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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    12月月刊主へし

    年末年始 この時期の忙しさには何年経っても慣れない。
     ただでさえやることの多い年末、それに加えて俺は大晦日よりも前に現世の実家に帰るつもりでいたのでてんてこまいだった。本丸内の大掃除、食事、審神者不在時の出陣についてはあらかじめほとんど取りまとめていたものの、実際に年末を迎えると思いがけないトラブルが起きたりして、想像以上の忙しさを迎えていた。いっそ実家に帰るのをやめた方が本丸でゆっくりできるのでは? と考えないでもなかったが、先輩審神者達は口をそろえて「不仲じゃないのなら、実家がある内は帰った方がいい」と神妙な顔で言うし、確かに両親は健在であったが帰る度に老けたなあとしみじみ感じたりもするから、せめて年に一度くらいは親孝行するか、という気持ちだった。そもそも、どうしようかな、と悩む頃には既に必要書類を全部出した後である。

    「えーと、お土産は」
    「主の到着と同時に届くよう手配済です」
    「部屋の掃除、もう残ってるとこないよね?」
    「はい。水回りも全て終わっています」
    「現世滞在手続き終わってる、ゲート通過許可証もインストールした、充電器持った……あっ、現金! 引き出すの忘れた!」
    「お年玉用ですね? 用意しておきました。こちらはポチ袋です。多めに入っているので足りるかと」
    「……長谷部」

     喉からは感嘆と感謝と少しの畏怖の念が籠った溜息が漏れた。

    「お前ってほんと……よく出来た近侍だなあ……すっごく助かる……」
    「光栄です」

     目を細めて微笑んだ長谷部も、確か朝から掃除やら倉庫の整理やらで俺と同じかそれ以上に忙しかったはずだが、本丸を出る十分前になってもバタバタしている俺を前に落ち着いてあれこれ手を回してくれている。長谷部が近侍で良かった、と思うし、もう長谷部がいなかったら俺は何もうまく出来ないんじゃないか、と不安にもなる。公私ともに。

     手荷物をまとめ、現世へ繋がるゲートを設定した玄関に向かうと見送りに数振りが並んでいた。狭くはないが、本丸の刀全員が並ぶにはさすがに窮屈なので気遣ってくれたのだろう。

    「皆、良いお年を」
    「あるじさまも、よいおとしを!」
    「お土産よろしくね!」
    「気を付けて」

     各々に言葉を返し、最後に振り向いて、すぐそこにいた長谷部と、後ろの皆に手を振った。

    「じゃあ、後は頼んだよ」

     そう言って荷物を持ち直し、ゲート通過許可証を翳せば、あとはもう玄関の戸を開け、敷居をまたぐだけで、実家の、正確には実家から何駅か離れた街に到着する。実家直通、というわけにはいかないのが若干不便ではあるが、セキュリティ対策らしいので文句は言えない。電車で数駅の距離だし、昔を思い出してのんびり移動するのもたまには、

    「主」

     荷物もほとんど送ったし、寄り道してから行こうかな、と思案していた俺に、後ろから聞きなれた声がする。聞きなれたというか、ついさっきまで一緒にいて、俺を見送ったはずの長谷部の声が。

    「……えっ!?」

     ここは現世で、普通に通行人もいるというのに思わずでかめの声が出た。
     俺と一緒にコンクリートの大地に足をつけた長谷部が不思議そうに顔を傾け、「忘れ物ですよ」と手提げ袋を一つ俺の前に差し出す。郵送だと痛みそうだから、と分けておいたお土産の内の一つだ。

    「俺が持っていましょうか?」
    「あ、ありがと、じゃなくて!」

     声のトーンは落としたものの、当然のような顔でそこにいる長谷部に俺は混乱した。

    「なんでいるの? ついてきちゃった? え、なんで??」
    「なんで、と言われましても」

     長谷部は、どうしてそんなことを訊かれているのか不思議だ、という顔をしている。前にも、こんなことがあった気がする。

    「貴方の刀ですから」
    「そ、」

     そうだけど、そうじゃなくて!
     軽装にとあつらえた着流しに羽織を着ていたから、長谷部もどこか出かけるのかなと思っていたけど。まさか一緒に現世にくるために?

    「え、っていうか俺、男士携帯許可証持ってきてないけど」
    「ご安心下さい。こちらに」
    「……ゲート通過許可証も、一人分しか手配してなかったけど」
    「俺が追加で手配しておきましたので問題ありません」
    「……」
    「主?」

     絶句していると、長谷部はふと顔を翳らせて、そっと俺の顔を覗きこむ。

    「勝手をしたこと、怒っていますか?」

     あ、当然みたいな顔でいたけど、一応勝手にした自覚はあったのか。

    「いや、怒ってないけど……もしかして、知らなかったの俺だけ?」
    「ええ、まあ……」
    「……普通に、言ってくれたらよかったのに。びっくりするじゃん」
    「それは、」

     美しい藤色が、面白いくらいに視線を泳がせた。

    「断られたら、と思うと、こわくて。……ついてきてしまえば、追い返せないでしょう?」
    「……」

     断られたらどうしよう、から黙ってついていこう、に思考が飛ぶのは何でだ。確かに、本丸と現世を繋ぐゲートは開く時間を厳密に決めて通過許可証を貰わないといけないので、こちらへ来てしまった以上、俺と一緒に滞在して予定通り年が明けてから二人揃って戻るしかなくなるけど。

