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    totoro_iru

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    totoro_iru

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    今年の2月にTwitterでアンケートを取った内容です。時の流れ早杉ぃ…
    『銀新に巻き込まれる土方さん』

    #銀新
    silverNew

    映画は1人でも4人でも面白い「「げっ!!!」」

    土方と銀時の心底嫌そうな声が綺麗に重なった。
     ここは映画館の前である。土方は久しぶりの休みに1人で映画を見に来ていた。特に見たい映画があったわけではないが、屯所にいてもつい仕事のことを考えてしまうため暇つぶしに立ち寄ったのだ。そこで会いたくもない天敵と鉢合わせしてしまった事に、土方は盛大に顔をしかめた。

    「何でてめぇがここにいんだよ」
    「それはこっちの台詞だっつーの。今日はお前にかまってやる暇はねぇんだよ」

    銀時も苛立ちを隠さない様子で土方を睨みつけた。いつも以上にピリピリした空気を感じる。何だか違和感を感じ、土方は銀時に尋ねた。

    「おい、どうし…」
    「隠れろ!」

    バキッという音とともに、土方は裏路地に蹴り飛ばされた。

    「急に何しやがんだ、てめぇ!」
    「うるせぇ。静かにしろ」

    銀時も裏路地に身を潜めると、映画館に視線を向けた。その横顔はいつもの腑抜けた表情ではなく、敵を待ち構えている時のような雰囲気が醸し出されていた。もしかしたら、何か危険な事件に巻き込まれているのかもしれない。しかも攘夷戦争時代『白夜叉』と呼ばれていた銀時が注視する人物であれば相当の手練れだろう。一体どんな人物が現れるのかと、土方も銀時が真剣な眼差しを向けている方角を注意深く観察した。
     しばらくして、映画館の前に1人の見知った人物が現れた。

    「万事屋のメガネじゃねぇか」

    新八はキョロキョロと辺りを見回していた。どうやら誰かを待っているようだが、特におかしな様子は見受けられない。事件とは関係なさそうだと思いながら土方が銀時に視線を向けると、銀時は悔しそうに歯を食いしばっていた。

    「くっそ、あんな楽しそうにしやがって。ルンルンじゃねぇか。ちょっと頬も赤くなってる気がするし。可愛いな、オイ」

    ブツブツと呟いている銀時に、土方はヒクリと口元が動いた。コイツ、まさか…。

    「映画デートなんて許すかっつーの。ぜってぇ邪魔してやる。ぜってぇソイツより俺といる方が楽しいって思わせてやる」
    「ちょっと待て、ゴラァァァ!」

    土方は銀時の胸ぐらを思い切り掴んだ。

    「珍しく真剣な顔してると思って黙って見てりゃ、ただメガネをストーカーしてただけじゃねぇか!事件かと思って損したわ!」
    「バカヤロウ、大事件だわ!新八が俺以外の男と映画見に行くって知った時どれだけ俺のハートが傷付いたと思ってんだ!傷害罪で訴えてやろうか!」
    「訴えられるかぁぁぁ!」

    土方は一気に疲労感に襲われた。やはりコイツに関わると録な事はない。土方は銀時から手を離すと、くるりと踵を返そうとした。しかし、今度は銀時が土方の肩を掴んでその場に引き留めた。

    「おい、どっか行こうとしてんじゃねえよ。テメェにゃ今から来る野郎をしょっぴいてもらう任務があるんだから」
    「その前にテメェを諸々の罪でしょっぴいてやろうか。そもそもメガネが誰と映画に行こうが関係ねぇだろ」

    志村新八は16歳の少年ではあるが、素行の悪い人間と付き合うような奴ではない。新八が隊長を務めるお通親衛隊の隊員たちも素直なオタクたちばかりだ。映画くらい誰と行こうが問題はないように見えた。
     すると、銀時は吐き捨てるように言い放った。

