夜中に身体を弄られると、先輩芸人の髙羽さんから相談を受けた。
変な所にロケに行ったとか、曰く付きの場所に泊まったとかなかったか、思い当たる節はないかと聞いたが無いと答えられる。
お祓いとかどうですかと勧めてみたんだけど、髙羽さんは乗り気じゃなかったみたいだった。
「いやー、何かお祓いとか怖いし」
「今の状況の方がまずいですって」
何とか説得させて、お祓いで有名な神社に連れて行った。
幾ら待っても髙羽さんが帰って来ないし、日も暮れてきた。
どうしたものかと思って、鳥居を潜ろうとして足を出すのを躊躇ってしまう。
鳥居から向こう側は、空気が違う気がして冷や汗が止まらない。
「そ、そうだ、電話」
震える手で髙羽さんの番号に掛けてみるが、鳥居の向こう側から着信音が流れるだけ。
怖くなって後退りをしようとした時、神社に似つかわしくない格好をした男がこちらを見ていた。
本能的に逃げないヤバイと思って、一目散に逃げ出した。
神社に坊さんは居ない、あの格好は神主ではない。
こわいこわいこわい。
「君かな、髙羽に余計な事を言ったのは」
「ひぃっ!」
湿度を含んだ声が耳元で響き、悲鳴を上げて倒れ込む。
例の坊さんが俺を見下ろして居たが、後ろには別の人間が三人位見える。
「あぁ、見えるんだ。ふーん。ここで、暴れるとバレちゃうからなぁ」
はぁはぁっと息が上がって、恐怖に頭が支配されていく。
怖い
助けて、怖い
「羂索、やめて」
「髙羽、起きちゃったの?仕方ないな、相方がそう言うなら。記憶だけ消そうか」
大粒の涙を溢して、鼻水を垂らした髙羽さんが今は神々しく見えてしまう。
でも次の瞬間、ぶつっと何かが頭の中に入って行って痛みとぐちゃぐちゃと掻き回される音に意識が吹っ飛んだ。
「何で」
「君がいけないんだよ。雑に私を祓うとするから」
静まり返った境内には、二人分の気配しかない。
裟を着た男は、泣いている男をぎゅーっと抱き締めていた。
「だって、分からなかったから」
「うんうん。そうだね、私も身体を無断で触ったのは謝るよ」
すりすりと頬を寄せて、愛おしげに男を見つめる。
恋に浮かされた様な表情を浮かべている袈裟を着た男は、泣いている男を抱き上げたまま人だった何かを踏みつけて歩く。
「赤は御法度だろ?もうしないって、約束するよ。髙羽」
神社で、神主を含む関係者が殺害されているのが発見されました。
近くで倒れていた男性が、事情を知っている可能性があると警察が調べを進めております。
また当日お祓いの儀式中に、行方が分からなくなっている髙羽史彦さん三十五歳の捜索も同時に開始されております。
次のニュースです。