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    あんちょ@supe3kaeshi

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    ひなたくんが出ます。故郷ネタひいあいWebオンリー主催のドロライ週間 第1回お題【住処・習慣】でかきました。

    #ひいあい
    hiiro x aira
    #故郷ひいあいドロライ週間
    hometownHiiAiDororaiWeek

    藍良がヒロくんとひなたくんとお泊り会する話「お風呂お先にもらいましたァ」
     おれは髪を拭きながら考えた台詞を言いながら、脱衣所の扉を開ける。湿度の違う空気に肌が心地よく冷やされるのを感じた。居間のソファに座っていたヒロくんと、葵ひなた先輩が振り返る。ひなた先輩はヒロくんと目を合わせたあと、立ち上がった。
    「じゃー次は俺の番ね~」
     ひなた先輩が自分のベッドの側に行き、ごそごそと寝巻を取り出す。おれがどうしていいか分からないまま突っ立っていたら、ヒロくんが鏡台の椅子に座るよう促してきた。その手にはドライヤーを持っている。
    「僕が藍良の髪を乾かしてあげるよ」
    「ええー、ヒロくんにやってもらうとバサバサになるからやだァ」
     前に星奏館の旧館でALKALOIDの四人で過ごしていた時、ヒロくんにドライヤーの使い方を教えるついでに乾かしてもらったことがあった。その時はもう髪の流れとかつむじの向きとか完全に無視して風を当てられたから、ひどいクセがついて苦労させられたのだ。
     それ以来、時間が合えばヒロくんの髪も乾かしてあげていたっけ。
    「練習したんだよ、ほら座って」
     目をキラキラさせて椅子をすすめるヒロくん。断っても聞かなさそうだから、おれは仕方なく案内された椅子に座る。そんなに言うなら練習の成果を見せてもらおうじゃないか。今度バサバサにしたら目の前で髪を濡らして乾かし直してやるから。
    「お二人さん仲良しだねぇ」
     入浴の準備を終えたひなた先輩が、おれ達の様子を見てにこにこしている。ああもう、こうなると思ったから遠慮したかったのに。これなら部屋で一人でライブ鑑賞会をしてたほうがよかったんじゃ……。でもひなた先輩が誘ってくれたのは嬉しかったし、ヒロくんとも一緒にいたかったし、別にいいけど。
    「俺ゆっくりお風呂に入ってくるから、お二人さんもごゆっくり」
    「もー、ひなた先輩!」
    「あはは、退散!」
     逃げるように脱衣所の扉を閉める先輩。
     あの様子だとおれ達が付き合っていることはバレているんだろうな。ヒロくんが同室の先輩に隠し通せると思っていないし、ひなた先輩はもともと察しがいいみたいだから。

     ここはヒロくんとひなた先輩の部屋。何故いまこんな状況になっているのかというと、今日はたまたま、おれの同室の先輩二人が仕事で不在だからだった。この部屋のもう一人の主、椎名ニキ先輩も同じく仕事で不在。だったら一緒に夕飯を食べようという話になり、ついでに『お泊り会をしよう!』とひなた先輩が提案してくれたのだ。
    「……へェ、上手になったじゃん」
     ヒロくんがブラシを使って、根元から毛先まで丁寧に熱をあて、おれの髪を整えていく。地肌や耳、首筋に触れる指がくすぐったいけど我慢する。鏡に映るヒロくんが、すごく楽しそうにしているから照れてしまった。
    「ふふ、藍良の髪をサラサラにできて嬉しいよ」
    「んも~、そんな風に触るなァ」
     おれの髪に遠慮なく指を通すヒロくんの手を、おれは軽く払いのけた。触られたところを手櫛で整えると、悔しいけどちゃんとサラサラになってた。ヒロくんは物覚えがいいから、出来なかったこともいつの間にか出来るようになってる。おれが教えられることも一つずつ減っているんだなって思ったらちょっとだけ寂しくなった。
    「髪、ありがと。……ねえ、化粧水とか、貸して?」
    「分かったよ、ちょっと待っててね」
     ヒロくんが自分のベッドの側にあるチェストから、籠をひとつ持ってきた。中にはおれが選んであげたスキンケア用品が一式入っている。本館に引っ越してきてだいぶ経つから新しく買い替えたりもしているだろうに、おれが買ってきたものがそっくりそのまま揃っている。肌質とか、使い心地とかによって、新しいものを自分で選んだっていいのに。ヒロくんは「藍良が選んでくれたものだから」と言ってかたくなに替えようとしない。それが分かってて、自室から自分の化粧水を持ってこなかったおれもずるいけれど。

