「ただいま〜…って、さすがにみんな寝てるか」
リビングへ続く戸を開きながら条件反射のように零れた言葉に、深幸は自らで応えた。
日を跨いだ午前零時過ぎのこの時間に明かりの1つも付いていなかった為、暗がりの中には誰もいないものだと思ったが、部屋の角でデスクのライトにぼんやりと照らされる丸い人影に気付いた。
該当する人間なんて1人しかいない事はわかっていながらも、肩が微かに飛び跳ねた。
賢汰の耳にはヘッドホンが装着されており、深幸が入ってきた事には気付いていないようだったのが幸いだった。
新しいデモでも聞いているのだろうか、後ろ姿だけでは深幸にはわからなかった。
「…ったく」
パチッ、と、静かな室内で音を立ててリビングのメインの照明を付けると、さすがに顔を上げた賢汰はヘッドホンを外しながら振り返り、深幸の姿を確認した。
2254