誰も知らない、君を知らない ピート・“マーヴェリック”ミッチェルという人間は光り輝いていた。輝いているといってもその光は人間に見えるわけではない。死神たちにだけ見える、いわば生命力のようなものだ。
よくあんな輝いている人間が死神のリストに載っているものだと、ボブはポップコーンを頬張りながら考えていた。
現に彼は何度も死神の手を逃れここまで生き抜いている。不死身、という言葉がぴったりの人間だが、自分の評価のためにも魂を回収しなければならない。出世には興味がないが、降格して仕事が辛くなるのは望むところではなかった。
マーヴェリックを眺めながらまたポップコーンを口に運ぶ。現世の食べ物は美味しい。天界では腹が空かないのでこうして食事を楽しむのは仕事の時だけの特権だ。死神という仕事の唯一の楽しみかもしれない。
今回の仕事先は海軍の基地で与えられた仮の姿は大尉でWSOという初めてのものだった。操作の知識も技能も与えられてはいるが何かに乗って空を飛ぶというのはなかなかに新鮮だ。ボブという名前は以前も使ったような気もするが、よく覚えていない。
「いつからいた?」
「さっきからずっといたよ」
「ステルスパイロットかよ」
「いや、僕はWSOだ」
「……ユーモアはないな」
知らない間に同僚になる人間たちが周りに集まっていて、ボブはとっさに言葉を返す。それだけのことなのに、ライトブラウンの髪をした生意気そうな男……ジェイク・セレシンに呆れられた。こういうタイプが仕事先にいる時はろくな事がない。あまり関わらないでおこうとボブは警戒を強めた。
残りのメンバーとは会話が進んで名前を答えたらコールサインをと言われて、そんな設定もらっていないと心のなかで舌打ちする。
「あー……ボブ」
「ボブ、フロイド? 私の後ろに座るの、まさかあんた?」
「そう、みたいだね」
こういう時は無駄にひねらず、無難に答えるのが一番だ。案の定ボブの答えと神が改ざんした記憶がうまく結びついて事なきを得た。
フェニックスは良さそうな人間だ。しばらく組むというのだからストレスは少ない方がいい。まずは親しくなる第一歩だと、ボブは差し出されたキューを手に取った。