    「お風呂お先~!」
    「じゃあ次は僕の番だね」
    「一彩くん、ドライヤー使ってもいい?」
    「どうぞ」
     毎日この部屋で一緒に過ごしていることを感じさせる、自然でテンポのいい会話。ヒロくんに友達ができているのを見るとおれも嬉しい。
    「やったね! 最近一彩くんのドライヤーじゃないと調子出なくてさ」
     ひなた先輩は自分のベッドに座ってドライヤーを使い始めた。あ、鏡台におれが座っちゃってるからだ。
    「ひなた先輩!」
    「なにー?」
     ドライヤーの音に負けないように名前を呼ぶと、先輩がドライヤーを停めて返事をする。
    「すみません、おれもうここ使わないので」
     化粧水や乳液などが入った籠を持って立ち上がる。鏡台をすすめると、ひなた先輩はドライヤーを持っておれの目の前に文字通り跳んできた。
    「ありがとー!」
     ドライヤーのコードをコンセントに差しながらも、ひなた先輩の視線はおれの手元に向いている。
    「あれ、一彩くんの化粧水セット」
    「はい。借りたんです」
    「自分のこだわりのやつとか、無いの?」
     よく見ると、ひなた先輩はヘアオイルを持っている。アイドルという、肌のケアに一層気を遣うこの仕事では、友達の部屋に泊まる時も、ホテルに泊まるときも、自分に合った信頼している化粧水を持ち歩くものだ。
    「えー、あー……」
    「?」
     でも、おれとヒロくんの間では、実はその必要がない。なぜなら。
    「全部同じの使ってるんですゥ……」
     当たり前だ。全部おれが選んだんだから。おれが普段使っている化粧品類が、ヒロくんの肌に合っていた。というより、ヒロくんの肌に今のところトラブルを起こしていないのだ。
     それを聞いた途端、ひなた先輩は大袈裟に喜んだ。
    「わぁ~お! そっかそっか、そうだよね! 気づかなくてごめん!」
    「からかわないでくださいよォ!」
     ひなた先輩はヒロくんとは違う方向にリアクションが大きいから、こっちが恥ずかしくなっちゃう。おれはヒロくんの化粧品セットをチェストに戻して、そのままヒロくんのベッドに座って、ぼすっと枕に倒れこんだ。今日レッスン厳しかったからいい感じに疲れてるし、このまま寝れちゃいそう。

    「ねえねえ藍良くん、いいこと教えてあげるから俺の髪乾かしてくれない?」
    「ええー」
     聞き返しながらベッドの上で転がる。ヒロくんのにおいと、お日様のにおいがした。どっちも似たようなにおいだけれど。
     うっかり眠気に身をゆだねそうになりながらも、おれはひなた先輩の「いいこと」が気になって起き上がった。
    「……いいことって何ですかァ……」
     聞くということは、その取引を請けるということだ。おれは答えを聞く前に鏡台の側へ戻り、ひなた先輩からドライヤーを受け取る。これも、おれが選んであげたヒロくんのドライヤーだ。
     じゃあ教えてあげるねと言うように、ひなた先輩がおれが持っているドライヤーを指差す。
    「一彩くんね、俺でドライヤーの練習してるんだよ」
    「えっ」
     ひなた先輩が自分の濡れた髪を手でいじりながらニッと笑った。
    「ふふーん、誰のためだろうねぇ?」
     おれと似た髪形。長さも同じくらい。ひなた先輩はクイズみたいに言ってるけど、もうそんなの答えを言ってるようなものじゃん。
     おれが顔を熱くして俯くのを答えと受け取ったひなた先輩は、満足そうな顔を鏡に向けた。
    「どんどん上手になるから、最近は俺のほうからお願いしちゃうくらい」
    「あいつ物覚え良すぎてムカつくんですよォ……」
    「あはは、ちょっと分かるかも。焦るよねぇ」
     おれはからかわれることを諦めて、ドライヤーの電源を入れた。人工的な風の音がして、手元が少しだけ温かくなる。
    「朝と夜のスキンケアもね『ちゃんとしないと藍良に怒られてしまうから』とか『藍良が教えてくれたんだ』とかさー、いっつも藍良くんの話しちゃってるもんね」
     隠す気無いじゃん。……いや別に、化粧品のことを教えてあげたくらいで「イコール付き合ってる」じゃないけどさァ。
     ヒロくんのことを一通り喋ったひなた先輩は、鏡越しににこにことおれのことを見ている。……しっかりバッチリ、ドライ&ブローさせていただきます。


