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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    2016年4月頃に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた時のボツネタ色々。完成版含め年内にpixivに載せるぞという尻叩き兼ねて一旦ここに載せておきます!3本あるけど全部未完。多分これ締め切りまでに間に合わないなってなって路線変更3回してます。なんせ6年前なので色々無理はあるかも。

    #主へし
    master

    初夜色々(3本立て未完)初夜①
    没理由:初夜に辿り着きそうにない
    あらすじ:政府の命令で一般女性と結婚することになった審神者の話

    ---

     真っ白な部屋だった。
     控室とは名ばかりだ。窓ひとつなく、腰かけている椅子が一つだけの部屋。出口といったら傍にある扉一つ。その扉の前には男が一人立っていて、逃げ道などどこにもない。
    「もう少しで新婦様のご準備が整いますので、お待ちくださいね」
     居心地の悪さからもぞりと体を動かすと、その度に機械のような正確さで全く同じセリフを繰り返すその人間の気味の悪さといったらなかった。薄っぺらな微笑を顔に張り付けた男は、あちらの手の者にいくら握らされたのか、私が少しでも不審な動きをしないよう監視しているのだ。
    「さっきからそればっかりだ。私の花嫁は、支度にずいぶん時間がかかっているようだな」
    「ええ、ええ。それはもう、花婿様のためですから」
    「へえ」
     つい口元に笑みが浮かんだ。
    「まともに顔を合わせたのなんて一回きりなんだ。どう着飾ったところで私には違いなぞわかりゃしないと思うがなあ」
    「……」
     さすがに黙ったのは、私のいうことに一理あったからか、それとも相手をしても無駄だと判断したからか。いや、両方という可能性もあるか。
     しかし、やつあたりしたところで私の気が晴れるわけでもなく、他にすることもないので再び真っ白な天井を見上げるしかなかった。真っ白な天井。真っ白な壁。そして白い衣服に身を包んだ私。顔もおぼろげである女との結婚披露宴を目前にしながら、私はひどく陰鬱な気分だった。


     私は元審神者である。縁あってとある本丸の管理を長く任されていたが、それを解任されたのがついこの前のことだった。
     本当に長く、長く、その本丸で過ごしてきた。戦績は悪くなかった。顕現可能である刀の多くを所有していたし、少しでも歴史に異変があればいち早くデータを集めて政府に提出していた。そうだ、むしろ優秀な方であったと思う。だから納得がいかなかった。どうして、なぜ、とこんのすけを問い詰めた。そいつは詳細を語るのを拒んだが、宥め、脅しながらなんとか吐かせたところによると、どうやら優秀であり過ぎたのがいけなかったらしい。現代では審神者不足なんだそうだ。数年前に審神者条件を大幅に弛め、年若い審神者が一気に増えたはずなのだが、数だけで対抗できるほど、歴史改変主義者たちは甘くなかった。霊力も経験もそれほどない若い審神者が、急激に増えて、そしてすぐに減った。長くもたないのだ。演練で見かけた若者が次の週にはげっそりと窶れて、すぐに見かけなくなるなんてことはよくあった。そこで政府は次の手段に出たのだという。審神者跡継ぎ計画だ。嵩増しでは意味がない。優秀な審神者をピックアップして、その霊力を受け継いだ子供を計画的に育てていく方が長い目で見れば現実的であり、かつ将来性があるのではないかと彼らは気付いた。それは別にいい。好きにやってくれと思う。ただ問題は、そのピックアップが未婚既婚関係なく、本人の意思すら関係なしにされてしまうことだった。私自身には結婚歴はなく、今後もするつもりはない。私のような審神者はそう少なくはないと思うのだが、お偉い方々はお構いなしだ。現世ではやはり霊力が高い家柄の娘が用意されていて、私は――厳密に言えば我々は、今いる本丸を他の審神者もしくは政府の手に渡して、未来の審神者を作る方に、つまりは子作りに励めということらしかった。
     馬鹿げた話だ。随分悪趣味な作り話だと、私は笑おうとした。しかし、全てを話したこんのすけが出した電子データには、その馬鹿げた計画の全てが、ところどころ開示不可の文字が踊っていたが確かに記されていた。百歩譲って子を作ることはまだいい。将来を決められた子供が幸せかどうかはわからないが、未来のために、今までの守ってきた歴史のためにそうしろということならば、考えないでもない。しかし、何も審神者を辞めなくともいいだろう、とも食い下がったが、それもやはりこんのすけは表情一つ変えず却下した。跡継ぎは一人いればいいものではない。片手間に審神者業をされても困る、と。私の本丸は優秀すぎたのだ。私の手を離れたとしても、残った優秀な刀たちであれば、多少力不足の審神者が就任したとしても運営にそこまで大きな影響は出ないと判断されたらしい。
     しかし。でも。
     
