「手を繋ぐ」 思わず手を掴んだ。人波に飲まれて離れそうになったからだ。お互いの身長からすれば離れたからと言って見失うものでも無いが、思わず掴んでいた。掴まれ振り向いた目とかち合う。俺が何か言おうとする前に、するりと掴んでいた手を繋がれた。
「ふふ、ありがとうございます雨彦。ここからは離れないよう手を繋いでおきましょうか。」
ほら、雨彦…と。そのまま流れるように大きな水槽の中の魚達の話へと移っていく。水槽からの淡い明かりに照らされる横顔を見る。子供連れの喧騒が背後を駆け回る水族館。指差してあれはどうとかこれはそうとか真剣に話してくるので、俺はその喧騒をBGMに相手の心地良い声に耳を傾けた。
次の水槽へ、と。繋いだ手を引かれて歩く。少し早足でグイグイと引っ張るように歩くのは、相手が嬉しくて興奮している時の癖のようなモノだ。
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