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    まもり

    @mamorignsn

    原神NL・BL小説置き場。

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    まもり

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    「散兵様の寵愛」第一話です。
    稲妻完結前に書いているので色々とご理解ください。
    スカラマシュの好感度が高い場合のIF魔神任務を描いていきます。スメール編終了まで頑張ります。

    #スカ蛍
    ScaraLumi

    散兵様のフラグ稲妻に到着して少し経ったある日のこと。

    「あ、雷神の瞳!」

    取り敢えず道を覚えていかないとな、そう思って探索をしていると、木の上に雷神の瞳を発見して駆け出した。散策者を殺す気しかないだろうという場所にありがちなのだが今回は比較的手に届きやすい位置だ。安心した。
    はしっと掴み、嬉しさでホクホクしつつ落とさないよう気を付けながら降りる。すると、

    「猿かと思ったが人間だったか」

    いきなり、聞き覚えのある嘲りを含んだ声がした。まさかと思い視線を上げる。

    「久しぶりだね、栄誉騎士」
    「……っああ!?」

    特徴的な被り物と切り揃えた髪。年上ながら幼さが残る顔立ち。予想通り、立っていたのは。

    「スカラマシュ……!」
    「呼び捨てか。いい度胸だね」

    ファデュイ執行官の第六位・散兵。
    モナ達と共にぶち当たった一件で警戒心しか抱けない。タルタリヤから少しだけ彼についての話を聴いたのだが更に恐ろしさが増しただけだった。

    (何で、ここに……!)

    不敵な笑みを浮かべて歩いてきた彼に反射的に身構えた。

    「ああ、怖がらなくていい。戦いたい気分ではないからね」
    「し、信用できるわけないでしょ」

    薄笑いをやめないスカラマシュを見てこめかみに汗が滲み後ずさる。
    どうしよう。何とかして切り抜けなければ。
    じりじりと近付かれ、剣を出すタイミングを窺っていると。

    「余計なことをしたらその瞬間に首と胴が離れるよ」
    「っ……!」

    駄目だ、全く隙がない。既に力の差がありありと伝わってくる。
    不意に背中が木にぶつかった。

    (しまった、もう後ろに行けな……)

    横っ飛びに躱す他ないと思ったと同時にスカラマシュが木に手をついてきた。こちらの考えなどお見通しなのだろうか。

    「やあ。僕が話しかけてやっているのに何処へ行く気だ?」
    「な、何の用」
    「何も?少し暇を持て余していたら君がいたから。栄誉騎士さん?」

    相変わらず危険な空気を醸し出しているが、おそらく本当に危害を加える気はないのだろう。もしそうならばとっくの昔にやられているに違いない。

    「栄誉騎士、栄誉騎士って……一応、蛍っていう名前があるんだけど」
    「聞いてもいない情報をありがとう。もう忘れそうだけどね」

    恐怖心で雷神の瞳をぎゅっと抱き締める。スカラマシュがその動きに気付いて、

    「何を持ってるんだ?見せてくれないか」
    「あ!」

    あっさり取られてしまった。決して油断していた訳ではないのだが。スカラマシュが瞳をぞんざいに扱いながらほくそ笑む。
     
    「なるほど。風神、岩神に引き続き雷神も熱心に信仰してるのか」
    「わ、私が瞳を集めてること知ってるの?」
    「僕の情報網を嘗めないでもらいたいな。当然さ」

    得体の知れなさにゾッとした。一体どこまで私について聞いているのか……。
    取り敢えず、彼の機嫌を損ねるのは非常に不味い。不味いのだが。

    「か、返してよ。もういいでしょ」
    「十分かどうかは僕が決めることだ」
    「っ……返して!」
    「おっと」

    勇気を出し思い切って取り返そうとした手が空を切る。スカラマシュが腕を伸ばして瞳を自身の頭上に持っていった。

    「どうした?ここだよ」

    これ見よがしに振ってくる。こちらも手を伸ばして一生懸命取ろうとするのだが絶妙にリーチが足りない。

    「このっ!」

    ならばと風を使って飛び跳ねたのだけれど。

    「……それは反則」

    呟きが聞こえたかと思うと、スカラマシュが視界から消えた。たたらを踏みながら着地し見回す。……いない。

    (どこへ……)

    ふと背後から悪寒を感じた。身体が凍りついた気さえして総毛立ち振り向くと、真後ろにスカラマシュがいて。

    「罰だ」

    触れ合いそうなくらいの至近距離。不気味な眼光に怯んだ瞬間また彼を見失った。

    (っ今度は前……!)