    「断ったり、しないよ。本当にびっくりしただけで。え、ていうか本当にびっくりした。準備してたの全然気付かなかったし」
    「ふふ」

     俺がちっとも怒ってないと知って、長谷部ははにかむように微笑んでいる。あまり見ることのない恰好をしているから、新鮮で、なんだかドキドキした。毎日出陣や演練や買い出しで、長谷部は大抵戦闘服か内番服だし、軽装にと用意した着流しを見たのは、一、二度じゃなかっただろうか。二人揃って何の用もなく出かけられる機会は、そのくらいしかなかった。

    「……せっかくだから、少し寄り道して向かおうか。俺も久しぶりだから、このあたりゆっくり見たいし」
    「! ええ、もちろん」
    「あと、向かいながら両親になんて言うか一緒に悩んでもらうからな」
    「? 護衛、と伝えればいいのでは……?」
    「そうだけど、そうじゃなくて」

     長谷部はまた怪訝に首を傾げる。俺は長谷部の手を掴まえて、そのまま歩き出した。

    「護衛、兼部下、兼恋人だろ。分かりやすく、かつ混乱のないようにどう話せばいいのか、ちゃんと考えてからじゃないと帰れないよ」
    「!」

     少し振り返れば、長谷部は驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返している。けれど、掴んだ手はしっかり握り返されたので、きっと、異論はないのだろう。


    おしまい


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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

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    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

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    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    伊達組にほのぼのと見守られながらのおやつタイム
    伊達組とおやつ


     ずんだにおはぎに色とりどりのフルーツがのったタルト、そして一等涼しげな夏蜜柑の寒天がちゃぶ台を賑わせる。
     今日は伊達の四振りにおよばれしてのおやつタイムとなった。
     燭台切特製のずんだに意外とグルメな鶴丸の選んできた人気店のおはぎ、太鼓鐘の飾りのようにきらきらと光を反射するフルーツののったタルトはどれも疲れた身体に染みるほどおいしいものだった。
     もっと言えば刀剣男士達とこうしてゆっくり話ができるのが何よりの休息に思う。
     本丸内での面白エピソードや新しく育て始めた野菜のこと、馬で遠乗りに出かけたこと、新入りが誰それと仲良くなったことなど部屋にこもることが多い分、彼らが話してくれる話題はどれも新鮮で興味が尽きない。
     うん、うんと相槌を打ちながら、時折質問をして会話を楽しんでいると、燭台切がそういえばと脈絡無くきりだした。
    「主くんって伽羅ちゃんに甘いよね」
     それぞれもってきてくれたものに舌鼓をうって、寒天に手を着ける前にお茶を口に含んだ瞬間、唐突に投げられた豪速球にあやうく吹きかけた。さっきまで次の出陣先ではなんて少し真面目な話になりかけていただけに衝撃がす 2548

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    梅雨の紫陽花を見に庭へ出たら大倶利伽羅と会っていつになったらふたりでいられるのかと呟かれる話
    青紫陽花


    長雨続きだった本丸に晴れ間がのぞいた。気分転換に散歩でもしてきたらどうだろうと近侍の蜂須賀に言われて久しぶりに外に出る、と言っても本丸の庭だ。
    朝方まで降っていた雨で濡れた玉砂利の小道を歩く。庭のあちらこちらに青紫色や赤色、たまに白色の紫陽花が鞠のように咲き誇っている。
    じゃりじゃりと音を鳴らしながら右へ左へと視線を揺らして気の向くまま歩いて行く。広大な敷地の本丸の庭はすべて散策するのはきっと半日ぐらいはかかるのだろう。それが端末のタップひとつでこうも見事に変わるのだから科学の進歩は目覚ましいものだ。
    「それにしても見事に咲いてるな。お、カタツムリ」
    大きく咲いた青紫の紫陽花のすぐ隣の葉にのったりと落ち着いている久しく見なかった姿に、梅雨を実感する。角を出しながらゆったり進む蝸牛を観察していると、その葉の先端が弾かれたように跳ねた。
    「……うわ、降ってきた」
    首の裏にもぽつんと落ちてきて反射的に空を仰げば、薄曇りでとどまっていたのが一段色を濃くしていた。ここから本丸に戻ろうにもかなり奥まで来てしまった。たどり着くまでに本格的に降り出してきそうな勢いで頭に落ちる雫の勢いは増 3034

    いなばリチウム

    DONE肥南と主へしとむつんば要素を含みます(混ぜすぎ)
    タイトル通りひぜなんにちょっかい出すというか巻き込まれた主へしとむつんばの話。
    肥南にちょっかい出す主へしの話「肥前くん、主が呼んでいたよ」
     振り返る。肥前はいつだって南海の顔を真っ直ぐに見るのに、ここのところ、そうするとほんの少しだが目を逸らされることが増えた気がした。なんだよ、と思う。思うだけだ。
    「おれを? なんだって?」
    「さあ。部屋に来て欲しいと言っていたから、直接聞いてみてはどうかな」
    「……分かったよ」
     つまみ食いに忍び込んだ厨を追い出され、時間を持て余していたところだった。ちょうどいいか、とそのまま審神者の部屋へ向かう。肥前がこの本丸に来たのは特命調査の折であった。その時点でも刀の数は多かったが、今や百に届く程の刀剣男士が生活している本丸だ。近侍を務める刀は数振りで、ひとりひとりと話す時間が取れないことを憂いた審神者はこうして時々自室に刀剣男士を呼び出すのだ。不満はないかとか、最近どうだとか、肥前にとってはどうでもいい話ばかりではあったが、何度か呼び出しを無視すると機動の早い近侍が文字通り首根っこを捕まえに来る上に最近では部屋に行くと茶菓子やちょっとしたつまみをふるまわれる。食べ物で釣られている自覚はあったが、適当に話をしていれば損はないのだ。久方ぶりに大人しく呼ばれてやるか、という気持ちだった。
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