しにたがりとクックロビン 一分でも一秒でも、はやく、はやく、はやく。はやく。
「どうしてこんなことをした!!」
言うが早いか、伸びてきた手が風見の胸ぐらを掴む。首の後ろに食い込むワイシャツの襟が痛い。そういえば今日は新しいものをおろしてきたばかりだった。固くてまだ馴染んでないそれの感触がいやに気に障る。思わず出かかった舌打ちを喉の奥に押し込んで、風見は努めて冷静を装う。
「……どうして、もなにもないでしょう。自分はあの場において最善と思われる方法をとっただけです」
ぐ、と糊の聞いたシャツに皺が寄る。だから今日おろしたばかりなんです、そんなことはこのひとが知る由もないだろうけど。音がしそうなくらい力の込められた褐色の手は風見が知っているよりもずっと色をなくしていて、血管の内側からわずかに白い骨が透けてみえた。
頭はんぶん見下ろす位置からは、長い前髪に隠された彼の表情は見えない。見えなくてよかったと思う自分はどこまでも利己的なのだろうか。
「それは、きみが犠牲になるという前提だろう……僕はそんな行動を許可した覚えはない」
「お言葉ですが、誰がみても明らかです。自分ひとりの犠牲で済むなら重畳でした」
「僕は!それを最善だとは認めない!!」
さらりと麦穂が揺れた。彼の声がどこか遠くに聞こえる。こんなにも近くで叫ばれたら、きっと耳を塞ぎたくなるくらいに違いないのに。感じるのは、痛いくらいの視線。冬と春の狭間のようなグレイッシュブルー。
レンズ越しでないそれを見るのはずいぶんと久しぶりで、じわじわと歓喜にも似た震えが背中にはしる。
最後に見るものがこれだったら、きっとなにも思い残すことはない。
それは風見にとって最上に甘美な誘惑で。こうしている間にもまたひとつ近づいた予感に、知らず口の端があがることを抑えられない。
「――風見……ッ!!」
現し世へと引き戻されるように、彼の手が風見の背へと回された。糊のきいた布越しに伝わるくらいそれはひどく冷えて、揺れている。肩口に押し付けられた鼻先が、頬に触れる金糸の先がくすぐったい。
「許さないからな……僕は、絶対に許さない」
いつだって迷いなく響く彼の声が、震えを噛み殺すように低く鳴る。なんだってできるくせに変なところで不器用な彼は、たぶんどうしたらいいかわからないんだろう。馬鹿みたいだな、と風見は思う。捨ててしまえばわざわざ傷つかなくてすむのに。自分みたいなのに執着するから苦しいのに。あぁ、なんて。
「おまえが僕を置いていくのは、いやだ。なぁ、風見」
迷うような吐き出された言葉の先を聞きたくなくて、風見はすぅと息を吐く。この身体の酸素なんて全部なくなって、ただの抜け殻になってしまえば。
それがせめてもの、あなたへの慰めになればいいのだけれど。
風見は少しだけ首を曲げて、彼の耳元へと唇を寄せた。
「愛していますよ、降谷さん。だから、はやく僕を――」
だれが駒鳥ころしたの?
それはわたしと雀が言った。