呟いた。
    「そうですね……確かに、俺が勝手に待ってただけで、きちんと話したことはなかったな」
    「「ほらあ!」」
    「お二人に言われて行動するのは癪ですけど、後で賢者様と話してみますよ」
    「癪って言った?」
     むむむ、と唇を尖らせたものの、双子は用は済んだでしょうと言わんばかりにこちらに背を向けたフィガロを再び両際から挟み込み、体を無理やりドアの方へ向けた。
    「うわ、なんです。まだ何か?」
    「今じゃ!」
    「今行くんじゃ!」
    「善は急げじゃ!」
    「ちょ、ちょっと……」
     ぐいぐいと背中を押され、自分の部屋から追い出される形になったフィガロはそれでもまだ抵抗した。
    「大体、賢者様は仕事中でしょう。理由もなく部屋に邪魔しに行くのも、」
    「この期に及んでまだ言っておる!」
    「あのねえ、フィガロちゃん、理由なんて――」

    ***

     コンコン

     戸を叩く音に、晶は顔を上げた。元々得意とは言い難い事務仕事に頭も体も悲鳴をあげていたところだったので、その音は作業を中断するのにちょうど良いきっかけだった。
    「はーい! 今開けます」
     やるときは一気にやってしまいたい、そもそも賢者として自分が役に立てる仕事もそう多くないんだし、明確に自分にしかやれない仕事くらい、と思いながら書類に向かっているとついつい休憩や食事がおろそかになるのを見越して、双子を含め他の魔法使いも時々手土産と一緒に部屋にやってくることがあった。気遣われることが申し訳ないと思う反面、そんな優しい人達のためにもがんばろう、とも思う。だからこのノックの音も、もしかしたらその内の一人かも、と思いながら戸を開けた。
    「……やあ、賢者様」
    「! フィガロ」
     そこにいたのは、晶ががんばりたいと思う理由の中でも、一番に顔が浮かぶ人物だった。いつも通り、穏やかな笑みを浮かべてはいるが、少しだけ困ったように眉尻を下げている。
    「こんにちは。えっと、どうかしましたか?」
    「ああ、いや……」
     珍しく、言葉に詰まったように言い淀み、それから、
    「恋人に会いに来るのに、理由がいるかな?」
     そう、照れたように笑ったので、晶もつられてじわじわと赤くなっていく。
    「えっ、いや、そんな、あの……」
     付き合い始めて、明確に大きな変化があったわけではない。だからこそ、こいびと、とはっきり口に出されるのも慣れていなかった。けれど、
    「……会いに来てくれて、嬉しいです。フィガロ」
     消え入りそうな声で、それでも顔を上げてそう言うと、フィガロもどこか安堵したように笑ったのだった。

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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主般/さにはにゃ(男審神者×大般若)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    主に可愛いと言わせたくてうさぎを買ってきたはんにゃさん
    「どうだいこれ、可愛らしいだろ?」
    主に見せたのは最近巷で話題になっている俺たち刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。といっても髪色と同じ毛皮に戦装束の一部を身につけているだけだが、これがなかなか審神者の間で人気らしい。
    「うさぎか?」
    「そうそう、俺のモチーフなんだぜ」
    うちの主は流行に疎い男だ。知らないものを見るときの癖で眉間にシワを寄せている。やめなって言ってるんだがどうにも治らないし、自分でも自覚してるらく指摘するとむっつりと不機嫌になる。そこがこの男の可愛いところでもあるがそれを口にすると似合わんと言ってさらにシワが深くなるからあまり言わないようにはしてる。厳しい顔も好きだがね。
    そんな主だから普段から睦言めいたものはなかなか頂けなくて少しばかりつまらない。そこでちょっとこのうさぎを使って可愛いとか言わせてみようと思ったわけさ。
    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    冬至の日に書いた
    いっしょにゆず湯に入るだけの話
    冬至の柚子湯


    一年で一番日が短い日、普段は刀剣男士たちが使っている大浴場に来た。仕事を片付けてからきたから誰もいない。
    服を脱いで適当に畳んでから、旅館のような脱衣籠に置いておく。磨りガラスのはめ込んである木枠の戸を横にひけばふわりと柔らかい湯気があたり、それにつられて奥を見てみれば大きな檜風呂には黄色くて丸いものが浮かんでいた。
    普段は審神者の部屋に備えてある個人用の風呂を使っているのだが、近侍から今日の大浴場は柚子湯にするから是非入ってくれと言われたのだ。冬至に柚子湯という刀剣男士たちが心を砕いてくれた証に彼らの思いに応えられるような審神者になろうと気が引き締まる。
    「柚子湯なんて本丸くるまでしたことなかったな」
    檜に近寄って掛け湯をするだけでもゆずの香りが心を安らげてくれる。
    さて洗おうかと鏡の前へ椅子を置いて腰掛けた時、脱衣所への戸が音を立てた。
    「ここにいたのか」
    「なんだ、まだだったのか」
    素っ裸の大倶利伽羅が前を隠しもせずはいってくる。まあ男湯だし当然なのだが。
    探していたのかと聞けばまた遅くまで仕事をしているのかと思ってなと返されてしまう。日頃の行いを振り返っている 1909