     何を言っても無駄だった。無駄なのだと、わかりながらも私は抵抗した。
    『あなたも役人であればお分かりでしょう? ねえ?』
     最終的にこんのすけは諭すような声すら出した。
     拒否権なんてない。そういうことだ。従えば報酬が出る。逆らえば路頭に迷う。どちらに転がったところで私が本丸から追い出されることに変わりはない。だからといって、そんな、人の気持ちを無視した計画がまかり通るのかと、やはりしぶとくこんのすけを責めたけれど。
    『そんなことを言われましても』
     こんのすけの言葉は政府の言葉だ。
    『たかが一人の人間の気持ちと歴史改変の阻止、天秤にかける間でもないでしょう?――どうしても逆らうというのであれば……』
     諦めの悪い私へ、それが決定打だった。ス、とこんのすけの丸い瞳が細まる。
    『聊か勿体なくはありますが……この本丸を消して、帰る場所をなくせば貴方も従うしかありませんね?』
     刀剣達に罪はない。人の都合で振り回すことに申し訳なく思ったが、それでも、消されてしまうよりはいいと、私は審神者解任を受け入れた。

     一時間。
     それが解任を知らされた後の私に許された、本丸での最後の時間だった。たった一時間。余計な事をしないようにという向うの目論見が見え見えだった。そこまでしなくとも、政府に不都合なことは喋れぬよう、小細工をされていたので、私は私の刀たちに真実を告げることができなかった。ただ私が諸事情から審神者を辞めること、それでも皆は政府に従い、今まで通りの生活をするよう伝え、身勝手な行いへの謝罪と、長きに渡って仕えてくれたことへの礼を述べた。皆驚き、私がこんのすけを問い詰めたように、なぜ、どうして急に、と私を囲んで口々に言った。
     『現世で子作りに励まないといけないんでね』という真実は、喉を通った途端『一身上の都合でね』という音になって耳に届いた。何を聞かれてもそうとしか答えられなかったので、一時間はむしろ余った。特定の話題に触れると壊れた機械のように同じことを繰り返す私に何かを察したのか、初期刀を始め次第に静かになった。
    『主が決めたことなのか』と誰かが言い、私は首を横に振って『そうだ』と答えた。『ぬしさまはそれでいいのですか』とまた誰かが言い、私は泣きながら『いいんだ』と答えた。「ごめん」という言葉は『今までありがとう』と変換された。
     ただひとり、へし切長谷部だけが、終始黙ったままだった。私は彼にこそ伝えたいことがたくさんあったのに。傍に来てくれれば何か伝える手段があったかもしれないが、彼は一人離れ、壁の模様のように突っ立っているだけだった。何度か目があったような気がするが、ぼやけた視界ではそれもよくわからないままだった。
     そうしてるうちに一時間経って、私はこんのすけが連れてきた政府の人間たちに連れられ、本丸を去った。へし切長谷部に「すまない」も「ありがとう」も、「ずっと好きだった」も言えないままだった。

