10/20:甘いもてなし パーシヴァルの部屋の扉を叩いて、本人が顔を見せた瞬間、高らかにトリックオアトリートと俺が言ったのが数分前。そして、思いっきり眉間に皺を寄せながら願い下げだとピシャリと言われて扉を閉められたのが数秒前の出来事だ。
「何だよ。パーさん冷てぇなぁ」
ハロウィン前の衣装の試着のついでに、今日は非番だというパーシヴァルを揶揄いに来てみたは良いものの、あっさりと追い払われてしまった。
反応自体は予想通りだったけど、もう少し文句を言われたり追いかけられたりするかと思っていたから、時間が余り過ぎて手持ち無沙汰になっちまった。
「んじゃぁ、次はお菓子の準備でもするか……あ!」
お菓子、という単語からちょっとした悪戯を思いついた俺は、早速艇の厨房へと向かう。
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数時間後、マカロン、スイートホロウ、チョコパイ、一口サイズのケーキ、骨の形のクッキー、マシュマロ。ハロウィン用のお菓子の試作品が次々と出来上がって、味見を買って出てくれた団員達からも喜んで貰えた。悪戯も無事終えて一段落したことだし、紅茶でも飲もうかと茶葉を見繕っていたら、バタバタと慌ただしい足音が耳に入る。
「オイ、駄犬!」
パーシヴァルが声を荒げながら近づいて来たので、俺は腹の底からせり上がるうきうきとしたものを押さえながら話しかけた。
「お、パーさん気付いた?」
「何の心算だ?」
零れ落ちないように両腕で抱えている小さな包みの数を見る限り、律儀に全て回収してくれたらしい。申し訳ないが堪えられずに、わははと思いっきり笑った後に素直に白状することにした。
「パーさんお菓子くれなかったからなー。悪戯するしかねぇと思ってさ」
作ったお菓子をひとつひとつ包んだ小袋を、パーシヴァルが通りそうな場所に片っ端から置いた悪戯は大成功だった。自分の名前が書かれたタグまで貼られたらさすがに素通りも出来なかったみたいだ。俺の言葉に対してパーシヴァルは、ぎょっと目を見開いたかと思えばすぐに呆れたような顔に変わる。
「お菓子を渡した時点で悪戯とは言えんだろう」
「そうかぁ?んじゃ、おもてなしってことで」
これだって楽しい悪戯だと俺は思うけど、何となく今日は反論せずに引き下がることにした。大きなため息を吐いた後、肩の力をすとんと抜いてパーシヴァルは俺に言った。
「……一人では食べきれん。手伝え」
「ご相伴に預かりまーす!」
元気に返事をしただけで煩いって言われながら小突かれたけど、俺はずっと楽しかった。