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    そらの

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    そらの

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    そこそこあぶ空1210展示
    ルスボブ
    たまにはなにがなくっても、

    ひだまりの下、二人で空は晴れ、陽は柔らかくのどかに照っている。風もなく過ごしやすい。こんな時には出かけたい、と言い出したのはボブだった。ブラッドリーは渋っていたが結局ボブの押しに負けて連れ出された。ブラッドリーはボブの押しに弱かった。自覚はあった。惚れた弱み、と言うやつだろうか、聞き入れないとそれはそれで気になる、といったまるで天邪鬼のような感情が湧いて出るのだった。

    暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい陽気でボブはニコニコとしていた。最近天気が悪い日が続いていたから気分が高揚したのだろう、そんなボブを見ながらブラッドリーは隠れて欠伸を噛み殺した。

    「何しに行くんだ」

    「特に決まってないけど」

    「……じゃあなんで出かけることにしたんだ」

    ブラッドリーの言うことはもっともだった。無理やり連れ出されぼんやりボブの後ろを歩く自分はじゃあ一体何をしているのだろうという気になる。もっともボブの意見には逆らわないブラッドリーだから結局こうなっていたけれど。逆らったら途端しょぼんとするかムッとするかのどちらかだ。どちらもブラッドリーにとっては苦手な表情だったし、その後のことを考えると逆らわない方が賢明だった。

    「だって天気がいいと外出たくない?」

    「別に」

    「……ブラッドは情緒がないね」

    「ないな」

    ブラッドリーは嫌味なくさりげなく言った。別に機嫌が悪いわけではない。でも正直なところそんな気持ちしか思い浮かばなかった。陽は燦燦と照っている。ブラッドリーは眩しそうに目を細めた。微かに吹いた風が髪を揺らす。それを手で撫で付け、ボブの横に並んだ。

    「じゃあ公園行こう」

    「公園?」

    「ベンチに座って日向ぼっこしよう」

    日向ぼっこ。それはボブが言うから許されるものであってブラッドリーが言ったら異質なものを見るような目で見られるだろう。日向ぼっこ、と続いてブラッドリーも呟くとせっかくだからコーヒーとか買ってさ、とボブが提案した。大の男二人が公園のベンチで日向ぼっこ。それは世間的にありなのだろうか。ボブがいうならそうするが、少し首を捻ってしまう。頭の中でマーヴェリックが、『考えるな、動け』というありがたくも余計なお世話な答えをくれた。

    「……そうだな」

    「きまり!」

    ブラッドリーの返事に気を良くしたのかボブは浮き足立ったように見える。公園までの道すがらにあったカフェでコーヒーを二人分買い、ボブが話をふって、ブラッドリーがそれに答える。それでさえ二人には大事なことで、時にはまともなコミュニケーションが取れない時もあることを考えると貴重なものと言えた。二人のこと、日常のこと、任務や訓練のこと、仲間たちのこと。話のネタは尽きることはなかった。

    大きくも小さくもない公園でボブはベンチを探している。ブラッドリーは目ざとく先に見つけていたがなんとなく言わないでおいた。ボブが楽しそうだったからだ。公園は割と人で溢れていた。親子連れ、恋人たち、子供たち。案外賑やかで静かに過ごすのには向いてないな、と周囲を眺めながらブラッドリーはのんびりと思った。端にはバスケットコートもあり、青年たちが競技に興じている。時たま歓声が上がる。ブラッドリーはバスケはそう得意ではなかったが、今見るとブラッドリーは面白そうだな、と思った。

    「あ、あそこ空いてる。」

    ボブがやっとベンチを見つけた。それはブラッドリーがみつけていたところで、生憎そこしか空いてないようであった。他の場所はやはり親子連れ、恋人たちが座っている。子供たちは駆け回っていてとても元気そうだった。自分も過去そうだったかなと振り返るが良く思い出せない。マーヴェリックなら知っているかもしれないが。ボブはどうだったのだろう。興味が湧いた。

    「あそこ、行こう」

    ボブはブラッドリーの手を引いてぐいぐいと進む。そこだけぽかりと空いていたのでそこまで急ぐ必要は無いと思ったがボブはそこだけを目ざしてブラッドリーの手を引く。もう片方の手で持ったアイスコーヒーがちゃぷん、と音を立てた。

    「そんなに急がなくても」

    「だってせっかくだからゆっくりしたいでしょ」

    そう言ってさっさと腰掛けたボブはブラッドも座って、とパタパタと自分の横を叩いた。ブラッドリーは気持ち恥ずかしげにのそり、と腰掛ける。そのベンチは木の影で、風で揺れる葉のさわさわとした音が響いている。木の影でありながら木漏れ日が刺し、日差しが感じられる。こういうところはいい場所だ、とブラッドリーは揺れる葉を眺めながら思った。フラッドリーはコーヒーを一口啜る。あそこのカフェはきちんとしてるな、と思った。

    「そういやさ、ボブって小さい頃走り回ったりするタイプだったのか?」

    ブラッドリーはいまだきゃいきゃいと走り回る子供たちを見ていた。自分の子供の頃がそうだったとして、その当時はなんとも思っていなかったのだろうが、今見るとよく疲れないな、と思ってしまう。

    「僕?そんなでもなかったかなぁ。外で遊ぶことはあったけど、家で本を読んでることの方が多かった気がする」

    「へぇ。ボブらしいといえばボブらしい」

    「え、そう?」

    「うん」

    ボブが内向的だと思っている訳ではないが、走り回ったりするようなタイプにも見えなかった。どちらかというと自然に目を向けるような、そんなタイプだと思っていた。それは外れてしまったが、どちらにせよ、その理由はボブらしさを表現していた。