     現世に戻った後は何もかもが流れるように過ぎていった。本丸から離れ、戦いからも離れた生活に意味を見いだせず呆けているうちにどこぞの家の娘との顔合わせは済み、形だけの入籍かと思えば、向こうの希望で式を挙げることになっていた。それもいつの間にか、だ。ほとんど何も知らない男との結婚に希望を見いだせないが、せめて夢だった花嫁衣裳を着て結婚式を上げることはしたい、とのことだった。妻となる娘の両親に責めるように言われた。責めるならお門違いだと思ったが言い争うのも面倒で、どうぞご自由に、と返したので、私は今ここにいる。
     何度も見た部屋の扉に目を遣る。その前に立つ人間と目が合い、逸らした。現世へ戻ってからこちら、私から監視の目が離れることはほとんどなかった。抵抗らしい抵抗はしなかったはずだが、私が逃げ出すとでも思っているのだろうか。あるいは、変な行動を起こしたらすぐに処理するためかもしれない。うんざりするほど項目の多い健康診断に、屈辱とも思える生殖機能の確認作業で、抵抗する気も失せたとは思わないのだろうか。
    「準備ができたようです。どうぞこちらへ」
     扉が開き、乱暴ではないが有無を言わさない手が俺を立たせて、外へ押しやった。
     いっそ自暴自棄に暴れたいところではあったが、本丸に残った私の刀たちのことを思うとそれも出来ない。
    「それでは誓約をしていただきます」
     神父が厳かに言う。向かいには私の妻となる女がいた。顔を上げるのが億劫だ。純白のドレスと、レースと花がふんだんにあしらわれたベールが見える。
    「新婦、――家、*****。貴女は、健やかなるときも病める時も、彼を愛し、一生添い遂げることを誓いますか」
     はい、と不機嫌そうな声。そりゃそうだろう。彼女も不運ではある。夢だったという花嫁衣裳を着たところで、隣に立つのはろくに知りもしない、そして彼女自身に興味もなく、顔を見ようともしない非情な男だ。しかし、恨むなら自身の生まれを恨んで欲しい。
     形だけとは言え頷いた女の次に、神父は私の方へ体を向ける。
    「新郎、貴方も彼女を愛し、生涯大切にすることを誓いますか」
    「……私、は」
     私の喉には既に小細工はされていなかった。ここまで来ればもう従うしかないからだろう。その通りだ。もう後戻りは出来ない。何十という視線が私に向いている。ここで私一人暴れたところでもう、どうにもならないのだと分かっていた。けれど。
    「…………」
     新婦が不審げに私を見た。言葉を発さない私に、政府の人間であろう数名がひそひそと言葉を交わしているのが見て取れる。術具を持った人間がこちらへ近寄ろうとするのも見えた。何もかも、嘘と偽りばかりだ。私はもう、どうでもよくなった。
    「誓え、ない」
     特別声を張ったわけではないが、しんと静まり返った教会の天井に、私の声は弱く、反響した。なにをいうの、と女の唇が動く。嘘ばかりのこの空間で、私だけは真実を言いたい。
    「誓えないと言ったんだ。……俺の、命も、体も、全て俺の刀達に捧げている。貴女には、誓えない。ましてや愛など」
     顔を上げれば、最早飾りばかりの聖書を閉じた神父と目が合った。藤色の凪いだ瞳だった。
    「お前以外に、誓うつもりはない」
     強く言い切ると同時に、神父の唇が弧を描いた。綻ぶように薄く開き、常人よりも尖った犬歯が覗く。凪いでいた瞳に熱が宿った。
    「ああ……主!」
     感極まったその声に、俺自身も知らず口元が緩む。招待客はざわめき、警備の人間がこちらに駆けよってくるのが見えたが――もう遅い。
    「ありがたき幸せ!」
     憎らしい程綺麗に磨かれた大理石の床に聖書が落ちるよりも早く、刀が抜かれる。ぎらりと光る刀身を目にした途端、女が甲高く耳障りな悲鳴をあげたが、傍で男の首が飛ぶと「ひっ」と掠れた音を最後に静かになった。一番に首が飛んだのは、俺を監視していた男だ。素早く俺に駆け寄ろうとしたのが運の尽き。仕事熱心なのも考え物だ。
     しかし綺麗に飛ぶもんだと切り口を見ていると、一瞬の後に鮮血が噴き出る。女の真っ白なドレスはあっという間に赤く染まり、俺自身のタキシードにも血飛沫が飛んだ。床は見る見るうちに血だまりが広がり、気絶した新婦のドレスは最早深紅色だ。刀を納めた長谷部は血溜まりに膝をつき、首を垂れた。
    「主、お迎えに、」
    「おーおー、こりゃあ派手にやったな」
     跪いた長谷部の言葉の途中で、すぐ後ろの空間がぐにゃりと歪んだ。姿を現したのは鶴丸国永だ。ぐるりと辺りを見回すと、俺に目を止めて顔を綻ばせる。
    「よっ。迎えに来たぜ、主」
     言葉もなく立ち上がった長谷部が不満げな表情をしているのがなんだかおもしろい。
    「いやあしかし」
     俺の恰好を上から下まで見て、背後に忍び寄っていた警護の人間を振り返りもせずに斬り捨てると、鶴丸は声をあげて笑った。
    「赤く染まって、鶴っぽいな。お揃いだ」
    「……揃い、ねえ」
     言われるままに着た服ではあるが、汚れ一つなかった真っ白な衣装が見事に返り血に染まってしまうと、どうしても「これは洗ってもだめっぽい」みたいな感想が浮かんでしまう。
    「はいはい、そんなのいいから、さっ!」
     言い合っている間にも俺達を捕らえようと飛びかかってくる人間を切り捨て、加州清光が艶やかに笑う。
    「再会を喜ぶのも、お喋りするのも帰ってから。まずはここ、片付けちゃおうよ」
     普通の招待客や親族らしき人間はそこかしこの床で蹲り、ある者は放心し、ある者はえずいていた。外と連絡を取っている政府側の人間数人を除けば、残りは俺達から遠ざかるように後ずさっている。当然の反応だろう。その先頭でぶるぶると震えているのは、こんのすけだった。
    「なんということを……」
     こいつも返り血を浴びたのだろう。柔らかだった毛は濡れて張り付いてしまい、一回り小さくなった体は貧相に見える。
    「なんという、惨い……」
    「惨い~?」
     床に転がった死体を一瞥し、愉快そうな笑い声が反響する。
    「これって、俺達から主を奪うよりも、惨いことかなあ」
     心底不思議そうに首を傾げた清光に同調するように、刀たちはくすくすと笑っている。そうだ。そもそも奴らが俺と、俺の大事な刀達の間を引き裂かなければ、罪のない……多分、命じられただけだろうから罪はないはずのあの男も、ほかの人間達も、死ぬはずがなかったのに。うんうんと頷く俺に、こんのすけは非難めいた目を向けた。
    「こんなこと、許されると思っ」
     目と同じく俺を非難していた口は全てを言い終わる前に縦に裂ける。白い刀身がその体を真っ二つにすると、こんのすけは鳴き声一つあげず、ほろほろと崩れるように肉塊になってしまった。
    「喧しい狐じゃ」
     べっとりと肉の塊が付着した刀を軽く振ると、小狐丸は俺を見つけるなりぱっと顔を輝かせる。
    「ぬしさま! お迎えにあがりましたよ」
     耳ではないが、耳のような白い跳ねっ毛が揺れる。
    「早く戻って、毛を梳いてくれませぬか。ぬしさまが梳いて下さらないからほら、枝毛が」
    「なにが枝毛だ。狐のくせに猫を被るな小狐丸。主がいなくては毛並みを整える気も起きないと怠慢していたせいだろう」
    「ぬしさまと再会した途端やかましいのう。昨日まで借りて来た猫のように大人しかったのが嘘のよう」
     俺を挟んでのそんなやり取りがなんだか懐かしい。仲が悪いわけではないと思うのだが、顔を合わせると嫌味の応酬が始まってしまうのだ。仲が悪いわけでは、ない。多分。
    「はいはい喧嘩すんなって! もう戻ろう。これ以上人が増えても面倒だし、それに」
     清光が言い終わらないうちに、空間にたたずんでいた歪みが再びぐにゃりと形を変える。
    「……この出入口、長くもたないよ」
    「それ、やっぱり本丸に繋がってるのか。一体どうやって……あ、」
     本丸から他の時代への移動は原則として審神者が本丸内の決められた場所で手続きをしなければ不可能だ。と、いうことは。思い至った次の瞬間、歪みから吐き出されるようにして人影が転がり出た。
    「いたっ! え? なに、なに!? うわあ!」
     ……本丸には私の後に新たな審神者が配属された。入れ違いだったので顔を合わせるのは初めてだ。