    「俺が気に入らねぇんだよ」

    土方は重い溜め息を吐いた。そうだった。コイツは1回り近く年の離れた少年に淡いとは言い難い恋心を抱いているんだった。その重さと面倒くささと不器用さは、新八を除く江戸中の誰もが周知しており、土方の耳にもばっちり入っていた。あいにく他人の惚れた腫れたに首を突っ込む趣味はないため傍観を貫いていたのだが、まさかこんな形で巻き込まれるなんて。こんな事なら結野アナのブラック星座占いを確認してくれば良かったと、土方は後悔の念に駆られた。

    「さっさと当たって砕けちまえ」
    「んだと?」

    バチバチと視線の火花が飛び交う中、映画館の方から新八の弾んだ声が聞こえてきた。銀時と土方が映画館の方に視線を向けると、新八と青年が何やら楽しそうに談笑しているようだった。

    「くそ!、あの野郎!新八と会う前に消しちまおうと思ってたのに」
    「警察の前でサラッと暗殺計画漏らしてんじゃねぇよ」

    その青年は黒髪の中肉中背の姿をしており、年齢は土方たちと同じ位に見えた。良い意味でも悪い意味でも平凡そうな男だった。しかし、土方の隣にいる非凡を絵に描いたような男は鋭い眼光で2人を睨み付けていた。

    「なんか距離近くね?あっ!今目ぇ合わせて笑いやがった!おい大串くんアイツ淫行罪でしょっぴいてこいよ」
    「あれぐらいで取り締まれるわけねぇだろ」

    どんだけ余裕が無いんだと、土方は引いた眼差しで銀時を見つめた。

    「映画館の中に入りやがった。俺たちも追うぞ」
    「はぁ!?俺関係ね…」

    土方の抵抗も虚しく、銀時に引きずられながら2人は映画館へと足を踏み入れた。
     新八と青年は購入したパンフレットを眺めながら何か話し込んでいるようだった。新八は時折ページを指差しながら何かを青年に熱く語りかけている。それに青年が力強く頷き、嬉しそうに新八の話に耳を傾けていた。会話が白熱するにつれて二人の距離は縮まり、肩を寄せ遭うように並んでいる。

    「あーまじイライラする。顔近過ぎんだろ」
    「いや、あれくらい普通だろ」

    恋は人を盲目にするというが、瞳を魚眼レンズにでも変えたのかと言いたいぐらいに銀時の視界は歪んでいるようだ。土方は銀時に呆れと憐みの眼差しを向けた。すると、新八が青年の手を握るのが見えた。

    「はぁ!?何アイツ手なんか握ってんだ!」
    「落ち着けよ」
    「俺なんか酔っ払った時くらいしか握ってくれた事ねぇのに!」
    「それ真っ直ぐ歩けねぇ酔っ払いの面倒見てるだけだろ。つーか、そんな騒ぐな!メガネにバレるだろうが!」

    土方は新八の挙動1つ1つにギャアギャア騒ぐ銀時を宥めようとした。これ以上目立ちたくはない。しかし、大人2人が大声で言い合う姿は完全に悪目立ちしていた。またしても互いの胸ぐらを掴み合いそうになる。
     その時、突然声を掛けられた。

    「あれ?銀さんと土方さん。2人も映画を観に来たんですか?」

    新八に話しかけられ、2人の顔からダラダラと汗が流れ出た。『お前を尾行していた』だなんて口が裂けても言えるはずがない。2人は同時に口を開いた。

    「「た、たまたまだよ。誰がコイツなんかと一緒に来るか」」
    「うわ、綺麗にハモった。やっぱり何やかんや仲良いんですね」
    「「いや、仲良くねぇし」」

    不機嫌そうに視線を反らす2人を見て、新八はフフッと笑った。不本意だが映画館にいる理由を誤魔化すことができた事に、土方と銀時はホッと胸を撫で下ろした。

    「んで?お前は何でここにいるわけ?後ろにいる彼とはどんなご関係で?」

    銀時が後ろの青年を射殺さんばかりの視線で睨み付けた。

    「ああ、僕たちは…」

    新八が言い終える前に、後ろにいた青年がズイと前に出てきた。青年の突然の行動に銀時は一歩後ろに下がった。ここで青年から堂々と恋人宣言をされた場合、この銀髪はどんな反応を示すのだろう。メガネの幸せを壊すような真似はしないと思うが、この男がどんな行動を起こすのか予想できない。土方が身構える中、青年は大きく口を開いた。

