現パロゼロロイ「後悔してる?」
制服のボタンを留めながらロイドが静かに尋ねる。その声色と泣き腫れた目が、俺を責めているように思えた。
「……俺を抱いたこと」
「してねえよ」
即答したが、俺の顔を見てロイドは目線を下げた。いや、まあ、そりゃ全くしてないことはないんだけど、それは抑えが効かなかった自分自身への自己嫌悪っつーか。だって高校生相手にこんなことしちまったなんて、自分どんだけ獣だよ。いくら長年思い続けた、かつてーーと言っても、所謂「前世」という、事情を知らない他人にはとても口外できないーーの恋人だろうと、今はしがない十八の子どもに過ぎない。高校卒業するまでは手を出さないって決めてたのに、あんまりロイドが切望するから、なんて、こんな責任転嫁するようなことを考えてる時点で俺は狡い。記憶のない未成年のロイドに手を出した以上、全部俺が悪い。
「やっぱり、してるんだ」
ロイドの睫毛が煌めくのを、慌てて抱き寄せる。さっきから、ボタンを留める手が震えて、上手く留められないでいる。震えがくるほど、何が怖いのか、分からない。
「後悔なんてしてない」
俺がそう言っても、ロイドはむずがるように首を振る。胸元に広がる温かい感触は、ロイドの涙だ。俺はロイドの頭を撫でて、旋毛に口付けた。
なあ、ロイド。
この世界でお前を見つけた時、俺がどれだけ嬉しかったか分かるか。この平和な時代に、お前を見つけて、俺は安心したんだ。やっとお前に与えられたものを返せると思った。今度こそお前より長生きして、お前を幸せにしてやる。そう思ってたのに、お前は全部忘れていた。自分のことも、俺のことも、仲間のことも、あの世界のこと何もかも。偶然のような必然に導かれて出会ったかつての仲間たちには記憶があったのに、何でお前だけ。
『あんたは知らないだろうけど』
名門中学校の制服を着たジーニアスが、何とも形容し難いーー無理やり言葉にするなら憐憫と憤りの間のような、難しい顔をして告げた言葉を思い出す。
『あんたがロイドを置いて死んだ後、ロイドは見てるこっちが辛いくらいだったんだよ。僕もロイドも、人より随分長く生きたけど、ロイドは最後まであんた以外を愛することはなかった』
それが事実なのだとしたら、俺は、嬉しいと思ってしまった。馬鹿だな、ロイド。お前がそんなに俺のこと好きだったなんて、知らなかったよ。お前なら、俺なんかよりずっと良い相手がいくらでもいただろうに。勝手に死んでおいて、死で縛り付けておいて喜ぶなんて、救い難い馬鹿なのは俺の方だ。
『ロイドに記憶がないって知って、僕は正直ほっとした。……あんたの死に目、結構悲惨だったから、きっと忘れたかったんだよ』
確かに俺の死に様は、ロイドにとってトラウマものだったと思う。最期の時に目に入ったのは、ロイドの泣き喚く顔だった。
もし、また、ロイドに会えたら、絶対にそんな顔はさせない。そう思っていたのに、生まれ変わってロイドを見つけ出して奇跡的にまた恋人の座に収まることができた今、俺はまたロイドを泣かせている。