    ①ここまで

    初夜②
    没理由:いつも書かないタイプの主へし(当時)だったのでやっぱり初夜に辿り着きそうになくなった
    あらすじ:子供のころから審神者やってるタイプの主と長谷部

    ---

     苦節十年余り。

    「昔はよく君の布団に潜り込んだけれど……また同じ布団で寝るなんて、なんだか不思議だね」
    「ええ……そう、ですね」

     広い布団の上に、掛け布団一枚、枕が二つ。数えで今年二十歳になった長谷部の主である青年は、枕を整えながら「懐かしい」と笑った。昼間祝言をあげた彼らは、主と臣下であると同時に、今日から夫婦でもある。

     出会ったのは十数年前、審神者適正年齢が大幅に引き下げられた年だった。審神者となった長谷部の主はまだ少年といっていい歳で、長谷部がこの本丸に鍛刀された頃にもまだその生活に慣れていなかったらしく、現世を恋しがっては脱走を試みて、こんのすけに咎められていた。身長は長谷部の腰より少し上くらいしかなく、食も細くていつまでもほっそりとした体つきのままだったから初期刀を始め、皆で心配したものだった。今ではそんなこともなく、見下ろしていた旋毛は長谷部より拳一つ程上にあるけれど。
     しかし長谷部は、その旋毛が目線よりずっと下にあった頃から、審神者に恋焦がれていた。子供であっても、審神者という役目から逃げ出そうとしても、その少年は長谷部の『主』だったから、卵から生まれた雛が親の後を追うように、長谷部は彼を慕った。審神者としては未熟であった彼を支え、助け、人肌恋しさに布団に潜り込んで来れば、見よう見まねで人の母のように背中を撫でてあやし、寝かしつけたこともあった。それが臣下から主へ向ける思慕の域をこえたことに気付いたのは、彼が審神者になってから一年にも満たない頃。体も心も幼い主に欲情する自身を嫌悪しながら、気付いてもいい、気付かなくても構わないと、一年を迎えた日に、角樽を送った。「へんなかたち」と子供は笑ったが、中に酒の代わりに詰まった菓子を見て目を輝かせた。次の年も、やはり同じものを送った。五年を過ぎたあたりから、長谷部の肩ぐらいまで背が伸びた少年は、「そういえばこれ、毎年くれるけど何に使うものなの」と問いかけた。まだ幼さの残る横顔に、「いつかわかりますよ」と返した。そうして十年過ぎて、少年は青年になった。彼がその贈り物の意味に気付く前に、イルイコンインカッコカリ、というシステムが実装された。人間と刀剣男士、種族は違うが、ずっと添い遂げたいと思う一振りを審神者が選んで婚姻を結ぶ制度だ。強制ではないし、急ぎしなければならないものではないが、参考までに、とその知らせを持ってきたこんのすけに、青年になった審神者は言った。「じゃあ長谷部と婚姻結ぶ」と。
     初期刀の山姥切は「は?」と真顔だったし、薬研は「へえ」とニヤニヤした。当の長谷部はぽかんと開いた口が塞がらない。

