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    Orr_Ebi

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    3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #SD腐

    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
     深津はこの人生をバスケに捧げようと、早い時期から思っていた。名は体を表すとでもいうのか、名前の通りに、バスケという一つのスポーツをこの人生でやれるだけやれたら、というのを幼少期から意識し始め、バスケの為に山王工業に入学した。
     『一意専心』という心構えも、深津の人生の目標に近いもので、この学校でバスケが出来ることが喜びだった。
     『一成』の『一』には、一日生まれだから、という意味も込められている。
     「『一成』って名前はもう決まってたから、出生日が一日でぴったりだねって。」と母が笑っていた。小学校で、名前の由来を聞いてくる、という宿題が出た時、母にそれを聞くのは少し恥ずかしかったのを思い出す。てっきり長男だから『一』がついてるのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
     そして今日、また一つ歳を重ね、この学校を卒業する。
     3月1日の誕生日は、友人たちの記憶にはあまり残らないようで、これまでの学生時代もあまり盛大に祝われた記憶はない。
     深津も特に誕生日にこだわりがなかったので、年度末で忙しいこの時期、忘れられがちな誕生日は、母の手料理と既製品のケーキでささやかに家族に祝ってもらうのが常だった。
     高校で寮生活となってからは、母の手料理が無い誕生日にも慣れなくてはならなかった。しかし毎年、母から愛のこもった手紙と、父からちょっとしたプレゼントが届いたから、寂しくはなかった。「手料理はかずくんが帰ってきた時にたくさん作ってあげるから」という母の手紙の一文を楽しみに、3月末から始まる春休みに帰省するのが高校生活では当たり前となった。 
     深津にとって誕生日は、両親に感謝する日。盛大なお祝いよりも、静かな祈りにも似た気持ちで迎える、特別な日だ。
     だから毎年、4月になって新しいクラスで自己紹介をする時に「誕生日は?」と聞かれて、3月1日と答えると「もう終わっちゃったね」と返され、翌年には忘れられるのが当たり前だった。
     別にそれでいい。大事な家族が、当日ではなくても祝ってくれていたから。
     それでも少し、今年はほんの少しだけ、いつもより寂しいと感じてしまうのは、深津の誕生日と卒業式が同じ日になってしまったからだろう。別れの日に、深津が誕生日を迎えると知っている者は数少ない。
     そういえば、1人だけ、深津の誕生日を絶対に忘れない、と言った後輩がいた。