    「ブラッドは?」

    「あー……どうだったかな。俺のことはマーヴに聞いて」

    「自分のことなのに覚えてないの?」

    「常に父さんとマーヴが側にいて色々してたからそんくらいしか記憶がない」

    さわり、さわさわと葉が揺れ、木漏れ日がブラッドリーをさす。眩しさに目を顰める。自分の記憶などほとんどが父親とマーヴェリックが共にそばにいてあれやこれやしていた思い出しかない。父親がいなくなってからはマーヴェリックが父の代わりも果たそうと四苦八苦しているのをこちらが心配するように見ていた気がする。それからも付き合いは続いたが、願書を抜き取られてからのことは、知らない。聞こうとも思っていない。今更聞いたって意味のない事だから。

    「それも少し寂しいね」

    「そうでもない」

    「そうなの?」

    「今の方が大事だ」

    ベンチの背もたれに両腕をのせ完全にくつろぐ様子を見せるブラッドリーをボブはコーヒーをごくり、と飲みながら優しい笑顔で見ていた。確かに、思い出も大事だけど、今のことも大事だと思った。今だっていつかは過去になり、思い出になる。今を大事に。たまに聞く言葉をボブはいつも聞き流していたが、それは本当のことだったのだ。木漏れ日がさして眩しそうな、それでいて輝くブラッドリーの顔はなんだか満足そうな顔をしていた。ボブは残りのコーヒーを一気に啜った。

    「そうだね、今が大事だ」

    「だろ?」

    そういってブラッドリーはボブの頭を引き寄せライトキスをした。ボブの顔に木漏れ日が落ちる。顔が赤くなっているのがよく見える。無言になった二人の間にはさわさわと葉が擦れる音しか響かない。ボブは何か言いたげだったが突然のことに驚いたのか何も言えないでいた。ブラッドリーはそんなボブの心内をなんとなくではあったが察していた。にんまり、と笑う。

    「これも思い出、だろ?」

    「……うん」

    「そろそろ帰るか」

    親子連れ、子供たちは家へ戻ったのか、大方の姿は消えていた。恋人たちは各々どこかの店へでも行ったのだろう、やはりいなくなっていた。バスケットコートからも時折トントン、と音が聞こえるだけで数人だけが遊んでいるのだろう。寂しげであった。そう長くここに居た気はしないが、家に帰ってできることだって、ある。空を見上げると鳥が飛んでいく。あの鳥たちにも帰るところがあるだろう。自分達だってそうだ。

    ブラッドリーが立ち上がって軽く伸びをする。しかしボブが立ち上がらない。まだ帰りたくないと言う意思表示なのか、と思ったがそうではないらしい。体調が悪いと言うのならタクシーでも拾って帰らなければ、と己のCell phoneの在処を確認する。

    「ボブ?どうかしたのか?」

    「……ブラッドが突然あんなことするから」

    立てなくなっちゃった、と小声でこぼす。あれくらいでか、とブラッドリーは思ったが、それくらいのことだったのだろう。ついにやけてしまう。さぁ、と吹き抜ける風がボブの頬の熱を奪っていくがそれくらいでは足りそうになかった。

    「じゃあ、ほら引っ張ってやる」

    手を差し出すと重ねられる手。そのまま握って立たせると少しふらつく。握った手は少し汗ばんでいた。先程のキスのせいだろうか。そうだったらいいと、ブラッドリーは内心で笑いながら手を引いていく。途中のゴミ箱にそろってカップを投げ捨て家路に着く。

    「いい思い出、できたろ」

    「……恥ずかしいやつがね」

    「あれくらいでか」

    「ブラッドにはわからないよ」

    「そうだな、わからないな」

    今度こそ声に出して笑うブラッドリー。笑わないでよ、と言い募るボブの顔は先ほど同様赤かった。ここにくるまではブラッドリーがボブについていったのに、帰りになるとボブがブラッドリーに手を引かれて遅れてついていく。そんな光景の違いもまた、二人らしい。家にに帰り着くまでに、ボブが元通りになればいいけど、とブラッドリーは思ったが、今の様子を見る限りそうはならないだろうな、とボブの顔を見た。ボブの手を引くブラッドリー。ブラッドリーに手を引かれるボブ。二人が家に帰り着くまで、優しく温かな陽光が二人を照らしていた。
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    そらの

    DONEいきなりあぶ空2023展示
    立ち上る紫煙の元を探ってふと、時折匂う、苦味のある香り。それはすれ違った時だったり、隣にいる時だったり、抱き合ったりした時に密かに感じられるものだった。それが何か、解らぬほどボブは子供ではなかった。
    自分にだって覚えはある。一丁前に大人になったと浮き足立った時、つい手を出したものだった。自分には合わずただただ苦しんだだけだったけれど。
    一時だったけれど覚えのあるそれが、時折、ブラッドリーから香るのだ。独特の苦味のある香り───煙草のそれ───が。本人がそれに気づいているのか、それは知らない。言わずにいるだけなのか、言わないつもりでいるのかも、知らない。
    ボブはそれを不思議に思っていた。もう長いと言えるほど生活を共にしているのに、けれどその姿を見た事は一度もない。どこでもだ。ただ感じるのはその匂いだけで、でもその確たる証拠はどこにもなかった。もしかしたら匂い移りしただけかもしれないとも思うが触れるその手からも香るそれがそうとは言わせてくれない。不思議に思うだけで不快に思うことは無いのだから言ってくれればいいのに、とボブは思う。我慢させていたとしたらなんだか申し訳ない。ブラッドリーがボブを自由にさせるように、ボブもブラッドリーの行動を制限したくないのだ。
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