    「僕、長谷部のこと好きだよ。婚姻って、現世でいう結婚のことでしょう? 好きな人とは結婚して夫婦になるって、習ったよ。それに、長谷部も僕のこと好きじゃん? 何か問題ある?」

     もちろんあるわけがなかったので、その日のうちに審神者と長谷部は用意された書類にサインした。ニヤニヤ笑いをそのままに薬研が本丸中にそれを知らせ、すぐに祝言が開かれたのだった。そして、今に至る。「夫婦は毎日同じ布団で寝るんでしょ?」と言った審神者がいつの間にか手配した二人用の布団だ。懐かしいと笑う審神者に頷いたものの、一人の布団に添い寝していた数年前と今とでは全く状況が違う。審神者が軽い調子で言うので実感がわかなかったが、そうか、夫婦か、と長谷部はじんわりと幸せをかみしめた、が。


    「じゃあ、おやすみなさい」
    「……えっ」
    「え?」
     普通に布団の潜り込んで明かりを消そうとした審神者に、長谷部は思わず聞き返してしまう。とっさに袖を掴んだので、審神者も驚いたように声をあげた。
    「主、ええと、」
     乾いた唇を舐めて、長谷部は言葉を探した。どうしたら直接的な単語を使わず伝えられるか、思案した。
    「……今夜がどういう夜か、もちろん、分かっていらっしゃいますよ、ね…?」
    「うん? 結婚して、初めて一緒に寝る夜だよね」
    「そ、そうです。初夜、なんです。だから……その、」
    「…あ、わかった。これだろ?」
     早く言ってよ、と。顎に指が触れて、審神者の顔が接近したので、長谷部は反射的に目を瞑った。
     唇をはむように柔らかいそれが触れて、離れる。審神者の前髪が額に触れた擽ったさと唇の柔らかさに目眩がした。なのに、
    「はい、それじゃあ今度こそおやすみ」
     唇を離した審神者が再び布団に入ろうとしたので長谷部はまたもやその袖を引き戻す羽目になった。
    「ちょ、ちょっと、待って下さい」
    「え? どうしたのさっきから」
    「……」
    「……?」
     不思議な沈黙が流れる。とぼけているのかと思った。審神者はここのところ、精神的にも随分大人びて、はぐらかすだとか、あしらうだとか、少年の頃には決してしなかったことをするようになっていたからだ。しかし今はどうやら違う。
    「これで、終わりですか?」
    「……終わりですよ?」
     長谷部があまりにも真剣に言ったせいか、おかしそうに笑って言葉尻を真似る。髪を掻き毟りたくなった。長谷部とて人の文化にそこまで詳しいわけではないが、夫婦になるにあたって思い当たる書物全てに目を通したし、そもそも付喪神だが体は人間だし男なのだ。審神者に欲情し、自身を慰めた夜は数え切れない。抱かれることを想像した夜も。けれど、そこに至るまでの流れを作ることなど、想像したこともなかった。
    「……もしかして、キス以外に、何かすることがある?」
     眠そうにことりと首を傾げた審神者の純粋そうな瞳を真っ直ぐ見ることができない。とても軽い調子だったが、審神者は確かに長谷部を好きだと言ったし、だから婚姻を結ぶ、ということの意味を分かっていないわけではない。

    「だって、長谷部だって、光忠だって、国広だって、そんなこと教えてくれなかったよ?」
     それもそうだ、と思い至り、長谷部は、こっそり唾を飲み込み、布団の上で姿勢を正した。
    「こ、これから、俺が、教えます!」


    ②ここまで

    初夜③
    没理由:やっぱり初夜に辿り着きそうになかった。設定は気に入ったのでここから少し路線した提出した→https://poipiku.com/594323/6073002.html
    あらすじ:書類上の結婚だけしてたつもりの審神者と長谷部の話