     去年の3月1日。3年の先輩の卒業式が終わり、深津は次のキャプテンとして、先輩方の追い出しの為に奔走していた時だった。
     「深津さんて、誕生日いつですか?」
     寒空の下、各クラスでの最後のホームルームを終え、学舎を後にする先輩方を迎える準備をしている時だった。このあとは、部活ごとの送別会が予定されている。新キャプテンとしての挨拶を任されている深津は、暗記した挨拶内容を頭の中で復唱するのに必死で、寒さをあまり感じていなかった。
     「誕生日?」
     その前後に何を話していたかは覚えていない。なぜ沢北がそう聞いてきたかも分からない。
     まだ吐く息が白い。気温は低いが、先輩たちの姿をまだかと待つ各部活動の後輩たちによって、校門前は熱気が目に見えるようだった。
     「今日ベシ」
     言うと、沢北が呆れたように笑った。
     「はいはい、冗談はいいですから。いつですか?」
     「だから、今日」
     真顔で告げると、沢北は一瞬固まった後、ただでさえ大きい目をさらに見開いて、えっ!と驚きの声をあげた。
     「3月1日?」
     「そうベシ」
     「今日?」
     「だからそう言ってるベシ」
     「えっ、本当に?そっか、そうなんですか…卒業式の日なんだあ〜…」
     沢北はそう言ったきり、少し顔を俯けてなんか考えるふうだった。誕生日当日に聞かれるとは思わなかった深津は、こんな反応をされると思わず、少し気まずい雰囲気に同じく押し黙ってしまう。
     「オレ、何も用意してない…」
     上目がちに深津を振り返った沢北が、情けなく眉毛を下げてそう言うから、深津は一気におかしくなって笑ってしまった。
     そんな、たった今誕生日を聞いて、実は用意してありますなんて、あるわけないのに。
     「別にいいベシ。誕生日なんてそんなに大事じゃない」
     深津は本当にそう思っていたので、素直に口に出したのだが、沢北はその言葉に残念そうな顔をした。
     「そんなことないっす、誕生日は大事ですよ。深津さんが生まれた日なんだから」
     笑ったり驚いたり、喜怒哀楽がはっきりしている男はそう言って、深津が思いもしない言葉を投げかけてくる。両親には感謝しているし、毎年手紙やプレゼントで祝ってくれるのは素直に嬉しかった。けれど、家族ではないただの後輩に、こんなふうに誕生日を大事にされるのは慣れてなくて、想像していなかった温かさが深津の胸に届いた。
     「おめでとうございます。深津さん。いい年にしましょうね!」
     沢北が笑っていた。花が綻ぶようなその顔は、悪くなかった。ほとんど男ばかりの集団の中で、生徒たちが吐く白い息と曇り空の下、沢北の眩しい顔を、深津はなぜかよく覚えている。
     「来年も、絶対祝います!1年間覚えてますから!」
     その言葉も、声も、誕生日を特別なものだと思っていなかった深津には、あまりに優しい煌めきすぎて、胸に刺さって抜けなかった。
     だからきっと、こうやって卒業式当日に思い出してしまうのだ。
     何を期待しても意味のないことだ。沢北は深津の卒業式を待たず、夏のうちに渡米してしまった。その選択を、誇らしく思う。あの日の事を、2人の約束だとも思わない。けれど、少しの寂しさが深津に襲いかかるのは、あの日想像した自身の卒業式には、きっと沢北が見送る側にいるのだろうと当たり前に思っていたからだった。
     深津は頭を切り替え、高校生活最後となるだろう学ランに腕を通す。卒業式まで、あと数時間と迫っていた。


     卒業式は滞りなく進んだ。見慣れた体育館は、門出を祝うために装飾され、整然と並ぶ在校生と、壇上の卒業生の対比に、今日が別れの日であることを実感させる。空気が冷たく、いつもより緊張感に包まれ、澄んでいる。
     卒業生が時々鼻を啜る音が響いていた。
     総代の答辞を聞きながら、深津は体育館の天井に挟まったバスケットボールの数を数えたり、今日だけ折り畳まれて収納されたバスケットゴールを眺めたりしていた。
     長いようで短い3年間だった。
     期待されて入学したバスケ部。レギュラー入り。生意気な後輩。主将としての1年間。唯一の敗北。王者としての帰還、最後の優勝。
     様々な思い出が蘇り、深津はどこか懐かしい気持ちでいた。
     そして、もうここに戻ってくることはないのだろう、と漠然と感じながら、ひと足さきにこの学舎を旅立った1人を思い出す。
     けむる景色の中で、笑った顔だけが輝いている。
     在校生の中に、あの特徴的なツーブロックの坊主頭を探しても、そこにはいない。分かっていても、深津の目は在校生たちの後頭部を眺め、何かを探して滑ってしまう。
     思っていた卒業式とは違ってしまった。
     沢北はいない。
     それをなぜ寂しく感じるのか、分からない。アメリカは、今何時だろう。まだ、2月28日だろうか?
      