    集中力を高め気配を感じ取って視線を戻した先にスカラマシュがいた。被り物をクイと指で下げ一瞬だけ私を見てくる。

    「僕に追いつけなければこのまま瞳はいただく」

    そう言ってすぐに走り出す彼。半端ではない加速力に目を見張った。が、しかし。

    「っ……ふざけないで!!」

    ポカンとしている場合ではない。助けを呼ぶ暇もあるまいと慌てて追いかけた。





    (は、速い)

    いつまで走らされるのだろう。
    私とて何十もの敵を屠り広大な地を歩いてきた旅人だ、持久力にはそこそこ自信があったのだが。

    「その程度?」

    息一つ切らさず走るスカラマシュに驚きを隠せない。あの小柄な身体のどこにそんな体力が……。

    「調子に乗らないでよねっ……!」

    ぜえぜえ喘ぎつつ食らいついて行く。冒険者としてのプライドも一応あるのだ、負ける訳にはいかない。力を振り絞り加速する。彼の背中にもう少しで手が届きそうだった所で、

    「はい残念」

    私の頭上へと宙返りしたスカラマシュに躱される。驚愕のあまり全く反応出来なかった。着地した彼が嘲笑を見せる。

    「掴めると思った?」
    「わ、わざと……!」

    敢えてスピードを緩めたのだろう、余裕綽々な様子で「焦って落としそうになったよ」と瞳をユラユラと振るスカラマシュ。流石にカチンときて拳を握り、彼を睨みつける。

    「返してってば!」

    飛び掛かるもひらりと避けられ盛大に顔からすっ転ぶ。こなくそと立ち上がり突進したが瞬時に背後へ移動したスカラマシュに足払いされ尻餅をついた。
    何度か似たような交戦になり、そして。

    「こんの……っ!」
    「……少し飽きたな」

    薄く笑ったスカラマシュの声が聞こえたその時、

    「っきゃ……!?」

    背中を突き飛ばされた。

    (う、うそ)

    目の前は、崖で。

    「〜〜〜〜っ!!」

    バランスを取る為にこれでもかと腕を振り回し踏ん張る。みっともない姿を晒した代わりに落下死は免れたものの、

    「わああ!」

    つるりと滑ってその場に転んだ。また顔からだ、控えめに言って痛い。それでも何とかゆっくり身を起こしていると、スカラマシュの噴き出す声がした。

    「っく……ははは!何だ今の動き、間抜けにも程がある!」

    スカラマシュって、こんなに笑うんだ。
    口元を手で押さえてはいるが堪え切れない様子。
    衝撃的な光景過ぎて、完全に油断している彼から瞳を取り返す絶好のチャンスにも関わらず棒立ち状態になる。

    「よくそれで栄誉騎士なんてなれたな」
    「ほ、ほっといてよ!っ……笑わないで!めちゃくちゃ痛いし鼻が潰れたんじゃないかって心配してるんだからね!?」

    私の言い方が更にツボに入ったのかスカラマシュがまた声を上げて笑った。「最初からそんな鼻だろ」、そう言って。何て失礼な奴なのだ。

    (……普通に腹立つけど)

    無邪気に笑う彼を見ていると、本当はこういう笑い方をする人なのかもしれないなどと都合の良い捉え方をしたくなる。心の底から面白がっている風に思えるのは気のせいなのだろうか。

    (年上なのは、知ってる)

    だが外見年齢が自分と変わらない為未だに信じ難い。半信半疑なまま、こうも屈託のない笑顔を見せられては……。

    (可愛い……)

    妙に親近感が湧いてきた。口が裂けても彼には言えないが。
    もし立場が違っていれば……行く先々で、旅に協力してくれている仲間達と同じように手を取り合っていたのかもしれない。
    そんなことを考えていると、ひとしきり笑い終えて息を吐いているスカラマシュに問い掛けたくなった。

    「……何でファデュイなんかに?」

    彼がこちらを向く。私の真意を窺っているような眼差しだ。

    「その……今みたいに笑ってる方がいいと思うよ。危ないことなんてやめて、いつもそうしてたら……いいんじゃないかな?」

    おずおずと言う。少しの、沈黙の後。

    「なに知った風な口聞いてるんだ?」

    冷め切った声と表情に肌が粟立った。心臓の音がすぐ近くに感じる。無意識に彼から距離を取ろうとしたが、

    「分かってるよね?そっちは」

    崖。
    息を呑んだほんの僅かの隙、スカラマシュが雷神の瞳を放り捨て手首を掴んできた。なんて冷たい手……体温を持っていかれそうだ。

    「青二才が何を言ってる?まさか僕と打ち解けた気になってるんじゃないだろうな?」

    端正な顔立ちに似合わぬ重圧をビリビリと感じ、何も言い返せない。手首を持つ彼の手に力が加わった。

    「言葉は慎重に選べ。でないと…」

    スカラマシュの顔が、愉悦に歪む。

    「──嬲り殺したくなる」
    「っ……!」

    底のない闇がその瞳から見えた。
    鳥肌が止まらない。汗が噴き出してくる。

    「いたっ……!」

    細腕から想像もつかない握力で握り締められ骨が軋む。

    「あーあ、折れそうだね」
    「痛い、はなして……っ」

    思わず叫んで何とか逃れようと必死にもがくがびくともしない。苦痛に呻いていると顎を掴まれスカラマシュに見下ろされた。

    「その顔いいな。もっと見せろ」
    「くっ……!」

    瞳孔が開いている。人が痛がっているのを見て面白がるなんて……!