    ---

    「主、主! 大変です!」

     妻のへし切長谷部が息を切らしながら部屋に飛び込んできたので、私は驚きながらも「どうした」と畳に積んだ書類を避けて彼が座るスペースを作った。
     彼が見て分かる程取り乱しているのは実に珍しいことだ。前に見たのは、思いつく限りでは十五年程前、私が彼に―――
    「俺達、初夜に何もしてません!」
    「……んあ?」
     記憶を呼び戻すより、長谷部の悲痛な声の方が早く、しかし言っていることは理解不能であったので私はつい素っ頓狂な声をあげてしまった。
    「その、演練で、最近祝言を挙げたへし切長谷部に聞いたのですが……夫婦になったら、同じ布団で、その……色々、すると、聞いて」
     どこのへし切長谷部だ余計な事を! と思いながらも「……あー、ああ、そう、だな」と生返事である。
    「やはり、知っていたんですね。くっ…申し訳ありません…俺が無知なばかりに」
    「いやいや、誰にでも知らないことはあるさ。ましてやお前は付喪神なのだし、私も初夜のことなどすっかり忘れていたしね。うん。十五年も」
     ――私が、思いつく限りで最近長谷部の取り乱した姿を目にしたのは、もう十五年ほど前、私が長谷部に「お前を娶る」と告げた時だったと思う。今思えば迂闊にもほどがあるが、その頃の私はまだまだ青二才で、日々の業務に追われ、忙しさのあまり判断力も鈍っていた。
    『刀剣男士を誰か一人、正妻として娶ること』そんな命令が政府から下り、私はそう深く考えず、その日たまたま近侍をしていたへし切長谷部を呼んで、政府から渡された書類に名前を書かせた。ざっと目を通しはしたが、何のことはない、審神者である私と、現世と過去の狭間に存在する本丸との結びつきを確固たるものにするには、本丸で顕現した刀剣男士と深く結びつくことが必要だということだった。といっても必要なのは形式上の手続きだけであったから、直筆のサインさえあれば、それをこんのすけが運び、政府の方でよしなに取り計らうだけだ。

     その後も、色々な締め切りや手続きに追われ、まだ本丸と現世とを短いスパンで行き来していた時期だったので、彼にその書類の意味を教えた時には、既に書類の差し戻しが効かなくなっていた。そんなことはさして気にせず、彼に書類を読み上げながら、私は首を傾げた。
    『健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、互いを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓う。』そんな文章の下に、徹夜あけだった私の悪筆と、長谷部の達筆な文字が並んでいた。形式上のものだと政府からは言われていたはずだが、これでは本当に結婚式の言葉みたいだなあ、と、笑おうとして、飲みこんだ。私からすればただの紙切れであるそれを、長谷部は大切な宝物のように胸に抱き込んで、ぼろぼろと涙を零していた。私の知る限り常に澄ました顔をして近侍を務め、出陣の際に多少気が昂った様子を見せる他は感情を昂らせることなどなかった長谷部のその様子に私は大いに驚いた。
    『どうした』と聞くと、長谷部は嗚咽交じりに言った。『これ以上の喜びはありません』と。胸騒ぎがした。
    『主が、俺を選んで下さって、俺は、俺は……』ほろほろと、涙の粒が彼の白い手袋に染みていくのを見て私は、ようやく自分が随分軽はずみな判断で彼を妻にしてしまったことに気付き、また後悔もした。私は彼が私を慕う程、へし切長谷部という付喪神を好ましく思ってはいなかった。ことあるごとに元の主のことをぼやき、暗に『貴方は前の主のようなことはしないでしょうね』とでも言いたげな言葉に辟易もしていた。彼は面倒な刀だった。それでも彼を選んだのは、その日は本当にただたまたま近侍で傍にいたからという理由と、彼なら私の言うことに嫌とは言わないから手続きがスムーズに進むだろうという下心からだった。頭もろくに働いていなかったとは言え、早まってしまったと、その時は後悔した。しかし、それももう十五年前の話だ。最初こそ、選ばれたからには、と今まで以上に世話を焼くようになった長谷部を疎ましく思うこともあったが、長く連れ添えばそれが彼自身の性質なのだと理解したし、情も沸いた。面倒な刀、という印象は、少し拗らせてはいるがよくできた臣下、に変わった。そもそも正妻と言ったって、書類上のものだけなのだし、あとは彼の心持ちが変わった程度か、と私は思っていた。今の今までは。付喪神を妻に、だなんて現実離れした制度だし、そもそも私自身の恋愛観は到ってノーマルだ。職業柄機会がないので人間との結婚歴はないが、現世へ行けばついでに風俗まで足を伸ばすこともあるし、近侍に見つからないよう隠してある私物に混じったAVはどれも男女のものだ。政府が『正妻』というから便宜上長谷部をそういう風に人へ紹介することもあったが、私は長谷部のことを、仕事柄臣下として扱うことができる付喪神、以上には見ていなかった。……今の今までは!