     「深津」
     最後のホームルームが終わってざわつく廊下で、隣のクラスの河田が声をかけてきた。少し伸びた坊主頭と、見慣れた学ラン。胸元には、深津と同じく、卒業生である証の赤い花のコサージュがついている。
     「誕生日おめでとう」
     河田は毎年、こうして深津に直接祝いの言葉をかけてくれる。付き合いが長い為、毎年3月1日の恒例行事のようなものだった。
     「ありがとうピョン、河田」
     「あと、3年間ありがとうな」
     まっすぐなその言葉に、自然と笑みが漏れた。苦しみも悲しみも共にした戦友だ。喜びと嬉しさの共有と、少しの馬鹿もやった。河田だけでなく、共に戦い、切磋琢磨した友人たちとは、今日ここで一度お別れだ。
     「こちらこそ、ありがとう」
     「ん」
     河田は頷いて、照れくさそうに頬をかいた。促され、教室から離れて校門まで歩き始めた。 卒業文集への書き込みや記念撮影などをそれぞれ終え、帰宅する者は帰宅し、部活ごとに集まる者は集合場所へ急ぐなど、卒業生たちは思い思いにこの限られた時間を楽しんでいる。
     「4月からはライバルだな、よろしく」
     河田が進学を決めたのは、関東でも一二を争うバスケの強豪校である体育大学だ。スカウトの声がかかり、すぐに推薦で進学を決めた。深津が進学予定の大学は、その大学と関東一を争うライバル校で、今から対戦が楽しみだった。
     「退寮日決まったが?松本はもう引き払ってるんだべ」
     松本も深津と同じ大学に進む。志望校が同じ友人がいるのは、受験期に良い刺激となった。合格発表はまだだが、手応えはお互い悪くなかった。
     「合格したら、深津とはもう少し付き合いが長くなるんだな」と言った松本は、どこか嬉しそうだった。
     「俺はまだ少し残るピョン。松本は実家に戻ってから合格発表見て、結果次第で戻るかもって言ってたピョン」
     「そうか」
     河田の退寮日も近い。大学近くで一人暮らしをする予定だというから、その準備などで忙しいらしく、卒業式当日までなかなか顔を見ていなかった。
     「遊びにこいよ、連絡するからよ」
     「うん、行くピョン。偵察しに」
     「はは、やめろよ。お前が言うとシャレになんねーべ」
     河田は笑いながらも、どこか寂しそうだった。深津も、何も言わないが、こんなふうに軽口をたたくのも今日で最後なのかと思うと、しんみりとしてしまう。
     「そういえば、深津、お前…」
     「────深津くん」
     校門近くまで辿り着き、河田が何か言いかけた時、深津は背後から呼びかけられて反射的に振り向いた。その先では、お世話になった寮母が手を振っている。卒業式や始業式など、山王バスケ部員の節目の行事には、必ず顔を出してくれる面倒見のいい人だ。
     「卒業おめでとう」
     「ありがとうございます」
     形式通りの挨拶をして、深津は頭を下げる。部員の中には、もうすでに寮を出た者もいる。本物の母に成り代わって、まだ未熟な高校生の寮生活をサポートしてくれた寮母に、深津は感謝の気持ちでいっぱいだった。
     「お世話になりました」
     「こちらこそ、たくさんお世話したね。深津くんの代は大変だったわね、色々あったけど楽しかった」
     人当たりの良い笑みを浮かべて、寮母が深津の肩を撫でた。あたたかい手のひらが、優しさと励ましの意味を持っていて嬉しかった。その目元にうっすらと涙が浮かんでいるのに気付き、無償の愛をたくさん貰っていたのだと知る。
     「そういえばね、深津くんに渡したいものがあるのよ」
     そう言った寮母さんは、ちょいちょいと手を招いて深津を校門から少し離れた場所まで呼び寄せた。保護者や支援会の荷物が置かれたスペースには、おそらくこの後の送別会で使うであろう差し入れや贈り物が紙袋に入って置かれている。
     「これ、深津くんに」
     指差したのは、ブルーを基調とした花束が入った紙袋だった。白や紫、ブルーの色とりどりの花が、淡い包装紙と綺麗なリボンによってまとめられている。
     「俺にですか、ピョン?」
     寮母からの個人的な贈り物にしては、少し違和感があった。母のように思っていた人にしては、少し気安いというか、まるで仲の良い友人に向けたような、可愛らしい花束だ。
     「沢北くんから、深津くんにって」
     「えっ」
     思わぬ名前が出て、深津は固まった。
     沢北?
     「ほら、沢北くんいまアメリカでしょう。深津さん達の卒業を見届けられないから、なんとかして贈り物ができないかって相談されてね。3年生への卒業記念品は、在校生みんなでまとめてやるけど、でも沢北くんも何かしたいって」
     深津は、紙袋から取り出した花束を抱きしめる。白く可憐な小さな花と、紫色の小振りの花々。バランスよく彩られたその花束には、「卒業おめでとうございます」のメッセージカードが付いていた。
     「寮母さんに…頼んでたんですか?」
     「そう。半年も前からね、卒業式の日に自分はいないから、深津くんに花束を贈りたいんだけどどうしたらいいって。近くのお花屋さんに予約して、どんな花がいいか考えて、全部沢北くんがやったのよ。私は、お花屋さんに受け取りに行って深津くんに渡すだけ。」
     寮母さんが微笑みながら、深津にそう教えてくれた。腕の中の花束は、確かに深津の好きな白と紫がモチーフになっていて、小さいながらもスッキリとまとまった、素敵なものだった。
     キラキラと箔押しされた名刺サイズのメッセージカードを手に取る。ふと、裏面を見るとそこにもメッセージが書いてあった。