    (負ける、もんか)

    彼の思い通りになりたくない。喜ばせたくない。
    歯を食いしばってひたすらに耐えていると、

    「へぇ、声を我慢してるのか。……逆に唆るよ」

    興奮を抑えられないといった表情で嗤うスカラマシュ。彼をますます楽しませてしまうのは分かっているが悔しさに涙が出てきた。

    「ほら、頑張って」

    目と鼻の先まで顔を近付けてきてスカラマシュが嘲ってくる。

    (どうして、こんなことができるのっ……?)

    一時のあたたかい空気が嘘のようになくなっていく。
    やはり……これが彼の本質なのか?ファデュイだからと毛嫌いしたい訳では決してないが……分かり合えはしないのか?
    考えれば考えるほど苦しくなってきて。

    「……のに」
    「え?」

    私の呟きに彼が一度、瞬きをした。

    「さっきの……笑顔。私……すごく、好きだなって……思ったのに」

    痛みからなのか悲しさからなのか最早分からないが、潤んだ瞳でスカラマシュを見上げた。もう手首の感覚が、ない。
    間近で視線を逸らさず見つめる私にスカラマシュが息を詰まらせ、目を大きく見開いていた。

    「返してくれなくて正直ムカついたけど……あの瞬間だけ、楽しいかもって……そう、思ったのに」

    何を言っているのだ自分は。こんなに酷いことをされて何を……。

    (……でも)

    本心だからしょうがない。
    スカラマシュの可愛らしい一面が見られた気がして嬉しかったのだ。タルタリヤみたいに彼とも気兼ねなく話ができるようになればと……そんな気持ちを抱くのは悪いことなのだろうか。

    (タルタリヤと仲良くなれたからって、ファデュイみんなと上手くいくわけ……ないか)

    自分のお花畑さに呆れてしまう。
    自嘲気味に笑い、彼の服を握っていた手を離して涙を拭おうとすると。

    「……え」

    スカラマシュが顎を掴むのをやめ、ゆっくりと手首を握る力を緩めてその手を下ろした。そして腕組みし、目をまん丸にしている私を不機嫌に睨んできた。

    「……興醒め」

    そう言ってあからさまに苛々しながら溜息をつき、雷神の瞳を拾って押し付けてくる。状況についていけずオドオドしていると如何にも怒っていますといった声音で、

    「返せって言ったのは君だろ?要らないの」
    「え、あ、い、いる」

    あれよあれよと受け取らされ、口が開きっぱなしになってしまった。

    「えっと……あり、がとう」
    「なに御礼なんて言ってるんだ、馬鹿なのか?こんなのが栄誉騎士なんて世も末だな」

    酷い毒舌だが、不思議と悪意を感じない……というのは、自分のいいように考え過ぎだろうか。
    返してくれたら返してくれたで反応に困り、どうしたものかと見ていると。

    「この僕をじろじろ見るな、本当に殺すよ?」

    冗談抜きで殺意に満ちた眼差しを向けられ慌てて俯く。すると、スカラマシュが小さく舌打ちして私に背を向け歩き出した。

    「ど、どこ行くの」
    「答える義務はない」

    案の定ではあったが素っ気ない一言が返ってきたので黙って遠のいていく彼を見送る。声が届くか届かないか。ギリギリの位置まで離れた所でスカラマシュが振り向いてきた。そして帽子を僅かに上げ、

    「相手なんてしてやらなければ良かった。……鬱陶しい」

    小さな声で何か、言った気がする。

    「ごめん!聞こえなかった、なんて言ったのー!?」

    大声で叫ぶ。同時に閃光が迸り、眩しさに目を瞑ってしまった。瞼を開けるとそこにはもう彼はいなくて。

    「あれ?スカラマシュ?スカラマシューっ!」

    あちこちに視線を巡らせて呼ぶが反応などある筈もない。これでは最後に何を伝えたかったのか気になって眠れないではないか。

    「スカラマシューっ!」

    ……そうやって、何度も叫び続ける間抜けな私は知らなかった。




    「呼び捨てで何回も何回も。僕を誰だと思っている、礼儀知らずが」

    遠く離れた木の上に座り、私を見る彼の姿を。

    「ふん。…………覚えていてやっても、いい。そもそもあんな馬鹿、忘れたくても忘れられない」

    非道なる少年・スカラマシュ。ファデュイ執行官の第六位。
    誰もが震え上がる、冷徹な眼差し。

    だが……今は。

    「……蛍、か」

    ほんの、少しだけ。
    その瞳には熱が──揺らめいていた。
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