PM1:00「なぁ、パン買いに行こうぜ」
「パン? どこに」
「三つぐらい向こうの通りに新しい店できたんだって、ほら、前行ったコーヒー屋の近く」
「そういや一件テナントが空いてたな」
「そうそうそこそこ」
遅い朝飯は、チキンのコンソメスープとエッグベネディクトだった。チキンの他にも野菜をたくさんいれて作られたスープは具沢山で腹が膨れるものだったが、まあもちろん、俺は野菜少なめ鳥多めに注がせて食べた。
片付けまでとっくに済ませて、二人でダラダラリビングのソファに座ってコーヒーを啜っていると、ネロが出かける提案をした。コーヒーの香りで思い出しでもしたのだろう。
「お客さんが教えてくれてさ。あんたが好きな固いパンがたくさんあるってよ」
「へえ。いいじゃねえか」
「ブラッドそろそろ腹減るだろ。散歩がてら歩いて行って、天気いいし適当に外で食おうぜ」
窓の外を見ると、てっぺんに登った太陽は雲に隠されることもなく燦々と輝いている。起きたては空気が冷たいと思っていたが、これだけ太陽が出ていれば外で食事をしても気持ちはいいだろう。
「よし行くか」
「すぐ行く?」
「おう」
マグに残っていたコーヒーを飲み干し、怠着のスウェットから外に出られる服に着替えるため部屋に戻る。テーブルに置いたマグはネロが取って行ったから洗うだろう。
数分と経たずにネロも戻ってきて、並んで着替える。シャツのボタンを止めながら、「あ」と声があがった。
「スニーカーおろそうかな」
「ああ、いいな」
そういえば靴箱に、まだ履いていないスニーカーが眠っていた。前の休みに揃いで買ったものだ。散歩がてらというのだし、ちょうどいいだろう。
玄関に靴を二足下ろす。ネロが真っ白。俺が真っ黒で色違いだ。あんま露骨だと恥ずいじゃん、と言ったその口が、それでもショッパーを見て嬉しそうに緩んでいたのを思い出す。
二人並んで一緒に靴が履けるほど広い玄関ではないから、先に足を通して立ち上がり、鍵と財布をポケットに突っ込む。ネロをチラリと見下ろすと、ちょうど靴紐を結び終えて立ち上がった。
「よし、行くか」
声が心なしか弾んでいる。これぐらいで喜ぶならいくらでも喜ばせられる気がするのに、俺が喜ばせようとすると喜ばないこともあるから難しい。
とりあえずは、行く先の店にネロ好みのパンも置いてあればいい。ドアノブを捻って踏み出した外は、冷たくも優しい気配がした。