     『お誕生日おめでとうございます』

     沢北の手書きの文字だった。あまり上手とは言えない字は、間違いなく、あの夏の日までに深津が沢北の勉強を見てやった時に、ノートを書き写していた文字だ。
     まぎれもなく、沢北の字だ。寮母が、わざわざこんな手の込んだドッキリを仕掛けているとも思えない。
     半年も前から準備していたのか、と深津は目の奥に込み上げる熱い感覚を意識しながら、フッと笑った。
     「あいつ、バカピョン」
     こぼれた言葉は、間違いなく遠く離れた地にいる1人の男に向けたもの。異国の地で1人胸を張る彼は、どんな気持ちで、夏の暑い時期にこの花束を用意したのだろう。
     深津の脳裏に、あの日の沢北の笑顔が蘇る。よく泣く、手のかかる後輩だったのに、思い出すのはいつも笑った顔だ。
     1年間、深津の誕生日を忘れないと言っていたのは本当だった。深津さえ今朝まで忘れていたのに、しっかりと約束を果たして、こんなに素敵なプレゼントまで用意していた沢北が、深津が思うよりずっと用意周到な気がして、少しだけ悔しかった。
     「ありがとうございました」
     深津は寮母にもう一度頭を下げ、その場を後にした。腕の中で、幸せの花束が揺れる。
     ただの先輩と後輩だと思っていたのに、こんな風に思いがけない贈り物をもらって、深津の胸は疼きドクンドクンとうるさい。
     あぁそうか、俺は…────。
     ずっと心のどこかに存在していた感情だが、やっと今気付いた。自分のことながら遅すぎる、と深津は呆れた気持ちで緩みそうになる口元を押さえた。
     ついさっき知った感情を抑えるために深呼吸して、息を整える。
     沢北に無性に会いたくなった。
     ありがとう、と言いたい。きっとそれ以上の言葉も。
     けれど、それはすぐには叶わない。簡単に会える距離でも、久しぶりの再会で熱烈な言葉を交わす仲でも無かった。それを理解している。
     深津もまた、この学舎を離れて新しい環境で、様々なことを吸収し、経験していかなくてはならない。沢北が今、必死に踏ん張っているその背中を、深津も追いかける。
     そしていつか、面と向かって会えた時に、感謝の言葉と共に、確認したいことがある。
     深津のこの胸を熱くする感情が、どこから来るのか知りたい。
     「深津!」
     遠くから、松本が手を振っている。その奥には、河田、一之倉、野辺。見慣れたバスケ部のメンバー。頼もしい後輩たち。
     もうあの坊主集団の中に、特徴的なツーブロックはいないけれど、それでも深津はもう、あえてその姿を探そうとしなかった。
     誰よりも早く環境を変え、新たなステップアップを目指した沢北から、今日この日、門出の日を迎え新たなステージへと向かう深津に向けて、充分な贈り物をもらったから。
     深津は走り出す。仲間たちとの最後が、近付いていた。
     3月1日。別れの日。
     一つ歳を重ねた深津が、沢北への感情を自覚した記念すべき日は、まだ寒い秋田の春の日だった。

     
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    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
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    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
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    Orr_Ebi

    TRAINING喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。
    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
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