    「――ということで…今夜、伺いますね」
    「! え? なんだって?」
     思考を飛ばしていた私に、長谷部はずっと話しかけていたらしい。呆れたような「聞いてなかったんですか」は、まるで業務をこっそりさぼっている私を咎める時のような自然さの声色だった。しかし。
    「十五年も遅れをとりましたが…今宵を初夜ということにしませんか」
     続けられたその声が紡ぐ言葉は、私には耳を疑うような不自然さに聞こえた。


     徹夜続きで、起きたまま一夜を共に明かすことはあっても、こうして寝室で、一枚の布団で共寝するなんてことは初めてだった。理由をつけて拒むことも考えたが、何せ十五年連れ添った妻だ。そこに主としての感情以上がなくとも、十五年目にして初夜を迎え、いそいそと枕を並べる長谷部に強く言おうという気も起きない。初夜ってなんだ。セックスするのか。私と? 長谷部が? まるで実感がない。そもそも男の体である以前に、付喪神だ。それも、とびきり綺麗で美しい。今でこそ慣れ親しんだ本丸に刀剣男士にへし切長谷部だが、それでもふとした瞬間、ただの人でしかない私が使役するには過ぎた存在なのだと思い知る。



    ③ここまで
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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり3
    がっつり主清初夜 多分初夜
    主清初夜R18***


    「ん、んぅ、ん……っ!」
     俺がしたのとは違う、唇を合わせるだけじゃなくて、舌がねじこまれて、絡み合って、吸われる、そんな口づけだった。舌先を吸われる度、じゅる、くちゅ、といやらしい音が頭の中に直接響いて、ぼぅっとしてしまう。それだけでもういっぱいいっぱいなのに、主の手が俺の耳朶を撫でて、くにくにと触るものだから、そんなつもりないのに腰が浮いてしまう。
    「っあ、ん……やだ、それ……っ」
    「ふふ、耳よわいんだね」
     口づけの合間に、主が声を立てて笑う。顔が離れたと思ったら、今度は耳に舌がぬるりと這わされて、ぞくぞくした。
    「ひぁ……っ」
     耳の穴に舌を入れられて、舐られる。舌と唾液の音が直接聞こえてきて、舐められていない方の耳も指でいじられるからたまったもんじゃない。ぐちゅぐちゅ聞こえる音が俺の頭の中を搔き乱す。ついさっきまで俺が主を組み敷いていたのに、今はもう完全に逆転していた。暴れそうになる足は主が太股の間に体を押し込んできてもう動かせない。膝頭が足の間に入り込んできて、ぐりぐりと押される。
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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり2
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
    「よっきゅうふまん……?」
     俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
     俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。
    2337

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり1.5
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    一個前の答え合わせだけど審神者メインで他の本丸の審神者との交流とかなので読み飛ばしてもいいやつです
    答え合わせ 審神者くわしくサイド 一応ね、俺も、俺がちょっとおかしいってことは分かってるんだけどね。おかしい、って分かった上で、今、ここにいる。

     審神者になる前、俺は常に最低3人、多くて6人、恋人ないしセフレがいた。
     昔から、俺はどうにも”重い”らしく、恋人が出来ても大体一ヶ月くらいでフラれるばかりだった。俺は毎日好きって言いたいし毎日キスしたいし毎日くっついていたいし毎日好きな子を抱きたいのに、それがだめらしい。体目当てみたいでいやだ、と言われたので、昼間のデートもみっちりプランを立てて楽しく過ごしてみたものの、大学に通いながらデートしてその上で夜は夜でセックスするの体力やばすぎるむり、って言われてフラれる。メンヘラも俺と付き合うと根負けするレベル、って大学の頃噂されたっけ……。非常に遺憾だった。なんでだ。幸い、縁があってフラれてもまた別の子と付き合えることが多かったけど、そんなことが続いたので遊び人と認定されちゃうし……。
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    DONE情けない攻めはかわいいねお題ガチャ
    https://odaibako.net/gacha/1462?share=tw
    これで出たお題ガチャは全部!微妙に消化しきれてない部分もあるけどお付き合いいただきありがとうございました!
    情けない攻めの審神者×長谷部シリーズ④・長谷部にハイキックで倒されるモブを見て自分も蹴られたくなる審神者
    ・暴漢に襲われかけた審神者と、その暴漢を正当防衛の範囲内で捻りあげ社会的死に追い込み審神者を救出する強くて怖い長谷部。


