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    年明けの雨クリがイチャイチャ電話してるだけのやつ

    #雨クリ
    raincoatClipper

    「あけましておめでとうございます」
     賑やかにカウントダウンを行っていたテレビが、新年の始まりを告げて、クリスは家族と挨拶を交わした。
     年末年始に向けて慌ただしく過ぎていったスケジュールは、大晦日の前になんとか一段落した。そのおかげで今年の年末は、家族と過ごすことができている。
     事務所の一部のメンバーは、今年も年越しの配信を行っているらしい。夕食後もリビングでのんびりと過ごしていると、スマートフォンで配信を見ている妹が、時折配信の様子を伝えてくれた。
     そんな妹のスマートフォンは、年が明けてからというものの、ひっきりなしに軽快な音を立てている。その度に流れるように指先が画面の上を走り、表情からも楽しそうにやり取りをしているのが見て取れた。
     妹は昔から友人が多い。昔から海に夢中のクリスは、あまり交友関係が広くないから、兄妹でここまで違うのかと昔は驚いたものだ。けれどアイドルなってからは、クリスにも随分と友人が増えた。
     自身のスマートフォンを見れば、既に何件かメッセージが届いている。LINK上に作られた事務所のグループには、お祭り好きな高校生たちからの明るいメッセージや、真面目な大人たちからの新年の挨拶が並んでいた。兄と共に実家で過ごしている想楽からのメッセージも届いて、クリスの顔に自然と笑みが浮かぶ。
     自分からもメッセージを送ろうとしたところで、スマートフォンが着信を告げた。画面に表示された名前に、クリスの心臓がとくりと跳ねる。
     慌てて自室へと戻っていくクリスの様子を、家族が微笑ましげに見守っていたことを、クリスは知らない。



    「あけましておめでとうございます、雨彦」
    「ああ、あけましておめでとう」
     スマートフォンから響く落ち着いた低い声は、年が明けても変わらない響きだ。一方のクリスはというと、恋人からの電話にすっかり浮かれてしまっている。雨彦が小さく笑う気配がして、声音で様子が伝わってしまっただろうかと少し照れくさくなった。
    「大した用はないんだが、新年の挨拶がしたくてな」
    「ふふ、一番に雨彦の声が聞けて嬉しいです」
     雨彦とは、大晦日まではほとんど毎日のように顔を合わせていた。それなのに、こうして話せることを新鮮に嬉しいと感じる。
     それはきっと今年も、これからも変わらないのだろう。クリスにとっての海が、毎日でも触れたい存在であり続けているのと同じように。
    「古論は今年も初日の出を見に行くのかい?」
    「はい。少し休んでから、海へ行こうかと」
     クリスは正月も海へ行く。早朝の海で初日の出を見るのが、毎年の恒例行事だった。今日向かう予定の海も既に決まっていて、準備万端の状態だ。
     クリスの返答を聞いた雨彦は、それなら、と言葉を続ける。
    「お前さんが良ければ、俺が車を出そうか」
    「それは嬉しいのですが、遠くはないですか?」
     雨彦からの申し出に、クリスは驚いた。雨彦と初日の出を見られるのは嬉しいが、雨彦の家とクリスの家ではそれなりに距離がある。仕事終わりや二人で会った帰りに、家まで送ってもらうこともあるが、この時間から迎えに来るのは大変だろう。
     気遣うクリスに対して、雨彦の方は全く気にしていない様子だ。
    「お前さん、前に初日の出の話をしてただろ。それで俺も、海で初日の出を拝んでみたくなってね」
     そう言った雨彦は、あーという声を発して沈黙した。クリスは静かに、雨彦の次の言葉を待つ。
     こうなっている雨彦が、自分の中の素直な気持ちを伝えようとしてくれていることを、今のクリスはちゃんと知っていた。
    「……というのは建前で、俺が一番にお前さんに会いたいのさ。だから迎えに行かせてくれ」
    「……ええ、私もあなたに会いたいです」
     こういう時、クリスは自分がこの人の特別なのだということを実感する。それが嬉しくて、満たされるような心地になる。
     今雨彦は、どんな表情をしているのだろうか。そう考えると、今すぐにでも会いたくなって。
    「それじゃあ古論、また後で」
    「はい、お待ちしていますね」
     時間だけを決めて、短い言葉の後に通話が途切れる。雨彦が迎えに来るまでの、ほんの少しの時間が既に待ち遠しい。
     少しだけ眠ってしまえば、それも一瞬になるだろうか。そんなことを考えながら、クリスは手元のスマートフォンの画面をオフにした。
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