いつもとは違う朝だった。見慣れない天井、ふかふか過ぎるベッド、大きな枕、広すぎる寝室。
そんな、眠り慣れていないキングサイズの大きなベッドに、俺だけがぽつんと取り残されている。昨日、玲王と一緒に寝たはずで、なんならたくさん楽しんでから眠ったはずなのに。
同棲して初めて迎える朝に玲王が隣にいないのは酷く寂しかった。
「レオ〜〜」
一体、どこに行っちゃったんだろう。まだ、もう少し眠っていたいけれど、俺は仕方なくベッドから降りて、玲王を探しに行くことにした。ベッドから出たときにパンツ以外履いてなかったから、ちゃんと床に落ちていたスウェットも着てリビングの方へ向かう。
案の定というべきか、玲王はキッチンで忙しなく手を動かしていた。
「れーお」
「うおっ、凪⁉」
後ろから勢いよく抱き着いたら、玲王がビクッと肩を跳ね上げた。起きたばかりなのか、少しだけ瞼が重たそうだ。珍しく前髪も下がっている。いつもはきっちりと左右に分けてセットされているのに、今朝は前髪が下りて、あのつるりとした可愛い額を隠していた。ちょっぴり幼く見える玲王の前髪をかき分けて、露わになった額にキスをする。
「おはよ、レオ」
「おう、おはよ」
ニカッと朝から眩しい笑顔を向けられて、うっと心臓に衝撃が走った。これがバトル漫画か何かだったら、俺は必殺『玲王の笑顔』で死んでいた。
「ほら、もうすぐ朝ご飯できるから、そっちで待ってろ」
「ヤダよ。っていうか、なんで勝手に起きちゃうのさ。俺、もっとレオとベッドの中でイチャイチャしたかったのに……」
同棲初日の朝なのだ。もっと甘い朝を期待していたし、朝から玲王とイチャつく妄想までしていたのに。
「やらしー凪くんから逃げようかと思って」
「ひどい……」
真横に俺の頬を抓って、冗談だと玲王が笑う。だけど、やらしいことを考えていたのは事実なので、たとえ冗談だとしても弁明できない。
「それにさ、お前と同棲したらやりたかったことがあったんだよ」
玲王がボウルを手に、冷蔵庫へ向かう。
俺も玲王の腰にくっついているので、必然的にそのまま冷蔵庫まで移動した。歩きづらいと文句を言う玲王の言葉を無視して、ぎゅうっと腕に力を込める。
「お前に、朝ご飯を作ってやりたくてさ」
玲王が卵を取り出して、殻をボウルの縁にコンコンとぶつける。柔らかなヒビが入って、玲王は器用に卵をボウルの中に割り入れた。とぷんとボウルの底で波打って、ふたつ分の黄身が揺れる。
「あ、」
「双子だ! すげー!」
割り入れた卵の黄身がふたつになっている。玲王は初めて見た! と声を弾ませて言った。
「俺も初めて見た……」
「ラッキーだな! なんか得した気分」
「っていうか、このたまご、俺たちみたい」
だって、ずっとくっついているから。薄い殻の中でくっつき合って、こうして外に出て来てもまだ
くっつき合っている様はまるで俺たちみたいだ。
「……お前、ときどきロマンチックな発想するよな」
「そう?」
「たまに恥ずかしー奴って思うけど……まぁ、嫌じゃねぇ」
玲王がキッチン棚から菜箸を引っ張り出す。その箸先を黄身に突き立てようとして、やめた。もう一つ割り入れる予定だった卵を冷蔵庫に戻し、代わりにフライパンを取り出す。
「混ぜないの?」
「……なんか、勿体ないからやめた」
そう言って、玲王はフライパンに薄く油を引くと、ボウルに割り入れた卵をそっとフライパンの上に落とした。
「なぁ、この卵、半分こしようぜ」
「うん」
玲王の提案に、俺は力いっぱい頷く。
そうして卵を焼いて、パンを焼いて。玲王は終始、くっつくなと言っていたけれど、結局テーブルに着くまで俺たちはくっついたままだった。
このくっつき合っている卵みたいに、俺たちもこの先、ずっと幸せも朝も半分こにできたらいいなぁと、玲王と熱々とろとろの目玉焼きを半分こにしながらそう思った。