    「隊長!こちらは隊長のご友人でありますか!?」

    青年の口調と『隊長』という単語に、2人は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

    「「隊長?」」
    「拙者まだ新参者でありまして。もしかして、お二人もお通親衛隊の隊員なのでありますか!?」

    青年は興奮気味に銀時と土方を交互に見渡した。いまいち現状が理解できず、2人は新八に視線を向けた。

    「今日からお通ちゃんが出演する映画が始まるんですよ」

    新八は嬉しそうに声を弾ませながら今日までのいきさつを説明し始めた。
     お通が出演する映画の公開日が判明した当初は、親衛隊全員で映画館に行こうと決めていた。しかし、公開日が平日という事から『行けません』と申告して来る者が1人増え、2人増え……。最終的に隊長である新八と平日休みの新人隊員1人だけが生き残ったのだった。

    「隊長と2人でお通ちゃんの映画を拝見できるとは恐悦至極であります」
    「いや、そんな大袈裟な。でも僕もお通ちゃんの映画を一緒に語れる人がいて嬉しいよ」

    再び2人でお通の世界に浸ろうとしているところに、銀時が割って入ってきた。

    「そんなに面白そうな映画なら観てやらねぇこともねぇけど」
    「えっ?」

    新八はキョトンとした顔で銀時を見つめた。
    「一緒に観てくれるんですか?」
    「まぁ、特に観てぇ映画もねぇし」

    騙されるな、メガネ。そもそもコイツの目的は映画じゃないから。ストーカーで得た情報を悪用してるだけだから。土方はツッコミたい衝動に駆られたが、新八の顔はパァァッと華やいだ。

    「じゃあ、銀さんたちも観てくれるですね!」
    「おー。金は高給取りのコイツが出してくれるし」
    「おい、俺は観るなんて一言も…」
    「ありがとうございます!やっぱり土方さんもお通ちゃんの事ずっと応援してくれてるんですね」

    新八から純度120%のキラキラした瞳を向けられ、土方は言葉に詰まった。それから視線を外して『まぁ』と小さく呟いた。

    「そういえば新八。お通の映画ってどんな映画なんだよ?」

    銀時に尋ねられ、新八はパンフレットの表紙を見せた。

    「これです。タイトルは『呪いの塔~君たちはどう生き延びるか~』」
    「「えっ」」

    銀時と土方の身体がピシリと固まった。一瞬宮◯駿の新作かな?と思わせるようなタイトルだが、主題はどう見てもファンタジーアニメだとは思えなかった。しかも、見せられた表紙の『呪い』の部分が血のような赤い文字で書かれている。これは、もしやホ……。

    「もしかして、お二人ともホラー映画は苦手でありますか?」

    青年が心配そうに声を掛けた。

    「は、はぁ!?ここここ怖ぇなんて一言も言ってねぇだろうが!まぁ隣のニコチン野郎は足ガクガクさせてるみてぇだけど!」
    「ばばば馬鹿な嘘吐いてんじゃねぇぞ、万事屋!これは楽しみ過ぎて武者震いが止まらねぇだけだ!おら、メガネ!さっさとチケット4枚買ってこい!」
    「あっ、はい」
    だいぶ痩せ我慢してるみたいだけど大丈夫かな。新八は2人を心配しながらも、言われた通りにチケットを買いに向かった。こうなったらお通の映画の興行収入に貢献してもらおう。
     10分後、映画館から2人の大きな叫び声が響き渡る事になった。
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