子供の世話をするのは、生前ではあまりなかった。
あると言えるか分からないが、以蔵や龍馬とは遊んだ記憶はある。
ただそれだけの話で、世話と言えるのかは分からなかった。
「霊基異常はよくあるのか?」
「カルデア名物じゃき。慣れろ」
「武市さんは初めてだったか。以蔵さんの言うとおり、こればっかりは慣れた方が後々楽だよ」
以蔵の手を掴んで居る童は、髪の色と顔付きからして田中君であるの分かる。
彼の特徴でもある鋭い目には幼さからか丸みを帯び、体付きも成長途中なのか全体的に柔らかさが目立っていた。
私を見上げる田中君と言うのは珍しいなと思いながら、田中君を見下ろしていると彼が顔を上げる。
ほわーと声を上げる彼の声は、やはり幼いからか高めの声だった。
「言い忘れてたけど、新兵衛さんは記憶も後退しているからさ。だから、武市さんの事は分かってないんだ」
「え?」
言われてみれば、田中君なら直ぐに私に詫びていただろう。
童の田中君が珍しくて、通常なら見落とさない事を見落としていた。
うっかりしていたと自戒しつつも、田中君に視線を戻す。
すると田中君は、私の視線から逃げる様に以蔵の後ろへと隠れてしまった。
「新兵衛。安心し、武市先生やき」
弟に接する様に優しい口調の以蔵に驚きつつも、田中君に隠れられた事が衝撃的過ぎて言葉を失ってしまった。
「あー、その新兵衛さんの年齢的に人見知り?らしいから、別に武市さんが嫌だって訳じゃなくて」
「りょーま、悪化してるぞ」
龍馬が何か言っていたが、私をちらりと見ては以蔵の後ろに隠れる田中君。
どう接すればいいのか分からず、一先ずしゃがんで田中君と視線を合わせようと試みる。
それでも駄目なのか、しゃがんだ私から逃げる様に以蔵の足に抱き付いてしまう。
何がいけないんだと悩むと、田中君に逃げられる事について心当たりしかない。
「新兵衛。わしも龍馬も周回じゃ。武市の処で待っちょれ言うたき」
以蔵に促されて、おずおず出てきた田中君は俯いたままだった。
マスターを待たせているせいか、以蔵は急いでいる様だ。
「ごめんね、武市さん。帰ってくるまでの間でいいんだ。新兵衛さんの事頼んだよ!以蔵さん、行こうか」
「おう。じゃ、新兵衛。大人しくしちょれよー」
私の元に残された田中君は、私に近付こうとせずに以蔵と龍馬を静かに見送っていた。
気まずい空気の中、田中君の警戒を解こうと名前を呼ぼうとすると別の声が聞こえてきた。
「何だ、その童は」
「あぁ、別側面の私には関係の無い事だよ」
今度は私が、田中君を隠すように背後へと回す。
田中君は突然隠された事に不服そうではあったが、もう一人の私の姿に体を強張らせている様だった。
別側面の私が、背後に隠した田中君に視線を向けて目を細める。
「お前と田中君のややこか?それにしても、田中君の方が濃く出ている様だな」
「さっきから言っているが、お前には関係ない事だ」