    【報道】
     
     政府施設内コンビニエンスストアで強盗 男を逮捕

     ×日、政府施設内コンビニエンスストアで店員に刃物を突き付け、現金を奪おうとしたとして無職の男が逮捕された。
     男は、施設に出入りを許可された運送会社の制服をネットオークションで購入し、施設内に侵入したと思われる。運送会社の管理の杜撰さ、政府施設のセキュリティの甘さが浮き彫りになった形だ。
     店内にはアルバイトの女性店員と審神者職男性がおり、この男性が容疑者を取り押さえたという。女性店員に怪我はなかった。この勇敢な男性は本誌の取材に対し「自分は何もしていない」「店員に怪我がなくてよかった」と答えた。なお、容疑者は取り押さえられた際に軽傷を負ったが、命に別状はないという―――
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    いなばリチウム

    MOURNING六年近く前(メモを見る限りだと2016年4月)に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた話です。他にもいくつか初夜ネタを書いてたのでまとめてpixivに載せるつもりだったんですけど全然書ききれないので一旦ここに載せておきます!
    当時いつも書いてた主へしの作風とすこし雰囲気変えたので楽しかったし、性癖の一つでもあったので今読んでも好きな話です。
    CPではない二人の話です。長谷部が可哀想かも。
    夜な夜な(主へし R18) その日は朝から体がだるかった。
     目を覚ますと、頭は内側から叩かれているように錯覚するぐらい痛み、窓から差し込む朝日や鳥の囀りがひどく耳障りで、長谷部はそう感じてしまう思考と体の不調にただただ戸惑った。しかし、昨日はいつも通り出陣したはずだったし、今日もそれは変わりない。死ななければどうということはないが、あまりひどければ出陣に、ひいては主の戦績に支障が出る。長引くようであれば手入れ部屋へ入ることも検討しなければ、と考える。
     着替えてからだるい体を引きずって部屋を出ると、「長谷部、」と今まさに長谷部の部屋の戸に手を掛けようとしたらしく、手を中途半端に宙に浮かせて困ったように佇んでいる審神者がいた。無意識に背筋が伸びる。
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    Lupinus

    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
    つきあってる設定の主さみ クリスマスに現世出張が入った話 なんということもない全年齢
    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

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    PAST主麿(男審神者×清麿)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    今まで審神者の分は買ってなかったのに唐突に自分の時だけ買ってきて見せつけてくる主におこな清麿
    「ほらこれ、清麿のうさぎな」
    「買ったんだね」
    主に渡されたのは最近売り出されているという僕ら刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。面白がって新しい物が出るたびに本刃に買い与えているこの主はそろそろ博多藤四郎あたりからお小言を食らうと思う。
    今回は僕の番みたいで手渡された薄紫色の、光の当たり具合で白色に見える毛皮のうさぎに一度だけ視線を落としてから主の机の上にあるもうひとつの僕を模したうさぎを見やった。
    「そちらは? 水心子にかな」
    「ほんと水心子のこと好きな」
    机に頬杖を突きながらやれやれと言った感じで言う主に首をかしげる。時折本丸内で仲のよい男士同士に互いの物を送っていたからてっきりそうだと思ったのに。
    「でも残念、これは俺の」
    では何故、という疑問はこの一言ですぐに解消された。けれどもそれは僕の動きを一瞬で止めさせるものだった。
    いつも心がけている笑顔から頬を動かすことができない。ぴしりと固まった僕の反応にほほうと妙に感心する主にほんの少しだけ苛立ちが生まれた。
    「お前でもそんな顔すんのね」
    いいもん見たわーと言いながらうさぎを持ち上げ抱く主に今度こそ表情が抜け落ちるのが 506

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    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

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    PAST主般/さにはにゃ(男審神者×大般若)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    主に可愛いと言わせたくてうさぎを買ってきたはんにゃさん
    「どうだいこれ、可愛らしいだろ?」
    主に見せたのは最近巷で話題になっている俺たち刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。といっても髪色と同じ毛皮に戦装束の一部を身につけているだけだが、これがなかなか審神者の間で人気らしい。
    「うさぎか?」
    「そうそう、俺のモチーフなんだぜ」
    うちの主は流行に疎い男だ。知らないものを見るときの癖で眉間にシワを寄せている。やめなって言ってるんだがどうにも治らないし、自分でも自覚してるらく指摘するとむっつりと不機嫌になる。そこがこの男の可愛いところでもあるがそれを口にすると似合わんと言ってさらにシワが深くなるからあまり言わないようにはしてる。厳しい顔も好きだがね。
    そんな主だから普段から睦言めいたものはなかなか頂けなくて少しばかりつまらない。そこでちょっとこのうさぎを使って可愛いとか言わせてみようと思ったわけさ。
    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
    877

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555