    「ヒロくんが人間らしい生活してて安心しましたよォ」
     ひなた先輩の髪を完璧に仕上げたおれは、スキンケアを終えたひなた先輩が自分のベッドの上でストレッチをしているのを眺めるついでに、この部屋を見渡した。
     故郷を思い出すと言って選んだ寝具のカバー以外、特徴的なものはない。ベッドも本館に移動するときに新しく買ったものだし、チェストも元々この部屋にあったもの。壁に飾ってある絵だけは謎だけど、普通の部屋だ。
    「えー? アイドルらしい、じゃなくて?」
    「だってあいつ、故郷にいた頃は川で水浴びしてたとか、星奏館に来る前は公園で寝起きしてたとか言うんですよォ!」
    「それ俺も聞いたけど本当なんだ? 何かの冗談だと思ってたよ」
     ひなた先輩は、関節がどうなっているのか分からない不思議なポーズで停止していた。そのポーズは、身体のどの部位に効くんだろう。
    「どこまで本当かは知らないですけどォ、ウソじゃないっぽいです」
     引っ越し前日は旧館の屋根で寝てたのは本当っぽいし。そのころに比べたら、ヒロくんも文化的で人間らしい生活してるよねェ。
    「最初はほんとに分からないことだらけで、頭いい癖に全然常識は無いしで」
     気づいたら、頭の中で出会った頃のヒロくんのことを思い出していた。ヒロくんのベッドの上に座って手持無沙汰だったおれは、枕を抱っこした。顔の下半分を、それに埋める。
    「でも、最近は色々できるようになっちゃって。おれが教えてあげられることもあんまり無いなァって……。ヒロくんに教えて教えてって言われると、おれも自信になるから嬉しいんだけど……」
     出会ってから今までの、ヒロくんと過ごした時間を思い出す。いつの間にかドライヤーを上手にかけられるようになっていたみたいに、おれの知らないところで成長するヒロくんを見ることも増えたなあ。
     なんかしばらく黙っちゃってたら、ひなた先輩が難解なポーズを解いて、自分のベッドからおれに向かい合った。
    「一彩くんがね、言ってたんだけど」
    「僕がどうかしたかい?」
    「ひゃあっ!」
     ひなた先輩からいい話が聞けそうだったところで、急に後ろから声がかかって、おれは枕を投げてしまった。お風呂から上がったヒロくんが、いつの間にかおれの後ろに立っていた。
    「ふふ、驚かせてごめんね。何の話をしていたの?」
     ヒロくんが濡れた髪を拭きながらおれの隣に座る。もう、ちゃんと拭けてないじゃん。ベッドが湿気ちゃうでしょォ。ヒロくんが頭に被っているタオルを抑えて、水気をとってあげた。
    「一彩くんの頭の中が、藍良くんに教えてもらったことでいっぱいって話!」
     ひなた先輩が恥ずかしげもなくはっきり言うから、おれもつい素直に照れてしまう。
    「その通りだよ。都会の習慣や作法は、全部藍良が教えてくれたからね!」
    「それそれ!」
     ひなた先輩が正解を言い当てた回答者を褒めるみたいに叫ぶ。さっき言いかけてたのはそれってこと? 恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい!
    「もォ~! 二人ともやめてよォ~!」
     ひなた先輩に普段のヒロくんのことを色々聞けて嬉しい分、やっぱり恥ずかしい。そして先輩ふたりにからかわれるこの構図におれのドルオタの部分がオイシイと感じてしまって暴れている。心が忙しい。おれはさっき投げた枕を拾って、今度はヒロくんに投げつけた。
    「あはは、藍良くんかわいい~」
    「ウム、藍良はかわいいよ!」
    「うるさァい! さっさとそこに座れ! 今日は特別におれが髪乾かしてあげるゥ!」
     おれはヒロくんを鏡台の前に連行して、ドライヤーのスイッチを入れた。照れくさい空気を風で吹き飛ばして、ひなた先輩のからかう言葉も、ヒロくんの調子に乗った言葉も、この音でかき消してやるんだからね!


    お題1【住処・習慣】

     ちなみにその日は、三人で夜ふかししてトランプで遊びました。
     おれの教えたことがヒロくんの新しい習慣を作ってるっていうのは、正直悪くない。
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    あんちょ@supe3kaeshi

    DONE【うさぎ⑥】塾一彩とうさぎ藍良のパロディ小説。コンセプトバーで働く藍良と、彼目当てに通っちゃう学生の一彩くんのお話。今回は藍良視点。◆◇◆◇9/10追記
    ◆◇今夜もウサギの夢をみる◆◇ Scene.10Scene10. ウサギの独白 ◆◇◆◇


     おれは、アイドルが好きだ。これまでもずっと好きだった。
     小さいころ、テレビの向こうで歌って踊る彼らを見て虜になった。
     子どものおれは歌番組に登場するアイドルたちを見境なく満遍なくチェックして、ノートにびっしりそれぞれの好きなところ、良いところ、プロフィールや歌詞などを書き溜めていった。
     小学校のクラスメイトは皆、カードゲームやシールを集めて、プリントの裏にモンスターの絵を描いて喜んでいたけれど、同じようにおれは、ノートを自作の「アイドル図鑑」にしていた。
     中学生になると好みやこだわりが出てきて、好きなアイドルグループや推しができるようになった。
     高校生になってアルバイトが出来るようになると、アイドルのグッズやアルバム、ライブの円盤を購入できるようになった。アイドルのことを知るたび、お金で買えるものが増えるたび、実際に彼らをこの目で見たいと思うようになった。ライブの現場に行ってサイリウムを振りたい、そう思うようになった。
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