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    y871130

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    🐏⚡️って言わないモブ視点の話。

    とある研究員と天才たちへの誹謗「お前も大変だよな、あんないけ好かないやつに振り回されて」

     ヘルマンに指摘された論理の矛盾点を必死になって直しているさなか、耳に飛びこんできた声。ここは図書室だ。こっちは頭を悩ませているんだから、世間話なら他所でやってくれ。ぐぬぬと唸っていると、急に誰かが隣に座った。

    「おい、聞いてるのか?」
    「え、俺か?」

     まさか自分に声をかけられているとは思わなかった。弾かれたように顔を上げれば、そこには怪訝そうにこちらを見る男がいた。白衣なのを見る限り彼も研究員なのだろう。
     しかしどこかで顔を合わせただろうか? 記憶を辿るがどこかで議論を交わした記憶もない。そうなると別の棟の職員か? まあ図書室だから、いろんな職員が活用するか。

    「さっきも酷い言われようだったじゃないか」
    「?」
    「お前の論理にいちゃもんをつけていただろ?」

     この男は何を言っているんだ? 俺の倫理を指摘してくれたのはゼーマンだが、それを「いちゃもん」をつけていた? どこをどう見てそう思ったんだ?
     あっけにとられた俺が何も言い返さなかったせいなのか、隣に居座っている男は機嫌良さそうにベラベラと喋りだした。

    「天才だか何だか知らないが、頭が良いことを鼻にかけて言いたい放題でやりたい放題じゃないか。人の物にいちゃもんをつけている暇があるなら、もっといい物を自分で作ればいいのにな。まあ、あんな性格だから周りから人も離れていくんだろうな。そうそう、よく一緒にいる背が高いだけのやつも、無表情のせいで気味が悪いよな。何考えているかもわからないのに天才だなんて……もてはやす奴らの気がしれない」

     ブチリ、ブチリと自分の中で何かが切れる音がする。心を落ち着けるために大きく息を吐いた。今ここで、感情のままに言い返してはいけない。この男があの天才たちを誹謗していい理由はないが、ここで対応を間違えれば余計彼らに迷惑がかかる。務めて冷静に、それでいて反論の余地を与えない言葉選びを……。

    「君が言っているのは、ゼーマンとロレンツのことか?」
    「ああ、そうさ」
    「申し訳ないが、君に彼らを謗る資格があるのか?」
    「なに?」

     相手の眉が上がり、語尾がきつくなった。苛立ちを全面に出した態度を見ると、俺が意見に同調すると思ったのだろう。彼らのような本物の天才を相手にして、何か勝てると物があるとでも思っているのだろうか?
     ああ、なるほど。この男にとっては、彼らの才能が鬱陶しいんだろう。だからこうして彼らをけなすのか。彼らの努力も、素晴らしさも知らないくせに、そんな下らない嫉妬のために……。
     ブチッと、切れてはいけない何かが切れた。

    「君のしていることはただの中傷だ。俺が君みたいなやつの意見に同調すると思ったのか? 彼らの論文を読めば、その素晴らしさは一目瞭然だ。彼らは天才かもしれないが、何の努力もしていないわけじゃない。彼らの才能に嫉妬するくらいなら、もっと見聞を広めたらどうだ」

     あの二人の研究を、間近で見てきたからこそわかることだ。彼らは天才だと言われているが、決して努力は惜しまない。論理を考察し数式を組み、そして確証のために実験をする。上手くいかなければ苛立つこともあるし、そのまま天才たち同士の議論に発展することもある。正直、議論が始まってしまうと俺は話についていくので手一杯だ。

    「な、んだと…はっ、お前もあの二人に毒されてるんだな!」

     散々二人を誹謗していたくせに、少し言い返したらとたんに顔を赤くした。彼が言っていた誹謗は、きっとそのまま彼に当てはまるのだろう。こんな性格の人間の周りに人が集まるわけがない。
     特にここは国でも有数の研究機関だ。実力が伴わないなら、聞き入れてもらえる意見は無い。

    「あと一つ訂正させてもらう」
    「なんだっ!」

     激怒しているようだが、なんの反論もないところを見ると、本当に感情的な物からくる誹謗のようだ。下らない。この男に付き合っていた時間を目の前の論理に費やしていれば、今頃矛盾点も解消していたかもしれないのに。

    「ゼーマンは俺の論理にいちゃもんをつけたわけじゃない。俺なんかの倫理を、もっといいものにするために、わざわざ指摘をしてくれたんだ。事実の確認もせず、状況だけで判断するなんて、研究者として失格だな」
    「うるさい! 知ったような口をきくな!」

     男は勢いよく立ち上がり、力任せに椅子を蹴った。ガタンッと音を立てた椅子に目もくれず、地鳴りでもしそうな勢いで図書室を出ていく。野次馬達に「退け!」と怒鳴りつけていく姿は、なんとも情けない。
     そしてそこで気づいた。ここは図書館だった。急に周りの視線が突き刺さるように感じる。悪いことをしたつもりはないが、あまりにもいたたまれない。そそくさと荷物をまとめる俺のもとに、すっと影が落ちた。

    「やあ」
    「…ロレンツ」

     そこには穏やかな表情でこちらを見下ろすロレンツがいた。一体いつから図書室にいたんだろう。もしかして最初から? だとしたらあれを聞かれていたことになる。それは正直恥ずかしさが勝る。
     全て本心だが、面と向かって言えるほど、俺と彼らの仲は深くないと思っている。それを聞かれていたとなると……今は顔を合わせずらい。

    「君は怒ると勇ましくなるんだな」
    「……どこから見てたんだ」
    「ほぼ最初からさ」

     荷物をまとめた俺の後を愉快そうに着いてくるが、こちらとしては今は放っておいて欲しい。何故こんなにもタイミングが悪いんだ。どんなに早歩きをしたって、歩幅の違いであっという間に追いつかれる。なんて悲しい現実なんだろう。

    「ここへ入所してから、ヘルマン以外に君という友人ができて私は嬉しいよ」

     思わず足が止まった。今、彼は、なんと言った? 友人? この俺が?
     今の俺は間抜け面だろう。あまりの衝撃にロレンツを見上げれば、彼は目尻を緩めながらこちらを見ているではないか。顔が熱くなるのを感じる。何も言えなかった俺は、恥ずかしさのあまりそこから駆け出して逃げた。



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